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52.少女は隣国の伯爵家の問題を知る

少女は狩人の男の縁談先の問題に深く立ち入ります。

ーーー 場面は隣国の伯爵家領主館


 アリースソン伯爵は、ユリアの状況証拠の説明に目を白黒させて、ガスタールに確認する。


  「ガスタール。君が、デイビード殿の突然の訪問目的を、敢えて(あえて)確認したのはなぜなのかな?」


 ガスタールが、冷静を装って答える。


  「わたくしには執事としての責任がありますので、当然の職務を果たしたまででございます。」


 伯爵は、さらに確認しようとする。そこに、ユリアが割り込み、伯爵に質す。


  「伯爵閣下。お話しに割り込みまして申し訳ございませんが、閣下にもなぜか切迫感があまり感じられません。わたくしは、この場でこれ以上余計な時間を使いたくありません。わたくしの予感が外れていないのなら、今すぐデイビードの縁談相手様に合わせていただけないでしょうか?それが出来ない理由でもおありですか?」


 伯爵は、観念したように肩を落として言った。


  「ユリア殿。貴女は鋭すぎる感性をお持ちだ。私はもう半分諦め(あきらめ)ている。君たちが来るのは遅すぎたのだ。御殿医の医師も今日の昼前に(さじ)を投げてしまった。娘の病はこれ以上やっても治癒不可能だと診断された。最高の医師がそう言ったのだよ。」


  「伯爵閣下。申し訳ございません。言いにくいことを言わせてしまいました。でも、それならなおさら、今からすぐにお嬢様の所に参りましょう。息がある限り遅すぎたということはありません。筆頭執事様も同行していただきます。有無は言わせませんよ。不審者に対して執事としての責任があるのでしょう?」


 伯爵が、一縷(いちる)の望みを見出したかのように返事した。


  「ユリア殿。貴女が言うと、その通りだと思わされてしまう。不思議なお嬢様だ。わかりました。今からご案内しましょう。付いてきて下さい。」


  「ありがとう存じます。」


 ユリア達は、伯爵について行き、縁談相手の伯爵令嬢ソルフィーナの部屋に入った。部屋には、医師の男性ラルグレンと看護師の女性マリアンが、ベッドの(そば)に立っていて、伯爵に会釈した。


 伯爵令嬢は、ベッドに横たわっていたが、意識はしっかりしているようだ。ユリアは、伯爵と医師に断って、伯爵令嬢に近寄り、診察らしき動作をしながら言った。


  「お嬢様、失礼致します。ユリアと申します。ちょっとお体を確認させて下さいませ。うん。お体は少し痩せ(やせ)すぎで顔色が青白いですね。あまりお食事を取られていなかったでしょう。目が見えなくなったのは数日前ですね。だけど、それ以前に足先の異変には気付かれましたね。、灰色の変色域が広がるのを見るのはさぞお辛かったことでしょう。でも、もう大丈夫ですよ。3日で完治するでしょう。」


 「えっ。いまなんとおっしゃいましたの?本当に3日で完治するのですか?貴女は一体どなたなの?これまでさまざまな治療を受けてきましたのに、どれも快方(かいほう)に向かうことがなかったのですよ。」


 御殿医の医師も、唾を飛ばさんばかりの勢いで言った。


  「本当に君は誰なんだね。なぜここにいて医師まがいの言動をしている?お嬢様には、この国最高の医師たる私が最善の手を尽くしてきたのだ。それだけにこの結果は残念でならない。そこに幼児の姿をしてぽんと現れた君が、この結果を否定するだけの手段か何かを持ってきたとでも言うのかね?」


 その言葉に力を得たガスタールが、ここぞと声を張り上げて言った。


  「まったくその通りだ。ここは、君のような子供がいていい場所ではない。早く出て行きなさい。」


 それに対して、ユリアは落ち着いて言う。


  「それでは、いままで頂いた疑問のお言葉に回答致します。まずは、お嬢様に。わたくしは、あなた様のご縁談相手、隣国辺境伯家のデイビード様の一番弟子で仮の娘のユリアと申します。次に、医師様に。わたくしは、あなた様が言われた手段を持ってきました。後であなた様には、お手伝い頂きます。最後に筆頭執事様に。わたくしがこの場にいることに関して、伯爵閣下から既に事実上のご承認を得ています。あなた様が言われたことは完全に越権行為ですよ。」


 ユリアの言葉を聞いて、ガスタールは興奮モードに陥って言った。


  「平民風情の子供が何を勘違いしている。伯爵閣下がお前などご承認されるわけがないだろう。お嬢様に触れたりして、これ以上悪化させるつもりか?そんなことは許さんぞ。」


 伯爵は、ガスタールを窘める(たしなめる)ように言った。


  「ガスタール。止めたまえ。ユリア殿の言う通り、私はユリア殿に暗黙の承認を与えたのだ。そして今、ユリア殿に期待さえしている。ユリア殿は、自由にしてもらってこそ本領発揮出来る人物だと理解した。ユリア殿、進めて頂けますかな。」


 伯爵の言葉に、ユリアが頷いて、やるべきことを先に進める。


  「伯爵閣下。ありがとう存じます。それでは早速始めます。医師様には、医師の資格を持たないわたくしの代わりに医療行為を実施していただきます。と言っても、わたくしがお持ちしたこのポーションを鑑定して納得されたならば、適量を処方していただくだけです。まず、1日目は体力と体調を整える回復ポーション投与です。2日目は物理的毒素を変性して代謝させる毒消しポーション投与です。3日目が魔力や呪詛(じゅそ)を解かすマナポーション投与です。医師様。いかがですか?」


 ラルグレン医師は、ユリアから3本のポーションを受け取って鑑定を始めた。


  「ほう。これがご自慢のポーションですか。見た目では、ただの上級回復ポーションですな。鑑定しましょう。どれどれ。・・・なっ。こっ、これは特級の上、超特級グレードだ。私も実際手に取るのは初めてだ。このグレードは伝説のエリクサーに迫る効能を発揮するのだ。いまこの国でこのグレードを作れるのは、皇帝陛下直属の国家薬師様だけですぞ。なぜ君がこれを持っている?」


 ユリアは、その問いに端的に答えた。


  「わたくしが、自ら作ったので、わたくしか持っているのはあたりまえではないですか。医師様。そんな惚けた(とぼけた)ことを言ってないでほかのポーションも鑑定してください。」


 医師は、呆けた顔をキリッと戻して鑑定に集中した。


  「わ、私は夢を見ているような気分だ。これらの2本も超特級グレードだった。信じられないが、これは現実と受け入れるしかない。だが、これなら、君が言うように完治の希望が出てきたぞ。」


 医師の言葉を聞いて、伯爵は歓喜に震えて顔が歪みそうになるのを必死に抑えていた。一方、筆頭執事のガスタールは完治されては困るとでもいうような忌々しげな表情をした。


 それらを脇目に見て、ユリアがせき立てるように医師に言った。


  「はいはい。医師様が見ておられるのは現実そのものですよ。おわかり頂けたなら、すぐに処方のご検討をお願いします。さっきわたくしが言った投与順序が問題無ければ、次は、投与量の見積もりと、最初の投与実施ですよ。」


 医師は、ユリアの言葉に、興奮モードから真剣モードに変わって言った。


  「そうだったな。投与順序はさっきので問題ない。投与量は、ご令嬢の体重と吸収能力を考慮すると、このポーション瓶の三分の一の量を1日1回服用してもらうのが適量だ。不純物が入らないよう、別の清浄瓶に取り分けて服用してもらう。マリアン君。準備してくれ。」


 医師ラルグレンは、看護師のマリアンと協力して、回復ポーションだけを別の清浄瓶に取り分けた。二人は、横になっていたソルフィーナをベッド上に起こして、支えながらポーションを服用させた。


 しばらく、状態が急変しないか全員で固唾(かたず)をのんで見守った。すると、ソルフィーナの顔が、青白い生気のない顔色から、じわじわと白っぽい肌色の血色の良い顔色に変化していった。ソルフィーナは、自分の体の変化を感じ取って言葉を発した。


  「なんだか、頭がすっきりして、体や手足も、痛さや怠さが抜けていくような不思議な感覚がしますわ。いままで飲んだお薬では、こんな感覚はありませんでしたのに。」


 すると、医師のラルグレンが確認するように言った。


  「ソルフィーナお嬢様。お手を曲げたり伸ばしたり、上下に上げ下げなさって見てください。」


 ソルフィーナは、医師に言われた通りに手を動かして見せた。それを見た医師は頷いて満足げな表情を浮かべた。


 父親のミカエルは、感極まってソルフィーナのそばでベッド脇に屈み(しゃがみ)込んで言った。


  「おお。ソルフィーナ。手がちゃんと動かせるまでに回復したではないか。まるで奇跡のようだ。神に感謝を。」


 感激している伯爵を前にして、ユリアが横に立っている医師に確認した。


  「伯爵閣下。感激されるのはまだ2日早いですよ。医師様。今回の処方量と効果の程は見立て通りですか?明日は、予定通り毒消しポーションの投与が出来そうですか?」


 ラルグレン医師がユリアに答えて言う。


  「もちろんだ。私の見立てに間違いはない。お嬢様にちょうど適量の処方で効果も予想通りであった。明日は、毒消しポーションの処方だが、昼食後に今日と同じ分量を服用していただこう。」


 ユリアは、その答えに満足して、ご令嬢様の病気の核心部分である、両足の灰色に変色した石化部分の原因を医師に聞いた。


  「医師様。あの両足の灰色部分は石化したものですよね。毒物による影響か呪詛か魔法の影響か、医師様の見立てをお聞かせいただけないでしょうか?」


  「すまないが、このような症例は私も見たことがなくて、結局原因は掴めなかったのだ。君の毒消しポーションで効き目があるか、私には予測するだけの技術がない。」


 ユリアは、医師が予想通りの回答で伏線を作ってくれた後を受け、足の石化の人為的原因を作った犯人を揺さぶってあぶり出しを図る。


  「医師様。ご心配には及びません。私がお渡しした残りの2本のうち1本は、万能毒消しポーションですから、あらゆる毒を無毒化します。ほかの1本も超特級グレードのマナポーションですから、大抵の術者の魔力や呪詛力に打ち勝ってそれを剥ぎ取り、それをかけた術者や依頼者にノシを付けて呪詛返しすることができるでしょう。」


 筆頭執事のガスタールは、ユリアが言った、特にマナポーションの話を聞いて、自分に呪詛返しが来るかもしれないとガタガタと震えだした。そして、懇願するような声で言った。


  「嘘だ。そんなぁ、呪詛返しだなんてやめてくれぇー。私は頼まれただけなんだ。呪詛返しは依頼者に持っていってくれー。」


((あらあら。あぶり出しが成功しちゃったね。証拠を家探し(やさがし)するまでもなく、状況証拠と揺さぶりだけで自白に追い込んじゃった。今日処方した超特級回復ポーションの異常な効き目の威力を見せたおかげかな。))


 そばで、筆頭執事ガスタールの変調ぶりを見ていた伯爵は、ガスタールに問いただすとともに部屋の外で待機していた護衛騎士に命じてガスタールを捕縛させた。


  「ガスタール。お前は、信頼していた私と我が家をずっと裏切り続けてきたのだな?依頼者とは誰だ?。他にも仲間がいるのか?観念して白状しろ。横領や利益誘導などの証拠も見つけてやるぞ。軽い罰で済むと思うなよ。護衛騎士たち、ガスタールを地下牢に厳重に閉じ込めておけ。呪詛封じと魔法封じの手かせ足かせを忘れるな。こいつは既に重犯罪を自白した。そのほかの罪もいずれ白日の下に晒し(さらし)て返済させてやる。」


 デイビードは、伯爵の迅速な処置を見て感心するとともに、伯爵の無念な心情を思い、今後への期待に思いを馳せる(はせる)方向付けの発言をした。


  「伯爵閣下。お見事なご采配(さいはい)でございました。大きな獅子身中(しししんちゅう)の虫を駆除されました。お嬢様の症状も、御殿医師様が明日と明後日に行う処方で完治するでしょう。これで、わたくしとユリアも、はるばる隣国から走って駆けつけた甲斐がありました。ただ、ユリアは、興が乗ると見境なく突っ走る傾向がありまして、皆様には、無礼で不愉快な思いをさせてしまいました。ユリアに代わってお詫び申し上げます。」


 それを聞いて、伯爵が礼を述べる。


  「お詫びなどとんでもございません。わたくしの方から、ユリア殿に期待して自由にしてほしいとお願いしたのですから、突っ走られるのも当然です。お二人は、ガスゴーシュ殿からの手紙にあった通り、とても賢くて強くて、しかも強力なポーションをお持ちでした。当方からの縁談申し込みはガスゴーシュ殿のご推薦で差し上げたものなのです。」


 デイビードは、予想した通りと納得顔で言った。


  「そのような事情であることは予想できました。ガスゴーシュ殿は、我々と出会った際に、ユリアのポーションの異常ともいえる治癒効果を目の当たりにされています。」


 伯爵は答える。


  「お二人には、鋭い勘で当家の事情を見抜かれていたようですね。実は、娘の体の変調はまだ少女といえる時期から少しづつ進行していました。そのころから、医者にも原因がわからず、処方のしようがなかったのです。


 ところが、縁談申し込みを出したあたりから、その変調の進行が急に早まったのです。私も、近くにこの縁談が成立すると困る輩がいると疑いを持ちました。その輩が人為的に娘の変調を加速させたのではないかと。しかし、証拠をつかむことができず、今日まで来たわけなのです。それに対して、ユリア殿は、些細な状況証拠だけで、最後まで突っ走ってくださいました。感謝の言葉もございません。」


 ユリアが、気の抜けた声で訴える。


  「デイビードお父さん。おなかがすきませんか?ちょうど夕食時のようですから、伯爵閣下に改めてお呼ばれしましょうよ。」


 伯爵が慌てて、相好を崩した歓迎顔になって、デイビードとユリアを夕食に招待する。


  「これは、失礼いたしました。デイビード様、ユリア様。ようこそおいで下さいました。ささやかですが、当家の晩餐会にご招待いたしたく、よろしくお願いいたします。」




((夕飯お呼ばれを催促しちゃったよ。ま、伯爵閣下も、お嬢様が快方に向かうお祝いで快く受けてくださったね。蝗害での飢餓地域へ食糧配給をするなど、とても真面目な領主様だね。将来、デイビードお父さんもそうなるのかな?))


少女は狩人の男の縁談相手のご令嬢の症状進行を止めて快方に向かう処方を医師に託しました。そのような症状を進行させていた筆頭執事の悪事を些細な状況証拠と心理的な揺さぶりで暴き伯爵に感謝されましたね。今後何をするのでしょうか。楽しみですね。それではまたお会いしましょう。


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