37.少女は晩餐会の花になる
少女は辺境伯家の晩餐会で今度は男の子達とお話しします。
ーーー 場面は辺境伯家の晩餐会
ユリアは、次にダルビードの長男ジェイムスンに話しかけられた。
「ユリア。僕はジェイムスン、こちらはフレデリック、これがマーカラスだ。僕たちのことはみんな名前で呼んでくれたまえ。君はデイビード叔父上の娘なのかい?そうなら、僕たちの親戚になるんだが。」
「ありがとう存じます。ジェイムスン様、フレデリック様、マーカラス様。よろしくお願い申し上げます。わたくしは、デイビード様に森で拾って頂いて、仮の娘として厳しく教育していただいております。デイビード様は、わたくしがお父さんと呼ぶのを許して下さいましたが、皆様と本当の親戚ではございません。」
「そうだったのか。でも、デイビード叔父上が娘として教育しているなら、僕たちも君に親戚として接したい。みんな、それでいいよな。」
ほかの4人の子供たちもみな頷いて同意した。今度は、マーカラスがユリアに問いかけた。
「でも、森で拾われたって、まさか森の妖精かなんかだったのかい?」
「いいえ。マーカラス様。ただの人間の子でございます。家族に殺されそうになったので、森に逃げ込んだのです。」
「えっ。な、なぜ家族なのにそんなひどいことができるのだ?」
「飢饉の中で家族が食いつなぐための口減らしの対象にされたのでございます。ご存じかと思いますが、今年の穀倉地域は蝗害で収穫がほとんど見込めません。辺境伯様も、王国に対して税の大幅な減額を願い出ておられるのではないでしようか。」
これを聞いて、ジェイムスンが驚いた表情で息巻いて言った。
「蝗害?税の減額?それは本当の事なのか?そんな話は僕たちの所には何も届いてないぞ。なぜ誰も教えてくれないのだ?僕は父上に聞いてくる。僕たちにも協力出来ることはあるはずだ。」
ジェイムスンは、一人でダルビードを探しに離れて行った。後を受けて、今度は、フレデリックがユリアに話を振った。
「ところで、君はデイビード様に教育を受けていると言ったが、どんな内容なのだ?魔法とか弓術や剣術もあるのかい?」
「魔法と弓術は既に習いました。剣術はまだですが槍術なら習っています。ほかには一般教養とフランソワール帝国語を習っています。」
「その小さな体で随分とたくさん習っているんだな。私も、父上から厳しい教育を受けているのだ。父上は辺境伯家の騎士団長のメイヤール・フォン・ヴィルダー子爵だ。今年から一家相伝の魔法の指導も始まったが、まだ習得には程遠い。ジェイムスン兄もまだだから特に焦りはないが。」
「そうなのですね。その一家相伝の魔法はご令嬢様たちも指導を受けるのですか?わたくし自身は既に習得済みなので、いまさらお聞きするのはおかしいのですが。」
「女子も希望者は指導を受けられる。そこの二人は8歳でまだ年齢に達していない。だから、君が習得済みというのは幾らなんでも早すぎるぞ。なにか特別な秘訣か教育法でもあるのか?。」
「わたくしは、森で槍や弓を使った獲物相手の狩りの実践をする中で習得しました。デイビードお父様の弓猟のお手本をつぶさに見て、技の本質を盗み取ったのでございます。」
それを聞いて、ご令嬢の二人が先に反応した。
「まあ。盗み取っただなんて、はしたないですわよ。レディのお口から出た言葉とは思いたくもありませんわ。でも数年後には、わたくし達も一族として指導を希望する予定ですの。ですから、そのときの参考にはしたいですわね。」
フレデリックは、ご令嬢達の剣幕に押されながらも、食い気味に訊ねた。
「あの一家相伝の魔法の本質は、見ているだけで盗み取れるものなのか?」
ユリアは、少し頭を傾げながら、不思議そうな顔で逆に問うた。
「質問でお返しするのは失礼と存じますが、皆様に対しては、手取り足取りのご指導がなされると聞いております。その中で、言葉では本質のことをどのように説明されるのでしょうか?」
「そうだな。君は、一家相伝の資格が一応あるし、何よりも既に習得済みだと言うから話してもいいか。」
そこへ、話が聞こえたのか、フレデリックの父のメイヤール騎士団長が割り込んで来た。
「君がユリアだな。割り込んで済まない。私はメイヤールだ。名前で呼んでくれ。フレデリック。お前が知っていることを話すのはいいが、人から本質を聞いて知るのはまだ早い。ジェイムスンでさえまだなのだ。ユリア、こいつに一家相伝魔法の本質を教えるのは、まだ控えてくれないか?」
「メイヤール様。ユリアでございます。よろしくお願いします。本質を教えるのを控える件、承知いたしました。ちなみに、いまの段階でどのように理解されているのかと、いまの修行内容について、フレデリック様にお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「そうだな。それなら問題ない。フレデリック。答えてみろ。」
「はい。父上。一家相伝魔法は金縛り魔法であって、その本質は、目から魔力を魔力のままで実体化せずに対象に飛ばすことにある。いまは、両目に得意な魔法の魔力を集めて放射する訓練に励んでいるところです。」
「うむ。それで間違いない。さらに修行と精進を続けよ。」
「失礼ながら、そこで突き放されましては、なかなか習得にまで至らないかと存じます。その先には、何か言葉でのご指導が待っているのでしょうか?」
「もちろんだ。この先、まだ、3段階の修行内容が待っている。段階を順序よく踏んでいかねば習得は無理だ。」
「はい。わかりました。若輩者が差し出口を申しまして、たいへん失礼いたしました。ご容赦くださいますようお願い致します。」
「よいよい。それぐらいの元気がないと辺境伯家の者とはいえないからなぁ。さすがにデイビード殿が見込んだ娘だけはある。わっはっはぁ。」
メイヤールは、笑いながらデイビード達が集まって話している方へ歩いて行った。
ユリアは、フレデリックに向き直って慰めるように言った。
「フレデリック様。まだあと3段階あるのですって。先は長そうでございますね。」
「問題ない。皆そうやって習得しているんだ。私だけ抜け駆けするわけには行かない。」
「その通りでございますね。」
そこまで聞いたご令嬢の二人組は、一応、得した顔で言った。
「本質を一つだけは聞けましたわ。私達は、先走ってその訓練を始めたいところですけど、何かあっては大変ですから止めておきますわ。」
「ああ。それが賢明だな。」
そこへ、ちょうどダルビードの話しを聞いたジェイムスンが戻って来て、ユリアに話しかけながら大人達の元へ引っ張って行った。そこには、辺境伯家のお歴々のほか、隣国の官僚アルチュール・ドゥ・ガスゴーシュとその護衛騎士もいた。
ジェイムスンがダルビードに言った。
「父上。ユリアを連れてまいりました。」
ダルビードは、ユリアに向かって丁寧な口調で話した。
「ユリア。ジェイムスンは子供でも協力出来ることとして、おやつや間食を止めると言い出した。君はどう思うか知りたい。」
「はい。ダルビード様。領地を思う賢明なご判断ですわ。ご子息様方には、ぜひご実行をしていただきたく存じます。ただ、ご令嬢様方には、お茶会などの礼儀作法の練習の場を最低限は確保していただきたく、お願い致します。」
「うむ。何だか、家庭教師が話しているように聞こえたが、君の意見として考慮しよう。ところで、わが領地から王国への税の軽減嘆願の話をしたようだが、君はどの程度と予想している?」
「はい。エドアルド様は、私がいた村の税の全面免除を約束して下さいました。そのあたりからの単なる推測ですが、この領地からは5割、南の隣接領地からは4割の税軽減の嘆願があったでしょう。ちなみに、隣国の税収見込は国として前年の7割、基幹食料に限れば前年の3割の収穫量でしょう。まさに、壊滅的打撃を受けたと予想します。あっ、こちらは、ガスゴーシュ様のお言葉からのわたくしの受け売りと勝手な推測でございます。余計なことでした。申し訳ございません。」
「うーむ。ユリア。君は、先ほど来、私達がここで話しているのを、こっそりと聞いていたのではないか?君の予想が正確すぎるんだが。」
ユリアは、困惑顔で何か喋ろうとしたが、そこへメイヤールから思わぬ援護があった。
「いや。私が保証する。ユリアは、子供達や私との話に夢中で、他所の話を聞く余裕などなかった。」
「メイヤール様。わたくしが弁明すべきところ、お助けいただきありがとう存じます。」
二人の話を聞いて、ダルビードが慌てて言った。
「おいおい。メイヤールにユリアよ。私は、別に責めてはいないぞ。ユリアの聡明さに感嘆しただけだよ。なるほど。デイビードが、たじたじになるのも頷ける。」
そこに、デイビードが身を乗り出すようにして言った。
「やっと、私の苦労を分かって貰えましたか。」
隣国の官僚ガスゴーシュも、ユリアの税収予想の発言にびっくりしたが、平静を装って落ち着いた声で言った。
「ユリア嬢には、迂闊に世間話もできませんなあ。ちょっとしたひと言から、全てを見抜かれてしまいそうです。でも、その迂闊な言葉の意味を汲んで、ここまでご協力いただけるのは望外の喜びでございます。」
((晩餐会の宴も無事に終了しそうだ。壁の花にならなくてよかったー。子供達とはなんとか上手くやっていけそう。ダルビード様もメイヤール様もデイビードお父さんと同様にしっかりした人だったわ。アルチュール様は相変わらずのタヌキぶり発揮ね。世間話で上手く誘導されちゃったわ。))
少女は晩餐会を上手く切り抜けましたね。一家相伝の魔法の訓練方法には疑問を持ったようです。大人達の話に混じっても一歩も引かずに頑張りました。明日の摺り合わせ会議はどうなるのでしょうか。心配ですね。それではまたお会いしましょう。




