33.少女は蝗の幼虫殲滅手段を考える
少女は費用を考慮した蝗の幼虫殲滅作戦で使う手段の検討思索を開始します。
ーーー 場面は森の小屋まだ午前中、蝗害対策案の骨子をまとめた後
デイビードはすぐに辺境伯宛の手紙を書き始めた。
ユリアは、収納魔法からフランソワール帝国語の工業農林漁業と医療と薬学の本を取り出し、猛スピードでページを捲り始めた。その途中でいくつかのページに栞を挟んでいった。
栞は、最終的に、網の工業的製造技術、農業での防虫網の種類と敷設方法、農薬の種類と散布方法、殺虫剤の4箇所に挟まれた。
ユリアは、それら4箇所の項目の内容をさっと精読して、思索モードの準備をした。
「お父さん。これから先は独り言だからね。気になったら言ってね。善処するわ。」
ユリアは、本格的に独り言を呟く思索モードに入っていった。
「網自体は、網糸の細さも目の大きさも幼虫捕獲に適したものがありそうね。だけど、ひとつの残存草地の広さを仮に1km四方としたとき、網を使う場合には、例えば100m四方の網が100枚必要ね。うーん。網の費用と投入人員の人件費は相当額になりそうだわ。どうも網で捕獲するのは、現実的ではないわね。」
「そうすると、残るのは薬剤散布か。だけど、薬剤の製造費用と散布人員の人件費は、結局、網を使う場合と大して変わらないかもね。なにか、抜本的な打開策を考え出す必要が有りそうだわ。」
「虫を殺す方法には、ほかに何がある?叩いて潰す、上から押し潰す、水攻め、火攻め、鳥に食わせる、毒を食わせる、土や砂を被せて生き埋めにする、などいくつかあるわね。今挙げた中では、火攻めが一番実現性があって効果も高そうね。」
「火攻めの具体的方法ってどんなのかしら?草に直接火をつけて焼き払う、可燃物を撒き散らして着火する、魔法使いが火焔魔法を浴びせる、ほかには、火で高温にした空気を送るっていうのもありそうね。お父さんは火魔法攻撃も使えるって言ってた。聞いてみよう。」
ユリアは、思索モードを一時中断した。
「お父さん。いま、ちょっといいかしら?聞きたいことができたの。」
「ああ。ちょっとならいいぞ。火魔法攻撃についてだな。」
「ありがとう。火魔法攻撃の強度や規模と、持続性と、何人使えるか、教えてくれる?」
「そうだな。辺境伯家や同規模の領主家でいうと、約20人が平均で直径約1mの火焔弾を約10m先まで飛ばせる。これを大体5回撃つと魔力切れとなる。王家はこの3倍くらいの人数だな。」
「魔力回復ポーションはどんな効能がある?」
「高価でそうそう使えないが上級1本で魔力回復50パーセントだな。1回1本、1日に3本が限度だと言われている。」
「ありがとう。お父さん。もういいわよ。」
ユリアは、そう言って再び思索モードに戻った。
「火焔魔法を浴びせる方法は、特に新開発なしでいいから実現性高そうね。大きな焚き火で空気を高温にして浴びせるのも実現性高くて効果もあるね。よし。決めたわ。この2本立てで行こう。」
「さて。火魔法使いさんたちは、やり方を少し訓練するだけで良さそうだから、私がするべきことは魔力回復ポーション作りだね。だけど今は高温空気手段の検討を先にしよう。」
「高温空気といえば、身近ではストーブがあるわね。ほかには、炭焼き窯、煉瓦焼き窯、鉱石の精錬窯などがあるね。どんな原理や構造で空気を高温にするのかな?」
「普通、燃えた直後の空気というか気体は高温で上に立ち昇るよね。でも、いつだったか冬に焚き火に当たったときは、高温の空気は立ち昇っていったけど、炎に照らされた顔や手が焼けるように熱くなったわ。ちょうど寒い日にお日様の光を浴びたときのように。」
「ということは、火焔や炎のような熱い物からは、目に見えない熱い何かが飛んできてるんじゃないかしら。それなら、高温の火焔や空気のような気体状の高温体の補助的高温手段として、この熱い何かを使えないかしら。」
「焚き火のときは、どの方向から炎に当たっても同じように熱くなった。ということは、炎からは、あらゆる方向に熱い何かが飛んでいることになる。でも、希望としては、前方の地面付近に集中して高温の気体と一緒に飛んでほしいわ。問題はどうすればそんなことが実現できるかよね。」
「あれ。もうお昼の時間だわ。お父さん。私、いまから昼食の準備をするから、検討は一時中断するわね。」
「わかった。俺は、もうちょっとで書き終わるから、このまま続ける。飯が出来たら呼んでくれ。」
「はーい。」
二人は、昼食を取りながら、お互いの仕事の進捗を確認し合った。ユリアは、デイビードの手紙を見て、これで良いがユリアの対策検討の方向性も追記して欲しいと、現状の火魔法や高温空気で焼き払う案を説明した。
デイビードは、ユリアの話を聞いて、納得して賛同するように言った。
「なるほど。それはいい考えだ。初めに言ってた薬剤散布や捕虫網などの対策は、大発生防止に失敗してからでも使えそうだからな。火魔法攻撃が使える者は一定数いるから、彼らを使わない手はないな。
後は、お前の高温空気手段だが、いま開発中だと書いておく。辺境伯家での対策案とも整合をとって、場合によっては合同開発の必要が出てくるぞ。その時どうするか考えておけよ。」
「ありがとう。お父さん。ひと月ほど森を留守にするだけなら問題ないわ。それ以上はご相談よろしくね。」
「よし。わかった。森を離れるのは嫌だと言うかと思ったが、以外にこの件に積極的だな。」
「森の中だけでは出来ないこともあるわ。私がこの件の言い出しっぺかも知れないしね。それと、私は何時でも積極的でーす。スピノザ神父様の教えを守っていまーす。」
「それは、お見逸れしまして、大変失礼しました。」
「わかればよろしいのです。」
二人は、大笑いして、今日の残りの仕事に取り掛かった。
((ふう。費用の見積りって大事ね。対策案が二転三転しそうだわ。辺境伯家の人たちはしっかりしていると信じてる。もうアルチュールさんが来るって分かってるから対策案も大発生防止の方に重点を振ってるはずね。合同開発で整合を取るかわがまま言って並行開発の多段構えで行くか。少し楽しみだわ。))
少女は思索の結果、幼虫殲滅作戦の手段を火焔魔法と高温空気の二つに決めました。魔法使いさんたちの人件費は元々の俸給なので派遣費のみで済むお得な手段でしたね。高温空気の手段は上手く行くのでしょうか。心配ですね。それではまたお会いしましょう。




