表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
54/59

54.少女は狩人の男の縁談相手と対面する

少女は狩人の男の縁談相手に対する第2回のポーション投与に臨みます。投与間隔時間待ちの間に楽器演奏を楽しみます。

ーーー 場面は隣国の伯爵家、時は隣国のアリースソン伯爵家での2日目


 ユリアとデイビードの二人は、朝食時と同じメンバーで昼食の食卓を囲んだ。ソルフィーナは、午前中の時間つぶしの楽器演奏の話で盛り上がっている。


  「お父様。お母さま。わたくし、鍵盤楽器がちゃんと弾けましたのよ。昨日まで、ほとんど動かすこともできなかったのが嘘みたいに、腕や指が覚えている旋律をなぞるように動いたのです。わたくし、感激して嬉し涙が出てしまいましたわ。」


 それを聞いて、母親のローザンヌ夫人が涙ぐみながら言った。


  「本当によかったわね。わたくしも、貴女のはじけるような笑顔がまた見られて、こんな嬉しいことはないわ。あともう少しの辛抱ですよ。ソルフィーナ。」


 ソルフィーナは、お得意の皮肉を隠してみんなに言う。


  「ありがとうございます。お母さま。皆様。わたくし、ユリア様が言われた辛抱の時間が、その時できることに集中することで、あっという間に過ぎてしまうのを実感いたしましたわ。先ほどのユリア様との楽器演奏の練習が、まさにそれだったのです。


 わたくしは鍵盤楽器でユリア様のバイオリンソロの伴奏をさせていただきましたの。ユリア様ったら、バイオリンに触れるのさえ初めてと仰ったのに、基本通りに調律から初めて音程と指の位置を確認なさったのよ。それを終えたと思ったら、いきなり暗譜で2曲と楽譜初見で3曲も完璧な演奏を聞かされました。


 3曲の方は全部わたくしの知っている曲で、ユリア様が鍵盤楽器の伴奏付きの楽譜を選んでくださったの。おかげさまで、わたくしも、伴奏でたっぷりと手指を動かして勘を取り戻す訓練になりましたわ。」


 そこに、御殿医師のラルグレンが割り込み、そろそろ時間であると告げた。


  「ソルフィーナお嬢様。興が乗ったおしゃべりで、またも、辛抱の時間があっという間に過ぎたようでございます。しばらくの間、お部屋でおくつろぎください。私たちも、ポーションの準備を整えてすぐに参ります。」



 それを契機に、食堂を引き上げて、皆、自室で2回目のポーション投与の時間を待った。看護師のマリアンに依頼されたメイドのひとりが、皆の部屋にこれからポーション投与を行う旨を告げて回った。


 皆は、ソルフィーナの自室に集まった。御殿医師ラルグレンが皆の面前で、本来のポーション瓶から三分の一の量を投与用の浄化済み瓶に移し替える作業をして見せた。ラルグレンは、投与前に説明を行った。


  「これから、第2回目のポーション投与を行います。これは、私も鑑定しましたが、超特級グレードの万能毒消しポーションに間違いございません。ユリア殿。原料と来歴の開示は可能ですか?」


  「はい。具体名は控えさせていただきますが、原料は、キノコ類と菌類とカビ類です。いずれもわたくしが採取して、デイビードと辺境伯家の医薬部門責任者がその目で確認したものでございます。調合は、その医薬部門責任者の監督の下でわたくしが行いました。昨日の回復ポーションも同様でございます。したがいまして、医師様が投与される限り、医薬品を使用する上での国際法上の問題はございません。医師様。これでよろしいでしょうか?」


  「はい。大変結構でございます。それでは、ソルフィーナお嬢様。少し臭気が強く味も微妙かと存じますので、一気にごくごくと飲まれるのがよろしいでしょう。どうぞ、服用なさってください。」


 ソルフィーナは、ラルグレン医師のいうとおり、一気飲みで本来量の三分の一を飲み切った。ソルフィーナは、顔や口をゆがめて言った。


  「うぇっ。喉への刺激はないですが、口の中にいやな臭気が残ります。食べたことはないですが、たぶん、腐ったものを食べたらこうなるんでしょうね。このままで我慢するのでございますか?」


 その言葉を受けて、看護師のマリアンが清浄水入りのカップを差し出した。


  「いいえ。この清浄水でいやな臭気ごと飲み込んでいただけますでしょうか。どうぞ。」


 ソルフィーナは、カップを受け取ると、清浄水を口に含んで可愛くくちゅくちゅと濯ぐような仕草をした後で飲み込んだ。その後、少ししてから体内で起こっている感覚的な変化を口にした。


  「何だか、体の腹部から上の方が少し暖かくなって、各所に張り付いたり、入り込んだりしていたものが、剥がれ落ちたり、解けてなくなったりするような、変な感覚がします。これが、即効部分の薬効というものなのでしょうか?」


 これには、御殿医師ラルグレンも、少し困惑気味に答える。


  「ソルフィーナお嬢様。申し訳ございません。わたくしにも、体内変化の感覚的表現についての知見がございません。わたくしが、超特級の万能毒消しポーションを処方したのは、お嬢様が初めてなのでございます。」


 そう言っているうちに、ソルフィーナが、両目を開け閉め瞬き(まばたき)始めながら、言った。


  「あっ。今、目の部分で何か変化が起きていますわ。目を開けるとまぶしい光が見えて、その中に人の輪郭が見えてきました。徐々にはっきりと見えるようになってきています。もう、瞳も光に慣れたようで眩しく(まぶしく)なくなりました。こっ、これは、お母さまのお顔ですね。いま涙で歪んでいますが、涙を拭きとったら、はっきりと見えてきました。お母さま。」


  「そうですよ。ソルフィーナ。わたくしです。目を開いた顔をよく見せてくれないかしら。わたくしも、涙でよく見えないのです。」


 御殿医師ラルグレンは、ソルフィーナの言葉を聞いて、安堵したような顔で言った。


  「もう大丈夫でしょう。薬効は正しく進行中です。ただし、急に明るい所へ出ないように、徐々に瞳を明るさに慣らすようにしてください。近くと遠くをゆっくり交互に見て、焦点合わせの練習もお願いします。」


 今度は、アリースソン伯爵がソルフィーナを見ながら言った。


  「よかったな。ソルフィーナ。よく頑張った。ここまでくれば、あとは、足の治癒だけとなったな。」


 御殿医師ラルグレンが引き継いで言った。


  「そうでございますね。この万能毒消しポーションでも、足の石化には効果が及ばないのか、時間がかかるのか、分かりませんが、まだ後に、マナポーションが残っています。マナポーションには、魔力回復の効能のほかに、体内の異物の魔力を攻撃して無効化する効能があります。呪詛(じゅそ)に対しても有効です。術者の魔力がどれほどのものであっても、超特級グレードなら問題なく打ち負かすでしょう。」


 ソルフィーナがそれを聞いて、確信を持ったような口調で言った。


  「わたくしは、ユリア様を信じます。ユリア様が、自ら採取された原料で自ら調合された超特級グレードのマナポーションに勝てる術者など、この世にいるはずがございません。ああ。明日が楽しみで待ちきれませんわ。」


 ユリアが、少し皮肉を加えてソルフィーナを窘めた。


  「ソルフィーナお嬢様。わたくしを信頼いただけてありがとう存じます。でも、明日の午後まではご辛抱いただきます。目がお見えになるソルフィーナお嬢様は、それこそ、音楽でも、刺繍でも、読書でも、今や無敵でございましょう。ですが、目を慣らす意味では、急な酷使はお控えになるのがよろしいでしょう。」


 ソルフィーナも負けじと応酬する。


  「そうですね。それでは、今日これから、ユリア様とサロンでお茶会のおしゃべりをして過ごしましょう。そして、明日の午前中は、また音楽の暗譜演奏をしたいですわ。今度は、わたくしが暗譜でのバイオリンソロで、ユリア様が楽譜を見ながらでの鍵盤楽器の伴奏というのは、いかがかしら?」


 ユリアは、半分諦めて、ソルフィーナの提案に素直に応じた。


  「それは、とても素敵なご提案でございます。わたくしの望むところを完全に見透かした上でのご提案を断る理由などございません。よろしくお願いいたします。」



 ユリアは、まだ車椅子が必要なソルフィーナとともに、サロンに入って行った。メイド達が、二人のためにお茶やお菓子を準備していた。ユリアは、ソファに座って、ソルフィーナの顔を見て言った。


  「ソルフィーナお嬢様。わたくしの顔や姿形がはっきりと見えていますか?想像と現実のギャップに困惑されたでしょう?わたくしが幼児に見えているならば正常でございます。」


  「ユリア様。わたくしを呼ぶのにお嬢様は不要でしてよ。それに、ユリア様が幼いお姿なのは存じておりましたので、困惑はございません。。ところで、お茶会はこれで何回目ですの?」


  「これで2回目でございます。前回は、辺境伯家で、音楽教室のお子様二人にご招待いただきました。」


  「そのお一人がアンジェリカ様ね?そのお茶会では、どんなお話しとか、余興とかをしたのかしら?」


  「最初に、お茶会のお菓子を領主家の倹約の対象から外すよう、わたくしが幹部の人にお願いしたことに対してお礼を言われました。」


  「なるほど。お茶会は令嬢方にとって必須の教育の場ですからね。この領地も蝗害で穀倉地帯に壊滅的な被害を受けました。このお茶会は、その状況では不謹慎なものかもしれないですわね。」


  「いいえ。これはソルフィーナ様に関する限り必須のお茶会でございます。毒消しポーションは、即効性の作用の後も作用が1日続き、体力を奪い続けます。特に、服用後の数時間は水分補給と栄養補給が必要です。」


  「そう言ってくださるのは、有難いですわ。それでは、遠慮なくお茶をいただきましょう。そうそう。お茶会の余興では、聞き茶が流行っているとか。ユリア様。今入れたお茶について、貴女の感想をお聞きしたいですわ。」


  「ソルフィーナ様。聞き茶は、お茶会では必須の教養なのですね。分かりました。試してみましょう。はい。香りは芳醇で深みがあります。これは紅茶でございますね。でもほのかな香り付けに柑橘系の特徴がありました。一口いただいた感じは爽やかで、鼻にかかるような香味とわずかな酸味のあと、すっきりした渋味の余韻か残りました。これは、カウントシルバーでございますね。」


  「えっ。ユリア様の風味と味わいの表現力には感服いたしましてよ。銘柄まで当てられては完敗と言わざるを得ませんね。」


  「ソルフィーナ様。この場の聞き茶は、勝負などではなく、ただの余興にございます。それに、わたくしが知っているお茶の銘柄名は、これしかございませんの。」


  「そうだったのですね。カウントシルバーは最近の流行り(はやり)なのでしょうね。わたくしもこの銘柄がお気に入りですのよ。」


  「わたくしも、お気に入りの銘柄を自分で淹れられるようになりたいと存じます。あと、お茶以外の話題では、ドレスを褒めるときの褒め言葉の使い方で盛り上がりました。」


  「そう。ドレスの話題は必須なんですよね。ユリア様は、私が幼い頃のドレスをお召ですが、可愛くてよく似合っておられますよ。」


  「ありがとう存じます。ちょっと裾が上がって足首の上まで素足を晒す(さらす)装いは、メイドのナリアさんの見立てで、子供をかわいらしく見せる秘訣だそうですよ。」


  「わたくしも、早く子供が欲しいですわ。今の領地の厳しい経営状況では贅沢はできませんから、生地や装飾ではなく、かわいく見せるポイントと見せ方を工夫して子供を引き立たせたいと思っています。」


  「ソルフィーナ様。それは、とても懸命なお心がけでございますね。数日後には、ソルフィーナ様とデイビードお父さんとの正式の対面式が開かれるはずです。そこで、お互いに心を開いてよく話し合われるとよいでしょう。」


  「ユリア様。子供が欲しい話から少し飛躍しましたが、そのつもりでいます。上から目線のアドバイスをありがとう存じます。もう、そろそろ夕食のお時間ですね。お茶会はここでお開きといたしましょう。」


 ユリアは、この後、自室でしばらく体調を整えて、昨晩の晩餐会と同じメンバーの夕食の席についた。夕食の場は、ソルフィーナが目が見えるようになった分、賑やか(にぎやか)弾んだ(はずんだ)話題で盛り上がった。


 夕食の席は、昨晩と同じように、御殿医師ラルグレンが、明日の第3回ポーション投与の予定を話して解散となった。



 翌朝も、ユリアはメイドのナリアに起こされた。今日のドレスは、昨日のものと変わって、やや裾が長くなって大人の裾丈に近い、落ち着いた色のドレスを宛がわれた。


 ユリアは、朝食後に、予定通りに音楽室でソルフィーナと一緒に楽器を演奏することになった。今日は、ユリアが鍵盤楽器の伴奏で、ソルフィーナがバイオリンソロを演奏する。


 ユリアは、手が小さい分、目いっぱい指を開いて鍵盤の位置と感触を確認して準備を整えた。ソルフィーナは、ややブランクがあったとはいえ、すぐに感覚を取り戻していった。


 ユリアは、楽譜の初見で鍵盤楽器の伴奏を弾き、ソルフィーナは暗譜でバイオリンソロを弾いて、心行くまで演奏を楽しんだ。そうして、ソルフィーナの午前中の辛抱の時間はあっという間に過ぎた。



 昼食の後、しばらくして、前日と同じ関係者全員がソルフィーナの部屋に集まった。


 御殿医師ラルグレンが、昨日の毒消しポーション投与のときと同様の確認儀式を行って、ソルフィーナに超特級グレードのマナポーションの服用瓶を手渡した。これは、特に飲みにくい匂いや味ではないらしい。


 ソルフィーナは、昨日と同じ要領でマナポーションを一気飲みした。臭気や味については拍子抜けのような表情で、特に味などの感想はなかった。それでも、看護師のマリアンは清浄水を差し出してソルフィーナに飲ませた。


 皆は、ソルフィーナの足首から先を注視して変化を見逃すまいと、固唾をのんで身構えた。


 ソルフィーナは、清浄水を飲んで10秒くらいして、体の中の変化について言葉で話し始めた。


  「何だか、足先がムズムズするような感触がでてきたわ。皮膚の下で膜を張っていたものが解けていって、固まっていた筋肉組織がほぐれていく感じ。血液も通って皮膚の触覚も戻ってきたような気がする。皮膚の灰色も徐々に薄れて、肌色に変わっていってるわ。あっ。足首が動かせる。足指も動かせるわ。」


 見守っていた皆も、マナポーションの薬効の即効部分が、魔法か呪詛かを攻撃して解かし無効化ていく様子を見て驚きの喚声を上げ始めた。御殿医師ラルグレンが、10分くらい様子を見た後で、足で立ち上がってみるように言った。


  「ソルフィーナお嬢様。ローザンヌ夫人とマリアンに支えてもらいますから、ゆっくりと立ち上がってみてください。」


 ソルフィーナは、ベッドサイドに腰かけた状態から、足を床に付けてゆっくりと立ち上がった。ソルフィーナの両脇でローザンヌ夫人とマリアンが軽く手をもって支えているが、ほとんど自分の力で立っていた。


 御殿医師ラルグレンが、ソルフィーナに確認する。


  「ソルフィーナお嬢様。足の裏とか甲とか足首など、体重を掛けて痛む部分はありませんか?」


  「いいえ。痛みはありません。ほら、このように背伸びもできますわ。」


  「はい。わかりました。石化の原因は完全に取り除かれたとみて良いでしょう。しかし、今は、まだ無理な力は入れないようにして、明日の朝まで足を休ませてあげてください。その後は、ゆっくり歩く練習などをしてリハビリテーションをしましょう。無理は禁物ですからね。」


 ソルフィーナは、素直に頷いて言った。


  「分かりました。今日は大事を取って、まだ車椅子で移動することにします。ラルグレン先生、皆様。ここまで看病していただき、感謝申し上げます。おかげさまで、明日には全快した姿をお見せできそうです。」


 アリースソン伯爵とローザンヌ夫人は、娘の元気いっぱいの言葉を聞いて、絶望の状態から見事に復活してくれたことを実感し、涙をこらえきれなかった。




((これで私たちも走って駆け付けた甲斐があったということね。超特級グレードのポーション3段構えの威力は素晴らしいわ。投与間隔の待ち時間で楽器演奏も楽しめたしね。ところで、あの筆頭執事様には呪詛返しがあったのかな。))


少女の作った超特級グレードのポーションは見事に薬効を発揮しました。今後狩人の男は縁談相手と正式にお話し合いをするのでしょうか。ユリアは暇になりそうですが1月もの間何をするのでしょう?楽しみですね。それではまたお会いしましょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ