64.少女は森で狩りをする
今日は少女は森で獣狩りをします。同行者は誰でしょうかね。
ーーー 場面はアリースソン伯爵家の領主館
ユリアは自分で目覚めて洗顔し体調を整えた。ユリアは独り言を言う。
「昨日、重荷をおろして身軽になったせいか、確かに気持ちがすっきりして身も心も軽く感じるわ。オスムール帝国の民を救うなんて、幼児の分際で思い上がりもいいとこだったわ。」
今日の予定を考えているとメイドのナリアが入ってきて、挨拶しながら今日の予定を聞く。
「ユリア様。おはようございます。今日の予定をまだ伺っておりませんが、いかがなさいますか?」
ユリアは、たった今決めた今日の予定を話す。
「ナリアさん。おはようございます。昨日、デイビードお父さんに子供は遊んで過ごせと言われたので、今日は一日、森で獣を狩って遊んで来ようと思います。お昼ご飯はいりません。夕方前には戻ります。この予定は今決めたことなので誰も知りません。ナリアさんからデイビードお父さんたちに知らせてくださいませ。」
ナリアがあきれ顔で言う。
「まあ。ユリア様。普通の子供は、森で獣狩りなどして遊んだりしません。何かご令嬢らしい遊びをなされたらいかがですか?お茶会とか、刺繍とか、楽器演奏とか、ダンスなどいくらでもありますよ。」
ユリアは少し済まなそうな顔で言う。
「ナリアさん。今のはみんなご令嬢必修の淑女教育課程ですよ。ナリアさんはそれらの課程を完璧に習得して大公様ご令嬢の侍女に抜擢されたのですよね?
でも、わたくしは本来田舎の森の野生児ですから、どの課程も必要ないものばかりです。この話し方も、皆様方のデイビードお父さんに対する好印象を落とさないための配慮に過ぎません。
ナリアさんには、こんなわたくしのメイドをさせて、申し訳ないと思っています。不本意ではございましょうけど、あと少しのご辛抱をお願いいたします。」
ナリアはユリアが最後に言った言葉を否定して言う。
「いいえ。いまは不本意な気持ちなど微塵もございません。確かに伯爵様に告げられたときは、なぜわたくしが、とも思いました。そして、ユリア様が館に到着されて応接室に入るなり、筆頭執事をやり込めたり、伯爵様を説得したり、幼児とも思えない言動や振る舞いにはただハラハラさせられました。」
ユリアは、ここで少し謝って言う。
「ああ。あの時は確かにびっくりされたでしょうね。幼児が初対面の大人に歯向かう言動をするなんて、わたくしの知る限りほかにいませんもの。」
ナリアは、続けて言う。
「でも、ソルフィーナお嬢様の部屋で、御殿医師様を動かしてお嬢様を快方に向かわせた一部始終を見ましたら、ただの不躾な幼児ではないと見方を改めました。伯爵様が、わたくしをユリア様のメイドに付けた理由がわかったような気がしたのです。」
ユリアは、ナリアのこれまでの対応から、言うことが予想できたが、そのまま聞くことにしてい言う。
「わたくしも、その理由が分かりました。でも、ナリアさんの口から聞きたいです。」
ナリアは言う。
「はい。わたくしの理解では、ユリア様は自由人でございます。ユリア様の行動は、時に突飛な発想に基づくことを知りました。そのようなユリア様の行動を御して正しい方向に修正することが、伯爵様からわたくしに与えられた仕事なのでございます。」
ユリアは、恐縮したように言う。
「その通りですね。ナリアさん。いつもお世話になっております。ところで、今日はどのように方向修正されますか?」
ナリアが答える。
「自由人の主なご意向は方向修正しませんが、周辺を少し整えさせていただきます。つまり、森に行かれるのであれば騎士団から護衛をひとり出してもらいます。森には3人以上でないと入れない規則だと記憶していますが、ハンターギルドで同行者を募るのも経験になると存じます。デイビード様には、わたくしの責任でそのように推奨した旨お伝えいたします。いかがでしょうか?」
ユリアは感服したように言う。
「大変結構でございます。完全無欠の教育的指導をいただきまして感謝申し上げます。それでは、そろそろ朝食に参りましょう。」
ナリアが言う。
「わたくしは、デイビード様にお伝えするのと、騎士団に要請するので別行動となります。済みませんが食堂へはおひとりでお願いします。」
ユリアが言う。
「分かりました。よろしくお願いいたします。護衛騎士様は食堂でお待ちします。準備をしてお越しくださるようお伝えください。」
ナリアが言う。
「畏まりましてございます。」
ユリアは食堂で朝食を取り終えて、しばらく待った。すると、聞きなれたような声が聞こえてきてイーアンがハンター姿でそばに立っていた。
「おはようっす。ユリア師匠。今日もお誘いありがとうす。森に獣狩りに行くんだっすね?早速行きますよ。森には3人以上じゃないと入れない規則っすから、ハンターギルドで同行者を一人見繕っていくっすよ。」
ユリアが言う。
「そういう時は、元気よく檄を飛ばすのよ。そしたら、私も呼応するから。はい、やってみて。」
イーアンが、戸惑いながらも檄を飛ばす。
「それじゃー、今からハンターギルドに行くぞー。」
「おぉー。」
二人は、領主館の城門を出ると、早歩きでハンターギルドに行った。ギルドのホールに入ると、依頼を探す者、打ち合わせをする者など、まだ20人くらいが中にいた。
イーアンは、手慣れた様子でハンターギルド会員証を見せながら、受付窓口に張り付いて言った。ユリアも同時にハンターギルド会員証を見せた。
「おはよう。今日は森に行って獣を狩るんだが同行者を一人募りたい。依頼書を書くのかい?」
受付職員は言う。
「はい。書いていただきます。ハンター同士のトラブル回避のために必須でございます。一人でよろしいので?もう一人は後から来られるのですか?」
イーアンは、少し呆れた様子でユリアを差し抱えて言う。
「もう一人は君の目の前にいるだろ。あっ、小さすぎて見えなかったか。すまねえ。ほうらよっと。」
受付職員は、びっくりした顔をして、ユリアの顔とハンターギルド会員証を見た。
「えっ。この子供が?ああ。確かにハンター資格4級のギルド会員証をお持ちですね。ちょっと失礼ですが確認させていただいてよろしいでしょうか?」
ユリアは言う。
「問題ありません。どうぞ。」
受付職員は、ギルド会員証を確認してから言う。
「確かに間違いありません。隣国のエルブライド町のハンターギルドでいきなりハンター資格4級に認定されています。疑って申し訳ございません。」
イーアンが依頼書を書き上げて提出したところに、弓矢を背負った女性ハンターがぶらりとやって来て、受付職員から依頼書を奪い取って言う。
「失礼だがお話が聞こえたので、この依頼に応募したいとここに来たのだ。詳細の相談に入っていいかな。」
受付職員は頷いた。それを見て、イーアンも承知して相談机に3人で移動した。女性ハンターが言う。
「私は、カビラという者だ。ハンター資格2級だ。これまで、いろいろなダンジョンや魔物の森で討伐をやってきた。エルブライド町のダンジョンも経験ある。見ての通り弓矢を主武器とするが、レイピアも使える。実績は十分あると自負している。君たちはどうだ?」
イーアンが先に正直に言う。
「俺は、イーアン。ハンター資格3級だ。この伯爵家の騎士団所属で斥候役を修行中だ。今日は、このユリア師匠の護衛と数合わせでここにいる。これから、森に走って行って出会った獣を狩る予定だ。主武器は長剣と手投げ剣だ。」
次にユリアが言う。
「私は、ユリアと言います。ハンター登録名はクロエです。アリースソン伯爵家の客人として領主館にいます。今日は、私の仮の父親に子供は遊ぶようにといわれたので、森で好きな狩りをしようとここに来ました。私も主武器は弓矢で槍も使います。イーアンが言った師匠というのは、斥候向けの探索魔法を教えたからです。その関係で、出会っていない獣も探索魔法で感知したらこちらから出向いて狩ります。よろしくお願いします。」
カビラが唸りながら言う。
「うーむ。子供は遊べと言われると森で狩りをするのが普通なのか?しかも、その小さな体と森で狩りをして遊ぶという言葉とがつり合わなくて、どう解釈すべきか戸惑っているのだが。イーアンはどうだ?」
イーアンが答える。
「ああ。俺も初めはそうだった。だがもう慣れたよ。俺の目標はユリア師匠を超えることだからな。今日も実地訓練のつもりで来ている。ユリア師匠に護衛は必要ないからな。なにせ、狼の群れに飛び込んでバッタバッタと次々に倒していったという噂だ。」
ユリアが少し訂正する。
「イーアン。どこで聞いた噂か知らないけど、少し違うわよ。単なる狼の群れではなくて馬車を襲っている群れだったことと、飛び込んだのは仮の父親と二人でだよ。互いの背中を守りながら前方の狼だけを倒していったんだ。」
イーアンが言う。
「その部分は噂では消えていた事実だっす
な。それでも凄すぎであることには変わりないっすよ。」
カビラが同調する。
「それが本当ならハンター資格4級どころじゃないぞ。そういえば、私も噂を聞いたことがある。たしか、エルブライド町のハンターギルドで聞いたと思う。幼児が弓矢の50mブースで20本全部的に当て、そのうち後半の10本はすべて中央の黒丸に刺さったんだと。ギルド長はそれを見て実技試験を免除した上、いきなりハンター資格4級を認定したそうだ。眉唾物だと思っていたが、ユリアがその人なのか?」
ユリアが端的に答える。
「ああ。それはほぼ正確な事実ですね。その噂の人物は私で間違いないでしょう。では、特に異論なければ、この3人で森に行って獣狩りをしましょう。カビラさん。請負サインはしましたか?早速走って森へ行きますよ。」
3人は、走り続けて40分で森の入口に着いた。3人は全員で探索魔法を始めた。ユリアはイーアンに聞いた。
「イーアン。探索魔法で獲物を探してくれる?カビラは少し黙っててね。」
イーアンが言う。
「今やってるっす。いた。11時方向6km先に狼らしき10数頭の群が右手前方向に移動中だ。あっ。1時方向4km先に鹿の群らしきものが停止しているっす。狼はこれを狙っているようだっすよ。」
そこまで待ってカビラが言った。
「イーアン。やるじゃないか。探索結果に間違いはないぞ。皆で鹿を狩るだろう。皆で風下から近寄るぞ。」
そこでユリアが止める。
「ちょっと待って。鹿が逃げる方向の先で待ち伏せして鹿の数頭と狼も合わせて仕留めましょう。ちょうど風向きもいいわ。カビラ、どう思う?」
カビラが少し考えて答える。
「うむ。そうすると、待ち伏せ位置はここから2時の方向2.5km先くらいか?」
イーアンが同意して言う。
「俺もそこでいいと思うっす。弓隊ふたりが打ち漏らした鹿は俺にまかせてくれすよ。師匠に鍛えられた瞬発移動魔法で食らいついて一太刀で仕留めるっす。」
カビラが応答して言う。
「狼たちが私たちの前方100mほどに迫ったら弓隊は狼に狙いを切り替える。投げナイフの射程に入ったらイーアンも加われ。接近戦になったら剣や槍で狼が逃げ出すまで応戦するぞ。いいな。」
ユリアとイーアンは承知し、カビラが言う。
「それじゃ、待ち伏せ位置に移動するぞ。」
ユリアたちは瞬発移動の魔法で、鹿の群の逃げる方向の先の位置に着いた。弓隊の二人は、木の幹の後ろや灌木の後ろに陣取り、イーアンは二人の後方で長剣を抜いて待機した。
ユリアは収納魔法から弓と矢1本を取り出して構えの姿勢を確認した。次の矢は収納魔法から最小限の動作で取り出せるようにした。
カビラはユリアの様子を見てユリアが収納魔法持ちであると確認した。そして、取り出した弓が、そのサイズでは最強の強弓だと見抜いた。エルブライドのハンターギルドで聞いた噂が間違いなく事実であると分かった。
少し待ったら、先頭の鹿が走って約80mまで近づいてきた。
カビラが先頭を自分がやると目配せで合図し、狙いを付けてすぐに矢を放った。ユリアはそのすぐ後ろの2頭目に金縛り魔法を掛けて四肢の動きをとめた。間髪を入れず慣性力だけで進んでいる状態の鹿を射った。
カビラが結果を見て言う。
「1頭仕留めたぞ。おっ。ユリアもやったか。次いくぞ。」
カビラは3頭目は間に合わないと見て4頭目を狙って射って頭に命中させた。ユリアは3頭目の首を狙って金縛り魔法の魔力を放射した状態で矢を放ち、正確に首を貫通させた。
5頭目はもう30mくらいに近づいていた。カビラはここで狼狙いに切り替えた。ユリアは鹿に対する最後の一射とみて前の一射と同様に5頭目の首に矢を貫通させた。そのあとはユリアも狼狙いに転じた。
カビラは約90m先の先頭の狼を狙ったが外した。ユリアは、その狼を金縛り魔法で四肢の動きを封じた状態で矢を放ち約70m先で射抜いた。カビラは次々に矢を放つが半分は外した。ユリアは放つ間隔はやや長いが正確に首を射抜いていった。結局狼は6頭が弓で射抜かれ、残った8頭が3人を囲んだ。
ここでカビラは弓矢を捨ててレイピアを抜いて構えた。イーアンも二人と正三角形を描くように立ち、長剣を構えた。ユリアは弓矢を収納魔法に収め槍を取り出して構えた。
ユリアは、警戒して襲ってこない狼たちに対峙し、狙いの狼の両側にいる2匹に対して目の金縛り魔法を掛けて動けなくした。間髪を入れず狙いの狼に槍から接近戦の金縛り魔法を掛けて静止させ穂先で突き刺した。ゆりあはこの要領で狼を次々に倒した、結局、残りが3頭になった段階で狼たちは撤退していった。
ユリアは、呆然と立っているほかの二人の無事を確認すると、収納魔法からコップを出して生活魔法の水魔法で冷水を注いで二人に振る舞った。
「お二人ともお疲れ様です。私の特製冷水を飲んで疲れを癒してください。」
カビラとイーアンの二人はそれぞれコップを受け取りごくごくと飲み干して口々に言った。
「うぉー。冷たくてうめー。もう一杯もらえるかな。」
ユリアは、サービス精神で言いながらコップに冷水を注いでいった。
「えぇ。もちろん。何杯でもどうぞ。」
カビラは喉を癒し、疲れと興奮が取れた後、獲物の状態を確認して回った。自分の矢の刺さった位置に比べて、ユリアの矢はすべて首筋に命中して矢じりが貫通していた。カビラは、ユリアの弓矢の腕前の噂と、狼をバッタバッタと倒した噂が、すべて事実に基づくものであると認めた。
結局、三人の討伐数は、カビラが鹿2頭に狼4頭、イーアンが鹿2頭に狼1頭、ユリアが鹿3頭に狼6頭であった。合計で、鹿7頭、狼11頭という大猟であった。三人で手分けして血抜きを行い、水魔法や氷魔法で冷却してユリアの収納魔法にすべての獲物を収納した。
獲物の分配は、ギルド依頼書に書いた契約事項によりよれば3人で等分することになる。だが、ユリアは、自分は遊びだからと分け前の受け取りを少なくし、鹿1頭と狼1頭にした。残る二人は、それぞれ、鹿3頭、狼5頭という、配分となった。全員がギルドのジビエに買取ってもらうこととした。
ちょうどお昼の時間となったので、ユリアが、調理したてのような肉野菜スープと白パンと串焼肉を収納魔法から出して振る舞った。食後に少し休憩してから帰ることになった。
イーアンが言う。
「ユリア師匠。今度は弓矢と槍を指導してもらえませんすかね?」
すると、カビラも同調する。
「おう。それなら私もお願いしたい。金は十分払う。」
ユリアはすまなそうに言う。
「ごめんなさい。弓矢も槍も一家相伝の秘術なのです。」
カビラはあっさりと引き下がる。
「そうだろうな。私はハンター資格2級に上がって、少しうぬぼれていたようだ。弓矢の技術にも、剣の腕にも、まだまだ上には上がいるということだ。今日はいい勉強をさせてもらった。最初ユリアを見て、こんな小さな子供が狼を相手に戦えるのかと疑っていたんだ。だが、狼に迫られてもびくともせずに弓矢を放ち、周りを囲まれても恐れもせずに槍で突く姿を見て、これは本物だと知ったよ。また、いつか一緒させてくれればありがたい。」
ユリアが答える。
「ハンター資格3級を受験するために魔物討伐経験が必要だから、2級資格者カビラさんにも同伴指導をお願いすることがあるかも知れませんね。その時はよろしくお願いいたします。今日は数合わせの同伴依頼を受けていただきありがとうございました。」
イーアンが言う。
「ユリア師匠。ひょっとしたら騎士団からの正式の弓矢や槍の指導依頼があるかもしれないっすよ。」
ユリアは答える。
「そうなっても、答えは変わらないよ。幹部との会合のときにネイトビアス騎士団長様が仰るには、この伯爵家とヴィルダー辺境伯家との同盟関係が成立するまで待つことになりそうよ。」
イーアンが拗ねるように言う。
「そんなぁー。そこまで待ったら俺はおじいちゃんになってるっすよ。でもまあ、俺個人でいえば、ユリア師匠には探索魔法も教えてもらってるしね。ほかの奴らよりは恵まれていると思ってあきらめるっすよ。」
((フランソワール帝国にきてから初めての獣狩りは、とても楽しいものでした。カビラさんもハンター資格2級だけあって十分に強かったね。森での子供の獣狩り遊びに付き合ってくれるいい人に出会ったよ。あ、もちろんイーアンも強かったよ。騎士団だもんね。))
少女の同行者はイーアンでしたね。斥候の実践訓練ができました。数合わせの同行者もいい人が依頼を受けてくれました。少女は森で遊びを満喫したようです。次は何をするのでしょう。それではまたお会いしましょう。




