65.少女は魔物討伐に挑戦し3級受験資格を取得する
少女は昨日の獣狩りで遊び心に火が付いたようです。
ーーー 場面はアリースソン伯爵家の領主館
ユリアは今朝はメイドのナリアに起こされて目覚めた。昨日の森での狩りで少し疲れたらしい。
メイドのナリアが着替えの手伝いをしながら言う。
「ユリア様。今日もご予定をお伺いしておりませんが、何かご希望はございますか?」
ユリアはいま考えついた希望を言う。
「わたくしは、ハンター資格3級を取りたいのです。デイビードお父さんにはこれから話して許可をもらいます。ナリアさん。また騎士団に護衛の依頼を頼めないかしら?ちょっと遠くのダンジョン森に行くから、今日出発して7日後に戻る予定です。」
ナリアが冷静に返す。
「また、突飛もないご希望でございますね。昨日の狩りが楽しすぎたのですか?」
ユリアは、思い出しながら楽しそうに言う。
「よく分かりますね。ハンターギルドでハンター資格2級の女性同伴者を加えて3人で森まで走ったのです。森では運良く鹿の群れとそれを狙う狼の群れを発見して、両方を倒したのですよ。何頭か取り逃がしたけど、全部で鹿7頭、狼11頭の大猟でしたわ。」
ナリアは狩りの成果にはあまり関心なさそうに言う。
「それはようございました。ところで、護衛は何名必要でしょうか?」
ユリアは少し考えて答える。
「念のためにハンター資格2級以上を持っている人を一人お願いしたいです。昨日のイーアンは3級と言ってました。」
ナリアは事務的に答える。
「承知致しました。それでは、ユリア様は
食堂でデイビード様を見つけて許可を得てくださいませ。わたくしは、騎士団に依頼して来ます。そのまま食堂でお待ちください。護衛騎士を行かせます。」
ユリアが少し拍子抜けしたように言う。
「ナリアさん。今日は、何か淑女教育らしい代替案の提案はなさらないのですか?」
ナリアは答える。
「わたくしは、ユリア様のご意向を変える権限を持ちません。ただ提案するだけでございます。今回は、付帯条件もご自身で考慮済みです。それに、ユリア様のご興味を引くような淑女教育項目はもう思い当たりません。残るは学問分野や領主コースと護身術ぐらいでございます。学問分野にはご興味がお有りかと密かに作戦を練っているところなのでございます。」
ユリアは言う。
「ナリアさん。さすがに鋭いですね。どんな学問分野をお薦め頂けるか、楽しみにしていますね。」
二人は、部屋の前で分かれて、それぞれの目的の場所に急いだ。
ユリアは、食堂に着くとすぐに、デイビードがソルフィーナと一緒に配膳を待っているのを見つけた。ユリアは許可を得て傍に座った。
ユリアが言う。
「おはようございます。デイビードお父さん。ソルフィーナ様。今日は、お父さんに許可してほしい事があります。」
デイビードが言う。
「ユリア。おはよう。改まって言ってるところを申し訳ないが、お前の願い事はだいたい分かっている。これから、ハンター資格3級を取得しに行きたいのだろう?昨日、森で狩りをしたことで闘争心に火が付いたな。」
ユリアが少し驚いて揶揄い気味に言う。
「お父さん。縁談書を受け取って以来このかた千里眼が冴え過ぎじゃないですか?それに、早くもお婿さんモード全開で浮かれ過ぎです。今日も、お二人で叙爵後の領地予定地を実地検分するのでしょう?」
デイビードが反論する。
「お前こそ、こちらに来て以来、言いたい放題のやりたい放題で、皮肉屋の方も絶好調ではないか。」
そのやり取りを聞いてソルフィーナが苦笑しながら言う。
「まあまあ。お二人とも。漫才はその辺にして、本題に入られてはいかがですか。」
ユリアが言う。
「ソルフィーナ様。お気遣いありがとう存じます。お願いというのは、お父さんのお見通しの通りです。7日間の予定で、ダンジョンのある森で魔物討伐をします。護衛兼同伴者は、ナリアさんが騎士団から一名依頼してくれます。あと一名はハンターギルドで募ります。いかがでしょうか?」
デイビードが冷静になって言う。
「いいだろう。私も、そろそろ頃合だと思っていた。だが、予想以上に婚姻関係やほかの仕事が多くて、お前に魔物討伐の経験を積ませてやれそうにない。誰かに託すのは私の本意ではないが、お前自身がやれる環境を整えるなら反対するつもりはない。お前は、既にあの荒技を自在に使えるから、大抵の魔物に遭遇しても討伐できる。」
それを聞いてユリアが感激したように言う。
「ありがとう。お父さん。いつも私のことを考えてくれていたのね。」
そういったところで、護衛兼同伴者役の騎士が声を挟んだ。
「おはようございます。お話し中のところ申し訳ありません。今日からユリア殿の護衛をするソルジエンです。ハンター資格2級で指導者資格を取得しています。よろしくお願いします。ところで、あの荒業という不穏な言葉が聞こえたのですが、一体何でしょう?」
ユリアが振り返って言う。
「あら。ソルジエン様。おはようございます。副団長がこんな子供に感けていて大丈夫ですか?でも、ここにいらっしゃるということは、大丈夫なのですね。こちらこそよろしくお願いします。あの荒業については、難敵の魔物に遭遇したらお見せするかもしれません。お楽しみにということで。」
ソルジエンが言う。
「それは楽しみですな。デイビード殿。ユリア殿をお預かりいます。怪我ひとつさせませんのでご安心ください。」
ここでユリアが質問をする。
「今更ですけど、ちょっと確認の質問です。3級受験資格の討伐5回の経験というのは指定の魔物5体でよろしいのですか?」
ソルジエンが回答する。
「それでいいです。普通は、1回の討伐行では魔物1体倒すだけで精一杯なのです。それだけで体力や魔力が枯渇して回復するのに数日掛かります。なにしろ受験者のハンター資格4級所持者が一人で倒す訳ですから。」
ユリアが安心納得して言う。
「そうなんですね。安心しました。」
ソルジエンが言う。
「そこは、普通、安心するところじゃないんですが。ユリア殿ならさもありなんか。」
ユリアが問う。
「ところで、一番近い魔物の森は、エルブライドの森ですか?」
ソルジエンが答える。
「いいえ。一番近い魔物の森は、やや小規模ですがここから馬車で2日の位置にあります。走って行けば1日で着く距離です。受験申し込みはここのハンターギルドで受付け、そのほかの能力確認試験もここで受けられます。通常、試験は年4回ですが、特別に頼めば即日受験も可能です。」
ユリアが待ちきれないように言う。
「それを聞いたらもうわくわくして待ちきれません。ソルジエン様。早くハンターギルドに行きましょう。」
ユリアとソルジエンの二人は、早足で歩き、すぐにハンターギルドに着いた。扉を開けてホールの中に入ると、昨日と同様まだ20名程のハンターがいた。
ソルジエンは、受付けのカウンターに取り付いて受付職員に言う。
「この人のハンター資格3級の受験申し込みをしたいのだが。」
ユリアは、受付職員に見えるように、ハンター資格4級の会員証を片手で高く掲げている。受付職員は昨日と同じ人だったのですぐに事情を察してくれた。
その様子を、昨日と同様にカビラが見つけて寄ってきて言う。
「おはよう。ユリア殿。昨日は世話になった。今日もよければ同伴させて貰えないかな。3級受験者の指導者資格は所持している。」
受付職員は、すぐ3人を相談室に案内して、副ギルド長を呼んで来た。
副ギルド長は、3級受験申し込みと聞いて少し面倒くさそうな顔で相談室に入って来た。中で座って待っている大人2人を見て、驚いて言う。
「おおっ。誰かと思えばソルジエンではないか。おっと、そちらはカビラ殿。珍しい組み合わせだが、誰が今さら3級なんぞ受験するんだ?君たちは、2級だろう。」
ソルジエンは、改めて紹介して言う。
「やあ。シルツビー殿。お久しぶりです。3級受験申し込み者は、こちらのユリア殿です。昨日の獣狩りで闘争心に火が付いたらしく、手続きでき次第、魔物の森に走っていく予定です。」
シルツビー副ギルド長が驚いて言う。
「ええーっ。こちらの小さなお子様が3級受験希望者だとぉ。冗談も休みやすみ言えってんだ。」
すると、カビラが証明するように言う。
「冗談などではない。ほら、ユリア殿。4級会員証をこの人に良く見せてやるんだ。そして私が証言する。私こそ、昨日ユリア殿に同伴して3人で鹿7頭、狼11頭を倒した契約同伴者なのだ。ユリア殿は、鹿も狼も私より多く倒している。小さいからと言って侮っていると痛い目にあうぞ。」
副ギルド長のシルツビーが唸りながら言う。
「うーん。会員証は本物だ。ソルジエンが連れてきたくらいだしな。カビラ殿の証言も正しいのだろう。よーし。言いたいことは分かった。指定の魔物5体を持ってきたら、即日能力確認試験をやってやるぞ。試験科目は分かっているな。」
それに呼応してユリアが答える。
「もちろん。存じております。能力確認筆記試験が、魔物の種類ごとに特徴と能力レベル、討伐の必要級レベルと必要人数、討伐戦術などです。ほかに、応急手当、退却戦術があります。実技試験は、魔法攻撃の威力確認、物理防御、魔法防御の耐性確認です。」
シルツビーが言う。
「よく言えたな。実技試験は俺が試験官を担当してやるぞ。早く魔物5体を持ってこい。指定魔物は、レッドボア、ジャイアントビー、ファイヤウルフの3種何れかだ。5体すべて同じでも取り交ぜでもいい。獲物の傷み具合は問わない。わかったな。」
ここでユリアが質問する。
「すみません。今の3種類は、3級のハンターが単独で倒してもいいレベルの魔物ですね。もし、これらより高レベルの魔物に遭遇したら単独で戦ってはいけないのですよね?」
シルツビーが言う。
「その場合は指導者の支援を仰いで共同して倒すのだぞ。手に負えそうにないレベルの魔物に遭遇したら、全力で逃げて生きて帰るのだ。3級受験なんかのために死ぬのは許さん。わかったな。それでは、この申込書に書き込んで受付に提出しろ。指導者は二人ともサインしろよ。それじゃ、俺は忙しいからもう行く。」
ユリアが礼を言う。
「シルツビー副ギルド長。ありがとうございました。できるだけ早く5体持ってきますから、よろしくお願いいたします。」
ユリアと指導者の二人はハンターギルドを出ると魔物の森に向けて走り出した。初め3時間走り、50分間昼休憩、その後、2時間走り20分休憩後また2時間走って合計8時間10分で森の入口に到着した。距離にして約100kmであった。
森の入口には宿や休憩施設、食事処などが店を構えて営業しているほか、屋台などもあって、ハンターたちで結構にぎわっていた。カビラによると、これが普通の日常光景らしい。3人は宿を取り、食事処で夕飯を食べて明日に備えて早めに就寝した。
翌朝は、3人で宿で朝食を取り、少し情報収集することにした。
ソルジエンが宿の女主人に尋ねた。
「おかみさん。知っている範囲でいいのだが教えてもらえればありがたい。3級受験レベルの魔物レッドボア、ジャイアントビー、ファイヤウルフは、最近出没情報はあるかな?」
宿の女主人は答えて言う。
「ああ。そのあたりの低級魔物ならじゃんじゃん出ているよ。ほかにも、グリズリーベアやキラーベア、リザードマン、バジリスク、サラマンダー、ラプトルなどの小型アースドラゴンなども、毎日1頭は出ているようだよ。」
ソルジエンが礼を言う。
「へー。それはにぎやかなことだな。おかみさん。ありがとな。」
ユリアが、わくわくして言う。
「私の試験だから、私が魔物を探して移動先を指示するわね。狙い目はジャイアントビーかな。図鑑でしか見たことないけど、大群で群れを成すから5体倒すのに効率良さそうね。どうかしら?あっ。アドバイスもだめだよね。」
ソルジエンとカビラがすまなそうな顔で言う。
「そのとおりだ。ユリア殿は、単独行動であることを意識して自分で決断していかなければならない。こちらとしてもつらいよ。」
ユリアは、納得顔で言う。
「分かりました。お二人につらい思いはさせませんので、ご安心を。それじゃぁー、行きますよぉー。」
ユリアは、森の入口から少し進んで、周りにほかのハンターたちがいない場所で探知魔法を繰り出した。
「ソルジエン様、カビラ様。ここから先は独り言ですので気にしないでくださいね。さて、探索魔法開始よ。うわっ。さすがに人や魔物がいっぱいです。この中から、狙い目のジャイアントビーを探し出すにはー、いっぱい群がっている場所をみつければいいのねー。
あ、あれかなぁ?うん。人間サイズの虫っぽいのがわんさか群がって何かを襲ってる。いや、ハチミツを食べに来たベア系魔物を追い出そうとしているんだ。ベアさんが頑張っているうちに近づいて撃ち落とすよ。ここから1時の方向10km先。身体強化魔法の瞬発移動で行きます。」
ユリアはそう言って急に移動を始めた。指導者の二人もすぐに移動を開始してユリアを追った。15分ほどで目的現場に到着した。ユリアが身を潜めてジャイアントビーの群れの様子をみている。手には既に槍を握っている。
「あ。やっぱりジャイアントビーだ。あの大木の幹には大きな空洞が空いていて、巣が作られているのね。グリズリーベアがそれを漁って食べてるんだ。熊さん包囲網の最外周にいるジャイアントビーが狙い目ね。行きますよう。」
ユリアは、そう言って茂みから躍り出て、近くのジャイアントビーの目に槍を向けて接近戦の金縛り魔法を掛け始めた。グリズリーベアから遠いジャイアントビーが目標だ。ジャイアントビーは、ユリアと向き合ったものから複眼に魔力を当てられて次々に落下した。そして、地上に落ちたものはピクリとも動かなくなった。
ソルジエンとカビラは、自分たちにジャイアントビーが襲ってこない位置で観戦していた。彼らは、ユリアが槍の穂先で突いたり切り裂いたりしないのに、次々とジャイアントビーが落下していく様を呆気に取られて見ていた。
そして、ユリアは、近くに飛んでいるものがいなくなった隙に、地上に落ちているジャイアントビーの胸部を槍で突いてとどめを刺した。ユリアは、止めを刺した10体すべてを素早く収納魔法に収納していった。
こうして、ユリアが戦い始めてものの5~6分で、ユリアが必要とするジャイアントビー5体以上の討伐が完了した。
ユリアは、3級受験に必要な経験数を満足したことで、現場撤収行動に移った。
「ソルジエン様。カビラ様。目的は達成しました。これから速やかに撤退します。撤退路は往路を逆に進みます。私が先導しますので着いて来てください。」
結局、ユリアは、3級受験に必要な討伐経験数を、わずか半日で達成した。宿に帰り着いたユリア一行は、宿の近くのお食事処で昼食を取った。
ユリアが言う。
「ソルジエン様、カビラ様。お疲れさまでした。今から帰るのは到着が夜になるので、もう一泊して翌日の朝食後に走り始めることにしましょう。」
ソルジエンが言う。
「そうだな。それがいい。それにしても、あっという間に3級対象の魔物5体を手に入れてしまったな。恐れ入るよ。」
カビラが言う。
「全くだ。前回同伴した時は、努力を重ねればユリア殿に手が届くかもしれないと感じていたが、今は全く手が届かないという絶望感しかない。」
ユリアが言う。
「お二人に、この秘術をお教えできないのは残念です。現状では、解禁になるまでお待ちいただくか、ご自分で開眼なさるかですね。」
ユリアたち3人は、翌日の昼過ぎにアリースソン伯爵領都アルーゾンのハンターギルドにたどり着いた。出発の日から予定より早く2泊3日で戻ってきた。
ユリアに対する、ハンター資格3級の認定のための能力確認筆記試験と実技試験は、帰り着いて20分休憩後にすぐ実施された。各試験の結果は、能力確認筆記試験が全科目満点、実技試験が2級レベル以上の実力と判定された。その結果、ユリアに対して、即日でハンター資格3級会員証が新たに交付された。
ソルジエンとカビラは、夕食がてらシルツビーと一杯やるという。ユリアは、ハンターギルドで彼ら3級受験資格取得指導者との解散式を行い、ひとりで領主館に帰ってきた。
ユリアは、自室でメイドのナリアに着替えを手伝ってもらいながら、3級取得完了の報告をした。
夕食時には食堂でデイビードとソルフィーナに同席して、7日の予定を3日で完了してハンター資格3級を取得したことを報告した。
デイビードは言う。
「ユリアは、私が施した教育のときも、すべての単元で予定期間を大幅に短縮してしまったよな。自分で自ら立てた予定期間でさえも大幅短縮するとは、結構危ない橋を渡ったのじゃないか?」
ユリアは言う。
「3級対象のジャイアントビーは、大群で熊さんを追い出しにかかっていたから、結構隙があったのよ。他に3級対象魔物ではファイヤウルフが群れで行動するけど、これはお父さんと二人じゃないと背中が危ないから無理しないことにしたの。年齢の割に分別があるでしょう。」
((やっと、念願のハンター資格3級になれたわ。指導者のソルジエンさん、カビラさん。ありがとうございました。これで、魔物討伐にはまだクラス制限が付くけど、一応魔物の森に単独で入れることになったよ。でも危ないことはしないよ。ただ、貴重な薬草がいっぱいありそうだから楽しみだね。))
少女はハンター資格3級を取得しました。単独討伐できる魔物の種類は限定されるようです。でも魔物の森に単独で入ることができて自由に薬草採取もできそうですね。所要の予定期間をまた短縮してしまいましたね。次は何をするのでしょう。それではまたお会いしましょう。




