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49.少女は楽器演奏会で滞在の最後を飾る

少女は演奏会で横笛を演奏します。そのまえにお偉い方々で少女の扱い方が話し合われます。

ーーー 場面は辺境伯の私室


 辺境伯ヴィルムードは、私室にダルビード、デイビード、エドアルド、メイヤール、マジョルーサを呼んで、ユリアの今後のことを話し合った。


 ヴィルムードが言う。


  「みんな、よく集まってくれた。いまから、今後、ユリアをどう扱うかについて話し合いたい。忌憚なく各自の考えを話してもらいたい。まず、最初にユリアと関わったエドアルドからで、どうだ?」


  「はい。父上。結論から言いますと、私は、自由にさせておくのが良いと考えます。初めて会った時は、村民のためを考えて自ら積極的に行動し、人との会話もそつなく熟す(こなす)、ただの賢い子供だと感じました。そこで、辺境伯家で囲ってしかるべき教育を授ければ、近い将来、辺境伯家に多大な貢献をもたらすものと予想しました。


 しかし、デイビード叔父上が施した教育の成果なのか、ユリアは、私の予想外の方向で既に辺境伯家に多大な貢献をしてくれています。ユリアを、これ以上拘束すべきではないと考えます。」


  「なるほど。では、ダルビードは、どう考える?」


  「はい。兄上。結論を言うと、私も、エドアルドと同じ考えです。デイビードがついていたことも関係してか、辺境伯家という組織をうまく動かして、蝗害対策手段を現実化していく手腕は、大人顔負けの見事なものでした。既に、それだけの力量や能力を持つ人物に対して、我々が与えられることは、少ないと考えます。」


  「うーむ。そうか。次に、マジョルーサは、どうだ?」


  「はい。私も、お二人に賛同いたしますわ。私からは、ユリアに対して何も教えることはなかったのです。でも、あの子からは、私個人に対してはもちろん、辺境伯家に対しても、一人の人間ができる範囲を遥かに超える貢献を受けました。再生プロセスと、金縛り魔法の真髄の示唆と、上級グレード3000本分の超特級マナポーションと、超特級回復ポーション45本の無償提供です。そのようなことは、自由に行動させておいてこそ成し得た事だと考えます。」


  「ほう。聞けば聞くほど、あり得ない子供のようだな。では、メイヤールはどうだ?何か意見があるかな?」


  「はい。私は、騎士団長の立場から、ユリアを手放すのは惜しくもあり、また、野に放つのは危険でさえあると、一時期は思っていました。しかし、よく考えると、現在のユリアが持つであろう全ての技術、特に、戦闘向けの魔法や秘技、蝗害対策手段、ポーション調合法などは、既に、惜しげなく辺境伯家の人間に伝授されています。ユリアを野に放ったとしても、今後開発するものを、我々に向けて行使する危険はないと予想しました。結論は、みんなと同じです。」


  「あいわかった。率直な意見をありがとう。最後に、父親役のデイビードは、どうだ?」


  「はい。兄上。結論から言いますと、私もみなさんと同じです。森の小屋で初めて会った時に、ユリアは一人で森の中で生きて行くつもりだったと言いました。そして、私が、1年間ユリアをこの森で教育すると言った時に、教育内容を早く習得しても自分は森に留まると言いました。実際、1年間の予定を、わずか1月足らずで習得し終えたのです。


 その後、逆に、私自身の修行内容の指導をして、すぐに習得させてくれたのです。その結果、私が森に留まる理由がなくなったとき、後は私の自由にしていいと言ったのです。まったく、師弟逆転して上から目線で言われました。


 ユリアの意向は、終始一貫して自由に生きる方向性で変わりません。私達がユリアをここに縛る(しばる)のは、無理筋だと思います。」


  「うーむ。話を聞くだに、意志強固で信じがたいほどの理解力と行動力を持つ子供だな。幸いなことに、いまは、我が辺境伯家に好意的に対応してくれている。今後もおそらくそうだろう。デイビードの教育のおかげもあるだろうが、エドアルドが、村に対して税の全面免除を約束してきた功績もあろうぞ。よし。よかろう。全員一致で決定した。ユリアは今後も自由にさせることとする。ユリアの意志に反して拘束することは禁ずる。デイビードは、ちょっと残れ。後の者は解散だ」


  「「「「「ははーっ。」」」」」


 デイビード以外の4名は、ヴィルムードの私室を出た。ヴィルムードは、デイビードに、話しかけた。


  「デイビードよ。お前が修行目的を達成したのは分かっている。良くやった。だが、ダルビードとメイヤールに聞いて、辺境伯家組織も、騎士団も、お前抜きでの体制を整えてうまく動いている。もはや、お前は、この家から拘束されないし、ユリアからもそうなら、自分で身の振り方を自由に決めることが出来る。縁談書もいくつか来ているだろう?領地経営が出来る婿(むこ)の口があれば、存分に力を発揮できるし、外から辺境伯家を支援することも可能だ。既に、考えがあるなら、少し聞かせてはくれないか?」


  「わかりました。兄上。私のいまの心づもりを聞いてください。実は、遠く隣国フランソワール帝国のとある中領地伯爵家から、跡取りのひとり娘への婿入り縁談が来ています。どうやら、ガスゴーシュ殿がこの王国に行くのを知って、ご親戚からいい人物がいないか、探してほしいとたのまれたらしいのです。なぜ、隣国内から選ばないかは不明で、また、私が、そのいい人物に該当するのかも不明です。でも、現地に赴いて(おもむいて)でも調べたうえで不審な点がなければ、受けたいと考えています。」


  「そうか。よく話してくれた。お前がそういうなら、こちらは何の問題もない。うまく決まるといいな。」


  「ありがとうございます。兄上。いま思い当たる理由、つまり、ガスゴーシュ殿が私を指名して婿に推薦した理由は、ひょっとして、ユリアとセットでの話なのではと勘繰って(かんぐって)います。ガスゴーシュ殿は、ユリアの回復ポーションの威力を目の当たりにして知っています。件の伯爵家の跡取り娘も何らかの傷か損傷を受けているのではないかと。でも、それなら、しかるべき医師や薬師に診てもらえばいい話ですから、勘違いかも知れません。」


  「うーむ。本当にユリアが絡むとなると、少々面倒になるかもしれんが、事情を話して頼み込むしかないな。頑張れデイビード。」


  「はっ。ありがとうございます。兄上。」




ーーー 場面は辺境伯家の客室、その日の朝


 メイドのメイリアがユリアの身支度を整えながら、ユリアに話しかけた。


  「今日は、午前中は音楽のお勉強でございますね。お召し物はこの普段着で大丈夫ですよ。今朝も、アンジェリカ様達が食堂にお迎えに来られるのですか?」


  「いいえ。お二人とも、自室で朝食を取ってすぐに音楽室に向かうそうよ。少しでも長く練習をしていたいそうなの。」


  「それでは、私が、ここから音楽室までは、ずっとお供いたします。」


  「ありがとうございます。」



 ユリアは、食堂に行ってメイリアの給仕で朝食を取った後、メイリアに付き添われて音楽室に入った。音楽室では、アンジェリカとレスターニャが、既に、楽器演奏の練習中だった。


 アンジェリカが、ユリアに文句を言いながらも、まんざらでもない表情で話した。


  「ユリア。なんで、演奏会なんて提案したのよ。それも、ひとり2曲ずつだなんて、私が一番不利じゃないの。やっとこの間1曲を弾けるようになったばかりなんだからね。」


  「アンジェリカ様。ひとり2曲にしようと言ったのは、わたくしではなくてカトリーヌ先生です。それに、この演奏会には勝ち負けはありませんから、ご安心ください。先日吹っ切れてすごく前向きになられたアンジェリカ様は、既に2曲目を急速に上達されています。今日の練習で仕上がりそうですよ。」


  「ユリアに言われると、なんだか、その通りのような気分になるわ。ちょっと頑張ってみるわね。」


 それを聞いて、レスターニャがユリアの方を向いて言った。


  「ユリア。わたくしにもなにか言ってくれないかしら。わたくしの2曲目もいま習っている新しい曲なの。でも、いつもおなじところで指が回らないで躓く(つまづく)から、一曲通して弾けないの。」


  「レスターニャ様。ちょっとそのフレーズに恐れがあるようですね。今の段階では、その部分だけ少しテンポを落として、意識して指を運んで押してみたらいかがでしょう?それで指に覚え込ませるのです。」


  「やっぱり、それしかないのかな。やってみるわね。」


 そこに、カトリーヌ先生が入って来た。ユリア達は全員立ち上がって挨拶した。


  「カトリーヌ先生。おはようございます。今日もよろしくお願いいたします。」


  「はい。おはよう。今日は、演奏会前の最後の練習日ですよ。2曲目の新しい曲の仕上げをするように。」


 レスターニャが、手を上げて楽譜を示して質問と確認をする。


  「はい。先生。ここのフレーズが難しくて止まってしまうのです。初めのうちは、ここだけテンポを落として弾いてもいいですか?」


  「そうですね。指が慌てない程度にテンポを落として、しっかり音符をなぞった感触を手指に覚え込ませたら、少しずつテンポを上げていくとよいでしょう。」


  「はい。先生、ありがとうございます。」


 レスターニャは、ユリアに尋ねたことをカトリーヌ先生にも尋ねてみた。カトリーヌ先生の指導内容は、ユリアの言った事とほぼ同じだった。それを聞いて、レスターニャは、ユリアにサムズアップをしてニコリとした。


 しばらくの間、各自練習をした後、ひとりずつ2曲目を弾いて、仕上がり具合いを確認することになった。


 その結果、3人とも一応、2曲目を一曲通して躓かずに弾けるまでになった。




ーーー 場面は辺境伯家の客室、時は楽器演奏会の朝


 ユリアは、メイドのメイリアに起こされる前に起床して、洗面を終えたところだった。メイリアが入ってきて、普段着に着替える手伝いをしながらユリアに話しかけた。


  「ユリアお嬢様。今日は、お早い目覚めで結構でございますね。」


  「メイリアさん。おはようございます。もう、あんまりすることがなくなって、昨晩は早く床に入ったから、今朝は早起きしてすっきりさわやかよ。」


  「それは、ようございました。でも、楽器演奏会は10時からでございましょう?それでは、朝食の後で、例の薄緑色のドレスにお着替えいたしましょう。」


  「ええ。お願いしますね。楽器演奏会の曲は、昨日練習したから、たぶんうまくやれると思います。」


  「いつもながら、ご準備がよろしいようですね。ところで、もうすることがなくなったというのは、どういうことなのでしょう?」


  「私は、1か月の予定で、この辺境伯家に滞在させていただいています。滞在中に予定していた仕事や技術や秘技の還元と、ポーション作りが終わったということです。明日は、お世話になった方々に、あいさつ回りをします。明後日の早朝には、ここを出発して元いた森に帰ります。メイリアさんには、明後日の朝にはもう会えませんが、今日いっぱいはまだお世話になります。お別れのご挨拶は、今晩の就寝前にしますね。」


  「そうでございましたね。名残惜しいことです。ユリアお嬢様は、大変に大人びていらして、実際、毎日大人に混じってお仕事をなさっておいででした。今日は、ほかのお嬢様がたと演奏会をいっぱいお楽しみくださいませ。その後は、立食形式の昼食会があるようですよ。」


  「ありがとうございます。」




ーーー 場面は辺境伯家の宴会場


 ユリアは、朝食後しばらくして、薄緑色のドレスに着替え、メイリアに伴われて宴会場に入った。聴衆は、辺境伯家の面々が既に大勢集まって着席していた。宴会場の入り口付近の隅には、音楽教師のカトリーヌとアンジェリカとレスターニャが待っていて、ユリアを招き寄せた。


 アンジェリカが、ユリアのドレスを見て言った。


  「まあ。ユリアったら。また私の小さいころのドレスを着てくれたのね。それも私のお気に入りだったのよ。ユリアによく似合ってるわ。」


  「ありがとう存じます。今日の演奏会の曲目や雰囲気にとてもよく合っ

ていると思ってこれを選びました。若葉色のスカート部分の色合いと花びらのような襟元が全体の統一された雰囲気を醸し出しています。やはり、アンジェリカ様のセンスは抜群でございますね。」


  「ユリアのドレスを褒める言葉には隙がなくて、感心しきりだわ。でも、おかげ様で、少しリラックスできた気がするわ。」


 レスターニャも頷いて言った。


  「確かに、アンジェリカがユリアくらいのときに着ていたのを覚えているわ。今日は、季節はちょっと違ってるけど、演奏会のテーマにはよく合っていると思うわ。」



 そこに、音楽教師のカトリーヌが、話し込んでいる3人娘を急き立てて楽屋に連れて行った。そこからステージに全員上がり、会場の皆に向かって軽く挨拶した。その後、カトリーヌが開演の口上を述べた。若い伸び盛りで初々しい(ういういしい)少女たちの、日ごろの練習の成果を披露する趣旨らしい。


 最初は、一番小さいユリアが袖口からステージに上がり、横笛の曲を1曲演奏した。ユリアは、練習を始めて間がないとはいえ、子供とは思えない情緒豊かな響きで演奏した。カトリーヌ先生は鍵盤楽器で伴奏をした。伴奏がつくと、ソロのときとは雰囲気が変わって聞こえた。奏者自身も、聴衆も、特にデイビードは、和音で響く笛と鍵盤の音色の心地よさに聞き入っていた。


 次は、アンジェリカがステージに上がり、バイオリンの曲を1曲演奏した。伴奏はつかないソロであった。アンジェリカは、つい先日までやる気がなかったとは思えないほど、正確に音程を安定させた演奏を披露した。アンジェリカのやる気のなさを気にしていた母親のナターシャは、我が娘の短期間での変身と成長ぶりに喜びの涙を流していた。


 次は、1曲目の最後の奏者、レスターニャがステージに上がった。鍵盤楽器のソロで、日ごろの練習を上回る技術の冴えをみせた見事な演奏を披露した。レスターニャは普段から落ち着きがある分、ステージ度胸もあって本番に強い性格のなせる技であるようだ。


 結局、1曲目は、3人の奏者全員が、練習の成果をいかんなく発揮した演奏となった。


 2曲目は、さすがに練習時間が少なかった分、1曲目よりも若干質の劣る演奏になってしまったが、3人とも一応詰まることなく弾き切った。質の劣る点については、カトリーヌが釈明してくれた。3人とも、練習よりもうまくできた点では、皆満足して喜んだ。会場の聴衆からは、惜しみない拍手と歓声が届けられた。


 演奏会の終了後、立食形式の昼食会となった。ユリアは、例によってすぐに子供たちに囲まれた。子供たちから演奏の感想を聞いたり、弓術勝負での金縛り魔法指導のお礼を言われたり、今後の予定を聞かれたりして、食べ物を取る暇もないくらいだった。



 こうして、ユリアの辺境伯家滞在中の主な仕事や行事は、すべて滞りなく終了した。




((演奏会を提案してよかったわ。アンジェリカも意外とやるわね。それにしても、辺境伯家滞在中は、実にいろいろな人たちとの出会いがあったわ。特に、子供たちと仲良くなれたのが一番かな。私が一番小さいけど。))


辺境伯家としての少女の扱いは自由放免となりました。狩人の男には何やら縁談が舞い込んでいて少女も無関係ではいられないかも知れません。演奏会の余韻を残して辺境伯家を去る日が近づきました。今後はどうなるのでしょうか。心配ですね。それではまたお会いしましょう。


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