4.少女は有力者に過去をほじくられる
お貴族様は少女の秘密を聞き出そうと神父様に食い下がります。
――― 少女の過去とお利口さんの謎がぼやーっと明かされる
エドアルドは、馬から降りてユリアを下ろして頭をなでなでしてから解放した。
ユリアは、
「エドアルド様、ありがとうございました。お手柔らかにおねがいしますねー。」
と言いながら、一緒についてきたほかの子供たちの方に走っていった。
エドアルドは、ユリアに左手であっちへ行けとでもいうような追い払う仕草をしながら右手で馬を引き、近くにいたスピノザ神父をつかまえた。エドアルドは、神父と並んで集落の方へ歩を進めながらユリアのことを尋ねた。
「神父殿、ちとものを尋ねるが、あのユリアという少女はなぜあんなに賢いのだ?」
スピノザ神父は答える。
「あの子は出自も育ちもこの村ですが、普通の子供とは少し違うようです。とくに、記憶力、物事の理解力や問題解決の発想力および行動力などの、凡そ人の美点と呼ぶべき面が特異的に優れていることは、まさに神の祝福の賜物でしょう。」
エドアルドは、神の祝福云々の説明に食い足りなさを感じて納得せず、
「其方が教え導いたのではないのか?」
と問い詰めた。
神父はさらに答える。
「私が教え導いたというのは少し語弊があります。私は、ユリアに知識の材料を与えた点には自負がありますが、積極的で行動的な性格に変えたのは決して私ではありません。」
エドアルドは、ますます謎が深まったとばかりに、より具体的な説明を求めた。
「神父殿ではないというなら、いったいだれが導いたのだ?神の祝福では納得いかないぞ。人が子供を好ましい方向に導くことができるなら、こんな素晴らしいことはないではないか。」
神父は、少し考えて話し始めた。
「ユリアは、2歳半くらいで子供教室に初めて来たときはほとんど何もしゃべらない、泣きもしない、ほかの子供と交わらない幼児でした。ユリアをよく観察すると子供教室で私やほかの子供たちが話す内容は大体理解しているようで、地頭の良さは感じました。
そこでユリアと向き合ってじっくり聞きだすと、他者の話が省略のある不完全な文章や曖昧な言葉使いのため、相手が言いたいことの自分の理解が正しいか迷うことが一つの原因でした。もう一つの原因は、どんな言葉をどんな順序で話せば相手に誤解なく伝わるか迷っているうちに、相手が焦れていなくなるから会話が成立しないことのようでした。いわば会話に対する完璧主義に陥っているようで、愚鈍だという家族や周りの評価とはちょっと違う状態だとわかりました。」
エドアルドは、一気にしゃべる神父の話を遮って言った。
「なんと、人と会話ができないのは性格的なものだったのか?そのような性格を直すために、人には教え導く以外にいったいどのような手段がとれるというのだ?」
神父は、エドアルドの疑問に対する回答の続きを、数年前を回想しながら話した。
「私が知る手段は、とにかく教え諭し手本を見せることだけですので、その範囲内でいろいろ模索しました。そして、文字自体はすぐに覚えたので人との交わり方や会話のし方の指導は一旦おいて、大人用の本を読ませてみると、次々にページをめくっていき私よりも速い速さで1冊読み終えました。読んだ後で本の内容や感想をゆっくりでいいからと聞いてみました。すると、驚いたことに、文章や用語の不明確な箇所を指摘しつつ一応の理解内容を正確な言葉で表現するという、十分すぎる文章読解力と相手を無視した場合の言語表現力があることを私に示して見せました。それからは、あえてジャンルや難易度を問わずいろいろな書物をさらに読ませ続けました。」
エドアルドは神父の話を聞いて、なかなか問題の核心に話が進まないことに少し苛立って、
「其方の与えた書物がユリアの知識の源泉であるのは理解した。だが、そのような其方の手段では、ユリアの会話での性格的な躓きを解消するには不足だったというのか?」
と念を押すようにさらに突っ込みを入れた。
神父は、エドアルドの重ねての問いを受けてさらに続けた。
「おっしゃる通りでございます。その試みを半年間続けても、ユリアは普段の生活で人と対峙して言葉を発するようにはなりませんでした。端から見た限りでは、先ほどいった完璧主義のほかに人間不信もあったかもしれません。どうやら言葉を発し始めるのが上の二人の兄たちより遅いことで、家族から蔑まれ疎まれていたことがトラウマとなっていたようです。」
エドアルドは、やっと話の核心に進みそうだと期待しながら、神父に次の話を促した。
「それでは、その後の数年でどうしてあそこまで変わったのだ?」
貴族様の神父様もほんとにしぶといですね。今回のお話では少女の謎解きまで進まなかったではないですか。次回こそは謎が解けるのでしょうか。心配でなりませんね。それではまたお会いしましょう。




