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41.少女は狩人の男と荒技の訓練をする

少女はマナポーション効果確認実験の打ち合わせを医薬部門と行います。その後、接近戦の金縛り魔法を応用した荒技の訓練をおこないます。

ーーー 場面は辺境伯家居城、時は再生プロセスの翌朝


 ユリアは、起床してメイドのメイリアに身支度を整えて貰い(もらい)、すぐにデイビードの部屋を訪ねた。


  「お父さん。おはよう。起きてる?今日の予定を確認したいけど、いいかしら?」


  「おはよう。ユリア。いいぞ、入ってくれ。」


  「今日は、朝から1時間ほどマジョルーサ様のポーション作りの打ち合わせをするわ。昨日の午後、マジョルーサ様も接近戦の金縛り魔法を習得されたのよ。それで、マジョルーサ様が調合されるポーションのグレードが、注入する魔力に応じてどう変わるか実験で確認するの。」


  「それは楽しみだな。もし、何らかの法則性が見い出せたなら、本当に大発見だぞ。発表公開するかは、マジョルーサ殿だけでなく辺境伯家全体の問題となるだろう。」


  「そうなると思う。一応、私は自分が当事者だと認識してるけど、その議論には加わらないわ。私の意見は全て公開すべしの一択よ。これをお父さんに託すわ。辺境伯家としての決定に文句は言わない。だけど、私自身は、発案者の権利として自由に作らせてもらい、自由に使わせてもらいます。」


  「私の立場としては、辺境伯家や領地の繁栄や安寧、地位向上など、しがらみが多い。伝統的な傾向からいくと、結局は、金縛り魔法と同じ扱いになりそうな気がする。」


  「辺境伯家は、結構保守的だね。どこの領地や国家でもそうなのかしら?疑心暗鬼の時代という訳でもないでしょうに。今回の多国間共同作戦がうまく行って、国際融和(ゆうわ)の気運が盛り上がるといいね。」


  「そう考える人も、少なからずいると思う。お前が、その中の中心になったらどうだ?」


  「えっ。私は、ええっと、今は、力をつけて魔獣討伐に突き進む段階よね。1時間後には戻るわ。一緒に訓練場に行って、魔力の線に火魔法を纏わせ(まとわせ)て飛ばす荒技の初訓練をしようよ。


 エドアルド様は、どうされるかな?たしか、適性は風魔法と氷魔法だったかな。火も少しは出せるんでしょう?3人で幹部や騎士団にこれを見せたら、迫力満点でみんな腰を抜かすわよ。」


  「エドアルドには、私が声をかける。午後なら少しは時間が取れると言ってただろう。」


  「はーい。それじゃ、行ってきまーす。」




ーーー 場面は医薬部門


  「マジョルーサ様。おはようございまーす。ポーション作りの打ち合わせに来ましたぁ。起きていらっしゃいますかぁ?」


  「(さけ)ばなくても、ちゃんと聞こえている。ユリア。おはよう。」


  「あれっ。何だかお顔が変ですよ。目の下に(くま)が出来てます。さては、待ちきれませんでしたね?もう、こ」


  「ストップ。それ以上言わないで。幼児のユリアにそれを言われると再起不能になるわ。そう。その通りよ。徹夜で4パターンの作り方を試したの。どんなパターンだと思う?」


  「うーん。先にマジョルーサ様の魔法適性をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


  「いいわよ。土魔法と光魔法の2種類よ。」


  「ありがとうございます。普通は、魔力注入撹拌工程で変えられる要素は、魔力の強さの調整だけです。でもマジョルーサ様は、金縛り魔法の真髄(しんずい)に到達されたのですよね?


 それなら4パターンの内訳がだいたいわかりました。その組み合わせとは、土と光の組み合わせで強さ強弱2条件、光と火の組み合わせで強さ強弱2条件の合わせて4パターンでしょう?」


  「えぇーっ。なぜわかったの?私、火魔法のことは何も言わなかったけど。」


  「簡単な推理です。辺境伯家の皆様は、火魔法を、少なくとも生活魔法の強さ以上で普通にお使いになるようですから。」


  「それじゃあ、もう、結果も予想出来てるんでしょ?」


  「はい。大体ですけど。超特級グレードが出来たのは、光と火の組み合わせで強度が弱のパターンですね。次に、特級グレードが、土と光の組み合わせの強度が弱のパターンでできて、3番が、同じく特級グレードが、光と火の組み合わせで強度が強のパターンでできて、最後は、上級グレードが、残りパターンで出来た、といったところでしょう。」


  「なんでぇー。全て正解じゃないのよー。さては、こっそり見てたんでしょう。なーんていうことはないよね。驚かそうと思っていたのに完敗だわ。」


  「マジョルーサ様。これは、勝ち負けの問題ではありませんよ。これから先、この法則性を整理して世間一般に公開するか、辺境伯家内で留めて隠匿するか、という厄介な問題です。


 今の所、これを知っているのは、私たち二人とデイビードお父さんの3人だけです。そのうち、私は子供ですから、そういう政治的なことには関与出来ません。あしからず。デイビードお父さんとよーくご相談くださいませ。」


  「君に突き放されると、何だか激しく落ち込みそうな気がする。しかし、君の言うとおりだな。この問題は、大人が責任を負うべきものだ。デイビード殿と相談しよう。」


  「ありがとうございます。ということで、かの地へ赴く(おもむく)火魔法使い様たちへの後方支援のポーション作りも、一部で結構ですからご助力よろしくお願いいたします。」


  「わかりました。いいでしょう。一部だけですよ。」


  「ありがとうございます。超特級ポーションなら、本数も予定よりかなり少なく出来ますね。それでは、私は、これからデイビードお父さんと、金縛り魔法を応用した荒技の訓練をしますので、これで失礼致します。」


  「ああ。しっかり励むように。何とも忙しい子供だこと。風のようにやって来て、嵐のように去っていくわ。」




ーーーー 場面は変わり騎士の訓練場


 ユリアは、デイビードと連れだって騎士の訓練場に来た。よく見ると、訓練場には、エドアルドと、再生プロセスに参加した3人の騎士の合計4名が待っていた。ユリアが訝し(いぶかし)げに挨拶した。


  「おはようございます。まだ午前中ですが、ここでお仕事をされるのですか?」


 エドアルドが、偉そうに返事をした。


  「ユリア。何を寝ぼけたことを言っている。荒技の訓練に来たのに決まっているだろう。」


  「はい。失礼致しました。騎士様たちも、皆様、めでたく接近戦の金縛り魔法を習得されたのですね。おめでとうございます。それでは、ご一緒に荒技の初訓練と行きましょう。」


 ユリアは、デイビードに確認して、自分が主導権を取って進めていくことにした。


  「この荒技は、皆様が習得された接近戦の金縛り魔法に、さらに火魔法の実体を纏わせ(まとわせ)て飛ばすものです。ですから、高度の魔力制御技術が必要になります。」


 エドアルドが、途中で遮るように確認した。


  「ユリア、ちょっと待て。火魔法の適性がない者は習得出来ないのか?」


 ユリアは、落ち着けとでも言うように、手で仕草して言った。


  「皆様は、適性が無い方でも火魔法で火の実体を出現させられますよね。それも、生活魔法よりも多い魔力量で。だから、ご安心ください。これから、魔力制御の概要をご説明いたします。


 火の魔力を金縛り魔法発現に使う方は、2魔力型として、そのうちの一部を実体化させて放射魔力に絡ませてください。火魔法を金縛り魔法以外の第三の魔法に使う方は、3魔力型で、火魔法の魔力を両手に概略等分して流して実体化させてください。それだけです。」


 また、エドアルドが偉そうに聞いた。


  「それだけって、ほとんど制御の話をしてないではないか。なんだか、とてつもなく難しそうに聞こえたぞ。」


  「さようでございますか。それでは、私が先に実践してどうなるか見てみましょう。私は、金縛り魔法に生活魔法の照明と火を使いますから2魔力型です。私の一挙手一投足を見逃さずに、私の技を盗み取ってください。」


 ユリアは、収納魔法から愛用の槍を出して両手で構え、暫し(しばし)の間、肩を上下させたり、交互に前後に動かしていた。やがて、魔力の感覚が掴めたのか槍の構えを固定して30m先の的に狙いをつけた。


 その直後に、槍の先端から目に見えない魔力が的に向かって線状に飛び出した。それと同時に、火の実体がその魔力の線の周囲をコイル状に旋回しながら高速で延びた。その結果、槍の先端と的の間がコイル状の火で繋がった。その状態が2秒間ほど続いたあと火は消えた。木製の的は完全に焼け落ちてわずかな炭しか残っていない。


  「やったー。コイル状火炎ビームが30m先の的を焼き尽くしたわ。でも、普通の狩り向きではないわね。炭になっちゃう。」


 その一部始終を見ていた4人は、唖然として、しばらく声も出なかった。最初にエドアルドが我を取り戻して、偉そうにユリアに言った。


  「ユリアよ。お前、槍をどこから出したんだ?いや、それより、いまの棒状の火炎は何だ。それが、生活魔法の威力だというのか?火の範囲は小さいが、届く距離を考えると、使い方によっては火魔法の火焔弾よりも有効かもしれんぞ。」


 エドアルドの指摘を聞いて、ユリア自身も改めてびっくりした。


  「私の持つ生活魔法の魔力の種類の中で、今使った照明と火は、それら単体では単なる生活魔法レベルの強度です。でも、それらを金縛り魔法の魔力として組み合わせると、恐らく属性魔法の火魔法と同レベルの強度かそれ以上のレベルとなるようです。あっ。ちなみに、私は収納魔法持ちです。」


 ようやくデイビードも正気に戻り、しみじみとユリアに言った。


  「ユリア。お前はもう、辺境伯家の一家相伝の遥か先を走っていて、姿が見えないところにいる。私は、今見た荒業を自分が習得できるのか、全く自信がないぞ。」


  「デイビードお父さん。弱気になる必要はないわよ。ここにいるのは皆、金縛り魔法の試練を乗り越えた人たちだもの。それによって、既に相当高レベルの魔力制御技術を身に付けているの。この荒技はそれのちょっとした応用と変形にすぎないから、とにかくやってみることよ。


 お父さんの属性魔法は、水魔法と氷魔法よね。これも、たぶん最強の組み合わせだと思う。私のレベルの10倍の威力はでそうよ。がんばって。」


  「うーむ。お前が言うと、うまく乗せられてやれそうな気にさせられるよ。それじゃあー、やってみるか。私の場合は3魔力型だな。両手に均等に火魔法の魔力を振り分けて実体化させるんだったな。いくぞ。」


 デイビードは、剣を両手で持ち、ユリアの動きを真似して、体の中と頭の中で魔力の通り道を明確にルート分けして、魔力の種類の微妙な相違を把握していった。そうした準備を整えたあと、剣で的に狙いをつけて魔力を放射した。


 その瞬間、剣の先端と的とが白っぽく光る魔力の線でつながり、同時に、火炎がその線の周りを旋回しながらコイル状に高速で伸びて的と繋がった。的は火炎に焼かれて一瞬で焼け落ちた。


  「うおー。うまくいったー。ユリア。お前の一挙手一投足をつぶさに見て技を盗んでやったぞ。どんなもんだぁ。少しは見直したか?」


  「お父さん。私の尊敬してやまないお父さんだもの。うまくいって当然だわ。」


  「いや、そう言われると、却って心が休まらない。時々、皮肉を言われるくらいがいい。」


 エドアルドが、その茶番のようなやり取りを聞いて、やる気満々で言った。


  「よーし。今度は私がやる。ユリアに乗せられたわけではないが、私も二人の一挙手一投足をつぶさに観察した。きっとやれる。」


 エドアルドは、実際に、荒技を成功させた。ほかの3人の騎士たちも、皆、何とか成功させた。


 これをもって、ユリアがデイビードからこれまで受けた厳しい教育の成果の、辺境伯家への還元は一応完了した。後は、辺境伯家の幹部や騎士団に対する荒技のデモンストレーションを、今日習得した6人で華々しく実施するのみとなった。




((この新開発の荒技も何とか無事に習得出来たわ。参加した皆さんも相当に魔力制御の腕前を上げているようね。いずれ、一家相伝の免許皆伝の人たちを超える強力な戦士になるでしょう。エドアルド様の劣等感はどっか行っちゃったかしら。それにしても、一家相伝の本来プロセスは改善した方がいいんじゃない?ジェイムスン様やフレデリック様がかわいそう。それはそうと、今の私の魔力量でも、あの荒技を連続で10発くらい打てます。少し改良して習熟すれば魔物討伐にも使えるでしょう。楽しみだわ。))



少女は専属薬師様の子供っぽさにあきれていましたね。でも、もう実験する必要がないほど完璧に徹夜仕事をしてくれました。新開発の荒技も5名の有志に還元することができました。少女はここまで忙しすぎる日々を過ごしましたが休息の時間はとれるのでしょうか。心配です。それではまたお会いしましょう。


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