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48.少女は弓術勝負でやり込める

少女は回復ポーションを作った後、少年3人組と弓術の勝負をします。

ーーー 場面は辺境伯家居城の医薬部門


 ユリアは、朝食を済ませると、すぐに医薬部門の調合室に入っていった。今日の午後には、子供たちとの弓術勝負が控えている。ユリアも、少し気合いが入っているようだ。


  「おはようございます。マジョルーサ様。今日、午前中いっぱい調合室をお借りしますので、よろしくお願い致します。」


  「いいわよー。出来上がったら、そこに置いといてね。時間がある時に鑑定しておくから。今は、貴女に指摘された論文の加筆修正で、手いっぱいなのよ。」


  「はーい。回復ポーションを50本作りますので、大型調合鍋をお借りします。材料のヒール草は自前です。それでは始めます。あっ。例によって独り言を言うかも知れませんが、うるさかったら言ってくださいね。善処しますので。」


  「ああ。分かっているよ。もう慣れたわ。」


 ユリアは、猛スピードで、かつ、丁寧に慎重に作業を進めていった。水分分離工程での静置時間も十分に取り、ポーション瓶への小分け工程まで、午前中に終えてしまった。


 ユリアは、マジョルーサの背中に向かって声をかけた。


  「マジョルーサ様。出来上がりました。ここに置いておきますね。夕方、取りに来ますので、鑑定する時間が取れたら、よろしくお願いします。それでは、一旦失礼致します。」


 マジョルーサが後を振り返ると、調合テーブル上に50本のポーション瓶が所狭しと並べて置いてあった。調合に使った鍋類は、綺麗に洗浄して所定の位置に片付けられていた。マジョルーサは、ユリアという幼児の外見と、言うことなす事とのギャップに、夢を見ているような感覚を覚えた。もっとも、それは、寝不足のなせる技だったのかも知れない。


 マジョルーサは、気分を変えて、ユリアが作った回復ポーションの鑑定を先にやってから、昼食に行くことにした。鑑定の結果、予想したとおり、超特級グレードの回復ポーションであることが判明した。


  「まったく、ユリアったら。これだけの量の超特級回復ポーションが、どれだけ貴重で高価なものか、分かってないようだわね。今の品薄状態での高騰ぶりを考慮すると、伯爵クラスの貴族の大邸宅が丸々1つ買えるくらいよ。この回復ポーション群を見るだに、ユリアという幼児の危なっかしさを感じるわね。」


 マジョルーサは、そう呟いて、事務屋の女性と一緒に医薬部門の部屋を出て、ドアに鍵をかけて昼食に出かけた。




ーーー 場面は辺境伯家の食堂


 ユリアが、食堂に入ったら、男の子三人組が座って配膳を待っていた。ユリアは、挨拶をして彼らの近くに座った。


  「皆様、ご機嫌よう。この後すぐに弓術勝負ですね。準備はお済みですか?」


 ユリアの問いかけに、フレデリックが余裕ありそうな顔で答えた。


  「よう、ユリア。来たなぁ。逃げずに立ち向かう姿勢は一応褒めて(ほめて)やろう。私たちは、服装はこのままでいいし、弓矢は訓練場に置いてある。君の方こそ準備はどうなんだ?弓もなにも持っていないではないか。」


  「わたくしも、服装はこのままです。弓はちゃんと持っていますし、矢は訓練場のものをお借りします。お昼ごはんを食べたら、もう準備万端ですよ。」


  「どこが準備万端なのだ?矢は何本でも貸してもらえるけど、弓は貸してもらえないぞ。壊されたら困るからな。」


  「そうですね。では、人目もすくない今、出しておいた方がいいですね。ほら、これです。デイビードお父さんに買ってもらったものです。とっても優れ物なんですよ。」


 ユリアは、収納魔法から弓を取り出して、三人に見せた。三人は、びっくりして一瞬声を失ったが、ジェイムスンが先に我に返り、ユリアに問いただした。


  「ユリア、き、君は、収納魔法持ちなのかい?そ、そんな人、僕は見たことがない。うらやましい限りだよ。みんな、そう思うだろう?」


 フレデリックとマーカラスが、そろってジェイムスンの感嘆の声に頷き(うなづき)で返事を返した。フレデリックは、訝しがりながらユリアに了解を得て、弓を手に取った。


  「なっ、なんだ、これは?大きさは、今の私にちょうど合うくらいで、君には大きすぎるのではないか?それに、この弦はちっとも引けないぞ。君は、これが使えるというのか?」


  「はい。ちょうど、ご飯がきました。私がこれを使えるかどうかは、勝負の現場でご確認いただくということで。いまは、ご一緒にご飯をいただきましょう。」


 三人の男の子達は、ユリアの調子の良さに押されて、しぶしぶながら昼食を食べ始めた。



ーーー 場面は辺境伯家の弓術訓練場


 昼食を取った後、ユリアと男の子三人の弓術勝負の出場者達は、そろって弓術訓練場に到着した。ユリアは、始めから弓を手にもち、他の三人は、所定の弓置き場から自分の弓を取り出して来た。


 弓の大きさは、ユリアの物と年長二人の物がほぼ同じ長さで、マーカラスの物は、それより少し小さめだった。


 出場者4人は、勝負のルールを話し合った。最年長のジェイムスンが話しをリードした。


  「まず、各自慣れ親しんだ弓だし、矢は選べないから、弓と矢の違いは勝負に勘案しないことにしよう。いいね。」


  「「「いいですよ。」」」


  「よろしい。次に、ブースの場所の違いをなくすため、同じブースで交代して試技を行うことにするよ。つまり、同じブースで、ひとりが5連射したら交代して次の人が5連射するんだ。このラウンドを3ラウンド行うことにする。そして、ブースはこの30mブースとする。なにか、異議はあるかな?」


  「「「異議はありません。」」」


  「つぎは、順位の決め方だよ。スコアを単純に、的の黒丸内を3点、的の半径の半分以内を2点、それより外側の的内を1点として、合計スコアで決めることにしよう。最高スコアは45点、最低は0点だ。いいね。」


  「「「いいですよ。」」」


  「最後に、試技の順番を決めるよ。一昨日の昼食時に各自言ってた腕前の自己申告で、換算スコアが低いひとから先に試技をするのはどうだい?、つまり、マークが最初、僕は2番目、フレディが3番目、ユリアが最後だ。何か、異議はあるかな?」


  「「「異議はありません。」」」


  「よろしい。試技を始める前に紹介しておこう。5連射ごとのスコアの確認と的の交換をしてくれる補助者があちらの2名、ここの後ろでスコアをボードに記入してくれる補助者がこちらの2名だよ。みんなでお礼を言おうよ。」


  「「「「手伝っていただきまして、ありがとうございます。」」」」



 4人の出場者が、勝負のルールを話し合っている間に、見物人が、ぞくぞくと集まってきた。


 辺境伯のヴィルムードを筆頭に、ダルビード、デイビード、エドアルド、メイヤール、マジョルーサの一族のおもな大人たち一同と、アンジェリカ、レスターニャの一族の令嬢たちとその母親たちがメイン観覧席に陣取っている。ほかにも、ユリアの薫陶を受けた騎士達はじめ多数の騎士達や、設備部門や農業管理部門の人たちもメイン観覧席の後ろに群がっている。


((辺境伯家って娯楽が少ないのかしら?皆さん、真面目過ぎて普段は仕事ばかりなのね。))


 補助者の紹介が終わった後、ジェイムスンが、始まりの合図をして、マーカラスをブースの射手位置に送り出した。マーカラスは、かなり緊張した顔で身体も固くなった様子でブースに入った。


 ユリアは、ちょっとリラックスさせようと、声をかけた。


  「マーカラス様。肩に力が入り過ぎですよ。いつもの訓練のつもりでやればいいんですよ。」


 マーカラスは、ちょっと振り返って、笑顔で手を上げて答えた。弓に矢をつがえて弦を引き絞り、狙いを定めてオープニングを飾る最初の矢を射った。矢は、少し射出時の仰角の大きい放物線を描いて飛んで、スコア1点の範囲に刺さった。観覧席からは、最初の試技を称える声や拍手が送られた。ユリアも惜しみない拍手を送った。


 結局、マーカラスは、5連射して3本が1点位置、2本は外れ、合計スコア3点で、ほぼ申告通りであった。


 次は、ジェイムスンの番だ。マーカラスよりも少し力は抜けているが、フレデリックより前に試技するのが恥ずかしそうな素振り(そぶり)だ。弦を力強く引いて狙いを定め、一瞬間をおいてから矢を放った。矢は、少し小さめの射出時の仰角で放物線を描いてスコア2点の範囲に刺さった。観覧席からは、また大きな歓声と拍手が沸いた。結局、ジェイムスンは、5連射して2本が2点、3本が1点の合計スコア7点であった。自己申告はしていないが全5射を的に当てたことは、フレデリックと並ぶ腕前と言える。


 3番目は、フレデリックだ。さすがに、自信満々の様子でブースに入った。射った矢は、ジェイムスンのときよりもさらに小さめの射出時の仰角で放物線を描いて飛んだ。結果は、自己申告の通り5連射すべて的に当て、1本が3点、3本が2点、1本が1点の合計スコア10点の高得点であった。これに対しては、特に、父親メイヤールからの賞賛の声と拍手が大きかった。


 1ラウンド目の最後の試技の射手は、紅一点のユリアである。ユリアは、誰にも悟られないように注意して、両腕と体幹に身体強化魔法をかけた。ユリアは、矢をつがえて強弓の弦を引き絞ると同時に、目に金縛り魔法をかけた。そして、的の黒点のさらに中心を視線で捉えると矢を放った。矢は、放ったと思った次の瞬間には、軌跡を追う暇もなくもう的の黒点の中心に突き刺さっていた。ユリアは、3秒未満の間隔で淀みなく滑らかに5連射を終えた。5本全てが黒点の中心に集中して刺さったので、スコアは満点の15点であった。


 これを見ていた出場者3人はもちろん、観覧席の皆も声が出せずに、しばらくの間シーンと静まり返った。皆が、信じられないようなシーンを見せられて、我が目を疑ったに違いない。なにしろ、一番小さい女児が強弓を引いて、黒点の中心に集中して当てるという芸当をやって見せたのだ。


 しばらくした次の瞬間、観覧席は大混乱状態となった。無邪気に大喜びで囃子(はやし)立てる設備部門や農業管理部門の人たちがいる。さすが、デイビードの一番弟子だと感心するものもいる。今のは、どうやったのだと、秘密を探るように話し合う人々など様々な観衆が騒いでいる。


 そんな中、ユリアが良く通る声で、弓術訓練場全体に響き渡るように、今の5連射の秘密を解説をした。


  「皆様。いまご覧いただいた5射こそ、わたくしの師匠、デイビード父さんからの直伝による、一発必中かつ百発百中の秘技でございます。これから、わたくしは、残り2ラウンドの試技をあてて、3名の若き勝負参加者様に、この秘技を伝授したいと存じますが、いかがでございましょうか?。」


 これに呼応して、メイヤールが、一族を代表するような形で肯定する発言をした。


  「たったの5射ずつ2回の試技で、そんな秘技が習得できるというなら、辺境伯家一族として、金縛り魔法に続く一家相伝となり得よう。やれるならやって見せてほしい。」


 このメイヤールの一言で、観覧席全体が、これからユリアが行うことに集中する雰囲気となり、大騒ぎが嘘のように静まり返った。


  「わかりました。勝負参加者の皆様、試技はあと2ラウンド残っていますが、この弓術勝負は既に決着したものとしてよろしいでしょうか?」


 これを聞いて、3名の子供たちは皆、もはや、勝敗は明らかで続ける意味がないと悟り、ユリアの提案に乗ることにした。それを、フレデリックが代表して答えた。


  「ユリアのいうとおり、私たちは完敗だ。残り2回の試技は君の指導の場としてほしい。」


  「わかりました。始める前に確認と訓練内容をご説明いたします。皆さんは2種類以上の魔法が使えますね。この一発必中かつ百発百中の秘技の真髄は、実は、金縛り魔法そのものと全く同じなのです。そこで、皆さんに金縛り魔法の訓練をしていただきます。よろしいでしょうか?」


  「今の説明は衝撃的だが、みんな、準備はできている。」


  「それでは、皆様が、金縛り魔法の訓練で現在到達している最先端を想像してください。皆様は、既に、目から魔力を放射できているので、次の、左右の目から異なる種類の魔法の魔力を放出する訓練に進んでください。体のどこか適切な部位で、混然と混じった魔力を種類別に分離して、異なるルートから左右の目に異なる魔力を溜めるように、体と頭で実感できるまで足掻いて(あがいて)ください。」


 ジェイムスンが、頭を左右に振り子のように傾けていたが、何かをつかんだように手を挙げて言った。


  「ユリア師匠。目から異なる種類の魔法の魔力を放射できるようになりました。僕のもつ属性魔法は、光と火です。」


  「ジェイムスン様、それでは、ブースに行って第2ラウンドの試技を、金縛り魔法で的の黒点に視線を当て続けなが5射してみてください。」


  「わかりました。ユリア師匠。では、これから2回目の試技を始めます。」


 ジェイムスンは、まだ、視線が黒点の中心から少しブレる状態ながら、5射を打ち切った。その結果は5射全てが黒点に当たった。1点集中とまではいかない少しばらけた当たりだが、スコアは15点だ。ジェイムスンは手を挙げて飛び上がって喜んだ。観覧席も歓喜の渦に包まれた。


  「やったあー。ユリア師匠。やりました。ご教授に感謝いたします。これで、僕もフレディに負けない腕前といえるかな。でも、フレディも僕と同じ感覚を言葉で共有したから、すぐに追いつかれるな。」


  「ジェイムスン様。お見事です。これで、本来の金縛り魔法も対人や対獣で使用できます。属性魔法が光と火ですから、最強の組み合わせでございます。30mの距離でも獣と視線が合えば、獣を2秒から3秒の間動けなく出来ます。おめでとうございます。」


 続いて、フレデリックが、何やら顔をゆがめることで、何かを感じとったようだ。


  「ユリア。私もできるようになったようだぞ。私の属性魔法は水と氷だ。水の魔力を右目から、氷の魔力を左目から、分離して放射できるぞ。私も第2ラウンドの試技をやってみる。」


 フレデリックはそう言うと、ブースに行って第2ラウンドの5連射をした。その結果は、5本すべて黒点の中心付近に集中して刺さった。こちらも、本人はもちろん、観覧席も歓喜で大騒ぎとなった。スコアはジェイムソンと同じ15点であるが、フレデリックの方がわずかに集中度が高い点で、ジェイムソンに追いついて追い越した形となった。


 一人残ったマーカラスも、ジェイムソンと同じような動きをして、ようやく何かを感じ取ったようだ。一家相伝の訓練開始からまだ長くはないが、早くも、左右の目からそれぞれ異なる属性魔法の魔力を放射できたようだ。マーカラスのもつ属性魔法は、光から派生した照明と火で、ユリアの最強組み合わせと同じだ。


  「僕も第2ラウンドの試技をやってみる。兄上たちに食いついていくんだ。」


 マーカラスは、そう言いながらブースに行って第2ラウンドの5連射をした。その結果、5本の矢の刺さった位置は、ほぼ、ジェイムソンと同程度の集中度となった。


 これで、男の子たち3人全員が金縛り魔法を習得し、かつ、それを弓矢の一発必中かつ百発百中の秘技に応用することができた。3人とも、続いて第3ラウンドの試技を行い、矢の刺さる位置の集中度を上げることができて、習熟段階に入ったといえる。


 今日の結果を見た騎士たちにとって、これは弓術訓練見直しの強烈な動機付けとなったのは間違いない。自ら訓練するか、子供たちに教えを乞うかして、全員が一発必中かつ百発百中の射手となるべく、訓練に励むことになるだろう。




((私の出番は、弓術に関する限り霞んじゃって、今後はもうなさそうね。デイビードおとうさんも、辺境伯家で一人だけの一発必中かつ百発百中の名手じゃなくなっちゃったね。ごめんなさい。だけど、これで、お父さんが辺境伯家に残る理由も、ほとんど無くなっちゃったから、フリーな気持ちで今後の生き方を決められるんじゃないかしら。))


少女の作る回復ポーションは超特級の高価なものだったようです。弓術勝負では男の子たちをへこませた後でぐーんと高みに引き上げましたね。騎士様たちに波及することは確実で辺境伯家の戦力が倍増しそうです。少女は辺境伯家ですることはまだあるんでしょうか。それではまたお会いしましょう。


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