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55.少女は狩人の縁談相手と仲良くなる

少女は狩人の男の縁談相手の暇つぶしで楽器演奏を楽しみます。

ーーー 場面は隣国の伯爵家の食堂


 ユリアは、翌朝、少し早めに食堂に行って食卓に着いた。ソルフィーナ以外のほかの皆は、既に食堂で談笑していた。そこに、車椅子に座ってメイドに押されてソルフィーナが入って来て、昨日と同様に車いすのまま席に着いた。


  「皆様。おはようございます。少し遅くなりまして申し訳ございません。ご指導の通り、無理をせずに車椅子で参りました。」


 食卓に着いていた皆は、一様にソルフィーナへの朝の挨拶をした。その後、御殿医師ラルグレンが、今後のソルフィーナのリハビリテーション計画を皆に説明した。


  「ソルフィーナお嬢様。よい心がけでございます。今日と明日は、基本の移動は車椅子として、ご自分の足で歩く訓練を10歩くらいから始めていだたきます。そして、様子を見ながら1時間おきに少しづつ歩数を多くしたり、階段の昇降も含めていきましよう。介助はソルフィーナお嬢様付きのメイドさんと看護師のマリアンにお願いします。歩く以外のことは、日常の動作ならなにをしてもかまいません。でも、くれぐれもご無理はなさらないように。」


  「はい。ラルグレン先生。言いつけを守って回復に努めます。」


 その後、ラルグレンは、自身の予定を皆に説明した。


  「わたくしは、ソルフィーナお嬢様の回復具合が問題ないことを確認したら、早ければ3日後には帝都レパルナスに戻ります。残り短い日々ですがよろしくお願いいたします。」


 ラルグレンの話の後、ミカエル・ドゥ・アリースソン伯爵が話した。


  「ラルグレン先生。マリアン様も。ソルフィーナの症状快癒のために長い期間献身的にご尽力くださいまして、大変ありがとうございました。感謝申し上げます。」


  「いいえ。アリースソン伯爵。結局私は何もできませんでした。デイビード殿とユリア殿からもたらされた超特級グレードのポーションのおかげにほかなりません。」


  「ラルグレン先生。ご謙遜なさることはありませんよ。先生の処方がなければ、症状の進行はもっと早かったと存じております。そのおかけで、デイビード殿たちの到着が間に合ったわけですから、先生の功績でもあるのです。」


  「アリースソン伯爵。そう言っていただければ、このひと月ほどの期間を意味あるものとして誇ることができます。私は、今日午前中に治療従事報告書を書き上げて、すぐに派遣元の皇帝陛下宛に送ります。恐縮ですが、デイビード殿とユリア殿のお名前を載せてもよろしいでしょうか?」


 その要請に、デイビードは端的に答える。


  「もちろん、必要なら載せていただいても構いません。私たちの名前と為人(ひととなり)は、恐らくガスゴーシュ殿からの報告でそれなりに知られているでしょうから、ここで隠す意味はございません。」


  「ありがとうございます。これで治療従事報告書に根拠と信頼性を持たせることができます。実は、一週間ほど前に、足先から石化が進行し始めたことを緊急報告していたのです。通常、こうなると御殿医といえども手の打ちようがありませんから。」


 ここで、アリースソン伯爵が、話の打ち切りと食事の開始を宣言する。


  「さあ。皆さん。何はともあれ、ほとんど回復したのは事実でございます。お話はそれくらいにして、食事をいただきましょう。」



 朝食後に、ユリアは自室に戻って体調を整えた後、ソルフィーナの部屋を訪ねた。リハビリテーションの間の話し相手になろうと考えたようだ。


 しかし、ソルフィーナの部屋には、既に、母親のローザンヌがいて、介助のマリアンとメイドをいれたら総勢5人が詰めることになる。


  「あっ。アリースソン伯爵夫人。お邪魔でしたら、またあとで参ります。」


  「いいえ。ユリア。遠慮することはありませんよ。みんなで一緒にお話しする方が、ソルフィーナも気が紛れて辛抱できるでしょう。こちらへ、どうぞ。」


 ユリアは、ローザンヌに招き入れられて、ソルフィーナの車椅子のすぐわきに立った。(なり)が小さいので、さして邪魔にはならないようだ。ソルフィーナは、母親の皮肉交じりの言葉に少し反発して言った。


  「お母さま。わたくしはもう子供ではございませんのよ。ちゃんと辛抱ができているからこうして車椅子で我慢しているのです。ただ、ユリア様と比べると、私の方がずっと大きいのに精神年齢がちょっと届いていないのは実感していますわ。」


 ローザンヌはソルフィーナを諭すように言った。


  「ソルフィーナ。その言葉を聞いて、わたくしは、貴女がちゃんと成長していると安心しましたよ。確かに、もう子供ではいられません。貴女の縁談相手の男性が我が家にいらして、正式面会をお待ちなのですから。わたくしは、その方のおもてなしで手一杯ですからここを離れます。自分でしっかり考えてリハビリテーションに励むのですよ。」


  「お母さま。言いつけをちゃんと守ります。ご安心くださいませ。でも、なんだか、お母さまの方こそ、わたくしのことを子ども扱いする癖が抜けてなさそうですわよ。


((おおっ。母親との言葉の応酬ですね。ソルフィーナ様の本領発揮でございます。攻撃されたら、ちゃんと反撃するのを忘れないのはご立派です。))



 ユリアは、ソルフィーナとフリーに会話できる状態となって、口を開いた。


  「皆様方は、わたくしたちが先触れよりも先に、ここに走って来て押し掛けたことに驚かれたことでしょう。それは、デイビードへの縁談がガスゴーシュ様からの紹介と知って考えた結果、縁談相手の領主家か縁談相手自身に切迫した事情があるものと確信したからなのです。


 ガスゴーシュ様は、わたくしのポーションの異常な回復力をご存じです。そして、多くを語らずに僅かな示唆だけで、人を思う方向へ誘導して動かす能力をお持ちです。わたくしは、動かす方便(ほうべん)が縁談なのは、縁談相手こそがポーションを必要としていると予想しました。そして、今の蝗害で経済的に疲弊(ひへい)した時期でありながら、かつ、ご自分が旅先にあるのを押してまで、あえて縁談の紹介をされた意味を考え、ことは緊急を要するものと理解しました。」


  「まあ。そういうことでしたのね。わたくしは、ガスゴーシュ様には数回しかお会いしていません。確かに、多くを語らず、深く追求しないで話題をほかに振られる、あっさりとした性格に思えました。まさか、そのような能力をお持ちとは見抜くことができませんでしたわ。」


 ユリアは、我が意を得たりとばかりに、相槌を打つ。


  「ソルフィーナ様もそのように感じられたのですね。でも、見抜けなくても無理もありません。ガスゴーシュ様は、とんでもないタヌキ、あ、失礼、政治行政界の手練手管で凄腕のお役人様ですから。」


  「ユリア様ぁ。その表現は、言いかけた方も、言い直した方も、ご令嬢や淑女として適切ではございませんことよ。ほかの言い方、例えば、肯定的には、老練の政治家とか敏腕の政治家とかありますが、お年を考えると、せめて、敏腕の政治家といってあげたいですわね。」


  「なるほど。言われてみれば、ぴったりの表現ですね。語彙力不足が少し改善されました。ありがとう存じます。」


  「もう。ユリア様ったら。いつでも、どこでもお勉強なのですね。既に十分に賢いですのに、あくなき探究心ですこと。」


  「若干、皮肉っぽい響きがございましたが、お褒めいただきありがとうございます。わたくしは、物事の兆候や変化とか、人の動作や言葉を機敏に捉えて意味を考えぬくことで、危機回避したり幸運を手にして来ました。多分、これから先も同じようにしていくでしょう。」


  「はいはい。わたくしも、ユリア様はそういうお方だと分かっているつもりでしてよ。そのお陰で、この家とわたくしも、ちゃんと間に合うように助けていただきました。ところで、ユリア様にはもう予想範囲のことと思いますが、近く皇帝陛下から召喚状が来るでしょう。どうされますか?」


  「はい。伯爵家に御殿医師様がいる時点で、アリースソン伯爵夫人ローザンヌ様が皇帝陛下の縁戚の方であると予想しました。


 あ。いま、召喚状の発行を阻止する案を考え出しました。ちょうど御殿医師様が治療従事報告書を出されるとのこと。それに、わたくしが召喚を望んでいないと書き加えてもらいましょう。


 いま、そちらに行っても、したいことが無いからと理由を添えて。だって、わたくしは、この帝国の国民ではないし、蝗害対策では、祖国にも関係するからガスゴーシュ様に十分貢献したし、なにより、わたくしはお見かけ通りの幼児ですから働くこともできませんし、いまさら教育を受ける必要もございません。うん。完璧。」


  「そんなことを言ったら、皇帝陛下の逆鱗に触れて、あっという間に捕縛されて処刑されますよ。」


  「大丈夫です。わたくしは、そうなる前に出奔致します。この伯爵家にもご迷惑はかけません。わたくしは、どなたとも血縁関係も従属関係もありませんから。おっと。こうしてはいられません。御殿医師様の所に行って、今話した内容を書き添えてもらいます。ちょっと失礼して行ってきますね。」


 ユリアは、ぎりぎり間に合い、御殿医師ラルグレンと押し問答の末、先ほどの内容を書き添えさせた。

 

((さて、皇帝陛下が怒り狂うか、大人しく引き下がるか見物だけど、たぶん大丈夫だと思うわ。だって、姪御さんに御殿医師を派遣してくれる優しい伯父様なんだもの。それにしても、ソルフィーナ様は大公殿下のお孫さんなのね。デイビードお父さんは知っていたのかしら?))


 ソルフィーナは、この日、歩行訓練を都合3回繰り返し、それぞれ10歩、20歩、30歩だけあるいた。ソルフィーナの自己申告では、関節、筋、筋肉、骨に痛みはなく、看護師マリアンの見立てでも異常の所見はなかった。


 明日は、起床後に、足に異常や痛みが無ければさらに歩数を増やし、階段の昇降も加えることになった。



 リハビリテーション開始2日目は、歩行訓練以外の時間を、ユリアとソルフィーナは、看護師のマリアンとメイドを聴衆として、二人で楽器演奏をして過ごすことにした。ユリアは、鍵盤楽器よりも指使いが楽なバイオリンの方を好んで弾いた。ユリアは、1時間ごとに3曲を次々に初見で演奏して身に付けていった。


 二人は、時々様子を見に来た大人たちに、鍵盤楽器の伴奏付きのバイオリンソロを次々と曲を変えて聞かせていった。そうこうしているうちに、ソルフィーナのリハビリテーションは最終段階となった。ソルフィーナは、領主館の2階から1階ホールに掛かる階段をゆっくり降りて平坦床を少し歩いたのちに、1階から2階へゆっくりと昇る運動を卒なくこなした。ソルフィーナ自身も看護師のマリアンも足も含めた体全体に痛みや引きつりなどの異常がないことを確認した。


 御殿医師ラルグレンは、リハビリテーションの最終段階の様子をみて、かつ、異常がないとの申告を聞いて、リハビリテーション終了と体全体の完治を宣言した。この宣言は、ホールに集まった領主館で働く使用人たち全員に周知された。


 ソルフィーナは、1階ホールまで階段を下りて床の上を自らの足でゆっくり歩いて、父親アリースソン伯爵と母親ローザンヌの前に行き、カーテシーで礼をしてお礼を述べた。次に、御殿医師ラルグレンと看護師のマリアンの前で立ち止まり、お礼の言葉を述べた。さらに、デイビードとユリアの前で立ち止まり、同じようにお礼の言葉を述べた。



 御殿医師ラルグレンと看護師のマリアンは、アリースソン伯爵夫妻の方を向いて、予定通り明日の朝に領主館を立つ旨を説明した。


 この後の時間は、ソルフィーナの完治祝いと、御殿医師ラルグレンと看護師のマリアンの送別会のための宴会となった。



 翌日は、朝食後に、御殿医師ラルグレンと看護師のマリアンを見送った。そのすぐあと、ユリアはソルフィーナに案内されて、二人のメイドをお供に領主館の敷地内を散歩した。デイビードは、まだ正式の面会をしていないため、同行を遠慮した。


 敷地は、ヴィルダー辺境伯の居城ほどの広さはないが、各種の施設がそろっていた。規模は小さいが常備の騎士団を有しており、早朝訓練の終わり頃の訓練風景を見ることができた。ソルフィーナは、まだ長い距離を歩くことを控えていたので、ここまでで反転して領主館に引き返すことにした。


 その時、騎士見習いの装束をした14歳前後の少年が後ろから声を掛けてきた。


  「ああっ。お、お前は、確か、もう助からない病で臥せって(ふせって)いると聞いたぞ。どうしてこんなところを出歩いているんだ?さては、既にあの世に行って、幽霊になって化けて出てきたのか?そこに直れ。退治してやる。」


 少年は、訓練用の模擬剣ではなく真剣を上段に構えて迫ってきた。ユリアは、ソルフィーナの前に出て立ちふさがり、収納魔法から愛用の槍を取り出して構え、呆れ顔で少年と対峙した。ユリアは、周囲の騎士団員に聞こえるように大声で少年に言った。


  「面白いことを言う子供だこと。どこでそんなことを知ったのかしら?もしかして、あなたにとってこの人が生きていてはまずいのかしら?ほらほら、子供はそんな危ないものを振りかざしたらダメでしょう。早く下ろしなさい。さもないと、あなたはここでぶっ倒れて恥をかくわよ。」


 少年は、自分よりはるかに小さい幼児に上から目線で叱るような口調で買い言葉を言われて、逆上して真っ赤な顔で言った。


  「よちよち歩きの幼児が何をほざいている。そこをどかないと、お前から先にぶった切ってやるぞ。」


  「しょうがないわね。この少年は完全に洗脳されていて正常な判断ができないわ。あの騎士様たちに不敬罪で捕らえてもらいましょう。」


  「もう我慢ならねえ。行くぞ。覚悟しろ。」


 そういった途端に、少年は動きが止まって剣を振り上げたそのままの体形で固まり、すぐに石像のように硬直したまた倒れた。そこに、ほかの騎士たちが駆けつけたが、状況が理解できずにしばらく固まっていた。すぐにソルフィーナが事の次第と重大な疑いについての証言をした。


  「わたくしは、アリースソン伯爵の長女ソルフィーナです。その少年は、わたくしが生きていることが自分にとって都合が悪いようで、その真剣を振りかざして殺害しようとしました。不敬罪と殺人未遂と重大な反逆の疑いで捕縛して、しかるべき幹部に尋問させて背後関係を調べるように。」


 騎士たちは、ソルフィーナの前に騎士の礼で片膝をつき、証言を聞いてすぐに少年を捕縛して詰め所に連れて行った。


 ユリアは、槍を収納魔法にしまって、緊張を解いて言った。


  「ふうーっ。あの筆頭執事が白状しなくても、呪詛の依頼者が判明しそうですね。あの少年は、自分がこの領地の領主になると親に吹き込まれて、妄想のとりこにでもなっていたようですね。」


 ソルフィーナは、先ほど見たユリアの一連の動作を思い出して言った。


  「ユリア様。凛々しく助けていただきありがとう存じます。貴女は収納魔法持ちでいらしたのね。槍がいきなり出てきたときはびっくり致しました。そのあとで相手と対峙した時のあの口上は、度胸がありすぎてこちらが冷や冷やさせられましたわ。そして最後に、何やら魔法の技を繰り出して相手を気絶させるなんて、そこらあたりの騎士でも貴女には敵いませんわよ。」


  「ソルフィーナ様。これくらいはできて当然でございます。なにしろ、わたくしは、デイビード様の一番弟子で、デイビード様の次くらいに強いのですから。」




((これで、このアリースソン伯爵家の緊急を要した用事がすべて片付きそうね。デイビードお父さんの縁談は、この後ゆっくり進めればいいでしょう。うまく纏まれば、デイビードお父さんは皇帝陛下の姪御様の旦那様になるの?それにしても、皇帝陛下には召喚お断りの言葉がどう受け取られるかしら。))


少女はアリースソン伯爵家の問題をすべて解決できそうです。筆頭執事への依頼者は意外に身近な人物かもしれませんね。最後の捕り物で少女は強くてかっこいいところを見せました。残りの滞在期間には何をするんでしょうか。楽しみですね。それではまたお会いしましょう。


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