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47.少女はお茶会にお呼ばれする

少女はポーション作りを完了してお茶会に臨みます。

ーーー 場面は辺境伯家居城の客室



 ユリアは、メイドのメイリアに起こされて起床すると、洗面のあとすぐに身支度を整えてもらった。少し、ポーション作りの疲れがたまってきたらしい。


 メイリアは、それに気づいて、ユリアに声をかけた。


  「ユリアお嬢様。少しお疲れのようですね。それでも、医薬部門でのお仕事は、お休み出来ないのですか?」


  「うん。心配してくれてありがとう。でも大丈夫よ。あと、今日一日と明日の午前中で、予定数ぜんぶ作り終えるわ。マジョルーサ様が三分の二以上を引き受けてくださったから、予想よりだいぶ早く終わりそうなの。」


  「それは、ようございました。実は、アンジェリカお嬢様から、明日の午後にユリアお嬢様をお茶会に招待したいとのお話がございました。いかがでございしょう?」


  「もちろん、出席させていただきますと、アンジェリカ様にお伝えくださるかしら?」


  「畏まり(かしこまり)ました。朝食のお世話をさせていただいた後に、お伝えしてまいります。」


  「ありがとうございます。それでは、これから食堂にまいりましょう。」




ーーー 場面は辺境伯家居城の医薬部門


 ユリアは、朝食のあと、その足で食堂を出て、医薬部門にポーション作りに行った。


  「おはようございます。ユリアです。マジョルーサ様。いらっしゃいますか?」


  「ああ。入っていいよ。ユリア。」


 ユリアは、ドアを開けて調合室に入ると、マジョルーサの顔を見るなり叫んだ。


  「ああっ。お顔が変になっていますよ。目の、」


  「ストップ。それ以上言わないでいい。論文の執筆が山場に差しかかって、徹夜してしまったのよ。お陰で、ほぼ完成したわ。ユリア、済まないけど、おかしいところがないか、チェックして貰えないかしら。」


  「もちろんですわ。これが全文ですね。えっ。105枚有りますよ。今すぐ読みますね。」


  「持ち帰ってから読んでもいいよ。いまは、そんなに時間がないでしょう。」


  「いいえ。あと1分で読み終えます。はい、読み終えました。」


  「えっ。いくら何でも速すぎでしょう。ちゃんと頭に入ったの?」


  「はい、たぶん。それでは、学会発表向けの研究論文として見た場合の、気がついた点をいくつかお話ししますね。」


  「ちょっとだけ待って。紙に書き留めるから。はい。いいわよ。」


  「先に指摘だけ述べます。

 指摘1。この研究が必要な理由または動機付けが論理的に飛躍しています。

 指摘2。研究の目的があいまいで絞り込み不足です。

 指摘3。目的に関連付けた解決手段の発想が唐突で、仮説を立てたのかも不明です。

 指摘4。第三者が実験を再現するための情報や条件が不足しています。

 指摘5。指摘3と関連して実験条件の選定根拠が不明です。

 指摘6。鑑定者の資格レベルとグレード判定器具が不明です。

 指摘7。実験結果の考察から仮説が証明されたか、または、新たな理論を提唱できるか、結論部分が弱いです。

 以上の7つです。


 生意気を申し上げましたが、幼児の戯言(ざれごと)とお許しくださいませ。」


  「基本的な指摘ばかりだけど、ほぼ全部じゃないのよ。改めて見てみると、ごもっともな指摘ばかりでユリアには恐れ入るわ、まったく。自分の未熟さを思い知らされたよ。悔しいけど、指摘された点を含め、じっくり見直して加筆修正するわね。出来たら、またチェックお願いしていいかしら?」


  「それは、もちろんいいのですが、これからお休みにならなくても、お体は大丈夫ですか?もし必要なら、回復ポーションありますけど。」


  「えっ。まさか、それも超特級グレードじゃないよね?あの昼食時に聞いていたのは、それのことだったの?」


  「はい。そうです。超特級かは分かりませんが、狼に噛まれて深手を負った人の傷口に垂らしたら、白く泡立ったあと泡が消えて傷も痛みも消えていました。」


  「何と、それは正しく(まさしく)超特級グレードの特徴と一致してるわ。それも、普通のヒール草だけで調合したのよね?」


  「はい。そうです。」


  「はい、そうですって、簡単に言ってくれるわね。うーん。マナポーションなら用途が限られるからまだしも、回復ポーションとなると、世間一般への影響が大き過ぎるわね。ユリアのことだから、こうなることは予想してはいたんだけどね。ともかく、これの公開の是非は、辺境伯家預かりとさせてもらえないかしら?」


  「分かりました。よろしくお願いします。それでは、これからマナポーション作りに入りますね。」




ーーー 場面は辺境伯家居城の食堂の昼食時


 ユリアは、午前中のポーション作りを終えて、昼休みに食堂で昼食を取っていた。そこに、辺境伯家の男の子供たち3人が入って来て、ユリアを見つけた。


 年長のジェイムスンが代表して許可を得て、皆がユリアの近くに座った。


  「やあ。ユリア。変わりないかい?」


  「ご機嫌よう。ジェイムスン様、フレデリック様、マーカラス様。私は、いつも通りですわ。皆様は、午前中は座学でしたの?」


  「そうだよ。普段着だからすぐ分かるよね。今日は、僕は領地経営の基礎、フレディは国の地理、マークは算数だった。きみは、ポーション作りだね。予定数は作り終わりそうかい?」


  「はい。マジョルーサ様のご助力で明日の午前中で完了です。」


  「そうか。それはよかった。ところで、先日は、聴聞会への参加を推薦してくれてありがとう。再生プロセスの説明を聞いて、僕たちはショックを受けたよ。だから僕とフレディも訓練のやり方を自分たちなりに考えたんだ。体と頭で意識して、魔力の通る道筋と魔力の種類による違いを感じ取る訓練が主体だ。それで感じたことを教え合って習得して行こうとね。体の方は魔力の通り道がある部分を揺すったり傾けたりして魔力の通過を感じ取るといいらしい。もう、さっそく効果が現れている気がする。午後はもっぱらその訓練だよ。」


  「なるほど。あの聴聞会が皆様にとって有意義なものでしたなら、私も頑張った甲斐が有りました。感覚的に理解した内容を言葉にできるということは、習得に一歩近づいたということだと思います。その調子で頑張ってくださいませ。」


 そこまで聞いたフレデリックが、男の子供らしい挑戦的な声音(こわね)で言った。


  「ユリア。何だか上から目線で生意気に聞こえるんだが、まあ、その資格があるからそれはいい。ところで、君は、デイビード様に弓術を習ったと言ったな。腕前はどこまで上達しているんだ?私は、30mの距離で10射して全部的に命中させられるんだ。驚いたか?ジェイムスン兄だって、まだその域には達していないんだぞ。今度、3人で勝負してみないか?」


 マーカラスが慌てて、参加を申し出た。


  「フレデリック兄、僕も参加させてください。30mの距離で10射中5本は的に命中するまでになりました。」


  「おう。その腕前なら参加資格があるぞ。全部で4人で勝負だ。いいな。ユリア。あっ、まだ、君の腕前を聞いていなかったな。どうだ?」


  「はい。フレデリック様。わたくしは、50mの距離の的に、20射して20本命中させました。」


  「ほう。これは大きく出たな。まあいい。ここでは聞き流してやるさ。明後日の午後はどうだ。明日の午後は、君はお茶会に参加するんだろう?」


  「そうなのです。ご配慮ありがとうございます。それでは、明後日の午後一番で、弓術訓練場の隅っこをお借りして弓術勝負と行きましょうか。」


  「いい心意気だ。それでこそ辺境伯家の娘だ。だが、隅っこじゃなくて、真ん中が借りられるぞ。見物人もいるかもな。楽しみだな。首を洗って待ってろよ。」


  「なんだか、不穏な言葉が聞こえたような気がしましたが、よろしくお願いいたします。」


 それだけ言い残して、ユリアは、3人よりも先に食堂を出た。まだ、午後のポーション作りが待っている。




ーーー 場面は医薬部門の昼前


 ユリアは、マナポーション作りの最終ロットの瓶詰を完了した。ついに、予定した通常の上級グレードのマナポーションの3000本分に相当する超特級グレードのマナポーション500本のうちの約三分の一に当たる170本を作り終えた。森にまで後方支援の宿題を引きずらなくて済んだ。


  「辺境伯家滞在中にポーション作りが完了したのは、ただただ、マジョルーサ様のご助力のおかげでございます。ありがとうございました。医薬部門でのお仕事はこれで終了ですが、明日の午前中にまたここをお借りしてよろしいでしょうか?回復ポーションを少し作っておきたいと思いまして。」


  「もちろん。いつでもいらっしゃい。それも鑑定してあげるからね。」


  「ええっ。何だか怖い気もしますが、よろしくお願いいたします。それでは、失礼いたします。」



ーーー 場面は再び辺境伯家居城の客室


 ユリアは、医薬部門を辞して、食堂で昼食を取り、本館の自分の部屋に戻った。メイドのメイリアは、部屋で待ち構えていて、ユリアがお茶会に着ていくドレスの選定を考えていた。


  「メイリアさん。ただいま戻りました。今日は、2時半からお茶会です。よろしくお願いいたしますね。」


  「はい。ユリアお嬢様。わたくしの方は準備ができています。あとは、ユリア様に、お茶会に着ていくドレスを選んでいだだき、着替えのお手伝いをさせていただくだけでございます。一応、ドレスの候補はこちらの2着に絞りました。いずれもアンジェリカ様がユリア様くらいのときに着ていらっしゃったものです。」


  「アンジェリカ様には、しっかりお礼を申し上げなければならないわ。その2つはどちらもセンスがよくて迷ってしまうわね。今の季節はもう秋本番だから、少し黄色っぽい生地に薄赤色のウエストリボンがポイントになってるこちらのドレスにしたいです。メイリアさんはどちらがお薦めですか?」


  「わたくしとしても、季節感を出すとすれば、ユリア様と同じほうを選びます。もう一方の方は、薄緑色でフリルもたくさん使って少し華やかですから、これから伸び盛りを予想させるものとなっていますね。


  「あっ。それでは、そちらの方は、お茶会3人組による楽器演奏会に着ていきましょう。華やかでちょうどいいわね。」


  「それはもう、ぴったりでございます。それでは、これからお召替えをお手伝いいたします。」



ーーー 場面は辺境伯家居城のガゼボのお茶会会場


 ユリアは、ちょうど時間ぴったりにお茶会の会場に到着した。アンジェリカとレスターニャは既に席についていたが、ユリアの姿を見かけると、席をたってユリアの方へ近寄って行った。


 初めに、アンジェリガが歓迎の挨拶をした。


  「ユリア。お待ちしておりました。私のお茶会によく来てくださいました。歓迎いたしますわ。また、私のドレスを着てくださいましたのね。うれしいですわ。」


  「はい。ありがとうございます。今の季節に合わせて選ばせていただきました。」


 すると、レスターニャがユリアの手を取って、テーブルに案内しながら口上を述べた。


  「ユリア。私からもお礼を言わせてくださいませ。わたくし達のお茶会用のお菓子類は、倹約の対象にしないようダルビード様にお願いしてくださったと聞いています。おかげさまで、このようにお茶会ができるのですわ。ありがとう存じます。」


 ユリアが、テーブルに座ってから正式の挨拶と返答をした。


  「アンジェリカ様。本日は、お茶会にお招きいただき、大変ありがとう存じます。実は、私にとりましては、今回が初めてのお茶会なのでございます。礼儀作法も習い始めですが、礼を失することのないように気を付けます。よろしくお願いいたします。


 それから、レスターニャ様。ご丁寧なお言葉をいただき、ありがとう存じます。お茶会向けの菓子類の件につきましては、お礼は不要にございます。わたくし自身、初めてのお茶会の機会を逃すまいと、お二人を出しに使ってしまいました。申し訳ござませんでした。」


 レスターニャが、上品に微笑みながら返事をした。


  「ユリアは、本当に鋭い勘をお持ちなのね。ご希望の通りにお茶会に誘われましたね。」


 アンジェリカが、自らポットを持ってユリアのカップにお茶を注いで、香りや味などの感想を聞きたいと、挑戦的な顔で言ってきた。


  「ユリア。このお茶は、わたくしが今日のために選んで取り寄せたものなのです。レスターニャからは、さっき聞いたから、ぜひ、ユリアの感想を伺いたいものですわ。」


  「はい。わたくしは、高級なお茶は初めてでございます。気の利いた聞き茶の言葉を持ちませんので、普通の表現で感想を述べさせていただきますわ。」


 ユリアは、カップを持って少し香りを味わい楽しんだ後、一口いただき、カップを置いた。


  「アンジェリカ様。これは、茶葉を完全に発酵させた紅茶でございますね。芳醇で落ち着いた香りが素晴らしいです。でも何かほのかな香り付けがされているように感じました。一口いただいてみて、爽やかですっきりした渋みの余韻が残る味わいから、それが何か予想がつきました。恐らく、柑橘系の実の果皮の精油が使われているのではないでしょうか。具体的な柑橘名は絞り込めていません。申し訳ございません。ここまでが限界でございます。」


 アンジェリカは、ユリアの次々に出てくる感想の言葉に、唖然とした表情をしたが、すぐに、きりっと気を引き締めて言った。


  「ユリア。さっきの謙遜は何だったのよ。そこまで、すらすらと香りや味の表現が出てくるなんて、貴女は実は35歳の熟女かなんかじゃないの?弱冠6歳の幼児の口から出た言葉とは誰も信じないわよ。でも、さすがに、このお茶の銘柄名まではご存じなかったようね。銘柄名はカウントシルバーというのよ。そこだけは、勝ったような気分だわ。」


  「アンジェリカ様。参りましてございます。ご教示ありがとう存じます。今後、愛飲させていただく銘柄となりましょう。」


 そこに、レスターニャが相好を崩して、ユリアを諭すように言った。


  「まあまあ、ユリア。令嬢のお勉強と堅いお話はここまでにしましょう。アンジェリカも、淑女の修行は先が長いんだから、急ぎすぎないことよ。後は、ユリアが勝ち取ったお菓子をいただきながら、普通の口調で語り合いましょうよ。」


 アンジェリカも相槌を打ち、ユリアに言った。


  「そうね。その通りだわ。急ぎすぎても、疲れるだけで得るものは少ないしね。ところで、ユリアは、明日の午後一番で、ジェイムスンお兄様たちと弓術の勝負をするんですって?華やかでお淑やかな令嬢から、気高く頼もしい騎士様に急転換して大変身とは、驚きを通り越して呆れ(あきれ)てしまうわ。でも、面白そうだから、私たちも見学させてもらうつもりよ。女の子代表として、優雅に勝ってほしいところだわね。」


  「アンジェリカ様。レスターニャ様。ご安心ください。私は、あの百発百中の弓術の名手、デイビード様の一番弟子ですよ。そこらあたりのお子様が何人来ようと負けることはありませんから。」


  「とっても心強いお言葉ですこと。まるで、本当の気高く頼もしい騎士様のお言葉を聞いているようですわ。ほんとに期待していますわね。だけど、ご自分が一番小さいお子様だってこと、お忘れですわよ。」



 その後、3人は、お茶会らしくお茶を飲み、お菓子を食べて、おしゃべりに興じた。




((お茶会は、気心の知れた仲間内なら、何の気遣いもなしに、おいしいお茶とお菓子を味わえて楽しいわね。明日の弓術勝負は、二人に期待させちゃったから、かっこいいところを見せてあげなくちゃ。))



少女はポーション作りを滞在期間中に完了させました。ポーション作りを手伝ってくれた恩人の論文には考え得る限りのコメントを付けましたね。お茶会では少女のお茶の実力が試されました。紅茶の銘柄の知識を得ましたね。翌日は男の子達との弓術勝負です。どうなるか楽しみですね。それではまたお会いしましょう。


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