45.少女は辺境伯家に究極の貢献をする
少女はポーション作りに励み、思いもしなかった聴聞会に引っ張り出されます。
ーーー 場面は辺境伯家居城内、時は貢献の進捗を確認した翌朝
ユリアは、メイドのメイリアの給仕で朝食を済ませると、すぐに医薬部門に向かった。
((丸投げした直接の蝗害対策は順調に進捗していて、もはや私が手や口を出す必要はなかったわね。
あと私が自分でやるべきことで残ってるのは、後方支援のマナポーション作りだけになったわ。超特級グレードのお陰で上級グレードの六分の一の本数で済むのは、思わぬ幸運だったわね。
当初の予定数全てを、ここにいる間に作りたいな。だけど、協力をお願いしたマジョルーサ様のことは、お顔が変になるほどやりすぎないように注意しないとね。))
「おはようございます。マジョルーサ様。ユリアです。いらっしゃいますか?」
「ああ、いるよ。入っていいわよ。」
「お邪魔いたします。あれっ。お顔が変になっていますよ。また、目の下に隈が出来てます。今度は、何を作って徹夜なさったのですか?」
((あーっと、マジョルーサ様。注意するのが遅かったわ。))
「何をいまさら寝ぼけたことを言ってるのかしら?君が提供したマナ草でマナポーションを作っていたに決まってるでしょう。君の後方支援への分担協力のつもりなんだけど。」
「え ぇー。そうだったのですね。大変ありがとう存じます。でも、お体の方は大丈夫なのですか?」
「ああ。これくらいは何ともないさ。私はまだ若いんだよ。それより、私の分担協力の分はこれで完了したからね。今日からは君が作るんだよ。残り、全体の三分の一弱だ。君なら、午前と午後の作業で4日もあれば完了するでしょう。頑張りなさい。」
「はい。予定よりも多く分担していただき、感謝申し上げます。この調合室のテーブルや器具類はお借りできますよね。」
「もちろんです。私は、製造主任者としてここにいて監督しながら、論文の書き物をします。内容は、君と共同して発見した、ポーションのグレードに及ぼす魔力注入形態の関係についてです。」
「私が共同した部分って有りました?あの日、私が来た時には、マジョルーサ様が全て解明済みでしたよ。私は、後付けで魔力組み合わせとグレードを当てただけです。」
「そんなことはありません。君の共同部分は、最初の品質鑑定用の試供品の製造実技と、私に施した再生プロセスと、先ほどの魔力種類の組み合わせとグレードの関係を追認してくれた、という最重要部分なのです。」
「なるほど。理解しました。でも、私は、論文作成自体には何も関われません。論文完成後の取り扱いもマジョルーサ様に一任いたします。よろしくお願いします。」
「もちろん。それでよろしくてよ。ところで、君の再生プロセスや荒技の指導が、一族上層部で議論を呼んでいるのをご存じかしら?なんでも、聴聞会が近く開かれるとか。」
「なっ、なんでそんなことになっているんですか。確かに、再生プロセスを受講された皆様やその他の騎士様たちが、続々と本来の金縛り魔法を習得されていると聞いています。また、エドアルド様が、一家相伝に批判的であることも存じています。たぶん、もっと合理的な習得プロセス検討の必要を具申されたのでしょう。マジョルーサ様は、聴聞会の趣旨と対象者をご存じなのですか?」
「ああ。ヴィルムード殿とメイヤールから聞いて知っているよ。聴聞対象者である君に、事前に知らせておけとのことだったな。趣旨は、一家相伝の伝統的な習得段階を順序通り踏まないで、なぜ短期間でほぼ完全に習得することが出来たか、を知りたいらしい。」
「はい。ありがとうございます。でも、それは、マジョルーサ様ならご存知のはずでしょう?なぜ、その場でお二方にお教えにならなかったのですか?」
「なぜって、私も、君の口から金縛り魔法の真髄を聞いて、答え合わせをしたいからさ。」
「さようでございますか。でも、おそらく、お二方の疑問には、その真髄を語るだけでは足りません。いいでしょう。私の希望としては、一族の上層部の方々だけでなく、一族の子供たちや、再生プロセス受講者や、一族外の騎士様で金縛り魔法の習得者も、聴聞会の傍聴者として参加いただけるとありがたいです。主催者にお伝えいただけないでしょうか?」
「分かりました。私から伝えておきましょう。」
「それでは、今日の午前中分のマナポーション作りを始めます。よろしくお願いします。」
ユリアは、この日の午前と午後で、超特級グレードのマナポーション36本を作り上げた。
ーーー 場面は辺境伯家居城、時は聴聞会の当日の朝
ユリアは、デイビードと連れだって食堂に入った。先に、ダルビード一家が席について配膳を待っていた。デイビードとユリアは、挨拶して、その近くに同席した。
ダルビードが会話の口火を切った。
「おはよう。デイビード、ユリア。今日は、なにやら、聴聞会なるものがあるとか。ヴィルムード兄上もメイヤールも、いつになく大げさだね。100人を超える傍聴者を集めるらしい。」
「ダルビード兄上。その傍聴者数を希望したのは、ユリアの方なのですよ。」
「ほう。ユリアも、ずいぶん張り切っているね。何か考えがありそうだな。」
「はい。ダルビード様。傍聴者の方々には、わたくしの持論や主張の賛同者となって頂こうと考えています。」
「そうなのか。それは用意周到だな。どうなるか楽しみだ。」
次は自分の番だとばかり、話すのを待ちきれない様子でナターシャが口を挟んだ。
「ユリア。先日は、アンジェリカのバイオリン演奏のお手伝いありがとうね。お礼申し上げるわ。アンジェリカったら、1曲通してしっかり演奏できたって、うれし泣きで戻ってきたのよ。でも、これまでとは違う自信に満ちた顔だったの。わたくしもうれしかったわ。」
「もう、お母様。恥ずかしいから黙っててとお願いしたのに。でも、ユリアが初めての楽器演奏に試行錯誤しながら足掻いている姿を見て、自分も足掻いて見ようと思ったの。ユリア、ありがとう。」
「アンジェリカ様。悪足掻きする時間だとおっしゃったのはレスターニャ様ですわ。わたくしはそれに従いましたし、おそらくアンジェリカ様もそうなのでしょう。お礼の言葉はレスターニャ様にどうぞ。」
ジェイムスンも、うずうずしながら身を乗り出すようにして話し出した。
「ユリアは、ちょっとした軽妙な受け答えが得意なんだな。今日の聴聞会を前にして、少しでも緊張を解そうという秘策のひとつなのかな?」
「ありがとうございます。ジェイムスン様には、聴聞会でわたくしの主張を証明する証人として証言していただけますか?」
「あれれ。僕が?証言?なんだ、それ。冗談はよしてくれたまえ。そんな緊張することは断固断る。」
デイビードは、ジェイムスンを慰めるように言った。
「ジェイムスン。今のはユリアの悪い冗談だよ。君は、いつもユリアに意地悪な皮肉を言われていない分、私よりは、まだ被害が小さい。安心しろ。」
デイビードがそう言うと、ダルビードが息子を援護して窘めた。
「デイビードよ、今の慰めに、安心できる要素なんてないぞ。ジェイムスン、お前も、軽くウイットを効かせて即座に言い返せるように、今から練習して置け。ユリアはいい練習相手かも知れんぞ。」
「はい。わかりました。父上。ユリア、よろしく頼むよ。」
「わかりました。わたくしは、まだ年端もいかない幼児ですので、言葉の用い方も拙いですが、よろしくお願いいたします。」
朝食が済んで、ダルビードが、ユリアを励まして促すように言った。
「さて、ユリア。これから楽しい聴聞会に乗り込むぞー。」
「おぉー。」
ーーー 場面は聴聞会の会場となる会議室
聴聞会の会場である会議室には、既に、主だったメンバーが集まっていた。
会議室正面の重厚な長机の議長席と椅子には、中央にヴイルムードが座り、その左側にメイヤールが座り、右側に順にダルビード、デイビードが座った。
正面に対面するように、小さな長机と椅子が設えてあり、ユリアはその中央に座った。ユリアの両側には、エドアルドとマジョルーサが座った。
傍聴者100名ほどは、ユリアたちの後ろ側で、複数並べられた会議用の長机の椅子に座った。
聴聞会の議長はヴイルムードが務め、メイヤールが主にユリアに対して尋問を行うようだ。
ヴイルムードが小槌を打って聴聞会の開始を宣言した。
メイヤールが立ち上がって、議長席とユリアの間に歩み出て、若干芝居がかった身振りや口調で尋問を開始した。
「私は、騎士団長のメイヤールだ。初めに、この聴聞会の趣旨を簡単に説明する。ここ、ヴィルダー辺境伯家一族の一家相伝の金縛り魔法が、なぜ、伝統的な訓練段階を踏まずして、多くの者によって短日時で次々と習得されているのか、という、この1週間ほどの不可解な事象の理由を明らかにして、今後の一家相伝のあり方の再構築に資するという趣旨である。なお、再構築の部分は、エドアルド殿の進言である。」
((おっと。素直で前向きな趣旨ですね。まだ説明続きますか。))
「ここ、ヴィルダー辺境伯家の一族は、代々伝わる伝統的な複数の訓練段階を順序良く踏んでいき、最終的に一家相伝の金縛り魔法を習得することになっている。もちろん、その訓練段階の途中で、次の段階に進めずに落伍するものも少なからず存在する。これまで、それら落伍者は二度と正規の訓練段階に戻れる道はなかった。
ところが、そこに、落伍者を拾い上げて伝統的なものとは違うルートで、最終的な金縛り魔法を習得させるという、先ほどの事象を顕現する教導者が現れた。その教導者は、金縛り魔法の習得者に対しては、さらに火焔ビームを放射する荒技なる応用魔法を教授した。この荒技は、火焔弾を使えない騎士たちにも習得の可能性があり、我が騎士団の戦力を倍増させる実力を秘めている。
そこで、その教導者であるユリア殿に対して質問して、我々が明確に理解できる答えを求めるものである。準備はよろしいかな?ユリア殿。」
「メイヤール様。準備はできています。いつでも開始してくださいませ。」
「それでは、最初の質問。正規の訓練段階の途中で落伍した者たちが、ユリア殿の再生プロセスで、なぜいとも簡単に、最終の金縛り魔法の習得に至るのか、説明は可能ですか?」
「もちろんでございます。初めは、技術の外観上の説明です。
落伍した人たちは、魔力放射部位を両手から両目に変える段階で躓いています。しかし、そもそも金縛り魔法の本質は、目から魔力を放射することではありません。それならば、あえて両目にこだわる理由はありません。既に習得済みの両手から、本質部分の魔力を放射すればいいだけです。それも訓練が必要ですが、両目よりは魔力制御がはるかに楽です。
ここまでで、ご質問はありますか?」
メイヤールが手を挙げて質問をした。
「私は、両目から魔力を放射することが必須の要件だと教えられたが、ユリア殿はそうではないというのだな?」
「両目は必須の要件ではありません。目を使うのは、単に相手と視線を合わせれば自動的に狙いが定まるから確実に魔力が当たるということが一つの理由です。もう一つの理由は、相手の目に魔力が当たれば脳へ最短距離で到達するから、脳に大きな衝撃を与え易いという消極的理由にすぎません。しかし、大きな衝撃を与えるためならば、大量の魔力を近距離で相手の脳の近くに当ててやれば良いのです。」
「それは、私が習得したどの段階でも教えられなかった内容だ。考えてみれば、確かに合理的な代替案ではある。続けてくれ。」
「はい。次は、内面上の魔力制御の説明です。
体内と脳内で種類の異なる魔力同士の微妙な違いを識別することと、その異なる種類の魔力が通る道筋を、頭と体で想像して感じるとれるように訓練するのです。具体的には、体の中で道筋が2つに分かれて両肩から両手へ至る魔力の通り道を、感覚的に体と脳に覚えさせるのです。この感覚の引き出し方は、直前に習得した人から聞くのが一番生々しい言葉で表現してくれて分かり易いから、複数人で教え合いながら短日時のうちに訓練するのが効率がいいのです。
この効率の良さが、多くのひとが短日時で次々と習得していくことの理由のひとつです。このほか、私の再生プロセスを受講された方々が、皆さん、かつて叶わなかった金縛り魔法を習得したいという望みを捨てきれずにいた、意識の高い方々であったことも大きな理由です。
なお、伝統的な訓練段階を経て正規に金縛り魔法を習得された方々には、深い敬意を表したいと存じます。魔力制御の感覚的な訓練方法も教えられないまま、自らの多大な努力により苦労して習得されたと想像に難くありません。
これで、内面上の魔力制御の説明を終わりますが、ここまでで、ご質問は何かありますか?」
「確かに、私が訓練した習得段階のいずれでも、集団で仲間とともに教え合うということはなかった。ユリア殿のご明察の通りだ。」
「ありがとうございます。これで、基本的部分の説明を終わりますが、金縛り魔法の本質部分の説明が必要でしょうか?また、それが許されますか?」
そこで、ヴイルムードが発言した。
「いや、その説明は必要ないし、一族または既存の習得者の間だけに止めておきたい。ユリア殿の説明で、金縛り魔法の習得方法や新規魔法への応用の可能性など、新しい知見が得られ、ここにいる皆の共通認識となったと思う。エドアルドが進言した一家相伝習得プロセスの再構築も方向性が見えてきて実行段階に移せる。以上で、聴聞会を閉会とする。ユリア殿、ご苦労であった。」
((いやー。分かり易く説明するのって本当に難しいね。私自身、時どき何を言っているか分からなくなっちゃいそうだった。これで、デモンストレーションも必要なさそうだし、あとは、ポーション作りだけね。))
少女は聴聞会を何とか乗り切りました。あの伝統的な訓練段階は、訓練者に苦行を強いるような意味合いがあったのですかね。なにはともあれ、辺境伯家への滞在期間も残り少なくなりました。それではまたお会いしましょう。




