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57.少女は伯爵家の幹部と会合する

少女は狩人の男とは別々の行動をします。少女の方は伯爵家の幹部との会合です。

ーーー 場面はアリースソン伯爵家


 ユリアは自室に宛がわれた客室で、付けられたメイドのナリアに起こされた。ナリアは身仕度の世話をしながらユリアに話しかけた。


  「ユリア様。おはようございます。本日の午前中は、ユリア様はこの伯爵家の幹部との会合でございます。デイビード様は昨日お済みで、本日は、お待ちかねのソルフィーナお嬢様との正式顔合わせでございます。」


 ユリアは、それに答えて言う。


  「わたくしも、幹部の皆様にはお会いしたいと思っていました。でも、デイビードお父さんと既に話し合いがお済みでしたら、わたくしの話は二番煎じになるので、幹部の方のお時間を無駄に使わせるのではと懸念しています。」


 メイドのナリアが、ユリアの懸念を払うように言う。


  「ユリア様。それは気を回しすぎでございます。会合では話題の中心も少し違うでしょうし、同じ話題でも違う視点での考えを聞ければ、大いに意義があるといえるでしょう。」


 ユリアは、ナリアが普通のメイドではないことに気づき、尋ねた。


  「ナリアさんは、アリースソン伯爵家の系譜とは違う貴族家のご出身ですね。言葉の端々に気品と教養がにじみ出ています。きっと、ご令嬢の教育を受けた上、侍女のご経験もおありのように感じました。」


 ナリアは、ユリアに向かって少し驚いた顔で答えた。


  「ユリア様。ご慧眼(けいがん)、恐れ入ります。わたくしは、帝都レパルナスの帝国組織に奉仕する法衣貴族家の3女として生まれて淑女教育を受けました。そのあと、大公殿下ご息女のローザンヌ様の侍女を仰せつかり、ご婚姻とともにこちらへ付いて参りました。ユリア様がおいでになるまで、奥様の侍女をしておりました。今はユリア様にメイドとしてお仕えしております。改めてよろしくお願いします。」


 ユリアは丁寧で詳しい回答にお礼を言う。


  「ご丁寧に、ありがとうございます。大公殿下がここをご訪問される理由が分かりました。ナリアさんも久しぶりにお会いするのが楽しみでしょう?わたくしには、格別の感慨はありませんが、大公殿下の別の目的の方はご辞退申し上げます。個人的な報奨の話しがでたら、ナリアさんから大公殿下にお話しいただけるとありがたいです。」


  「わたくしは、それが言える立場ではございません。ユリア様がご自身でどうぞ。大公殿下にはユリア様が報奨を辞退されるのは予想通りでしょう。報奨の方は全快祝いのついででしょうし。」


  「なるほど。ナリアさんの冷静で理詰めの説得には納得させられました。そのように致します。」


  「申し訳ございません。ユリア様のお願いを冷たく拒否してしまいました。奥様にも時折ご注意を受けています。」


  「いいえ。今回に限っては冷たい拒否ではありません。わたくしを、より高みへと啓発するものと受け取りました。わたくしは、大公殿下と聞いて尻込みしていたようです。」


  「そのような受け取り方のお言葉をいただいたのは、生まれて初めてでございます。人によって受け取り方が違うことを知りました。でも、たぶん、わたくしのこの言い方は変わりません。」


  「それでいいと思います。ナリアさんが信念を曲げる必要は、たぶんありません。受け取る側の問題です。」


  「ユリア様。ありがとうございます。ユリア様のメイドになれて、幸運でございます。でも、受け取る側の問題と言われて、はっとしました。同じ意味でも表現に気を付けたいと思います。」


 ユリアは、メイドのナリアに伴われて食堂で朝食を取った。その後、ナリアに会議室まで案内された。



 会議室には、既にアリースソン伯爵家の主な幹部たちが集まっていた。幹部たちは、ラウンドテーブルの周りで、いくつかのグループに分かれて立ち話をしていた。ユリアが会議室に入ると、幹部たちは所定の席に着き、アリースソン伯爵がユリアを自分の席の隣に案内した。ユリアは、着席する前にメンバーを見回すと、何人か見知った人たちがいるのに気付いた。


 アリースソン伯爵が、まず先に立ったままでいるユリアを皆に紹介した。次に、ユリアを着席させて、右回りに幹部を紹介していった。幹部の中にはハンターギルドで出会った話し好きの騎士と、村で出会った穀物管理部門のネイシスもいた。


 アリースソン伯爵は、初めに、この会合の目的を明示した。


  「この会合の目的と話題を限定する。これ以外の内容はここでは原則として話さないこととする。よろしいな。まず目的は、ユリア殿の保有する能力や技術と、その内容と習得の秘訣を我々にどこまで開示あるいは教示できるかである。次に話題は、蝗害の再来予防がどのように、どこまで進んでいるかである。」


 伯爵は、会合の目的と話題を簡単に説明した後、本題に入った。


  「ユリア殿。私自身がこれまで見聞きしたユリア殿の能力を、皆に開示しても構いませんか?」


 ユリアは、端的に答えた。


  「アリースソン伯爵。全く問題ありませんので、どうぞ進めてくださいませ。」


 伯爵は、ユリアの承諾を得て、話を進める。


  「分かりました。ひとつ目は、この国のフランソワール帝国語を話せる理由です。ふたつ目は、ここまで走ってこられたという身体能力の秘密です。みっつ目は、ご持参くださった超特級グレードのポーションを作れる秘密や技術内容です。よっつ目は、ソルフィーナを襲った騎士見習いを倒した秘術についてです。いつつ目は、ひとつ目に関連しますが、音楽その他の身に付けている素養とか能力についてです。盛りだくさんで申し訳ありませんが、開示できる範囲でお願いします。」


 ユリアは、凡そ(およそ)予想通りといった表情で、答え始めた。


  「承知いたしました。皆様の面前で丸裸にされる気分ですが、できるだけ答えたいと存じます。ご質問は随時受け付けます。まず、ひとつ目、フランソワール帝国語の習得は、その言語で書かれた書物を読み、デイビードに綴りと発音のシングラーツ王国語との関係や会話時のイントネーションなどを聞いて学習しました。習得の秘訣は特にありません。ここまで、ご質問はございませんか?」


 幹部の一人が手を挙げて質問をする。


  「わたしは、文教部門の責任者エドケラスと言う者だ。書物を読むと言っても基礎となる母国語の読み書きの素養が必要だ。失礼だが、わずか6歳でなぜその素養を保有できたか疑問なのだが。」


 ユリアが答える。


  「はい。わたくしは、村にいたころ、2歳半から教会の子供教室で神父様に教会保有の書物を、子供向けから順に読ませていただいて、母国語の読み書きを習得いたしました。」


 文教部門の責任者エドケラスが食い下がる。


  「2歳半からとは、ずいぶん早い。その神父様は何という名前だ?


 ユリアが答える。


  「スピノザ神父様でございます。」


 エドケラスは、その名前に記憶があるようで、さらに言った。


  「スピノザ神父の名前は聞いたことがある。たしか、平民の子供の教育に熱心すぎて中央の教会から田舎の教会に左遷されたという噂だった。うーむ。それならあるいはあり得るかもな。一応分かった。質問は以上だ。」


 ユリアは、続けて、言った。


  「ほかにご質問がなければ、次に参ります。ふたつ目の身体能力の秘密ですが、これは、デイビードに訓練を受けて身に付けた身体強化魔法です。長距離を走り続けられるように部分強化いたしました。これについても、魔力をどのように意識して集中または分散させるかの感覚の把握が主体で、特に習得の秘訣はありません。ご質問はありますか?」


 騎士団団長が挙手をして立ち上がって質問する。


  「俺は騎士団団長のネイトビアスだ。身体強化魔法は、体幹や手足は比較的容易だが、五感は非常に難しい。ユリア殿はどこまで習得したのだ?」


 ユリアは、端的に答える。


  「はい。五感すべて習得しております。」


 ネイトビアスが食い気味に言った。


  「何と、素晴らしい。我が騎士団には、斥候能力を備えた者が1名しかおらず、部隊編成に苦労しているのだ。何名か鍛えて習得させては貰えまいか?」


 ユリアは、少し考えて答えた。


  「一応、デイビードと相談させてください。デイビードの縁談が合意に至ればお教え可能かと考えます。」


 ネイトビアスが頷いて言う。


  「うむ。期待しているぞ。」


 ユリアがつぎの能力に話しを進める。


  「ほかにご質問無ければ、みっつ目に移ります。超特級グレードのポーションを作れる秘密ですね。これについては、本質部分を明かすことが現時点では出来ません。開示の可否判断は隣国ヴィルダー辺境伯家預かりとなっています。その他の事情は開示可能です。原料となる薬草類はすべてわたくしが採取し薬草図鑑と照合したものです。調合の基本は神父様にお借りした書籍で学びました。調合器具類は最初デイビードから借り、次に自前で揃えて、最後は辺境伯家の医薬部門から借りました。ここまででご質問はございますか?」


 伯爵家の医薬部門責任者が挙手をして質問する。


  「私は医薬部門責任者のファーミルソンと言う者だ。超特級グレードのポーションは、今では皇帝陛下直属の薬師にしか作れないものだ。それも希少な薬草を何種類も必要とするから原料が揃わず(そろわず)、実質的にこの世に存在しないとさえ言われているのだ。君のポーションが本当に超特級グレードのポーションだったのか疑わしいが、如何に?」


 ユリアは、これまた端的に答える。


  「わたくしには鑑定できないので分かりません。隣国辺境伯家の医薬部門のマジョルーサ様と、当帝国の御殿医師ラルグレン様が、お二人とも超特級グレードと鑑定されました。わたくしとしてはこの鑑定結果を信じるしかありません。」


 それを聞いてファーミルソンが驚いたように言った。


  「マジョルーサ様も、ラルグレン様も当代随一の鑑定家ではないか。その方々の鑑定結果なら間違いあるまい。疑って失礼いたした。もうひとつ伺いたい。薬草はいつどこで採取したのかな?」


 ユリアは、また信じて貰えないかも知れないと思いながら答える。


  「わたくしが3歳の時から現在に至るまで、村の近くの森や草原に山菜や雑穀を取りに行く度に採取してきたものです。」


 そこでまた、ファーミルソンがかみついた。


  「そのような近くの森に超特級グレードのポーション用の薬草が生育しているなどとは聞いたことがないぞ。どういうことだ?」


 ユリアは、ここはひとまず隠しきろうとしらを切った。


  「どういうことだと仰られ(おっしゃられ)ましても、わたくしにも分かりかねます。今ここでは薬草の種類を明かすことはできませんし、生育場所をお教えすることもできません。とにかく、鑑定結果とソルフィーナお嬢様が完治されたという事実でご満足いただくしかございません。」


 ファーミルソンは、一応諦めて追及をやめた。


  「よかろう。マジョルーサ様とヴィルダー辺境伯家の良心を信じて待つことにしよう。失礼した。」


 ユリアは、一難去ってほっとしたが、もう一波乱ありそうと少しうんざりしながら、言った。


  「それでは、次に、よっつ目の騎士見習いを倒した秘術については、これまた、秘術とある通りヴィルダー辺境伯家の秘伝の技術に関係しますので、ここで詳細を開示することは控えさせていただきます。悪しからず。」


 ここで、また、騎士団団長のネイトビアスが肩透かしを食ったような顔で、質問した。


  「昨日の会合でデイビード殿は、もう少し開示したぞ。つまり、代々の秘術から派生した類似の魔法であり、ユリア殿が提唱してデイビード殿が実証した接近戦向けの秘術であるということだった。これに間違いないかな?」


 ユリアは、鎌掛けか誘導尋問の気配を感じたが、あきらめて言った。


  「はい。一応、間違いございません。ただし、どちらが先に提唱したかは、今となっては、はっきりしません。」


 ネイトビアスは、あきらめ顔で言った。


  「ヴィルダー辺境伯家のガードが固すぎてどうにもならんな。戦闘技術に関することだから、おいそれと開示できないのは分かるのだが。今後、同盟関係にでも発展して共有技術にできる日を待つしかないか。」


 ユリアが次に行こうとしたら、ハンターギルドで話しを聞いた騎士団の話し好きの騎士が挙手をして、原則外の内容であることの許可を得て発言した。


  「わたくしは、騎士団副団長のソルジエンと申します。目的の話からは外れますが、ぜひ、お聞かせください。先日ハンターギルドで当騎士団の弓矢の訓練を熱心にご覧になっておられましたが、弓矢にも特別の秘術をお持ちなのですか?」


 ユリアが、気の毒そうな顔をして言った。


  「はい。一応ございます。いわば、一発必中かつ百発百中の秘術でございます。ヴィルダー辺境伯家の騎士団の皆様は、恐らくほぼ全員がこの秘術を使えます。残念ながら秘術と銘打ってるとおり、これも、門外不出でございます。」


 ソルジエンは少し食い下がって言った。


  「その秘術を使うと、百発百中と言っても、実際どのくらいの凄腕になるのでしょう?」


 ユリアは、現在判明している事実に基づいて回答した。


  「具体的に、わたくしの実績に基づきますと、50m先の的の黒丸に10本の矢をすべて命中させました。百発百中は、わたくしに関する限り、言葉の綾で実績ではございません。また、他の射手の実績は存じません。」


 ソルジエンはこれで引き下がった。


  「ユリア殿。ありがとう存じます。」


 ユリアは、最後の目的の話に進めた。


  「それでは、目的のいつつ目、わたくしが、音楽その他の身に付けている素養とか能力についてでございます。楽器については、演奏技術の巧拙を問わなければ、今のところ、横笛とバイオリンと鍵盤楽器で、子供向けの難度の曲を初見で演奏できます。その他の素養か能力と言えば、シングラーツ王国の古典語を読解できます。あっ、あと、簡単な料理を作れます。以上でございます。何かご質問はございますか?」


 商工部門責任者のマージェリルが挙手をして発言した。


  「わたくしは、商工部門責任者のマージェリルといいます。我が領では楽器製造が主要産業のひとつとなっています。8歳から12歳までの子供が通う基礎教育のエコールでは音楽教育にも力を入れていて、楽器の普及の一助としているのです。特に優れた演奏才能を有する者には、定期的に演奏会で演奏してもらう行事がございます。よろしければ、ユリア殿も参加して演奏を披露していただければ幸いでございます。」


 ユリアは、一応前向きに参加の方向で答えた。


  「わたくしは、年齢が達しておりませんが、それでよろしければ参加させてくださいませ。よろしくお願いいたします。」


 そこで、アリースソン伯爵が、最後の話題、蝗害対策の現状について、ユリアに簡単な説明を求めた。


 それを受けてユリアは知っていることと予想をまぜて説明した。


  「放置すれば、来年も蝗の大群が来襲することを前提として、今現在有志の人々が動いています。現段階では有志の人々の中心はシングラーツ王国のヴィルダー辺境伯家とロンバルス侯爵家から選出した幹部の人々です。シングラーツ王国を国として動かすために働きかけています。ご存じのガスゴーシュ様は当フランソワール帝国の代表としてオブザーバー参加で同行されています。


 最終的に、被害の大きいフランソワール帝国を中心に、シングラーツ王国が協力して、被害自体はほとんどないオスムール帝国を説得して3国共同作戦を行う形態に持っていきます。


 作戦実行部隊は、オスムール帝国の東部乾燥地域で蝗の大発生前の幼虫の殲滅作戦を実行します。殲滅作戦の手段は、主体が火魔法使いたちの放つ火焔弾による焼却です。補助的に、焚火で加熱した空気を風魔法使いたちが地面に送る蒸し焼きです。あと、いくつかの補助手段を考えて実用化に向けて試作中です。


 なお、魔法使いたちの魔力補充のため、ヴィルダー辺境伯家では、既に上級ポーション3000本分のマナポーションを調合し瓶詰済みです。


 以上で、蝗害対策のご説明を終了いたします。ご質問があればどうぞ。」


 医薬部門責任者のファーミルソンが質問した。


  「上級ポーション3000本を製造済みとは、原料さえ入手困難なこの時期にどうやったら作れるのかご教示願いたい。」


 ユリアは、一応、正直に答えた。


  「正確には上級ポーション3000本相当の超特級マナポーション500本でございます。わたくしが、この3年あまりで取り溜めた薬草で調合いたしました。医薬部門のマジョルーサ様とわたくしで分担して調合いたしました。これ以上の詳細は差し控えさせてくださいませ。」


 ファーミルソンは、しぶしぶ引き下がった。


  「超特級マナポーションを500本という量の方こそ凄まじすぎて信じがたいが、一応、納得した。言い難いことを言わせてしまったようだ。謝罪する。すまなかった。」


 最後に、アリースソン伯爵が会合の閉めを宣言した。


  「最後までお答えくださったユリア殿にお礼を申し上げます。ありがとうございました。それでは、この会合をお開きといたします。散会願います。」




((こうしてみると、ヴィルダー辺境伯家が戦力技術的に異常に突出していることがようくわかった気がするよ。アリースソン伯爵家の幹部の人たちも、喉から手が出るほど欲しいだろうけど、秘技ばかりでごめんなさい。))


狩人の男の縁談相手のお母さまは大公殿下のご息女だったんですね。びっくりです。予想はしていましたけど。少女からは伯爵家の幹部の人たちに秘術をおしえるわけにいかないのがもどかしかったですね。それではまたお会いしましょう。


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