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58.狩人の男はお見合いをする

少女が伯爵家の幹部たちと会合している間に狩人の男は縁談相手と正式面会をします。

ーーー 場面はアリースソン伯爵家の領主館


 アリースソン伯爵家のメイド達は、朝早くからサロンの清掃や飾りつけをして入念に準備を整えていた。今日は朝食後しばらくしてから、ここでモーニングティーを兼ねて縁談相手同士の正式の顔合わせが行われる。



 メイド達の間では、この縁談の行方がどちらに転ぶか、賭けにも似た予想合戦が展開されていた。きっかけは、伯爵の指示内容の、縁談相手が隣国から子供を伴って来る、と言う部分に違和感(いわかん)ありありだったためのようだ。


 パーラーメイドのパメラが纏め(まとめ)役をして、予想の発言内容と評価のルールを決めた。予想発表者は、縁談の結果と根拠について予想を説明する。評価は、根拠が論理的または屁理屈(へりくつ)的に矛盾なく結果に結びつくこと、及び、根拠の巧拙(こうせつ)と面白さが評価される。


 つまり、評価の観点は、結果が当たっていること、根拠の筋が一応通っていること、根拠の論理が面白いことなどであった。


 予想合戦の参加者は、メイド長のルシェールを除くメイド全員11名となった。休憩時間や賄いの時間に集まった者達でわいわいと賑やか(にぎやか)に予想を披露する。各人の予想は、全員で記憶して共有するとともに、パメラが書きとめる。


 優勝者は、結果が合った者を対象に、根拠の巧拙を全員で投票して決める。残念賞は、結果が合わなかった者で、最も面白い屁理屈の根拠を述べた者が貰える。締め切りは、縁談相手の到着日の前日までとした。縁談相手を見ての予想発表や変更は無効としたが、予想の変化を見るのも面白そうだと一応書きとめた。


 参加メイド全員の予想発表が、縁談相手の到着前に出揃った。全てを列挙するとつぎのようになる。


1.ハウスメイドAのネリーの予想。

結果:破談

根拠:縁談相手がフランソワール語をろくに話せず、地位と財産だけが目的のダメ男だったので伯爵様がお嬢様に会わせることなく追い返した。

2.ハウスメイドBのアデリーヌの予想。

結果:合意

根拠:縁談相手がキスをしてお嬢様の症状をたちどころに全快させた。二人は恋に落ちたので当然の成り行き。

3.ハウスメイドCのキャシーの予想。

結果:破談

根拠:お嬢様がこぶつきの後添え(のちぞえ)を嫌がった。しかも子供がとんでもない悪ガキだった。

4.ランドリーメイドAのルクレシアの予想。

結果:破談

根拠:お嬢様が子供だけを気に入って養子にしたいと言い、縁談相手の男はいらないと言って突っぱねた。

5.ランドリーメイドBのサラーの予想。

結果:破断

根拠:前皇帝の血を引くプライドの高いお嬢様が身分の低い縁談相手を嫌って断った。

6.キッチンメイドAのレスリーの予想。

結果:破断

根拠:縁談相手が45歳で子供も20歳を超えており、お嬢様が年寄りは嫌だし自分より年上の子供も嫌だと激怒して断った。

7.キッチンメイドBのメラニーの予想。

結果:合意

根拠:縁談相手は若いハンサム男で、連れてきた子供は聖女様だった。ヒール魔法でたちどころにお嬢様の症状を全快させたので、二人に感謝した伯爵様もお嬢様も乗り気で合意した。

8.パーラーメイドAのパメラの予想。

結果:破断

根拠:縁談相手と子供は実は女神が天から遣わした自らの分身で、お嬢様の症状を全快させると、用事が済んだとばかりにさっさと天上界に帰って行った。

9.パーラーメイドBのシルフィーの予想。

結果:破断

根拠:縁談相手と子供は隣国から道中を急いだが、狼の群れに襲われて治療のため足止めを食い、快癒したが残りの道中を進むうちに道に迷って、待てど暮らせどこちらに到着しなかったから自然破談となった。

10.レディスメイドAのジャネットの予想。

結果:破断

根拠:縁談相手は若くハンサムで、子供は素直なかわいい女児で、お嬢様は両方とも気に入ったが、ご自分の体の状態を理由に固辞された。

11.レディスメイドBのナリアの予想。

結果:合意

根拠:縁談相手が隣国の王家(ゆかり)の若者で、同様に皇帝家に縁のお嬢様と意気投合して将来を誓い合った。


 パーラーメイドのパメラは、予想が出そろったところで、参加者各自の予想を書いた紙を壁に貼りつけて事前評価会を開催した。パメラが言う。


  「皆さん、破断予想が多いですね。合意予想は11分の3ですか。お嬢様の縁談なのに寂しすぎませんか?たぶん、皆さん、お嬢様の体調を思いやってのことだと思います。そういうわたくしこそ、快癒を願うあまり神様頼みの屁理屈となっている点は反省しています。その中で、アデリーヌさんは、合意予想をロマンチックな根拠でまとめていらっしゃいます。アデリーヌさん、ご主張または弁明をお願いします。」


 指名されたアデリーヌがびっくりしながらも話した。


  「あたしも、お嬢様の全快を待望している一人なの。縁談相手が颯爽と現れてかっこよーく治癒してくれたら最高だなぁって思うから、そんな願望を根拠にしたのよ。」


 パメラが礼を言う。


  「アデリーヌさん、ありがとうございました。今度は、破断予想で、根拠がなぜか具体的なレスリーさん、何か一言お願いいたします。」


 指名されてレスリーが答える。


  「わたしは、お嬢様に現状のままで婚姻してほしくないわ。でも治癒に関して具体的な妙案が浮かばなかったのよ。そこで、現状では破談が望ましいと思い、よくある話として年齢差や連れ子のネタを根拠に使ったのよ。」


 パメラが礼を言う。また、次を指名する。


  「レスリーさん、ありがとうございました。それでは、最後に、もう一人。数少ない合意予想に、ファンタジックでメルヘンチックな根拠をひねり出してくださったメラニーさん。一言お願いいたします。」


 メラニーが予期していたとばかりに話す。


  「わたくしも、お嬢様の全快はもちろん、ご縁談も纏まってほしいと願ってますわ。そして、その両方が叶えられる屁理屈を考え付いたんですの。パメラさんが仰るようにメルヘンチックだけど、縁談相手が若くてハンサムなのは一応現実的ですよね。


 一方、子供については、縁談の場に連れて行く理由はなんでしょうね?縁談相手はこの伯爵家の事情を知ってるからこそ子供を連れて来たのです。


 つまり、その子供こそが癒しを与える存在なのです。でも、現実にはそのような子供がいるのか知らないので、聖女様を引き合いに出したのですわ。ごめんなさい、聖女様。」


 パメラは感動して涙ぐみながら、メラニーに礼を言った。


  「メラニーさん。メルヘンチックなどと言って済みませんでした。深い洞察に基づく理詰めの根拠をご提示くださって、大変ありがとうございました。お話を聞いて、これは屁理屈などではなく、もちろんメルヘンでもなく、一番あり得そうな結論と根拠の予想だと思いました。


 さて、いまここでご意見を伺わなかった方々も、予想をご提示いただき、ありがとうございました。結果がどうなるかは、しばらく後になりますが、優勝賞品と残念賞をご用意いたしますので、ご期待ください。それでは解散いたします。」




 いま、サロンで準備をしているパーラーメイドの二人、パメラとシルフィーは、既にメラニーの根拠予想が一番近いとわかっている。子供として同伴して来たユリアは、正に聖女といえる治癒をもたらしたのだ。


 あとは、縁談相手同士が婚約に合意するか否かで、勝敗が分かれる。お嬢様のソルフィーナが全快すると予想したのは、メラニーとパメラの二人しかいない。しかし、パメラの結果予想は根拠に無理があるので、たとえ予想通り破断したとしても優勝はできない。一方、縁談が合意になれば、メラニーは完全優勝と言ってもよく、パメラも、それが最善だと考えている。


 その結果は、たぶん、もうすぐ分かる。縁談相手同士の二人が、メイドに案内されてサロンに入って来た。ソルフィーナも既に普通に歩いて来て、デイビードと二人で準備の整ったテーブルを挟んで座った。


 二人は、既に顔見知りになっていて介添え人はつかなかった。人に紹介してもらうことができないので、互いに自己紹介することにした。初めに、訪問側のデイビードが自己紹介をした。


  「それでは、改めまして、わたくし、シングラーツ王国ヴィルダー辺境伯の末弟のデイビードと申します。そのまま、デイビードとお呼びください。爵位は持っていませんが、どうぞよろしくお願いいたします。」


 続いて、ソルフィーナが自己紹介をした。


  「わたくしは、フランソワール帝国アリースソン伯爵の長女ソルフィーナと申します。わたくしも、ソルフィーナとお呼びくださいませ。こちらこそよろしくお願いいたします。」


 初めに、デイビードが話題を提供した。


  「先に、私自身のことを簡単に話してしまいましょう。私は、シングラーツ王国の貴族学院で13歳から16歳まで4年間、一般教養と領主専科を学びました。3男ということもあり、2年間ほど、ハンターギルド所属のハンターとして森で狩人をしたり、魔物を倒したりして自由にさせてもらいました。


 その後、1年間、騎士見習いをしながら跡取り令嬢のいる領地に婿入りして領地経営をできるところを探しました。しかし、うまく見つからず、また、騎士見習いの弓矢訓練で挫折したこともあり、2年の予定で森で狩人をしながら弓矢技術の習得に励んでいました。


 2年目に入ったころに、森でユリアと出会いました。ユリアと行動を共にした期間はわずか3カ月ほどです。でも、その3カ月間は、学びという点では、ユリアに出会う前の13歳から21歳までの8年間よりも中身の濃いものに感じました。以上、簡単ですが、略歴をご紹介いたしました。」


 ソルフィーナが言う。


  「ありがとうございました。次はわたくしの番ですね。わたくしの方は、特筆することもございませんが、5歳から普通の淑女教育とバイオリンと鍵盤楽器の演奏技術教育を受けてきました。7歳のときに体調が悪くなり体力が抜けていく症状が出たのです。症状はゆっくりと進行し、16歳になったくらいにはもう自力で歩くことも、楽器を演奏することもできなくなりました。その後はご存じのとおりです。以上、わたくしの思い出したくない略歴です。でも、ユリア様が来られてからは、楽器演奏もまたできるようになり、歩くことも不自由しなくなりました。この1週間程度の期間は、まさに、それまですべての期間よりもずっと充実した時間に思えます。」


 デイビードが優しく言う。


  「重い過去を引きずらないでとは、とても言える立場ではありません。でも、私自身の経験で言いますと、引きずっていた挫折感をユリアが頭の中から吹っ飛ばしてくれました。貴女も、きっとそんな風に感じるときが来るでしょう。」


 ソルフィーナが受けて言う。


  「既にもう、そう感じていますわ。楽器演奏の練習再開から歩行訓練に至る数日間で、ユリア様から頂いた怒涛(どとう)のように攻めてくる積極的で前向きな言葉に感化されて、過去のことも引きずらないで言えるようになりましたの。」


 デイビードが共感したように頷きながら言う。


  「それは、もう確かに感化されていますね。ユリアの場合、どうも、上から目線で指導する口調で大人としゃべるので、幼児の外見とのアンバランスで頭が混乱して痛くなるほどです。」


 ソルフィーナが相槌を打ちながら言う。


  「まあ。それも、言い得て妙でございますね。わたくしも、それは感じておりますよ。ところで、ここには都合1月滞在されると耳にしましたが、どのようなご予定でございますの。」


 デイビードが答える。


  「はい。その期間、アリースソン伯爵家に少し貢献して、伯爵の心証を良くしておきたいと考えています。具体的には、ユリアと協力して騎士を数名訓練して身体強化魔法で偵察任務ができるようにいたします。これは、騎士団長のネイトビアス殿からの要請です。ほかには、ユリアと森に入ってポーションの原料となる薬草を採取して、一部は伯爵家に寄贈します。あっ。この領地の楽器製造現場を見たいと思っています。」


 ソルフィーナが少し拗ねた表情で言う。


  「それは忙しそうでございますこと。わたくしの心証を良くしておくようなことは、何かなさいませんの?」


 デイビードは意を決したように言う。


  「もちろんですよ。今言おうとしたところでした。期間中に私とダンスを踊っていただければと密かに願っております。あと、よろしければ、観劇か音楽鑑賞など、お誘いしたいと考えています。いかがでしょうか?」


 ソルフィーナが取り繕うように言う。


  「申し訳ございません。冗談を申し上げてしまいました。わたくしの心はもう決まっております。わたくしをあの状況から救い出してくださった方と一緒になることを。」


 デイビードは、一瞬戸惑って言う。


  「それでは、私は落選ですね。残念です。貴女を救い出したのはユリアですから。」


 ソルフィーナが少し悪戯が過ぎたような顔をして言う。


  「ごめんなさい。誤解させてしまいましたね。ユリア様を連れてきてくださったのはデイビード様ですよね。デイビード様も有力な候補者リストに残っておられますよ。あっ。ユリア様は年齢と性別でたった今落選されました。もう、デイビード様しか残っておられませんが、いかがでございましょうか?」


 デイビードは、安心したような顔をして言う。


  「もちろんでございます。私もそのつもりでここに来ましたので、改めて略式ではございますが、ここで決行させていただきます。」


 デイビードはそう言って席を立ち、ソルフィーナの前で片膝をつき、騎士の作法で婚約の申し込み儀式を行い、ソルフィーナの左手の薬指に指輪を着けた。


 デイビードは、立ち上がって椅子に戻り、ほっとして言う。


  「ユリアを落選させて下さり、ありがとうございました。久々にユリアに勝った気分です。このところ、ポーションの件や騎士見習いの襲撃事件などで負けが込んでいたものですから。」


 ソルフィーナは返礼をして言う。


  「わたくしも、ユリア様に負けないように前向きに生きていこうと思います。ご一緒によろしくお願いいたしますね。」




((私が伯爵家幹部との会合で攻められている隙に、デイビード父さんの方は上手くやったみたいね。でも、婚姻はまだ先で、蝗害対策を成功させた後だね。それにしても、メイドさんたちは楽しそうでした。私が付いてきただけのことで、あんな楽しみ方ができるなんて、凄腕のメイドさん達でした。))


狩人の男は縁談相手の伯爵令嬢と正式面談で早くも婚約を勝ち取りました。少女はお見合いの二人の話のタネにされましたね。メイドさんたちの縁談成就か破断かの論争も少女の存在がカギでしたね。次は何をするのでしょうか。楽しみです。それではまたお会いしましょう。


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