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44.少女は還元した技術のその後をフォローする

少女は辺境伯家へ還元した事物の確認に城内を回ります。

ーーー 場面は辺境伯家居城内


 ユリアは、朝起きてメイドのメイリアに身支度を整えて貰って、自らの体調を整えるとすぐに、メイリアを伴ってデイビードの部屋を訪ねた。


 デイビードは、すでに起きていて、何か書き物をしていた。ユリアが入るとすぐに書き物を止めて、ユリアに向き合った。


  「お父さん、おはよう。お邪魔だったかしら?」


  「おはよう。ユリア。いま、終わったところだ。今日は、こんな早くにどうしたんだい?」


  「朝食をお父さんと一緒に食べたいと思って。ちょっと相談したいこともあるし。」


  「そうだな。それじゃあ、いまから一緒に食堂に行こうか。」


  「うん。ありがとう。」


  「なぁーに。可愛い娘の頼みだ。聞いてやらいでか。」




 二人は、メイドのメイリアを伴い、食堂に行って席についた。配膳を待つ間、ユリアはデイビードに話しかけた。


  「お父さん。今日は、一日、メイリアさんをお供に城内を回りたいの。委託した蝗害対策手段の進捗や、還元した技術の定着を確認してフォローするわ。」


  「それは大切な仕事だな。ユリアに頼んでいいかな?私も手伝ってやりたいが、溜まった書類仕事がなかなか片付かなくてな。」


  「もちろんよ。お父さんの書類仕事には、縁談書へのお返事もあるんでしょう?立場上、当然のことよね。」


  「ああ。お前には隠し事など無意味だな。実際のところ、この領地は、必ずしも私を必要としていない。それは、お前の技術還元で、もはや確定したも同然だ。私は、今、岐路に立たされている。ハンターとして自由に生きるか、王国の役所にでも仕官するか、どこかの領主家の跡取り婿となって領地経営に力を尽くすか。」


  「お父さん。選択肢がたくさんあっていいわね。私としては、その中の3番目をおすすめよ。ただし、私という(こぶ)なしで行ってね。でも、生まれた子供たちとは、義理の兄弟姉妹になりたいわ。」


  「早くも夢を膨らませているところを悪いが、もう少し時間をかけてじっくり考えたい。」


  「もちろんよ。既にもう、二つくらいに絞り込んでるのね。ただ、ぐずぐずしてると相手は待ってくれないかもよ。」


  「相変わらずの上から目線のご忠告、有り難く受け賜るよ。」


  「ところで、今日フォローするのは、風魔法使いさんたちの、焚き火と風魔法を使った高温空気手段の習熟状況と、設備部門の、お日様の光を集める反射板型集光装置の検討状況と、騎士様たちの、接近戦の秘術や荒技の習熟状況と、蝗の大群が飛来したときの忌避剤や殺虫剤の検討状況などよ。」


  「盛りだくさんだな。私もたまに見ているが、みんな真面目に検討や訓練をして確実に進捗しているようだった。メイリアが場所を知っているから案内して貰えばいい。」


  「お父さん。ありがとう。進捗しているなら安心だけど、一応、私も確認するわね。メイリアさん、案内をお願いします。それじゃ、お父さん。今から、出かけますね。」


  「ああ。気を付けて行ってこい。まったく、忙しい子供もいたもんだ。」




 ユリアは、始めに、騎士の訓練場に行った。騎士たちの早朝訓練の終盤を見学した後、エドアルドの話を聞いた。


  「エドアルド様。おはようございます。お疲れ様です。少しお話、よろしいでしょうか?」


  「ああ。おはよう。これから朝飯だが少しならいいぞ。」


  「ありがとうございます。エドアルド様は、もう、両目の金縛り魔法を習得されましたね。ほかの再生プロセス受講者様はいかがでしょう?」


  「もちろん。彼らも習得済みだ。それに加えて、本来の金縛り魔法の持ち主たちも、接近戦の秘術は習得した。いま彼らは、その先の荒技を訓練中だ。」


  「そうなると思っていました。接近戦の秘術までは、比較的簡単ですものね。」


  「それどころか、これまで金縛り魔法に無縁だった騎士たちも、これらの技の習得可能性が出て来たことで活気づいている。皆が習得したら、我が騎士団の戦力は、お前が来る前の2倍増しにはなるだろう。いまや、一家相伝など、どこかに吹き飛んだ。」


((結構、広まり方が速いわね。そうなると、荒技の御前披露会は、やっても無意味になっちゃったね。))


  「えぇーっ。そ、それは、好ましいことなんでしょか?わ、私が、辺境伯家の伝統を壊しちゃったとすれば、メイヤール様達には顔向けができません。」


  「いや。それは、全く問題ない。俺は、その伝統とやらの被害者だったしな。俺は、いまから習得する子供たちにも、習得プロセスの方向転換をすべきだとさえ考えている。」


  「ありがとうございます。私も、エドアルド様に賛同いたします。あの一家相伝プロセスの非効率さは、なんとも形容しがたいと、密かに思っていましたもの。」


  「そこまで言うか?お前の皮肉屋の本領発揮だな。」


  「申し訳ございません。つい、口が滑りました。以後、気を付けます。」


  「ぜひともそうしろ。ともあれ、お前には感謝しかない。全くとんでもない子供がいたものだ。俺は、お前を文官に育てる積もりだったが、デイビード叔父上がお前を拾って、結果的にはよかったと思っている。」


  「私も、デイビードお父さんには、感謝してもしきれません。辺境伯家への還元で少しでも受けた恩を返していきたいです。」


  「ああ。そうしてくれると有難い。じゃ、またな。早く行かないと朝飯を食いっぱぐれる。」


  「お引き止めして、申し訳ございませんでした。」




 ユリアは、次に、資材倉庫に行って、焚き火と風魔法の高温空気手段の確認をした。


 倉庫には、鉄の棒で組んだ格子により形成した浅い箱状の火格子部と、移動のためのキャスター部が一体となった焚き火台が2台置いてあった。その傍には、風向ガイド板が、焚き火台への取り付け部とともに、2台分置かれていた。


 ユリアは、それを見て、既に一応の完成域にあると判断して、次の対策案の検討場所を目指した。




 ユリアは、同じ倉庫内の別の設備部門の区画で、作成中の、お日様光の反射型集光装置の試作品を確認した。現在は、一辺50cmの反射板を10個並べた縮小モデルの段階であった。


 ユリアは、傍にいた作業者に問うた。


  「あの、お邪魔して済みません。ちょっとお尋ねしたいのですが。」 


 問われた作業者は、気さくに言った。


  「ああ。構わないよ。なんだい、お嬢ちゃん?」

 

  「この集光装置は、既にお日様の光で試験をされた物なのですか?」


  「お、よく知ってるね。ああ、そうか。君が発案者だな。その通りだ。良く晴れた日に試運転をした試作品だ。その結果、枯草を4秒ほどで発火させることが出来た。画期的なアイデアの加熱装置だとみんな感心していたんだ。」


  「うーん。なにか、不具合か、改善点を見つけられたようですね。」


  「分かるかい?その通り、いくつか改善すべきところがあった。ひとつは、光を一カ所に集めるための、個々の反射板の向きを調節するのに時間がかかることだ。ほかは、太陽が時間と共に移動するのに合わせて、全ての反射板の角度を簡単に調節するための機構が必要ということだな。」


  「なるほど。それは、結構難しそうですね。私もちょっと考えてみましょう。」


  「いや。お嬢ちゃんが、これ以上この装置に関わる必要はないよ。この仕事は、この設備部門に完全に移管されたからね。我々のプライドに賭けて、実用的装置に仕上げて見せるから安心してくれ。」


((うふっ。丸投げが成功したね。気前よく受け取ってくれてよかった。))


  「力強いお言葉、ありがとうございます。辺境伯家の皆様は、優秀過ぎますね。それでは、よろしくお願いします。」




 ユリアは、また、移動して、農業管理部門にやって来た。ここの研究チームは、エドアルドの指示で、農業専門文官ボタニナスを責任者として構成されていた。当初から、医薬部門と共同で忌避剤(きひざい)と殺虫剤の検討を進めていた。


 ユリアは、上級研究者らしき一人をつかまえて話を聞いた。


  「あのう、お忙しいところ、すみませんが、お話を伺ってもよろしいでしょうか?ユリアと申します。」


 その研究者は、ユリアの名前を聞いて、目を見開き、即座に反応した。


  「おおっ。貴女様があのお手紙のユリア様ですか。私は上級研究員のサイネリテスと申します。お会いできて光栄です。私たちは、失礼ながら貴女様からの手紙に記載された全てについて、真偽を確認させていただいたのです。」


  「そうだったのですね。皆様には、余計なお仕事をさせてしまったようで、申し訳ございません。」


  「いえ、その逆でございます。ボタニナス殿からは、蝗害対策について研究を始めておくように指示されていました。とは言え、なにも有力な手掛かりが無く、途方に暮れていたところだったのです。あのお手紙は、その状況を打開する、まさに天啓だったのです。」


  「お役に立てたのなら何よりです。辺境伯家の危機意識の高さと動きの速さには感服いたしました。私のエドアルド様宛の手紙が、放置されずに皆様のもとにすぐに渡ったのも当然のことでしたね。」


  「幹部の方々は皆さま優秀です。私たちも見習って、すぐに手紙で示されたすべての出典文献に全力で当たりました。それでも、現代語のみならず古典語や外国語にまで及ぶ貴重な書籍の数々を探し出すのには大変苦労しました。でも、書籍を見つけた後は、正確な記載ページが手紙に添えてあったので調査が急速に進み始めました。」


  「さようでございましたか。情報の裏付けは必須のことと存じますので、出典をちゃんと明示してよかったです。」


  「いい心がけでございます。私たちは、記載ページにたどり着いて驚嘆しました。手紙の記載内容が、書籍の記載とほとんど一字一句違わなかったのです。まさに、神がかり的な記憶力の持ち主だと、皆お会いするのを楽しみにしていたのです。」


  「私も、皆様にお会いできて嬉しく存じます。ところで、その後の研究は進捗していったのでしょうか?」


  「はい。仮に、蝗の大量発生を現地で防止できなかった時の最後の防衛手段として、いくつかの手段案を考えてあります。今は、それらの効果確認の段階です。また、それらのいくつかは、普段の年の昆虫や鳥による食害抑制にも効果が見込まれています。」


  「例えば、どのような手段案がありますか。差し支えなければ、お教えいただけるとありがたいです。」


  「はい。こちらの紙に一覧表にして簡単にまとめています。一つは、蝗の成虫も幼虫も忌避する植物の利用です。その利用形態は、圃場の単位広さごとの区画を囲う植物生垣(いけがき)の形成です。別の利用形態は、その植物から抽出した忌避成分を溶かした水を、飛来した群れに向けて気流の上流側から噴霧しまくる形態です。ほかは、細目の軽い網を風魔法で圃場のすぐ上を覆うように靡かせ(なびかせ)て、蝗が作物に近づけないようにする手段案です。網自体は小規模の広さの試作品を完成済みです。ほかにいくつかありますので、ご覧ください。」


  「サイネリテス様、皆さま。大変すばらしい研究成果で、感服いたしました。私が口を出す余地は、もはやなさそうです。これらの研究の今後については、辺境伯家の幹部の皆様にお任せいたします。今日は貴重なお時間をいただいてありがとうございました。」




((ふーっ。やっと今日予定した確認事項の見回りがすべて終わったよ。関係者の皆さん、優秀すぎて私はフォローも何もしなくてよさそう。後は、マナポーションの予定数を作れば終わりだね。マジョルーサ様がいっぱい作ってくれないかな。あっ。また、目の下に隈ができて顔が変になっちゃうかな。))



少女が辺境伯家に還元した技術や蝗害対策案はすべて辺境伯家の関係者に吸収されて発展していました。少女がするべきことは少なくなってきましたね。今後は何をするのでしょうか。楽しみです。それではまたお会いしましょう。


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