表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
63/63

63.少女は進言具申団の状況打開案を提案する

辺境伯領主館で蝗害対策進言具申団の活躍状況が関係者に共有されます。

ーーー 場面はヴィルダー辺境伯家の領主館


 辺境伯ヴィルムードは、蝗害対策に関する進言具申団の団長アルベルドからの緊急速報書簡を受け取った。


 ヴィルムードは、弟ダルビードや3男エドアルドはじめ領主家組織の幹部を小会議室に呼んだ。ダルビードは、速報書簡を受け取って要点をまとめて読み上げ、出席者全員の情報共有を図る。


  「アルベルドからの進捗報告をまとめて読み上げる。質問はあとで受け付ける。


 結論から先に言うと、我が王国とフランソワール帝国との2国共同体は樹立された。現在進言具申団は、オスムール帝国からの返信待ちの状態だ。


 だが、その返信が予想より遅いらしい。ガスゴーシュ殿に本国のクリューソス大公から届いた知らせによると、オスムール帝国で何か異変が起きているとのことだ。異変の詳細は不明だ。


 次に、進言具申団の活動経過を説明する。


 まず、こちらから後方支援で送った王国組織に対する訪問伺いと会談受諾の促進案は、具申団の全員一致で採用されて送達された。王国組織からは予想以上に早く受諾する旨の返信がきたそうだ。促進案の作成に協力してくれた皆に感謝する。


 進言具申団は、即座に王都ルーベンブルグへ向けて移動を開始し最短日数で到着した。具申団は一旦王城前に宿を取り、会談相手の特定と具申団の入城許可を要請した。これも翌日に回答が来て、具申団全員が入城し宰相ほかを会談相手とすることが決まったようだ。


 会談に臨む進言具申団の陣容は、それぞれ領主の全権委任状を有するアルベルド団長、ロンバルス領の外交責任者ゼルメル副団長と、フランソワール帝国皇帝の親書を携えたガスゴーシュオブザーバの3名である。


 一方、王国組織側の陣容は、宰相アルノーリ、外務大臣フォーリアス、内務大臣ドメジアンの3名に決まったようだ。最初の会談は入城したその日に行われたとある。王国側も事の重大性に遅まきながら気づいて、最大の誠意を見せたのだろう。


 会談では、初めに王国側から、最初の訪問伺いに返答しなかった理由の謝罪があったそうだ。先手を打たれたが、こちらも問い詰める手間が省けたな。


 脅し文句が効いたのか、国王権限ですぐに調査したところ、前内務大臣が握りつぶしていたことを突き止めて即時罷免して投獄したようだ。どうやら、王国組織に腐った分子はいるが、自浄能力はまだ維持しているようだな。


 次に、アルベルドが、進言書を宰相に手渡すとともに、証拠の一部の文献の実物と記載部分の写し多数を示して概要を説明した。説明を聞いた相手は、蝗害の再発危険性と対策必要性を一応理解したようだ。証拠は直ぐに関係担当部署に回され、調査の結果、記載に間違いないと結論された。」


 会議に出席しているエドアルドは、ダルビードのここまでの話を聞いて、デイビードが言った言葉の意味を理解した。エドアルドは独り言のようにつぶやいた。


  「デイビード叔父上の言っていた、ユリア独自の鋭い勘と絶妙のバランス感覚とは、こういうことだったのか。我がヴィルダー辺境伯家とロンバルス侯爵家の共同体に対して、政治的にも軍事的にも対抗できる勢力が王国内に存在しないとみて、ユリアはあそこまで強気に出られたわけか。我々は後方支援部隊の責任で促進案を送ったが、綱渡りを見るようなどちらに転ぶか分からない状況にハラハラドキドキだった。なのに提案した当のユリアは、あとは我関せずとでもいうようにポーション作りに専念していた。羨ましい性格だよ、まったく。」


 ダルビードが続けて速報書簡の内容を説明する。


  「ここからが、進言の内容説明と説得の本番になる。


 まず第一段階で、シングラーツ王国は、王国組織が主体となってフランソワール帝国に協力して2国共同体を樹立する。それぞれの国家は2国共同体の代表者と補助者の人選をする。各国の代表者は国王または皇帝から全権委任状を与えられることになる。現在の進言具申団は、そのまま2国共同体の補助に回る。


 王国側は、2国共同体の樹立推奨に同意し、国王の全権委任も取り付けたようだ。さらに、具体的な人選の詰めを行って準備を整えた上で、フランソワール帝国からの2国共同体樹立の申し出を受け入れたようだ。


 一方、フランソワール帝国側では、ガスゴーシュ殿を国家代表者とする旨の皇帝からの任命状と全権委任状を携えた随行者たちが、既に王国の王都ルーベンブルグに到着済みだ。こうして2国共同体の樹立と相成ったわけだ。


 次は、第二段階で、2国共同体により、オスムール帝国に対して3国共同の蝗幼虫殲滅作戦への参加を、既に書簡で要請した。要請の根拠となる証拠は、王国に提示したものと同じになる。


 その要請に対する返信が遅れているのは、先ほど言った通りだ。


 オスムール帝国の異変について、我が領から放った情報収集員、すなわち間諜たちは何も情報を送って来ない。恐らく、強力な情報統制が敷かれ書簡なども厳しく検閲されているに違いない。


 この状況をどのように打開するかが、今日の本題となる。皆も、オスムール帝国の事情など雲をつかむようなものだと諦めずに、何か妙案を提案してほしい。」


 ダルビードが意見を募ったが、誰一人として発言するものがいない。皆、押し黙ったまま頭を抱えている。


 そんな中、エドアルドが挙手をして立ちあがり、意見を述べた。


  「こちらでは、オスマール帝国は遠すぎて風評も聞こえてこない。だが、デイビード叔父上とユリアなら、いまフランソワール帝国にいて我々よりもかなり近いところにいる。彼らに手紙で聞いてみるのはどうでしょうか?」


 ダルビードが答えて言う。


  「エドアルドよ。確かにそれは一理ある案だ。しかし、書簡が往復する日数を考えれば、その間こちらでも何か考えるべきだと思う。」


 ダルビードがそう言い終わったとき、突然小会議室のドアから文書取次の文官が入って来てダルビードに書簡を手渡した。ダルビードは送り主の封蝋を見て腰を抜かさんばかりに驚いた。


((会議中によくお手紙が届く人たちですね。))


  「皆。今届いた書簡は、フランソワール帝国のクリューソス大公から兄上に送られたものだ。兄上、代読いたします。なになに、ユリアがメイド姿でおいしいお茶を煎れてくれただとぉ、なんだぁこりゃぁ?あっ。その後に本題の超重要な情報がほのめかしてあります。


 ユリアが、お茶の席の話題で、オスムール帝国は西側山系にあるボスべニア火山の大噴火による噴出物で広範囲にわたり大被害を受けたに違いないと推測した、と書いてあります。彼らフランソワール帝国の国民の誰一人としてそのような噂も聞かないし、まして、そんな突飛な推測をするものもいない中、大公はユリアに推測の根拠を聞いたようだ。


 ユリアの推測の根拠は、ボスべニア火山の大噴火と、フランソワール帝国で春先の雨期に例年より多くの雨が降ったことと、その頃から薬草が育たなくなっていま薬草不足であることの三つの事象のみだそうだ。


 大公は今、あらゆる情報を掻き集めてユリアの推測の真偽を調査中だとある。」


 辺境伯のヴィルムードがうなりながら言う。


  「うーむ。現在のところ我々には、ユリアの推測の真偽を確かめる術はない。しかし、このまま手をこまねいていては、蝗の大発生時期をみすみす徒過してしまう。ここは、ユリアの推測を信じて、オスムール帝国に対して的外れでもいいから、食いついてくるような働きかけをするべきだと考えるが、皆はどうだ?」


 エドアルドが挙手をして意見を述べる。


  「父上。確かにそれは事態打開に有効な手段かと存じます。既に共同体となった2国からの食糧援助とか、噴出物の除去作業人員の派遣などの援助申し込みとの抱き合わせで、蝗害対策部隊の送り込みと対策実施を認めさせるのです。」


 ダルビードが、エドアルドの提案を受けて話す。


  「エドアルドよ。よく思いついてくれた。それでこそ我が領の幹部だ。ところで、今エドアルドが提案した内容は、この書簡によると、既にユリアが大公に提案済みだそうだ。ユリアはさらに、この事態を3国が歩み寄って好意的に協力し合うきっかけになればいいと大公を諭したのだと。恐ろしいことをする幼児がいたものだな。」


 エドアルドが悔しそうに言う。


  「まったくその通りです。サンガルス村で初めてユリアに会った時に忠告したのですよ。貴族に対してあまり無作法をするとそのうち切り殺されそうだと。ユリアがいまだに生き残っているのは奇跡です。それにしても、ユリアには頭が上がらない。何せ、再生プロセスの師匠でもあるのです。」


 辺境伯ヴィルムードは決断したように言う。


  「よかろう。大公は既に進言具申団に今の情報を送っているだろうが、我が領からも緊急書簡を送るぞ。アルベルドには全権委任しているが、動きやすくしてやるべきだ。ヴィルダー辺境伯家全体の合意として、食糧援助でも医薬品援助でも人員派遣でもなんでも食いつきやすい提案を出してよい旨の内容だ。異論はないな。」


 一同、返事をする。


  「ははー。異論はございません。」


 ヴィルムードはダルビードに命じて書簡の草案を作らせ、確認の上でそのまま承認して進言具申団のアルベルドに早馬便で送った。




ーーー 場面はフランソワール帝国アリースソン伯爵家の領主館


 ユリアは、朝起きてメイドのナリアに身仕度をしてもらいながら言う。


  「ナリアさん。今日はデイビードお父さんと話し合いがしたいのですが、空いている時間を聞いて来てもらえますか?」


 メイドのナリアは答える。


  「そうですね。デイビード様でしたら、ここ何日かソルフィーナお嬢様と食堂で朝食をとっておられます。ユリア様が、その時間に合わせてご一緒に食事しながらご相談されたら早いかと思います。」


 ユリアは、その時間に合わせて食堂に行った。食堂では、デイビードとソルフィーナが向かい合って座って配膳を待っていた。そこにユリアは、二人に断って同席した。


  「デイビードお父さん、ソルフィーナ様。おはようございます。今日はちょっと相談したいことがあるの。今は朝食前なので概要だけ話すけど、オスムール帝国の人々を救う方法についてなの。お時間を別途作ってもらえないかしら。」


 デイビードが言う。


  「今日は特別予定がないからいつでもいいが、9時からサロンでいいか?ソルフィーナ様も同席してもらっていいかな?」


 ユリアが答える。


  「ありがとう。9時からサロンでね。何人同席いただいてもいいよ。よろしくお願いしますね。」


 デイビードが尋ねる。


  「それにしても、オスムール帝国の人々を救うとは、問題が大きすぎないか?何か事情があるのかな?」


 ユリアが答える。


  「うん。オスムール帝国が頑な(かたくな)に国交を遮断している理由を推測したの。流行り病を他国に流出させまいとする良心的な対応なのかもしれないとね。救う対象者は、流行り病感染者に限らず大怪我をした人も含まれるわ。それなら、こちらができる援助は医療関係者の派遣とポーションなどの医薬品が最優先となるわね。問題はそのような体制をどうやって作るかということね。」


 デイビードが考え込むようにして言う。


  「そういう問題なら、アリースソン伯爵やファーミルソン医薬部門責任者も聞いてもらった方がいいな。今日の9時に空き時間がある人を呼ぼう。とにかく、今は朝食をいただこう。」


 ユリアが同意する。


  「そうね。それじゃ、いただきます。」




ーーー 場面はサロンに変わる


 ユリアは、メイドのナリアに伴われてサロンに来た。まだ9時には少し早かったが、デイビードとソルフィーナのほかに、伯爵夫妻、医薬部門のファーミルソンとメディバルが既に座っていた。


 ユリアはホスト席に座って言った。


  「皆様。よくお集まりくださいました。一昨日の大公殿下とのお茶の席で、殿下でさえもオスムール帝国の国内事情が皆目(かいもく)つかめない旨のお話がありました。わたくしはその理由を推測しました。かの国が一方では良心的に流行り病の流出を防止していること、他方では疑心暗鬼で他国に攻め入られるのを防止していること、という理由です。


 これらは、いずれもボスべニア火山の大噴火により大被害を被ったことが前提となっています。これも推測ですから、その前提の当否も明らかにする必要がありますが、まず間違いないと考えます。


 火山からの噴出物が堆積して都市機能がマヒすると、住民や避難民の間に流行り病が発生して感染が広がります。病の種類によっては多数の犠牲者が出る可能性があります。オスムール帝国は、いまその状況にあると推測しています。したがって、緊急な援助の第1番は医療従事者と医薬品、第2番が食糧、第3番が都市機能の復旧要員となるということです。


 わたくしは、フランソワール帝国とシングラーツ王国が協力すれば、オスムール帝国をその状況から救い出せると考えています。蝗害対策で2国間の協力体制はできています。残るのは、医療従事者と医薬品を掻き集めることです。これには、国家レベルのトップダウンによる指令が最も有効でしょう。


 以上の援助は、蝗害で疲弊した2国にさらに無理を強いることになります。しかし、オスムール帝国が、少なくとも2国で蝗幼虫殲滅作戦を実行する許可をくれなければ、最悪、来年も蝗害が発生して今年の飢饉どころではない状態となるでしょう。そうなると3国総崩れです。


 いま蝗害対策実行の可否は、いかにしてオスムール帝国の警戒心を解かして交渉のテーブルに着かせるかに掛かっています。その鍵が2国からの援助による懐柔(かいじゅう)作戦です。


 皆様のご意見をお聞かせいただければありがたいです。なお、わたくし自身は、こうして提案するだけで、実行するのはしかるべき地位におられる方々にお願いします。」


 デイビードが言う。


  「ユリア。お前にそこまで心配をさせてすまないと思っている。我々大人がするべきことは、医療従事者と医薬品、食糧、および、復旧要員をトップダウンの声掛けで搔き集めること、ということだな。トップとは、このフランソワール帝国では皇帝陛下またはその代行者、シングラーツ王国では国王または宰相といったところか。」


 アリースソン伯爵が言う。


  「ユリア殿。掻き集めるのが難しいのは、物である医薬品と食糧でしょう。食糧は、来年の収穫期までに消費する分を残して、統制価格で強制供出させる手段を発動すればある程度は集まるでしょう。一方、医薬品は原料不足だと聞いています。医薬品を扱う業者に強制供出させても量的に難しいかと存じます。


 先日ユリア殿は、自ら採取された薬草で60本のポーションを調合されました。そのような薬草の生育地を発見できればもっと数を増やせるでしょうが、仮に10万人分必要だと言われると現実的には無理でしょう。否定的な見解ばかりで申し訳ないと思っています。」


 ユリアは言う。


  「伯爵様が言及された、先日わたくしが調合したポーションは、低級薬草を原料として上級ポーションが調合出来ました。上級ポーションならば相当の治癒効果が期待できます。その原料となる低級薬草は今でもそこらあたりで大量に採取できます。


 そこで提案ですが、すべての薬師様を動員して、わたくしと同じ調合方法を用いて低級薬草から上級ポーションを大量に作るのはいかがでしょう。これの成否は、調合方法を開示できるか否かに掛かっています。これが、本日デイビードお父さんに相談したかったことなのです。どうでしょうか。」


 デイビードが言う。


  「ユリア。お前の考えは分かった。お前の前提の真偽如何で状況が変わるかもしれないが、やるべきことは大きくは変わらないだろう。ポーションの調合方法は開示すべし一択だと言ってたな。だが、私の一存では決められない問題だ。早馬便を出して兄達とマジョルーサ殿に判断を仰ぐ。いま私にできることはそれぐらいだ。お前は、既に大人に後を託した身として子供らしく遊んで過ごせ。いいな。」


 ユリアは言う。


  「はい。分かりました。デイビードお父さん。提案が済んだことだし、後は大人に任せて少し遊ばせていただきます。」




((オスムール帝国の状況がどうなっているか心配だわ。でも、大人に任せた身としては、好きなことをして遊ばせてもらいます。楽器もあるし、弓矢もある。本もまだ読んでないところがあるし。あれ、これは遊びかな?))


少女は蝗害対策実行の実現へ向けてやるべきことと打開案を大人に提案しました。その中で辺境伯家の秘術を開示できるか検討課題が出ました。少女は後は何をするのでしょうか。それではまたお会いしましょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ