34.少女は蝗の幼虫殲滅の画期的手段を編み出す
少女は昼食後、昼前にまとめた火魔法使いを動員する案に続き、高温空気と、熱い物から飛んで来る目に見えない何かを利用する手段の検討を始める。
ーーー 場所は森の小屋、時は昼食後
ユリアは、昼前の続きで、蝗の幼虫の殲滅手段として考えた高温空気で焼き払う案の具体化を検討思索し始めた。
「検討項目は、高温空気を、前方の地面付近に集中して当たるように吹き出すことと、火炎などから飛ぶ熱い何かを、高温空気と同じように前方の地面付近に集中して当てることね。この2つは別々に考えた方が良さそうね。始めは高温空気から。
先ず火炎発生源については、大きな焚き火の金属製格子囲いと、移動しやすい車輪かソリ板があれば何とかなりそうね。発生した高温空気を前方の狙った位置に押し出すのは、どうするか。風魔法使いさんたちを動員するのが一番手っ取り早いわね。お父さんに聞いてみよう。」
ユリアは、思索の独り言を止めて、デイビードに尋ねた。
「お父さん。いま、ちょっといいかしら。」
「ああ。いいぞ。風魔法使いの件だな。辺境伯家が抱える騎士で、風魔法使いは40人くらいいる。火魔法使いよりもずっと多い。ほかの領主家も規模によるが似たようなものだ。前方に向けてゆるい風を吹かせるだけなら、幅5m、距離15mくらいは軽いだろう。」
「ありがとう。お父さん。助かったわ。」
ユリアは、また検討思索に入った。
「高温空気の吹き付け手段だけなら比較的簡単だったね。風魔法使いさんたちを動員することは可能だろうし。あと、金属製の焚き火囲いは費用がかかるけど、オスムール帝国内で現地調達出来るから運送費の分だけ安あがりだわ。
ここまでで、火魔法使いさんたちの自前の火焔と、風魔法使いさんたちの焚き火の火炎の2段構えとなるから、蝗の幼虫焼き払い作戦は一定の成果が見込めるわね。
となると、火炎などから飛ぶ熱い何かを発生させて前方に向ける仕組みは、3段目の補助的手段になるから、ちょっと気が楽になったわ。とは言っても、これがあれば、取り逃がす数を最小限にできるはずよ。疎かにはできないわ。」
「ところで、火炎などから飛ぶ熱い何かを発生させて前方に向ける仕組みって、どうにも名称が長ったらしいから、熱線発生装置と呼ぶことにするわ。」
「熱線発生源って、火炎のような裸火しかないのかしら。さっきお日様の光を浴びると熱くなると言ったね。この場合はお日様自身が熱線発生源なんだよ。ということは、たぶん、熱いものならなんでも良いのよ。だけど、火炎以外に熱いものって簡単に作れるの?照明魔法では光が当たっても熱くは感じないよ。」
「ちょっと、行き詰まっちゃったかな。この際だから、火炎以外で唯一の候補に挙げた、お日様の光の利用方法を考えてみるか。照明魔法使いさんたちの出番は無いかもね。」
「先ず、お日様の光の利用条件は、お天気でよく晴れてることね。乾燥地帯ならこの条件は問題なさそう。次に、お日様の光は特になにもしなくても幼虫に当たるけど、焼け死ぬほど熱くにはならないよ。どうしてかな?」
「焚き火の炎の場合は、近づくと熱くなるし、少し遠ざかると温くなるね。これは、どういうこと?空気の温度のせいだけじゃないよね。うーん。さっきも言ったように、火炎からは熱線があらゆる方向に飛び出してるだろうから、近ければ近いほど多くの熱線を集中して浴びるはず。」
「でも、お日様にはとても近づけないからどうする?多くの熱線を浴びせればいいのなら、お日様の光の方を当てたいところに集めればいいのよ。それにお日様なら、熱線発生源には費用が掛からないし、何とかなりそう。」
「お日様の光を集めるのって、近くに当たるはずの光を途中で遮って目的の場所に当たるように移せばいいだけだわ。そんなことができるものって、反射板があるね。ピカピカに磨いた金属板で比較的簡単に作れるわ。これを、多数の人が持って光を移して、一斉に狙った場所に当てればいいのよ。」
「うん。我ながら素晴らしいアイデアかも。それに、多数の人が持たなくても、長い基礎台に一列に多数並べればいいのよ。それぞれの反射板の向きを変えられるように取り付ければ、人件費も削減できるはず。」
「どれだけの光を集めれば、蝗の幼虫が焼け死ぬほど熱くなるかは、試作品を作って調べる必要があるわね。つまり、一度に光を当てる範囲を1秒程度で通過して、幼虫を焼き殺せるだけの大きさと枚数ね。複数の反射板を協調して動かす機構も必要ね。」
「ふーっ。やっと一応の目処が立ったわ。ところで、これの試作品は、ここではちょっと作れそうにないわね。どうしよう。うーん。なんか、早速、辺境伯家にお世話になる必要がでてきちゃったかも。」
ユリアは、検討思索を終了してデイビードの方を向いて言った。
「お父さん。蝗の幼虫を殲滅する3つの手段の概略検討が完了したわ。」
「おう。よくやったぞ。その3つの手段なら、もう、お前の独り言を聞いて俺が概略書きとめた。これを見て、間違いないか確認してくれ。お前がその必要を認めたのなら、明日にでも辺境伯家に出発するが、どうだ?」
「そうね。これで間違いないわ。でも誤解なく伝えて、さらに良いものにするためには、どうも行かなきゃだめみたいだわ。早ければ早いほどいいわね。よろしくお願いするわね。お父さん。えーっと。向こうでは、お父さんのことをどう呼べばいいかしら?」
「そうだな。俺の希望だが、お前さえ良ければ、話し方も含めていまのままでいい。」
「分かったわ。エドアルド様やボタニナス様にも早く会いたくなっちゃった。」
「そうか。それじゃ、今日はさっさと夕食を食べて早目に寝よう。明日は、夜明けと同時に出発するぞー。」
「おぉー。」
((予定外に早く一時的に森を出て領都に行くことになったわ。言い出しっぺの責任を果たさなくちゃね。それと、あの偉そうなエドアルド様に、成長した私を見てもらいたいわ。))
少女は蝗の幼虫を殲滅する3つの手段を概略考え出しました。翌朝は辺境伯家に向けて出発します。どうなるか心配ですね。それではまたお会いしましょう。




