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42.少女は狩人の男と街を歩く

少女は今日一日お休みをとって、食堂で朝食をとった後、狩人の男と街に出かけます。

ーーー 場面は辺境伯家の居城、時は荒技の訓練後のある日


 今朝、ユリアはメイドのメイリアに起こされる前に自ら起きた。ユリアは、メイリアに身支度を整えてもらいながら、今日の予定を話した。


  「メイリアさん。いつもありがとうございます。今日は、デイビードお父さんが、街の中を案内して下さるのよ。」


  「それはようございました。ユリア様には、そろそろお休みが必要な頃だと思っておりました。朝食の後、すぐにお出かけになりますか?」


  「デイビードお父さんがここにお迎えに来てくれるの。一緒に朝食を取った後、そのまま街に出かけます。」


  「畏まり(かしこまり)ました。今日のお召し物は、外出着にもなりますよ。よくお似合いでございます。」


  「これも、アンジェリカ様が小さい頃お召しだった物なのね。とってもセンスがいいですわ。」


  「そうでございましょう?アンジェリカ様とお母上様との合作なのです。」


  「そうなのですね。少しうらやましいですわ。」


 そこにドアをノックする音がして、デイビードがユリアを迎えに来た。


  「ユリア。準備は出来たか?今から朝食に行けるかい?」



 二人は連れだって廊下を歩き、食堂に入って行った。ユリアは、奥のテーブルで配膳を待っている3人連れと目が合った。デイビードが先に声をかけた。


  「おはようございます。ダルビード兄上、ナターシャ義姉上、アンジェリカ。ご一緒してもよろしいでしょうか?」


  「おはようございます。もちろん構いませんわ。どうぞこちらへ。」


  「ありがとうございます。」


  二人は、ダルビードの横で、ナターシャとアンジェリカに向かい合うように座った。


 ダルビードが話の口火を切った。ほかの二人も何か話しかけたそうにしていたが、遠慮したようだ。


  「デイビード。エドアルドから聞いたぞ。なにやら、既存の火魔法や金縛り魔法をも超えるような、破壊力の凄まじい荒技を開発したようだな。今度、皆にお披露目するとか。」


  「はい。ダルビード兄上。その予定でいます。ただし、その荒技の発想者かつ先駆者は、このユリアなのです。」


  「ほう。ユリアの見た目の幼さからは想像もつかないが、もはや、師弟関係が逆転したということか?」


  「はい。ユリアは、辺境伯家の一家相伝の遙か(はるか)先を走っていて、私たちは置いていかれてます。」


 そこで、ユリアが手を挙げて、口を挟んだ。


  「ダルビード様、お父さま。お話しの途中で大変失礼とは存じますが、誤解なきよう弁明させていただきたく存じます。」


  「ああ。構わないよ。続けて。」


  「ありがとう存じます。私が発想し実践して得た新技術は、全てデイビードお父さまの厳しい教育で身に付けた物が基礎となっています。辺境伯家の一部の方々には、それらの新技術の実践訓練を実施しております。ご参加の方々には新技術を習得いただけました。決して、置いて行ってる訳ではございません。」


  「だそうだ。デイビードよ。」


  「 ユリア。済まない。言い過ぎた。確かに、再生プロセスしかり、荒技の実践しかり、ポーション作りしかりだな。ユリアの貢献は、既に計り知れない。」


  「そうだな。私がうれしかったのは、エドアルドを正に(まさに)再生してくれたことだ。あいつが脱落確定した時の落ち込み様は見ていられなかった。


 ところで、ポーション作りの件は金縛り魔法なんか目じゃないほど難問だぞ。戦いばかりでなく、医療や生産や生活全般に影響する技術だからな。ユリアの意向は聞いているが、辺境伯家の判断も尊重してほしい。」


  「はい。承知しております。その技術も、金縛り魔法の上に成り立つものですから。」


 そこまで聞いて、ナターシャが口を挟んだ。


  「そろそろ、わたくしもお話ししてもよろしいでしょうか?」


  「ああ。済まない。遠慮なくどうぞ。」


  「ユリア。ナターシャよ。アンジェリカの母です。よろしくね。アンジェリカから、貴方がとても聡明(そうめい)だと聞いていますよ。なにやら、ドレスのデザインを褒める(ほめる)のに目の付け所が鋭い上に、表現することばの選び方がスマートだとか。どこでどのように勉強すればそんなセンスが身に付くのかしら?」


  「ナターシャ様。ユリアでございます。よろしくお願いいたします。ご質問の件でございますが、ご高察の通り実践して身に付けた訳ではございません。村の教会の神父様から貸し与えられた物語本や衣装図鑑などから推定して学びました。例えば、ほめ言葉の表現の数々と、意匠の名称とそれが狙う雰囲気や強調ポイントなどから、着用者とよく合うものを選び出すやり方を学びました。」


  「なるほど。アンジェリカが負けを認めるはずですわ。先ほどはごめんなさいね。貴方にとって、とても意地悪な聞き方をしました。でも貴方はさらりと流しながら正確な答え方で返してくれましたね。ありがとう。」


  「いいえ。意地悪でもなんでもございません。わたくしが、田舎村の出自であり、幼児であることを勘案されたうえで、疑問点を明示した最も適切な聞き方でございました。わたくしの方こそ、ナターシャ様が正確な答え方と仰って下さったことにお礼申し上げます。


 ドレスを褒めることは、町の女性にとっても円滑なお付き合いのために必須でございます。わたくしも、いずれ大きくなってドレスを纏う機会があるかもしれません。その時に、お相手様の心が軽くなるとか、高揚するようなところをドレスの中に見出して、適切な言葉で表現して褒めて差し上げたいと今から心がけています。」


  「ご高説ありがとう。立派な心掛けですよ。ユリア。今後の参考にさせていただくわ。」


 続いて、アンジェリカが母の言葉を継いだ。


  「ユリアの言ったことは半分も分からなかったわ。それより、今日は、わたくしの小さい時の外出着を着て下さったのね。それも良くお似合いで可愛いわ。ユリアは何を着てもよく似合って見えるのかしら?」


  「そんなことはございません。アンジェリカ様。アンジェリカ様がナターシャ様と共にによく考えて作られたデザインだからこそ、いまのわたくしにも似合って見えるのでしょう。」


  「ユリアには、本当にかなわないわね。ところで、わたくし達と音楽を学びたがっていると聞きましたわ。何か、楽器の演奏をしてみたいのかしら?ちようど明後日は、午前中に器楽曲の演奏を練習する予定ですわ。よければご一緒にいかがかしら?曲目はいくつかあって、楽器も、鍵盤、バイオリン、横笛、縦笛とか有りますわよ。」


 ユリアは、目を輝かせてデイビードの方を見て頷き、是非練習に参加したい旨を述べて、皆に了承された。


 その後、ダルビード達は先に席を立ち、各自の部屋に戻って行った。ユリアは、アンジェリカに手を振って見送った。


 しばらくして、デイビードとユリアも朝食を終えた。そして、一緒に食堂を出て、徒歩で本館前広場から街に出た。

 



ーーー 場面は変わって領都ヴィルドブルグの街中


 デイビードは歩きながらユリアに尋ねた。


  「ユリアはどこに行きたい?」


  「そうね。ここから歩いて行けるところに、桶屋さんとハンターギルドはあるかしら?桶屋さんでは、森で湯あみして体を清めるときの桶で、お湯に浸かれるくらいの大きさと深さの桶が欲しいの。ハンターギルドでは、ハンター3級を受験するための必要事項を調べたいの。ついでに、高位のハンターたちが訓練していれば見てみたい。」


  「たしか、桶専門店が近くにあったな。希望のものがあるかは分からないが。それに、ハンターギルドもその先の比較的近くにある。初めに桶屋に行ってみるか?」


  「うん。そうしよう。」


 二人は、100mくらい歩いて桶屋に入った。ユリアは、希望の湯あみ用の桶のほかに、解体した肉塊を一時的に溜めておく方形のトレイを買ってもらった。ユリアは、桶とトレイを収納魔法に収納した。


 それから、二人は、さらに歩いてハンターギルドに到着した。二人がドアを押して中に入ると、中のホールには、10数人のハンターたちが見えた。何人かのハンターたちは、入ってきた二人のうち一人が幼児であるのを見て、珍しいものを見たとでもいうように凝視していた。


 二人が受付カウンタに着くと、受付職員が定型の受付言葉を返した。


  「おはようございます。お客様。本日はどのような御用でしょうか?」


 ユリアがハンター証を示して斜め上を見上げるように受付職員に尋ねた。デイビードは、ユリアの脇に寄り添って立った。


  「おはようございます。お尋ねしたいのですが、よろしいでしょうか?」


 ユリアは、受付職員の返事を待って、聞きたい内容を端的に話した。


  「はい。ハンター3級の受験資格と試験項目や受験費用と試験頻度などをお聞きしたいのと、あと、ハンター訓練場の見学ができれば、お願いします。」


 受付職員は、事務的な口調で答えた。


  「ハンター3級の受験資格は、4級のハンターが、指導資格保有者の指導の下で指定魔物の単独討伐回数が5回となれば得られます。試験項目は、能力確認筆記試験が、魔物の種類ごとに特徴と能力レベル、討伐の必要級レベルと必要人数、討伐戦術など、ほかに、応急手当、退却戦術などがあり、実技試験は、魔法攻撃の威力確認、物理防御、魔法防御の耐性確認があります。そのほか、詳しいことはこちらの資料をお求めください。また、受験費用は銀貨5枚、試験頻度は年4回および必要時です。ハンター訓練場の見学はハンター証をお持ちであればいつでも可能です。」


  「詳しいご説明ありがとうございました。この3級受験資料をいただけますか?」


 ユリアは、デイビードに大銅貨3枚で資料を買ってもらった。その後、二人はハンター訓練場へ見学に行った。訓練場では、10名ほどが各自訓練を実施中であった。皆、主に魔法攻撃の訓練で、火焔弾を飛ばす火魔法を実践していた。ほかには、弓矢の訓練ブースがあるが、実践しているの一人だけであった。


 ユリアが、デイビードに尋ねた。


  「火魔法の火焔弾って威力ありそうだね。飛距離はみんな10mくらいだけど、あれで最長飛距離なの?」


  「ああ。10mは最長クラスだ。俺は、5~6mくらいがせいぜいだ。それから行くと、あの荒技は、線は細いが飛距離が格段に長いから、チームで火焔弾と組み合わせれば大抵の魔物は倒せそうだな。」


  「なんだか、今からわくわくしてきたよ。あの荒技がすんなり習得できたのもお父さんのおかげだね。あっ。ところで、あの火魔法の人たちは共同作戦が成立したら、かの地へ遠征に行ってくれるのかな。」


 二人が、そんな話をしているところに、それまで、弓矢のブースで実射訓練していた、大柄で引き締まった体躯の男のハンターが近づいてきて話しかけた。


  「よう。お二人さん。また会ったな。俺だ、エルブライド町のグラリアスだ。ここに来たのは、お前たちが話していたように、火魔法使いで遠征に参加できそうな人数を把握するためだ。」


 デイビードが挨拶がてら聞いた。


  「やあ。奇遇ですね。グラリアスギルド長。忙しい身なのに、余計な仕事を引き受けていただき、ありがとうございます。あそこで訓練している火魔法使いたちが遠征の候補者なんですね。」


  「ああ。その通りだ。このハンターギルド所属では10名ほどが確保できそうだ。ところで、俺の得意武器は弓矢なんだが、この間の嬢ちゃんの実技試験免除の実射を見て驚いてしまってな。自分も黒点の中心に集中させたいと頑張って訓練しているが、とても無理だと諦めかけているところだ。


 それで、思い出したんだが、ちょっと前に辺境伯家騎士団に、静止的に対して百発百中の射手がいるとうわさで聞いたことがあった。お前さん、エヴァンといったか。どうせ偽名だろうがお前がその射手だな。そして、その嬢ちゃんはお前の娘か弟子というところか。辺境伯家の秘術なら、百発百中も、さもありなんだ。俺は、きっぱり諦める。


 それと、もう一つ。あの荒技ってなんだ?線が細いとか飛距離が長いとか、威力が高いとか聞こえてしまった。ま、それも当然、辺境伯家の秘術なんだろ。お前たち、いずれエルブライド町近くのダンジョンの森で魔物討伐するんだろう?その時には、あの荒技とやらを見せてもらいたいものだ。楽しみにしているぞ。」




((朝の食堂での女性陣とのお話は、令嬢のたしなみとして田舎娘で偽令嬢の私でも実践訓練になりました。それにしても、男性陣の話題寄りの私としては緊張で肩が凝りました。街では、ひょんなところで知人に出会いました。私たちの身元がばれて荒技にも興味を持たれました。人に見られても恥ずかしくないように改造が必要かも。))



少女は、朝食での淑女と令嬢を相手にお話をして緊張で肩が凝ったようです。街に出て湯あみ用の桶を手に入れました。森の生活もこれで清潔を保てます。ハンターギルドでは恩ある人と再会しました。辺境伯家での生活も少しづつ慣れてきました。音楽の授業は楽しそうですね。それではまたお会いしましょう。


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