46.少女は進言具申団の成功を後押しする
少女は、ポーション作りの傍ら、王国への進言具申団の進捗案を無責任に提示します。
ーーー 場面は辺境伯家居城内の小会議室
ダルビードは、小会議室に主だった幹部と関係担当主任者達を集めて、ヴィルムードの入室を待った。これから、蝗害対策の国際協力に関する進言具申団の状況説明と、進捗促進の検討会議が行われる。
ヴィルムードが入室すると、出席者は全員立ち上がり、ヴィルムードが開会を宣言して着席すると、出席者全員も着席した。
((なんだか、皆さん、軍隊みたいな規律良さだね。まあ、辺境伯家だから当然かな。))
ダルビードが、会議の趣旨を説明した。そのあと、進言具申団の団長アルベルドから届いた書簡を基に、現在の状況を説明した。
「進言具申団は、隣の領地のロンバルス領主ルングシュタール・フォン・ロンバルス侯爵に面会できたようだ。結論として、アルベルド達の隣領地との交渉は大成功と言える。
領主はじめ幹部達の危機意識はかなり高く、来年の蝗の大群再来襲の可能性も懸念していたようだ。2年続けて税の軽減を願い出るのは、無策の謗りを受けて領地の一部没収などの罰を与えられかねない。しかし、対策となると、経済的逼迫もあって何も具体的に動いていない閉塞状態だった。
そこへ折よく、我が領主名の書簡が届いたそうだ。内容は、もちろん、国際協力によるオスマール帝国での共同作戦実施を、王国に働きかける進言具申団への参加の打診だ。しかも、既に、ヴィルダー辺境領からロンバルス領へ、隣国の担当官僚を伴う進言具申団一行が向かっているという。
ロンバルス領の領主はじめ幹部達は、にわかに活気づき、アルベルド達が到着すると大歓迎で迎え入れたようだ。進言具申団の趣旨は、既に書簡で理解されており、対策案の仕様書類の説明も概ね理解を得たそうだ。
そして、帯同した騎士達は、火焔弾による蝗の幼虫殲滅手段の模擬実演を行い、相手に絶大な効果を実感させたようだ。
あとは、共同作戦時の費用負担の折衝と、進言書への領主署名と、具申団のへの幹部参加だ。領主署名は快く受けられた。費用負担は、出資資金額と実働部隊の派遣費を合わせて、今年の蝗害被害額の二分の一の金額とすることで合意を得た。幹部参加も2名が決まった。」
ダルビードは、ここまでロンバルス領地での成果報告を説明して、ひと息入れた。次が会議の主要な趣旨であり、慎重な検討を要する難問の議題を提示しなければならない。
すなわち、アルベルド達が、2大領主の署名入りで送った事前の訪問伺いに対する、王国官僚達からの反応が薄いのか、返事が来ないことが問題なのである。
ダルビードは、この問題を次の議題として提示した。何とか、この会議で、進言具申団の行き詰まった状況を打開する必要がある。そのためには、王国官僚の反応が薄い理由を明らかにしなければならない。
理由については、会議参加者達から出された意見や風聞や知識などを基に、いくつかの予想が立てられた。田舎領のこともあり、王国中央官僚の実態の情報には皆疎い。したがって、問題は、それらの予想の信憑性を把握し、対策案を創出して早急に実行することである。
有力そうな理由は、次の三つに絞られた。
一つは、伺い書を受け取った担当者クラスの相手が、実務能力や責任意識のないぼんくら達であるという予想。これに相当するのは、世襲かコネで役職に就いた者だ。
二つ目は、悪意の者が伺い書を止めているという予想。これは、悪知恵の働く厄介な相手で上昇意識の強い次官クラスの人物だ。
三つ目は、二つ目の次官クラスが狙う対象の長官か大臣クラスの幹部官僚が却下する判断を下したという予想である。
これら三つの予想は、決定的な証拠や事実の裏付けを欠くが、いずれも可能性としてありそうだとされた。結局、午前中の会議では、どのレベルの人物を対象に伺い書を送るべきか、結論が出せなかった。
エドアルドは、会議メンバーが昼食で散開する中、デイビードをつかまえて、午後の会議にユリアを参加させて、この問題を検討させたいと提案した。デイビードは、軽く笑って、一緒に昼食を取りながら、直接聞いて見たらどうかと逆提案した。
エドアルドとデイビードは、ポーション作りの途中で昼食を取っているユリアを見つけて、同席した。そして、会議での懸案事項を説明して、ユリアの意見を求めた。ユリアは、少し考えてすぐに話だした。
「こちら側の進言具申団の団長さんは、辺境伯様の名代のアルベルド様です。資格からいえば辺境伯様本人と同じですよね。また、同行しているガスゴーシュ様は、隣国の国家高級官僚で、たぶん、皇帝陛下の親書をお持ちで、言わば皇帝陛下の名代です。
王国の国家組織が、そのような相手からの伺い書を蔑ろにした場合、王国は、国内的にも、国際的にも、組織体制の健全性を疑われ、忠誠心ばなれや、国家間信頼関係の崩壊を招く危険性が生じます。
現在の、辺境伯家と王国組織との親密度は、どんな感じですか?」
これには、エドアルドが答えた。
「辺境伯家は王国組織に対して、基本的につかず離れずだが、この数年は少し距離を置いて対応している。」
「なるほど。その距離感は、少し影響しているかも知れませんね。」
エドアルドがしかめ顔で言う。
「王国組織との関係が面倒になるか?」
「言葉の選び方と言い方次第だと思います。あくまで、私の無責任な私見を述べさせてもらいます。
訪問伺い書を出す側のすぐ背後には辺境伯と侯爵がいて、ガスゴーシュ様の背後には隣国皇帝陛下がいます。このレベルに見合う王国組織の相手は、少なくとも次官クラス以上で、妥当な線は宰相か担当大臣クラスとなります。
本来は、そこに送るべきでしょうが、先ほどの人物的な問題があるのなら、それらの三つのレベルに並行して送ればいいのです。それを、こちら側の本気度の証として王国側に見せ付けます。
さらに、そのレベルに合わせた、いくつかの脅し文句を添えてください。
そのひとつは、組織上のほかのレベルの者にも同じ伺い書を送っていると知らしめることです。これで、組織内で握り潰されることを防止します。
二つ目は、隣国の皇帝陛下の親書を携えた国家官僚を同伴していること。これで、下のレベルから上のレベルに上がることを保証します。
三つ目は、早急にしかるべき処理がなされない場合は、王国組織の機能不全や誠実性の欠如が疑われ、領地の忠誠心を失い、国家間の信頼関係にヒビが入りかねないこと。これで、少なくとも、話を聞いてもらえない事態を防止します。
なお、このような脅し文句を入れたことについて、既に先に送った伺い書の返事が未だに届いておらず、握り潰されたか、放置された疑いがある点を書いて、正当性を主張すれば良いかと思います。
また、王国組織との会合が実現した際には、先の伺い書の存在行方調査とその結果に応じた釈明を求めるように、強気に出るべきと思います。王国組織内での機能不全なのか、人をばかにしてるのか、はっきりさせましょう。
それによって、今後の王国側との付き合い方を考え直さねばなりません。こちら側が被害者意識を持ちながら、泣き寝入りしたり、下手に出る必要はありません。もし険悪な雰囲気になっても、そのような王国組織やそれに追従する領地など、進言具申団が背景とする国家や領地の相手ではありません。」
エドアルドは、ユリアの私見だという過激な意見を聞いて、若干引き気味ながら、礼を述べた。
「ユリア。君の意見は、有難く拝聴させてもらった。午後の会議で提案してみる。ただし、ユリアの私見であることを、事前に開示させてもらうぞ。」
「はい。構いません。皆様の社会的な立場や責任というものを全く考慮しない、子供の戯れ言と聞き流されるものと予想いたします。それでは、医薬部門に戻りますので、これで失礼させていただきます。」
「デイビード叔父上。ユリアは、過激思想の持ち主なのですか?大人顔負けの論理的思考で問題の深掘りをして、解決策を矛盾なく構築していく手法は見事ですが、採用にはちょっと二の足を踏む思いです。」
「エドアルドよ。ユリアの提案や最後の予想は、おそらく、ユリア独自の鋭い勘と絶妙のバランス感覚に裏打ちされたものだと思う。正当性はこちら側にあるんだ。我々が言葉選びを間違えなければ、王国側の感情を逆なですることはないということだな。それだけに、ユリアの意見を採用するときは、我々の責任で十分に注意する必要がある。」
午後の会議は、定刻通りに始められた。
ダルビードが、午前の会議で懸案だった、3つのレベルのうち、どのレベルの人物を対象に伺い書を送るべきか、ということに対して会議出席者の意見を求めた。しかし、誰も意見を言うものがいない。
エドアルドは、挙手をして、ダルビードの許可を得て立ち上がった。そして、ユリアの私見であることを断って、3つのレベルに並行に伺い書を送る案を開示した。同時に、その伺い書が、放置や握り潰しや却下などされることを防止するための脅し文句も開示した。
その案をめぐって、会議は喧々諤々の混乱状態に陥った。デイビードも、エドアルドの援護で発言し、ユリアの案の合理性を説いた。
最終的に、エドアルドが提案したユリアの私見の、3つのレベルに並行に伺い書を送る案は、会議決定事項として採択された。伺い書に脅し文句を付随させる点についても、条件付きで採択された。すなわち、慎重に言葉選びと言い回し表現に気を配った素案を会議採択案として、隣の領地にいるアルベルトに送ることになった。
会議で採択された、訪問伺い書の王国組織への提出先を含む採択事項は、後方支援部隊の責任者であるダルビード名の書簡で、早馬便を使って進言具申団の団長アルベルト宛に送られた。
アルベルドは、届いた書簡を進言具申団の主だったメンバーと回し読みした。メンバー一同は、あまりにも斬新で綱渡り的な内容に、しばらく呆気に取られていた。
アルベルドは、こんな案を考え出す人物はユリアしかいないと、ひとりで納得していた。それと同時に、再度の訪問伺い書が極めて有効に機能するであろうことを予感した。いや、もうひとり、隣国の国家官僚であるガスゴーシュも、同様のことを予想した。
((えぇーっ。私の無責任な私見を採用しただなんて、無謀極まりない人たちですね。ほんとうに責任は大人が持つんですよね。さすが、辺境伯家といったところ。私も、昼休みだけで済んで、ポーション作りを邪魔されなくてよかったわ。))
少女の無責任な案は会議で議論の末、大筋合意に至り進言具申団の元へ届けられましたね。それにしても、王国は大丈夫なんでしょうか。心配です。それではまたお会いしましょう。




