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66.少女は皇帝専属薬師に出会う

フランソワール帝国での偉い人たちの会議の様子です。その後少女は偉い薬師様に出会います。


ーーー 場面はフランソワール皇帝居城、時は少女が獣狩りをした頃


 クリューソス大公はアリースソン領都アルーゾンからの帰途、少し焦りを感じて馬車を急がせた。結果、先に出した書簡に遅れることわずか1日でフランソワール帝国帝都レパルナスに帰り着いた。


 大公は自らの屋敷前を素通りして、直接皇帝居城に馬車を走らせた。大公は、居城の取次文官に命じて、皇帝に帰朝の知らせと面会依頼を取り次がせ、応接室で待った。取次文官は、すぐに戻って来て大公を皇帝執務室に案内した。


 大公は、皇帝執務室に入って挨拶した。部屋内には、ほかに内務省長官、外務省長官、産業省長官、情報管理責任者、皇帝専属薬師、御殿医師、および騎士団団長が集まっていた。


  「兄上、いや、失礼。皇帝陛下。ただいま戻りました。手紙に書いた通り重要な示唆を受けたので、残りの予定をキャンセルしてきました。」


 皇帝エンリサスが大公をねぎらう。


  「クリューソスよ。ご苦労であった。手紙は読んだ。お前が得た示唆の真偽如何では、難しい局面に上手く対応せねばならん。あちらの事は後でゆっくり聞くとして、いまは、幹部の皆も含めた協議の上、緊急対応事項を策定したい。皆も良いな。」


 大公ほか幹部皆が答える。


  「ははー。受け賜りました。」


 皇帝エンリサスはすぐに会議を始めた。


  「初めに、私がガスゴーシュの手紙とクリューソスの情報の内容を簡単に伝える。


 ガスゴーシュは、オスムール帝国幹部宛に送った面会希望書簡が、一応は受け取られたが回答がない。この事態打開の目処が立たない、と書いてきた。


 一方クリューソスは、ある筋から、かの国ではボスベニア火山の大噴火で壊滅的被害を受けて国交も情報も閉ざしている可能性がある旨を示唆された。


 そのある筋とは、シングラーツ王国ヴィルダー辺境伯家の客人で、今はアリースソン伯爵家の客人だ。伯爵家に超特級ポーションで多大の貢献をしている。


 これを大量生産出来れば、かの国の国交をこじ開ける打開策のひとつになるやもしれん。すまぬ。いまのは私の先走りだ。皆も意見や質問を自由に出してほしい。よろしく頼むぞ。」


 産業省長官のグロスターは言う。


  「ガスゴーシュの報告では、仮に3国共同体が成立しない場合でも、かの国に入国できれば2国のみによる蝗幼虫殲滅作戦で相当の成果を上げられるそうだ。最低限、入国と現地への移動許可を取り付ける必要がある。」


 情報管理責任者のアンフォルメルは言う。


  「かの国とは、今年の初め頃に突然国境の出入りも書簡往来も遮断されて、内情が皆目掴めない状態が続いている。かなり厳重な国境閉鎖体制を敷いている。」


 外務省長官のフリシアンは言う。


  「かの国との最後の国交接触は、今年初め頃を最後に以後は途絶している。その時に、火山噴火に言及するものはなかった。途絶の理由は不明だ。」


 内務省長官のアーテリスが言う。


  「2国共同体の入国と交渉開始を勝ち取るには、支援供与の内容をいくつか提示して、かの国に選ばせるのはどうだろう?例えば、食糧、医薬品、労働力などだな。これらには、我々2国側も大きな出血を強いられる。」


 騎士団団長のウォーレルが言う。


  「労働力なら、一般市民よりも、強力な魔法が使える騎士団から選抜するのが少数ですむので効率がいいだろう。」


 御殿医師のラルグレンが言う。


  「医薬品なら、私が持ち帰った超特級ポーションの提供をほのめかしたらどうでしょうか?ただ、数量を確保するにはヴィルダー辺境伯家の承認と協力が不可欠ですが。」


 皇帝専属薬師のメリデリンが言う。


  「私は、ラルグレン殿が分けてくれたポーションを鑑定した。確かに3種類とも超特級グレードに間違いない。だが、私が作るものとは少し違う。微量必要な希少原料の痕跡(こんせき)がないのだ。それでいて薬効は私が作るものよりかなり高くて、もはやエリクサーの領域だ。こんなものが人に作れるとは信じ難い。製造者を教えてくれればすくにでも弟子入りしたい。」


 そこでクリューソス大公が発言した。


  「私は、その製造者が実際にポーションを調合するのをこの目でつぶさに観察したのだよ。確かに希少原料は使用していなかった。ヒール草だけで超特級回復ポーションを、マナ草だけで超特級マナポーションを作り上げたのだ。だが、その秘密は全く分からなかった。それだけではない。信じられないことに、低級薬草原料で上級ポーションを作り、中級薬草原料で特級ポーションを製造したのだ。」


 皇帝エンリサスが言う。


  「クリューソスよ。もう事ここに至っては名を明かしてもよいのではないか?アリースソン伯爵家では皆が知っていることだろう?」


 大公が言う。


  「分かりました。でも、皆さん。不用意に広めないでいただきたい。本人は自由人を標榜(ひょうぼう)している。自由が阻害される事態になると困ったことになりかねない。名はユリアという。現在6歳だ。アリースソン伯爵の長女で私の孫のソルフィーナと婚約したデイビード・ヴィルダー殿の仮の娘を名乗っている。


 そのユリアが、私とのモーニングティーの席でかの国の大災害を示唆してくれたのだ。そして、閉ざした国境門をこじ開ける懐柔策(かいじゅうさく)をほのめかした。


 ここからは私の予想だが、彼女にできるのは医薬品の増産と無償提供だ。だが、ひとりでは無理だ。彼女は、デイビード殿を介してヴィルダー辺境伯家に、ポーション製造の秘術を公開してほしいと願い出るはずだ。


 おそらく、ヴィルダー辺境伯は、人道的立場から涙をのんで公開に応じると思う。それが叶えば、国中の薬師と薬草採取ハンターを動員して、少なくともどこにでも生育している低級薬草を原料として上級ポーションが大量に製造できるのだ。ここは、内務省と産業省の出番だな。」


 皇帝は弟を労う。


  「クリューソスよ。よく話してくれた。ユリアも、お前がそのように動くとわかっていて、お茶の席でほのめかしたのだろう。


 だが、ことは急を要する。公開の知らせは近いうちに来ると信じ、製造体制をこれから作る段階ではあるが、まずは、援助物資として無償または低価格で大量の上級ポーションを提供する懐柔策で、今回の行き詰まりを打開せよと2国共同体のガスゴーシュに連絡を入れることにする。


 ここに集まった皆も、貴重な情報や意見を出してくれて礼を言う。皆がほぼ同様の方向性で意見を述べていたと思う。」


 皇帝がそこまで言ったところへ、緊急の飛鳥便で短信書簡が届けられた。宛先は皇帝専属薬師メリデリン様宛となっている。送り主は、シングラーツ王国ヴィルダー辺境伯家の医薬部門責任者マジョルーサからだ。


((あっ。ここでも会議中に緊急のお手紙が届くのね。一般的なことなのかしら。))


 メリデリンは、書簡を読んで打ち震えて言った。


  「書簡の内容を掻い摘んで(かいつまんで)説明する。ヴィルダー辺境伯家は、人道的立場から超特級ポーションの製造技術上の秘術を公開することを決断した、とある。詳細は早馬の別便で送ったマジョルーサ殿とユリア殿連名の論文に書いてあり、製造部分は秘術の部分も含めて第三者が再現できるように記載されているそうだ。


 なお、公開に至った経緯は、秘術の開発者であるユリア殿が公開を強く主張したことが決め手となったそうだ。なんというか、ユリア殿は聖女なのか?私はすぐにでもアリースソン伯爵家に行ってユリア殿に教えを乞うぞ。」


 皇帝が言う。


  「我々は、ヴィルダー辺境伯家の良心に感謝せねばならないな。デイビード殿が発したであろう公開願いが届くよりも先に公開してくれた。メリデリン殿、論文が届いてからの方がよくはないか?


 ともかくこれで、医薬品に関する限り、わが国として具体的に動員の強制発動ができる環境となった。食糧や労働力も関係各部門で具体的手法を検討開始してくれ。以上で、ここでの会議は解散とする。」



 会議後に、皇帝専属薬師メリデリンは、皇帝に、ユリアに会いにいますぐ出発したいと願い出た。論文はユリアが持っているだろうし、何より、自分の手元に原料となる薬草がないから、待っても製造できなければ意味がない。


 皇帝エンリサスは言った。


  「メリデリンよ。許可する。しっかり学んで来て我が国の薬師たちに秘術を伝授するのだ。」


 皇帝専属薬師メリデリンは畏まって言った。


  「ははー。ありがとう存じます。蝗害対策の進捗打開と一般医療の充実のため、行ってまいります。」




 皇帝専属薬師メリデリンは、会議後、当日のうちにアリースソン伯爵家に向けて出発した。


 帝都レパルナスを出て街道を進むにつれて蝗害の爪痕が明確になっている。メリデリンは、馬車に揺られて窓から見る穀倉地帯の作物が全滅した惨状に心を痛めながら4日間の行程を終え、アリースソン伯爵家に到着した。


 メリデリンは、皇帝専属薬師の紋章の付いた馬車から降りて領主館の正面入り口で新筆頭執事クレメンテの出迎えを受け、応接室に通された。まもなく、アリースソン伯爵が応接室に現れ、互いに挨拶を交わした。


 メリデリンは言う。


  「失礼ながら、ここに来た目的は訪問の先触れでお分かりと思います。シングラーツ王国ヴィルダー辺境伯家から、ユリア殿が開発したポーション製造の秘術を公開する旨の書簡が届きました。この秘術は、少し飛躍しますが、蝗害対策のためオスムール帝国への入国と同国内移動の許可を取り付ける鍵ともなると睨んでいます。


 ついては、私がユリア殿に師事してその秘術を早期習得し、国内外の薬師に伝授することでポーションの大量生産を一刻も早く開始したいのです。ユリア殿に合わせてくれませんか?」


 アリースソン伯爵は言う。


  「メリデリン様。おいでになったご用件はもちろん存じております。生憎、ユリア殿は図書館で医薬品の専門的知識と製造技術の習得に没頭しています。今日も帰りは夕刻になるかと思います。なんなら、メリデリン様も図書館に行ってユリア殿に会われた方が早いかと存じます。どうされますか?」


 メリデリンは少し考えて言う。


  「分かりました。図書館に行ってみます。それでは、ちょっと失礼します。」


 メリデリンは馬車で図書館へ移動した。医薬品関係の書架のあたりに検討を付けてユリアはすぐに見つかった。


 メリデリンは言う。


  「失礼ですが、そちらにおられるのはユリア殿ですか?わたくしはメリデリンと申すものです。」


 ユリアは答える。


  「はい。わたくしはユリアです。メリデリン様は皇帝専属薬師様でございますね。お会いできて光栄です。おいでになると予想していました。よろしくお願いいたします。」


 メリデリンは言う。


  「それなら話が早いです。超特級ポーションの製造秘術を公開する旨の書簡が、4日前にヴィルダー辺境伯家のマジョルーサ殿から届きました。私は、ユリア殿に師事してその製造秘術を会得するために来ました。ご教授くださるようお願いいたします。」


 ユリアは言う。


  「もちろんでございます。デイビードお父さんの公開願いの書簡が届く前に先手を打たれましたね。さすがヴィルダー辺境伯家、さすがマジョルーサ様といったところですね。自発的意思による公開と外圧や要請を受けての公開では、世間一般に与える印象がずいぶん違いますから。」


 メリデリンは言う。


  「ところで、ユリア殿が今読んでいる書籍は見たことがあると思ったら私が書いた大学向け教科書の応用編ですね。ちょうど超特級ポーションの詳細解説部分だ。」


 ユリアが言う。


  「そうです。今読んでいる本を書いたご本人が今そこにおられてお話しできるというのは、天のお導きとしか言いようがないですね。ちょうど質問したいと思っていたところなのです。今から言うことは、メリデリン様の業績を否定することになるかもしれませんが、よろしいですか。」


 メリデリンは言う。


  「あまり気持ちいいものではないですが、いいですよ。お聞きしましょう。」


 ユリアが言う。


  「それでは。この超特級回復ポーションの原料となる薬草ですが、通常のヒール草のほかに、微量成分としてめったに採取できない希少薬草が3種類も必要と書いてあります。ヒール草の変異体化した葉の部分、同じくヒール草の倍体化した根粒部分、かがみ草の新芽がそれらです。


 これらは主に切り傷部の細胞再生を加速する作用に特化したものですね。でも、その作用はヒール草が本来有している作用を加速する触媒のようなもので、それら自体には細胞再生作用はありません。また、それらの希少薬草には、代謝異常の調整作用や疲労物質の代謝促進などの基本作用もありません。


 つまり、これら希少薬草を加えたことによる超特級グレードへの向上部分は、切り傷のような外傷に対するものだけにしか見られないものです。先ほどの、代謝異常の調整作用や疲労物質の代謝促進に対しては、特級グレードと変わらない程度の効能しかありません。


 いかがでしょうか?」


 メリデリンは、こんな小さな子供が、自分の業績を真っ向から否定する内容を理路整然と矛盾なく説明して、自分を説き伏せにかかっているのに仰天したが、気を取り直して大人の対応で言った。


  「まさに、おっしゃる通りです。私は、目に見える外傷の治癒速度の大幅向上だけをもって超特級に認定していたようです。つい先日、ユリア殿が製造されたという超特級ポーション3種を鑑定して効能を私のものと比較したのです。ユリア殿製造のものが、あらゆる面で私のものを遥かに超える回復効果を示したのを見て、私は自分の不明を恥じました。


 私がここに来た理由は、ユリア殿の予想の通りでしょう。ユリア殿に師事して本物の超特級ポーションの製造技術を習得することが直接的な目的です。派生効果としては、もちろん、国中の薬師にこの技術を伝授して大量のポーションでオスムール帝国の横っ面をひっぱたいて国交の門を開かせることです。」


 ユリアは言う。


  「何か、過激な言葉が聞こえたような気がしましたが、これからポーション製造の普及を担っていただければありがたいと思います。わたくし自身は、お見かけ通りの非力な幼児ですので、力仕事は大人にお任せいたします。これから、よろしくお願いいたします。」


 メリデリンは言う。


  「もちろんです。私は、この国の皇帝専属薬師という地位があり、この地位を有効に使う機会を狙っていたのです。ユリア師匠。よろしくお願いいたします。」




((おお。来るだろうとは思っていたけど、本当に来ちゃいました。それもまさに奇遇でしたね。読んでいる本を書いた本人に質問したら指摘事項を素直に認めてくれたよ。失礼なことを言ったけど怒られなくてよかった。仕事の丸投げもうまくキャッチしてくれたし。))


少女は偉い薬師様に出会いました。出会うそばから火花が散るような攻防がありました。ポーションの力でかの国に入国できるでしょうか。それではまたお会いしましょう。


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