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39.少女は作戦の後方支援を考える

少女は進言具申団の出発を見送ることなく寝過ごしました。今日からは辺境伯家への貢献としていくつか段取りを行います。

ーーー 場所は辺境伯家居城の客室、時は進言具申団が出発した日の朝


 ユリアは、自分の部屋で寝ていたところを、メイドのメイリアに起こされた。昨日の会議が終わって少し気が緩んだのかもしれないと、また気を引き締めなおした。メイリアが朝の挨拶と着替えの手伝いをしながら、ユリアに話しかけた。


  「おはようございます。ユリアお嬢様。お目覚めの緩んだお顔から、急にきりっとしたお顔に戻られましたね。今日も何かお仕事がお有りなんですか。一日くらいごゆっくりなさればおよろしいのに。」


  「ありがとうございます。メイリアさん。近いうちに、デイビードお父さんにおねだりして、街の中をいろいろ案内してもらうわ。」


  「ぜひ、そうなさって下さいませ。ほかのお嬢様方と遊ばれるのも楽しいかもしれませんよ。詩の朗読や歌ったり楽器の演奏とかなさっていますよ。」


  「そうなんですね。私は、詩はともかく、音楽は教会の子供教室での宗教音楽ばかりだったの。だから、アンジェリカ様やレスターニャ様たちが習われている音楽には、とても興味がありますわ。」


  「さようでございますか。こんど、ユリアお嬢様もお誘いただけるよう話しておきますね。はい。これでお仕事モードの身仕度が出来ました。このままで朝食をお召し上がりになれますよ。」

 

  「ありがとうございます。朝食を食べたら、そのままデイビードお父さんと今後の相談をします。」


 ユリアは、朝食をとった後、デイビードの部屋を訪ねた。デイビードは机で書き物をしていた。ユリアは、デイビードが一段落した後、今後の自分の概略計画を話して詳細の相談をした。


  「お父さん。私は、ここにはひと月の間滞在します。その後は森の小屋に帰ります。その間、厳しい教育で習得した魔法技の還元と、ポーション作りと、反射板をつかった殲滅手段の研究をします。うち2日間は、お父さんに街を案内してもらうのと、ほかのお嬢様方と音楽遊びをしたいわ。どうかしら?」


  「うむ。辺境伯家への貢献という意味では、それで十分過ぎる程だ。私もお前に合わせてひと月の滞在とする。1年間はお前を教育すると言ったからには、それを貫徹する積もりだ。既に、ヴイルムード兄上とダルビード兄上には了承を得ている。それに、彼の地への遠征に参加するには十分間に合うし、火炎を纏わせる(まとわせる)荒技の実力もつけられる。どうだ?」


  「うん。いいと思う。お父さんが一緒ならうれしい。一人で訓練しても限界があるし、市井で活動するにも、小さい子供だと何かとやりにくいなと思ってたの。」


  「そうだろう。そういう時にパートナーがいると、切磋琢磨(せっさたくま)して伸びも期待できるし、町中でも大人は頼りになる。それに、まだ、お前の教育内容は残っているし、お前がハンター3級を取得できるまでには実績が不足している。ハンター3級は魔獣討伐に必要な資格だ。お前が自立して生活するのにも必要だろう。」


  「魔獣には今まで出くわしたことがないけど、どこにいるの?」


  「近いところだと、あの小屋のある森から見て、エルブライドの町の向こう側にある森の中だ。その森の中心にダンジョンがあって、そこの周辺から魔物が湧き出してくる。エルブライドの町は、そのダンジョンで栄えているんだ。」


  「うわぁー。楽しそう。私もその森で魔物討伐出来るの?金縛り魔法は効くのかしら?」


  「いや。森に入ることは出来るが、討伐出来るのはハンター3級から上級者のみだ。だが、ハンター2級の私の指導の下に討伐することが出来る。金縛り魔法が効く魔物も多数の種類がいるぞ。よーし。残っている教育内容が終わったら、その森側に拠点を移して魔物討伐をするぞー。」


  「おぉー。」


 ちょうど、そこに、エドアルドが通りかかり、デイビードの部屋のドアをノックした。デイビードから入室の許可があり、エドアルドが入って来た。


  「デイビード叔父上。失礼致します。楽しそうな歓声が聞こえたものですから、何事かと思いまして。」


  「やあ。エドアルド。近いうちに、ユリアを魔物討伐に連れて行く話しをして、(げき)を飛ばしてたんだ。君にも言っておくが、私達は、ここには、ひと月間しかいない。君への再生プロセスは必要ならすぐ始められる。


 ユリアは、私との新技訓練のあと、騎士団や幹部達への新技の披露を行う。ほかに、辺境伯家への貢献としてポーション作りや、反射板型の幼虫殲滅手段の研究をする。大変に厳しいスケジュールだ。君は、どうする?」


  「私は、すぐにでも再生プロセスを受けたいです。昼食後なら少し時間がとれますので、午後一番から30分間でどうですか?」


  「ユリア。君はどうだ?」


  「問題ありません。では、明日の午後一番に訓練場に集合ということで。たぶん、3日で習得出来ますよ。


 今から、事前の補助訓練として、右手と左手を肩の付け根から別物だと明確に意識するように過ごして下さい。種類の異なる魔法の魔力間の微妙な違いを意識して、別々の手に同時に流し込むという制御が格段に容易になりますよ。


 ほかに、再生プロセスを受けたい方がおられるなら、いまの補助訓練内容も含めてお声掛けして下さい。何人でも定員は有りませんから。」


  「分かった。よろしく頼む。期待しているぞ。」


 エドアルドは、そう言い残して部屋を出て行った。


 ユリアは、これで辺境伯家での仕事の段取りをひとつ終えた。次は、反射板を使った殲滅手段の研究の段取りを検討する。


  「お父さん。辺境伯家か街なかに、お日様の光か熱を利用した設備か装置の製造や研究開発をしている所はないかしら?予算は付けられたけど自分じゃ何も作れないから、他の組織にやってもらおうと思うのだけど?」


  「なるほど。それなら、辺境伯家の設備保全部門に説明して、研究の主体並びに取りまとめと外注窓口になってもらうのが一番簡単で確実だな。お前の負担が大幅に軽減出来る。」


((お父さん。それって、(ちまた)で多用される、丸投げとかいう高等テクニックではないかしら?))


  「わお。お父さん、すごーい。そんな奥の手があるなんて考えもしなかったわ。お父さんも一緒に、管轄のダルビード様の了承を貰って、設備保全部門に説明と依頼に行ってくれる?」


  「おう。もちろんだ。」


  「よかった。これでまた一つ段取りと実行が出来そうだわ。最後は、ポーション作りの段取りね。お父さん。辺境伯家には、医療部門とか医薬部門とかはないの?」


  「専属医師と専属薬師がいるが、組織としてやってるわけではないな。」


  「そうなのね。街なかの薬師から大量に買い付ける訳にもいかないし。しょうがないから自分で作るわ。一応、収納魔法に道具類を入れて持ってきたから最小限は作れるわ。


 目標はポーション瓶3000本分ね。内訳は、火魔法使いさんが一人一日3本、10日で30本、総勢100人で3000本よ。薬草はマナ草よね。これまで取りためた分を無料で供出するわ。十分足りるでしょ。」


  「ポーション瓶の予算は見てないが、瓶だけなら大した金額ではないから、派遣費にねじ込めるだろう。だが、お前一人でそれだけ作れるのか?」


  「うーん。20日間で作るとして、1日150本。現実問題として、ちょっと無理かも。専属薬師様に相談が必要ね。お弟子様か、助手様とか、たくさんいないかしら?それがだめなら、ここでは、無理なく作れるだけにして、森に帰ってから追加で作って補充するのが良さそう。」


  「そうだな。そうしよう。じゃあ、これから早速、専属薬師様の所に行こう。」


 二人は、別館にある医薬部に行って、薬師様に会った。薬師様は、白衣を羽織った灰色の長い髪で目が緑色の、見た目30台半ばくらいの女性であった。ユリアが薬師様に尋ねた。


  「薬師様。私は、ユリアと申します。よろしくお見知りおきくださいませ。こちらのデイビードお父さんの娘です。今度、オスムール帝国の東部乾燥地帯で蝗の幼虫殲滅作戦で戦われる、火魔法使いの皆様の後方支援をお手伝いします。内容は、火魔法使い様たちにマナポーションを提供することです。」


 薬師様は、一旦話を遮るようにして、言った。


  「ユリア殿ね。話は聞き及んでいるわ。私は、辺境伯家の専属薬師でマジョルーサという者。よしなに。ところで、せっかく勢いよく乗り込んでこられたのに、マナポーションは、いま材料となるマナ草の入手が困難で品薄状態なのよ。君はどうするつもりなの?」


  「はい。マナ草なら私が十分な量を準備できます。ポーション作りのできる人手をお借りできればと、参りました。」


  「そう。でも、作れるのは私一人で、他は事務屋さんが一人いるだけよ。残念だけど、君の希望には添えないわ。」


  「それでしたら、私が作りますが、当然、私は薬師の資格がありません。そこで、薬師様には、製造の一切を監修して品質に責任を持つ、製造主任役をお願いしたいのです。お時間と設備の一部をお借りしますが、いま、この場で品質をご確認いただけないでしょうか?」


  「ふーん。君が作るのね?いいでしょう。どうせ、材料もなくて暇だったし。設備はどれを使ってもいいわ。存分にどうぞ。私は、見物させていただくわ。」


  「寛大なご判断、感謝申し上げます。工程は、昼前までに調合を完了し、お昼の時間を静置による水分分離に当てて、その後、1時間以内でポーション瓶10本に分配する予定で行います。材料と薬研は自前です。中型のお鍋と、コンロと、魔力注入撹拌棒と、ろ過液用ガラス鍋と、ポーション瓶をお借りします。」


 ユリアは、そう言いながら、薬研と、材料となるマナ草を所定量だけ、収納魔法から取り出してテーブルの上に並べていった。そして、森で回復ポーションを調合した時と同じように、独り言を言いながら次々と工程を進めて行き、予定通り、お昼前にろ過を終えて、ろ過液用ガラス鍋に液を注ぎ終わった。この後はしばらく静置して水の上側にポーション液の層を分離するだけとなった。


  「はい。ちょうどお昼の時間となりました。薬師様はどちらでお昼をとられますか?」


 薬師のマジョルーサは、ユリアが調合していく様を、驚きの目で見ていた。見物というより、些細な動作も見逃さないよう真剣に監視する姿勢であった。ユリアの言葉に、はっと我に返り、慌てて言った。


  「ああ、そうですね。君たちとご一緒してもよろしいでしょうか?」


 事務屋さんも交えた4人は、居城本館の食堂で昼食をとった。昼食をとりながら、ユリアは、普通の回復ポーションの効き目がどんなものか、マジョルーサに聞いた。ユリアは、出てきた答えにびっくりしたが、顔には出さずに澄まし顔で乗り切った。


((狼に噛まれた傷に対するあの効き目の異常さは、やっぱり、抽出撹拌時に注入した魔力のせいかも。とすると、さっき作ったマナポーションの効き目も影響を受けているかも。))


 午後の時間の開始とともに、ユリアは分離状態を確認した後、上澄み液を次々とポーション瓶に移し替えていき、10本のマナポーションを作り上げた。ユリアは、それらをマジョルーサに差し出して、品質鑑定を依頼した。


 薬師マジョルーサは、ポーション瓶のガラス越しにポーション液を凝視して鑑定を行った。その後、5っの試薬瓶にそれぞれ1滴ずつポーション液を添加していった。試薬瓶の試薬液はすべて赤色のモノトーンで、色の薄いものから濃いものまでの赤のグラデーション5段階があった。1滴のマナポーションが添加された後の試薬液の色は、5段階の赤色がすべて消えて透明となった。


 薬師マジョルーサは鑑定を終えて、震えた声で鑑定結果を告げた。


  「か、鑑定の結果をご説明いたします。こ、このマナポーションは、上級どころか、特級の上、超特級のグレードでした。1回分の服用で2倍の魔力量回復となります。したがって、使い方には注意が必要ですが、一人が1日3回服用した場合、1日最大で、本人7人分の魔力量を放出することができます。実際には、1回分はこの瓶の半分にして、1日6回の服用とするのが安全でしょう。製造工程に何らの瑕疵もなく、不純物も極微量で、最高品質を保証します。」


((ええーっ、やっぱり。金縛り魔法の要領で、火の魔力と照明の魔力を別々の手から放出して、魔力注入撹拌棒で合流させて放射したせいなんだわ。何と説明しよう?隠すべきよね。一応、知らんぷりしとこ。))


  「薬師様。大変ありがとう存じます。これで、私が薬師資格を有しなくても、薬師様の下で製造する限りは、一般頒布に法的問題なく、作戦に遠征される火魔法使い様たちに服用いただけるわけですよね。明日から20日間にわたり、10本ずつ製造していきたいので、製造主任をお願いできますでしょうか?」


  「こうなったら、乗りかかった船ですね。私は、ただ見ているだけでよさそうですから、製造主任の件、引き受けますわ。」


  「ご高配、感謝申し上げます。」




((ふーっ。これで、一応すべての段取りが済みそうね。これから20日間ずっと、半日くらいの時間をこれにとられそう。エドアルド様たちへの指導も工夫しなくちゃ。それにしても、ポーションのグレードにはびっくりね。製造ノウハウをどうしよう。))



少女の作った魔力回復ポーションの威力はすさまじいものでした。辺境伯家に滞在中は忙しそうです。再生プロセスもうまくいってほしいものです。それではまたお会いしましょう。

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