40.少女は落伍者の再生プロセスを実行する
少女はあの偉そうな有力者が金縛り魔法を使えるようにするための再生プロセスを実施します。
ーーー 場面はデイビードの部屋、時はマナポーション試作の翌朝
「お父さん。起きてる?おはよう。今ちょっといいかしら?」
「ああ。いいぞ。ユリア。おはよう。」
「昨日、ポーションの品質鑑定結果を聞いて思ったの。私が作るポーションが異常に高いグレードなのは、魔力注入工程で金縛り魔法の魔力を放射するせいだって。」
「私もその通りだと思う。ほかに違うところが見当たらない。私は詳しくはないが、注入する魔力で効能やグレードが変わるなんてことは聞いたことがない。そんな話は市井にも出回っていないから、もの凄く重要な新発見かもしれないぞ。」
「もしそうなら、嬉しいけど、ちょっと残念な複雑な気持ちだわ。だって、これって、一族外には情報漏洩厳禁になるよね。薬師のマジョルーサ様が、辺境伯家一族の系譜であれば、せめてもの救いになるんだけど。」
「ああ。それなら問題ないぞ。彼女は、私の従姉でメイヤール殿の姉だ。たしか、彼女も2種類以上の魔法適性保持者だ。でも残念だが、彼女も一家相伝の落伍者だったな。」
「そうなのですね。それは朗報ですよ。今日の午後から始める再生プロセスをぜったいに受けさせて、すぐに習得させます。うふっ。私がマナ草を供給して、マジョルーサ様に後方支援のマナポーションを半分作ってもらいますわ。」
「それは、とてもいい考えだと思うが、彼女の都合も考慮してやれよ。それに、私のような厳しい教育方法は止めておけよ。」
「もちろん優しく教育しますわ。ところで、一家相伝の習得率って異常に低いんじゃないですか?効率が悪すぎるわね。なんで教育方法を改善しないのかしら?お父さんは、違う魔力を体の違う箇所に集めて、同時に放射するという本質部分をどうやって乗り越えたの?なにかの間違いか奇跡でも起きたの?」
「おいおい。ユリア。皮肉屋で口の悪い性格が溢れ出ているぞ。もっと気を付けろよ。まあ、確かに奇跡かも知れない。苦し紛れに、お前が一昨日と昨日エドアルドに言ったふたつのこととほぼ同じことを、ふっと考えついたのだ。
つまり、魔力を集める体の2箇所をはっきりと別物と意識すること、目からは微量の魔力しか放射出来ないことを実感すること、のふたつだ。これが出来てから急速に習得が進んだ。
おっと。もう、医薬部門に行く時刻だろう。遅れるな。」
「はーい。行ってきまーす。」
ーーー 場面は変わり医薬部門、時は朝の仕事開始時刻
「薬師様。おはようございます。今日、これから、マナポーション作りを始めさせて下さい。」
「おはよう。ユリア。今日も元気一杯ね。いつでも始めていいわよ。あっ。私のことは名前で呼んでね。」
「ありがとうございます。マジョルーサ様。すみませんが始める前に、ちょっとお願いしたいことがございまして。」
「あら。何かしら?貴方は、義理とはいえ従弟姪ですもの。大抵のことは聞くつもりよ。」
「ありがとうございます。実は、今日の午後一番から、一家相伝の落伍者向けの再生プロセスを実行します。マジョルーサ様にもぜひともご参加いただきたいと存じます。これを習得すれば、マジョルーサ様も超特級ポーションが作れるかも知れませんよ。」
「落伍者って言い方はちょっと酷いんじゃない。大の大人が子供にそう言われると、ただでさえ落ち込んでるのに再起不能になりそうよ。ところで、その意地悪の先の話がぜんぜん見えないんだけど。」
「申し訳ございません。気を付けます。実は、金縛り魔法の真髄と、私のあのポーション作りの秘密が同じものだと判明したのです。
再生プロセスの受講者には、両目に魔力を集めて放射する段階をすっ飛ばして、いきなり最後の本質部分を習得していただきます。
それにより、騎士様には接近戦での金縛り魔法が使え、マジョルーサ様には超特級ポーションが作れるようになります。」
「なるほど。少し見えたわ。つまり、両手から本質部分の魔力を放射しながら、撹拌抽出時の魔力注入を行えばいいと言う訳なのね。それなら、私も、その何とか向けの再生プロセスを受けたいわ。どこに行けばいいの?」
「騎士の訓練場です。お昼時に、ご一緒に本館食堂で昼食を取り、そのまま向かいましょう。あっ。撹拌魔力注入棒を持っていって下さい。1回の受講では無理かもしれませんが、自主訓練も可能ですから、すぐに習得出来るでしょう。ちなみに、ほかの受講者は、いまのところエドアルド様だけです。」
「わかりましたわ。師匠。よろしくお願いしますね。それにしても、貴方の幼い姿を見ながら話を聞いてると、何だか混乱して頭痛がしてくるわね。それに、大人みたいに、ひとをぐいぐい引っ張って行くし。」
「大変申し訳ございません。皆様、そのようにおっしゃいます。その点は、改善するように気を付けているのですが、長年のくせがなかなか抜けません。」
「長年ねぇ。いいわ。理解してあげます。それでは、すぐにポーション作りに取りかかってね。」
「ありがとうございます。早速始めます。」
ユリアは、昨日と同じ要領でマナポーション作りの工程を進めて行った。
ーーー 場面はまた変わって騎士の訓練場
昼食を終えて、ユリアとマジョルーサは騎士の訓練場に着いた。そこには、既に、エドアルドのほか、数名が集合していた。彼らは皆、辺境伯家の一家相伝の系譜のようだ。
「皆様、こんにちは。私は、デイビードの娘のユリアと申します。本日は、再生プロセスの講師を務めます。よろしくお願いいたします。
ここにお集まりの5名の皆様には、既に習得済みの、両手から魔力を魔力のままで放射する段階から、いきなり最終段階を訓練していただきます。習得すれば、騎士様は接近戦での金縛り魔法の使い手になれます。薬師様は高級グレードのポーションを作れます。
では、始めに、エドアルド様、昨日と一昨日に私から差し上げた事前の補助訓練とヒントの内容について、皆様と共有出来ように、ご説明下さいませ。」
「ななっ。いきなり、私へのむちゃ振りか。まあ、いいだろう。皆、簡単に説明するから良く聞いてくれ。
まず、事前の補助訓練は、右手と左手を肩の付け根から別物だと明確に意識することだ。それと、2種類の魔法の魔力の微妙な違いを意識し、区別出来るようにすることだ。
次に、ヒントは、目から放射出来る魔力量は、手から放射するよりも遙かに少ないということだ。これは、ここにいる受講者に立ちはだかった段階を超えるためのヒントで、遠距離の金縛り魔法習得につながる。」
「はい。よく出来ました。では、続きまして、模擬槍を使って、受講者のお一人を相手に、接近戦の金縛り魔法を実演していただきましょう。エドアルド様。よろしくお願いいたします。もう、習得されましたよね?」
「うっ、ユリア。お前は何もかもお見通しか?その通りだ。しかたない。では、君、相手をしてくれ。たぶん、一瞬だけ、視界がなくなり動けなくなるだけだ。槍自体で突いたりはしない。」
エドアルドは、受講者の一人を相手役として、模擬槍から2種類の魔力を同時に放射した。相手役の受講者は、少しの間、何かむず痒いような、苛つくような素振りをした後、急に動かなくなり静止した。2秒ほど後に、相手役は気が付いて左右を見回し覚醒した。
「はーい。よく出来ました。エドアルド様、実演ありがとうございました。3日もかかりませんでしたね。何か、困難を乗り越える工夫はなさいましたか?」
「工夫といえば、さっきの事前の補助訓練の内容を、じっくりと体で感じることが出来るまで、体の中の構造や魔力の流れを頭と体で探り続けたのだ。」
「ほかの皆様も、いまのエドアルド様のご説明で何かを掴まれたと思います。後は、皆様自身でその何かを実行することが訓練となります。私からは、これ以上に適切な説明は無理でございますので。あしからず。」
「ユリア。お前、講師として無責任過ぎだぞ。俺に説明せて実演させただけではないか。それに、これのどこが再生プロセスなのだ。もっと、金縛りが生じる理論とか、魔力操作の具体的手法とか、手取り足取り教えてくれるのではなかったのか?」
そこに、マジョルーサが口を挟んで言った。
「エドアルド。君の説明と実演で、私も何か掴みかけたような気がしている。君の説明は、たった今習得した者だけが持つ、生々しさに溢れた分かり易いものだった。たしかに、ユリアが君以上の説明が出来ないというのも納得出来る。」
さらに、実演の相手役にされた騎士が、同意するように言った。
「私も、同様です。事前の補助訓練内容を聞いて気構えしていたら、エドアルド様に撃たれた瞬間にその内容を実感しました。」
マジョルーサが待ちきれないように、自分も実践すると言い出した。相手役は、先ほどとは別の騎士が務めた。マジョルーサは両手で撹拌魔力注入棒を持っている。
「それでは、行きますわよ。」
相手役の騎士は、エドアルドの相手役と同様の動きをした後、全く動かなくなり静止した。そして、約2秒ほど後に覚醒した。
「やったかな。うん。私も習得出来たようだ。どうだった、君?」
マジョルーサの相手役になった騎士は、魔力らしき荒々しいものが頭に上っていき、一瞬、体が拘束されたか、麻痺したような状態になったと、体感を打ち明けた。
そのあと、ユリアが終了を宣言した。
「はーい。ちょうど30分経ちました。以上で再生プロセスを閉講いたします。お疲れ様でした。未習得の方は、自主訓練で頑張って習得しましょう。それでは解散します。」
「なんだそれだけか?ユリア。俺は、結局、お前の掌の上で転がされていたのか?」
「いいえ。すべてはエドアルド様の日ごろの自覚と向上心のなせる技でございます。マジョルーサ様やほかの皆様におかれても同様です。」
「なあ、エドアルド。確かに、ユリアの言うとおりだと思うわ。ここに来た受講者は、皆、叶えられなかった望みを捨てきれずに、ずっと渇望してきた者ばかりなんだよ。私は、ユリアに心から感謝している。ありがとう。ユリア。」
「そうだな。言われてみれば、全くその通りだ。俺も礼を言う。再生プロセスを開講してくれてありがとう。」
「どういたしまして。白状しますが、実は、私自身は薄氷を踏む思いでした。エドアルド様が、事前に自己習得してくれていなかったら、どうしようかと。」
そのあと、ユリアは、マジョルーサとともに医薬部門に戻り、マナポーションの瓶詰め10本を完成した。そして、明日は、マジョルーサがマナポーションを作り、自ら鑑定してグレードを確認することになった。
((やったぁー。再生プロセスが、それなりに成功してほっとしたよ。マジョルーサ様にも作ってもらえば、だいぶ負担が減るからね。超特級グレード出るかな?))
少女の開講した再生プロセスは、あの偉そうな有力者に何から何までやらせることで成功裏に閉講しました。彼は憤慨していましたが。薬師様までがその場で接近戦版の金縛り魔法を習得してしまいました。遠距離の金縛り魔法を習得するのも時間の問題でしょう。少女と狩人の男は荒業の新魔法を訓練すると言っています。心配です。それではまたお会いしましょう。




