35.少女は辺境伯家で歓迎される
二人は森の小屋を出て、途中、蝗害の件で町の有力者に協力を依頼し、一路領都を目指して走ります。
ーーー 場面は森の小屋、時は夜明けどき
ユリアは、まだ薄暗い夜明け前に目を覚まして起き出した。朝食の支度をした後、持って行く荷物の点検確認をしてテーブルに着いた。デイビードは、少し遅れて起きて来て、身支度をしてテーブルに着いた。
「おはよう。ユリア。今日は、朝食後すぐに領都の辺境伯の居城へ向けて出かけるぞ。」
「おはよう。お父さん。もう支度は出来てるわ。領都ってどんな街なの?楽しみだわ。」
「着いたら分かるさ。規模はエルブライドの2倍くらいだ。日程は、最短ルートで森を抜けて、今日の夕方にエルブライドに着いて1泊する。翌朝早く出発して街道を走り、途中の町で1泊し、翌日夕方に領都ヴィルドブルグに到着する予定だ。街道部分の行程は馬車で4日かかるところを2日に縮める。全行程で通常6日を3日で走り抜けるぞ。これも厳しい教育の一環だ。いいな。」
「分かったわ。身体強化魔法を掛け続ける訓練ね。望むところだわ。よろしくね。」
「それじゃー、出発だー。」
「おぉー。」
二人は、日の出前に小屋を後にした。ユリアは、この行程中でも、薬草を見つけるたびにデイビードに声を掛け、次々に10秒くらいで素早く採取して行った。
その日の夕方には、予定通りエルブライドの町に着いた。二人は、いつもの宿に宿泊手続きをしてから町を歩いた。
二人は、ハンターギルドに入った。ホールには、数人のハンターがいて、二人を訝しげな顔をして目で追った。ユリアは、お世話になったギルド長のグラリアスに挨拶しようと、受け付けカウンタで職員に尋ねた。
「こんにちは。お久しぶりです。ギルド長様にご挨拶したいのですが、お会い出来ますか?」
受け付けの職員は、髭面の男と男の子の格好をした女児を見て、すぐに思い出して言った。
「あら。こんにちは。お久しぶりですね。生憎、ギルド長はいま事務仕事が立て込んでいて、時間が取れないようなのです。夕食時にご一緒出来るか聞いてみましょうか?」
その時、当のギルド長がホールに出て来て言った。
「その必要はない。いますぐに会おう。俺の執務室に来てくれ。」
受け付けの職員は、すぐに二人をギルド長の執務室に案内した。ユリアは、案内されて部屋に入ると、丁寧に挨拶して先日のお礼を述べた。グラリアスは、挨拶を受けるとすぐに二人をソファに座るよう促し、自分も座って言った。
「良く立ち寄ってくれた。用件は分かっている。蝗害対策の件だろう?俺にも、昨日、辺境伯名で依頼と確認の手紙が届いた。この件はまだ極秘扱いだが、お前たちは当事者なんだろう?」
デイビードが端的に答えた。
「その通りです。辺境伯からの依頼のほうは、すぐ辺境伯家に帰れとの伝言の依頼ですね。こちらもまさに帰る途中で寄ったのです。確認のほうはハンター動員の打診ですか?」
「うむ。察しが良くて助かる。話が速い。春先頃から数ヶ月間、火魔法を撃てるハンターの動員可能人数と費用の見積りが欲しいと言ってきた。行き先は、オスムール帝国の東部乾燥地帯だ。」
「さすがだ。予想した通りに動いてくれている。グラリアス殿はすでに察してるだろうが、実現すれば3カ国合同の大作戦になると思う。ハンター達には隠せないかもしれないがこの件は極秘で頼みます。」
「おう。分かっている。実は、俺はこのところずっと懸念していたんだよ。来年また蝗の大群が襲って来たらどうするんだってな。領主家や王家が動いているのかどうか、さっぱり見えなかったからな。だから、その企画は俺としては大歓迎だ。」
「懸念はもっともだ。確かに来年また襲われたら、王国はともかく、辺境伯家は大打撃で立ち直れないかも知れない。隣国はもっと深刻だろう。
おそらく、隣国が主導で動き、王国は隣国と協調して動くことになる。だが、国家間感情に配慮して大軍は動かせない。グラリアス殿には、私から言うのもなんだが、ハンター達をまとめてくれたら有難い。」
「分かった。及ばずながら協力させてもらうぞ。これで、鬱々としていた気分が一気に晴れたぞ。どうだ、これから晩飯を一緒にしないか?」
「ありがとう。ぜひ一緒させてもらいたい。」
二人は、グラリアスという頼もしい協力者を得て満足して宿に帰り、明日に備えて早々に床についた。
翌朝、二人は朝食を取ってすぐ出発した。
二人は、街道に出ると、すぐに身体強化魔法を掛けて、いきなり走り出した。近くの通行人たちは二人を見て、何事が起こったのかと唖然とした表情で走り去る二人を見送った。
その後、街道の道中は順調に推移し、予定通り2日目の夕方前に領都ヴィルドブルグに到着した。
市街地は高い城壁に囲まれていて、出入り口は城壁に開いた数カ所の扉付きの門だけだ。二人は、その中の最も大きい正門から入り、大通りをまっすぐ進んで辺境伯家の居城門をくぐった。門番は、デイビードの顔を知っていたように、デイビード様お帰りなさいませと言って、顔パスで二人を通した。
二人が、居城内の本館前広場に入ると、本館の玄関前にずらりと横に並ぶ多数の人達に出迎えられた。その中のひとりが前に進み出て、両手を広げて言った。
「デイビード叔父上。お帰りなさいませ。今か今かとお待ちしておりました。ユリアもよく来てくれた。辺境伯家一同、心から歓迎する。教育の成果も楽しみにしているぞ。」
ユリアは、ちょっと驚いたが、エドアルドのいたずらっぽい顔を見て、気を取り直した。そして、満面の笑みを作り、エドアルドと一同を見ながら言った。
「エドアルド様。ご無沙汰しておりました。皆様、ご歓迎いただき大変ありがとう存じます。デイビード様からの教育はいまだ途上ですが、これまでの成果は皆様に還元させていただきます。」
「ユリア。お前、叔父上の悪い所ばかり学んでいないか?皮肉がすごく上手くなってるぞ。」
「おいおい。私の扱いが酷くないか?エドアルド。私はユリアほど皮肉屋ではないぞ。」
((えぇー。何だか、私だけ悪者になっていない?))
「これは、大変失礼いたしました。前言撤回いたします。お疲れでしょう。今日は、ゆっくりしてください。」
二人が進んで行くと、そこにいた一同に囲まれて本館のホールに案内された。歩きながら、その中のひとり、アルベルドが二人に声を掛けた。
「デイビード叔父上。お帰りなさいませ。君がユリアだな。エドアルドから話を聞いている。私は彼の兄のアルベルドだ。名前で呼んでくれ。よろしく頼む。ここを自分の家だと思って気楽にしてくれ。手紙も読んでいるぞ。」
二人は、ホールを通り過ぎて応接室に案内された。そこで、ユリアはアルベルドに挨拶を返した。
「アルベルド様。お初にお目にかかります。ユリアと申します。暖かいお言葉をいただき、痛み入ります。もし礼を失することがありましたらご指摘くださいませ。その都度改善したいと存じます。よろしくお願いし申し上げます。それと、手紙はご迷惑だったかと心配しております。」
「君は貴重なきっかけをもたらしてくれた。感謝している。後のことは我々の決断だ。全ての責任は我々が負うから、君は心安らかでいてくれ。」
「アルベルド様。お優しいお言葉、痛み入ります。心が何だかすごく軽くなりました。」
「うーむ。君の外見を見ながら君の言葉を聞いていたら、ちょっと頭が混乱してきたぞ。エドアルドの言う通りだ。」
「アルベルド。私は、四六時中その状態なのだよ。少しは、私の苦労が分かって貰えて嬉しいよ。」
デイビードは、甥に冗談を言った後、兄のダルビードに向き直って帰還の挨拶をした。
「ダルビード兄上。ただいま帰りました。長い間、大変ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。ただ、我儘を聞いていただけるなら、騎士団への復帰は今少しの猶予をお願いします。」
「ふむ。ユリアが先程エドアルドに言ったことか。考えておく。ヴィルムード兄上の考えもあるだろう。まあ、お前も相当腕を上げたのだろうから、成果を見せてもらうのが楽しみだ。」
そのとき、辺境伯ヴィルムードが、隣国フランソワール帝国の官僚アルチュール・ドゥ・ガスゴーシュを伴って応接室に入ってきた。
((あーっ。やっぱりかち合っちゃった。アルチュールさんにも教育の成果を見せちゃうのー?そうだ。披露するのは弓矢の百発百中だけにしよう。それなら、凄腕に見えるだけかも。))
二人は領都に到着して辺境伯家の大歓迎を受けました。皆さん、エドアルドやデイビードと同様に気さくな人たちでしたね。辺境伯と隣国の官僚との話合いはどうなったのでしょうか。心配ですね。それではまたお会いしましょう。




