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32.少女は狩人の男と協力して蝗害の発生原因を探る

二人は隣国の男の出現で蝗害対策の国際協調が現実味を帯びてきて修行どころじゃなくなりそうです。

ーーー 場面は町から森の小屋へ


 二人は、本屋を出てから道具屋に行って、薬研や乳鉢(にゅうばち)、撹拌棒、乳棒、調合鍋、蒸留装置、各種瓶や試験管などの調合器具類を買った。次に、薬種店で薬草を買おうとしたが、蝗害で食われて入荷せず、すべて品切れであった。その事態はユリアも予想していたので、薬草栽培に必要な(くわ)やスコップなど道具類だけを買った。その後、二人は森の小屋への帰路に就いた。身体強化魔法で高速で移動している途中、目についた薬草類は丁寧に採取して行った。


 小屋には、2日目の夕方に帰り着いた。ユリアは、買ってきたもののうち、調合器具類を壁の棚台の空きスペースに並べ、薬草栽培道具を壁に立てかけた。そのあと、ユリアは直ちに夕食の支度を始めた。町で買った野菜や牛乳と、収納魔法から取り出した肉を使って、肉野菜ポタージュと、肉の香草焼きを作った。


 食事と後片付けが終わって、二人はテーブルに向かい合って座り、今後の計画を話し合った。初めに、ユリアが自分の基本知識を披露しデイビードと共有する。


  「えーと、蝗の生態と蝗害の関係が書いてあったのは、たしか、シングラーツ王国古典語本の中の1冊だけだったわ。それ以外の本には、大群が飛来したときの様子や被害の程度、対策とその効果、事後の領主家や国からの支援などが書かれていたかな。」


 デイビードは、少し忌々し(いまいまし)げに吐き捨てた。


  「引き継がれるべき貴重な叡智(えいち)が、時代の流れの中でいつの間にか埋もれていたということか。だが、その古典語の貴重本が、お前の手の届くところにあったのは、天の配剤と喜ぶべきか。」


  「お父さん。今日は、座学の厳しい教育は中止して、本に書かれた内容を二人で共有して問題点を絞り込みたいの。いいかしら?」


  「分かった。始めてくれ。」


  「先ず、本に書いてあった基本的生態からね。蝗は、主に草原に生息するバッタなの。

 初めは卵の段階。湿り気のある地中に産み付けられている。気温がある程度以上で卵の(はい)が成長を開始する。

 次は、卵から孵った(かえった)幼虫の段階。バッタの形で飛び跳ねて草を食べて大きくなる。

 次が、成虫の段階。羽根が長く強くなって飛べるけど、普通は生息範囲内の草を食べる。

 最後に産卵の段階。まとまった雨の後、湿った地中に卵を産み付ける。」


  「うーむ。そこまでの話はごく普通に聞こえるな。蝗は、我が国でもそこら中に見かけるが、大発生した話は聞かない。オスムール帝国の東部乾燥地帯の蝗は、何かが違うから大発生するのか?」


  「いいえ。確か、蝗の種類に違いはないように書いてあったと記憶してる。種類は同じだけど、色や形態が少し違うとも書いてあった。」


  「同じ種類でも、気候の違いが影響して色や形態に違いが出るのかな?さっきの話にあった、まとまった雨と、気温と、餌になる草の存在がポイントだな。」


  「お父さん。頭が冴え(さえ)てるね。だけど、あの古典語本には、大発生の原因には乾燥期の存在が影響していることまでの記載しかなかったわ。」


  「それが正しいとすると、乾燥期には何が起こるか?そして、その何かがどう違えば大発生する年と、そうでない年とが分かれるのか?という問題に絞り込めるんじゃないかな。」


  「お父さん。すごーい。お見逸れ(みそれ)しました。お陰で目の前のもやもやが一気にパーッと晴れ渡ったわ。ありがとう。」


  「俺だって、やるときにはやるんだ。参ったか?俺も、今日中に何とか目処が立ってよかったよ。さあ、もう遅い。さっさと寝るぞー。」


  「はーい。」


((二人で一緒に考えると、頭が整理されてよくまとまるわね。))



 翌朝二人は、早々に朝食を済ませて、テーブルを挟み向かい合って座った。


  「お父さん。今日は、昨日絞り込んだ問題点を深掘りして、大発生の原因というか絡繰り(からくり)を突き止めて、対策案まで作り上げるわよ。いいかしら?」


  「わかった。早ければ早いほどいい。王国に、オスムール帝国への協力打診を進言するにも、実行可能で実効ある対策案が必要だ。」


  「そうだね。早速始める。先ず、乾燥期になると、餌となる草が枯れて蝗は飢えるよね。」


  「そうだな。飢えた蝗はどうするか?そのまま死ぬか、まだ草が残っている所へ移動するかだな。」


  「移動する先がないか、あっても、飢えた体で移動するには遠すぎるとき、蝗は死滅するしかないわね。」 


  「そうだすると、死滅するような環境変化をもたらす乾燥期とは、広範囲に及ぶ大規模な乾燥期だろう。」 


  「その通りだわ。きっと、そっちの方が大発生がない年の普通の乾燥期なのよ。」


  「うーむ。それなら、大発生があった年の乾燥期は小規模か中途半端なものだったというのか?その年は、草の生育領域が点在して残り、飢えた蝗がそこに一斉に移動して合流した結果、そこの生息数が増大して過密状態を形成しただろう。」


  「お父さん。すごーい。大発生の原因解明にかなり近づいたんじゃない?」


  「そうか?何だか、お前に誘導されて言わされている気がするんだが。」


  「そんなことないわ。もう少しで核心に到達するよ。蝗の過密状態になっても地域内の総数は増えてないから、そのままほかの地に草を求めて飛び立っても大群とは言えないわね。飛び立つ気力があるのかも怪しいしね。核心部分はそこだわね?」


  「なるほど。蝗の過密状態になってから、蝗に何らかの変化があるはずだというのだな?」


  「そういうことだと思う。私自身、確証は持っていないけど、その変化はあるひとつの方向を向いているはずだわ。つまり、こんな過密で競争が激しい環境でも生存し繁殖できる強靭化(きょうじんか)の方向よ。蝗同士で草の争奪戦を好んで行い、皆が好戦的(こうせんてき)凶暴化(きょうぼうか)した結果、次の世代は初めからその性質を備えた強靭な個体になるんだわ。過度に密集した集団で行動して繁殖力が高いから、すぐに大群化するのよ。そのような個体が、通常の個体とは外観上も違うのかもね。」


  「その強靭化は、草を食いつくした後の生存能力にも現れ、遠くの草地を目指す気力と飛翔できる強力な羽根を手に入れたというわけか。」


  「お父さんの言うとおりね。蝗が強靭に変化して大群化する原因は、これでほぼ説明がついたと思う。これ以上は突き詰める必要はないでしょう。」


((ふう。一応、外観上でわかる原因究明ができたよ。真の原因の解明は不可能だけどね。))


  「今までの原因究明結果をまとめると、オスムール帝国の東部乾燥地帯での乾燥期が小規模か中途半端な年で、枯れていない草地が残っていると、蝗が大発生する可能性が高いということになるな。」


  「そういうことね。そこから、蝗の大発生を元から絶つための効率的な対策案が考えられるわね。」


  「それは、オスムール帝国の東部乾燥地帯で、乾燥期の最中か終わりごろに、緑の草地が残っている領域の有無を調べることから始まるんだな。」


  「そう。緑の草地が残っている領域があった時、その領域に薬剤散布するなり幼虫を捕獲するなりで蝗を根絶するのよ。これは人海戦術になりそうだから、国際協調した組織化が必要だわ。アルチュールさんに頑張ってもらわないと。」


  「人海戦術をとるには、現地住民の協力を仰ぐ必要があるな。現地住民に聞いてどこか怪しそうなところに陣を敷き、派遣隊員を待機させておくべきだろう。常時のパトロールも必要だな。乾燥期に草地が枯れていく最前線を追っていき、草枯れの進行が止まって緑の草地を維持する領域がないかを最速で突き止めるんだ。残った草地があれば大発生の恐れありで、残った草地がなければ大発生はないとみていいだろう。」


  「蝗が幼虫でいる期間は30日ほどだから、草地の発見が少し遅れても、幼虫が成虫になる前に殲滅できる可能性は高いと思うわ。ただ、かかる費用と得られる経済的損失の軽減との差し引きで、やり方や実施規模を変える必要あるかも。」


  「よし。これで一応の対策案ができたわけだ。これから俺は辺境伯に手紙を書く。お前はどうする?」


  「私は、幼虫を駆除する薬剤や捕虫網の検討を開始する。初めは、先日買ってもらった本のうち、工業農林魚業と医療と薬学の本を読んで関連記載を探すわ。そちらは、よろしくね。後で見せてもらってもいいかしら。」


  「もちろんだ。それじゃー、国際取り組みに貢献するぞー。」


  「おぉー。」



((えーん。言い出しっぺの責任取るのも楽じゃなさそう。だけど、殺虫剤や捕虫網作りを修行の一環として落とし込めば、一石二鳥ね。))



少女は蝗害に関して本から得た知識を狩人の男と共有して考えをまとめ対策案を提示しました。少女はこんな中でも修行を忘れず殺虫剤づくりや捕虫網作りを修行のひとつにしました。うまくできるでしょうか。心配です。それではまたお会いしましょう。


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