31.少女は本屋さんで大量の本を買って貰う
少女は隣国の紳士然とした偉い人をやり過ごすようにします。狩人の男はその偉い人を間接的に後押しする手紙を書きます。
ーーー 場面は町の宿の部屋からはじまる
デイビードとユリアの二人はハンターギルドを出て宿に戻ると、夕食を済ませた後、ガスゴーシュに託す辺境伯宛とエドアルド宛の手紙を書き始めた。
辺境伯への手紙には、手紙を持参した人物の紹介状的なものとして、彼が隣国フランソワール帝国の産業省長官補佐で間違いなく、業務遂行能力に問題ないことのほか、知己を得たきっかけや、隣国の動きや、彼の来訪目的など、知り得た情報を認めた。
エドアルドへの手紙には、彼への対応の示唆として、蝗害の件で彼と協調すれば王国を動かし易く、被害を受ける2国共同でオスムール帝国に対応を迫る道が拓けること、忠告として、彼がユリアに関心を持ったこと、辺境伯家を動かした情報源を悟られないようにすべきことなどを記載した。
ユリアは、手紙の内容を確認して頷いて言った。
「それでいいと思うわ。辺境伯には紹介状の内容でほぼ事実のみを書いて、エドアルド様には提案と忠告の内容ね。エドアルド様をりっぱに育てたい愛情に溢れてるわね。」
「おいおい。何だか上から目線になってるぞ。まあ、それもあるが、兄とエドアルドで手紙を交換して互いに両方とも読むだろうから、違う内容にしただけだよ。」
デイビードは、そのあと真顔になって、ユリアに注意を促すように言った。
「ユリア。明日の朝一番で、この手紙をガスゴーシュ卿に託すが、その時、彼らに蝗害の話を振られても、食糧がなくて大変そうとでもはぐらかしておけ。彼は、昨日の一件でお前の特異さに相当の関心を持ったようだ。だが、お前との会話では、必要以上に突っ込まないで抑えた対応をしていた。奴は相当の手練手管だぞ。今後、お前に接触して来たら言動に十分気を付けろ。いいな。」
「わかったわ。お父さん。十分気を付ける。アルチュールさんは、悪い人ではないと感じたけど、キツネとタヌキの化かし合いに長けた人のにおいがプンプンしていた。でも、明日を乗り切れば、もう当分会うこともないでしょ。」
「そうであることを祈っているよ。」
翌朝、二人は宿で朝食をとった後、ガスゴーシュ一行が泊まっている宿を訪ねた。
宿の玄関ホールに入り、受け付けカウンタで宿泊者に手紙を渡したい旨を告げた。すると、食堂区画にいた当人が手を上げて食事の席を立ち、にこやかに近寄ってきた。
デイビードは、これ幸いと、簡単な挨拶をして手紙を渡しただけで、早々に宿を出た。
「アルチュールさんに、何も言わせなかったね。鮮やかに切り抜けたわ。」
「ああ。食事中なのはラッキーだった。もっとも、彼らも忙しい身だから特に失礼にはならないさ。それより、これから、先に野菜や調味料など食糧品を調達してから本屋に行くぞ。」
「分かったわ。食糧品は人に見られないところで収納魔法に入れるわね。本もそうするけど。」
二人は、食糧品を調達した後、本屋に入った。デイビードは、店員に前回と同じようにフランソワール帝国語の本はあるかと尋ねた。
店員は、髭面の男と小さな子供の二人連れから、すぐに前回のことを思い出して言った。
「いらっしゃいませ。ご要望のものは前回の残りだけですがご覧になりますか?」
「ああ。あるだけ全部見せてもらえるかな。」
店員は、奥へ行って6冊の分厚い本を抱えて持ってきた。
「これで全部でございます。政治と地政学、経済と経営、歴史と宗教、土木と治水、工業農林魚業、医療と薬学、これらの6冊でございます。これらは、隣国の大学の講義で使われる参考書ですね。」
デイビードは、全6冊の中身を簡単に確認して、言った。
「これらを全て購入する。全部でいくらだ?」
店員は、一瞬驚いた表情をしたが、内訳を声に出しながら合計の勘定をした。
「全部で金貨20枚と銀貨5枚です。銀貨5枚はサービスできます。商業ギルドカードでの支払い受け付け可能です。いかがでしょうか?」
「金貨20枚だな。いいだろう。このカードで支払い手続きを頼む。」
店員は、ほくほく顔で、若干あきれ気味な声で饒舌にデイビードに言った。
「早速のお買い上げ、大変ありがとうございます。余分に取り寄せて良かったですよ。これはお子様への教育用ですか?力の入れようが違いますね。」
デイビードは、6冊の書籍をひとつに括って収納リュックに入れた後、店員に言った。
「主に自分の勉強用だ。狩人を切り上げて仕官できる所を探したいのさ。」
その時、騎士の装束をしたひとりの男が店内に入って来て、店員を見て言った。
「君。いや、失礼。店員さん。こんな本があるか、探してもらいたいのだが。内容は、蝗害に関するものだが、作物を食すバッタなどの生態や駆除方法が書かれたものならなんでも良い。」
店員は、しらべてみますと言って在庫図書目録を繰ったあと回答した。
「可能性があるのは、子供向けの図鑑と職業学校の農業指導書くらいしか見当たりませんが、見てみられますか?」
騎士は、さして期待してなさそうだが、一応見たいと言った。そのあと、なにげなく店内を見回してデイビード達がいるのに気がついた。
「あっ。これは気がつかず、大変失礼した。私は、ガスゴーシュ卿が配下のポルストレというものだ。昨日は、危うく死ぬところを助けていただき、感謝申し上げる。貴殿も承知の通り、我々は情報を必死に求めていて藁をもつかむ思いなのだ。」
デイビードは、手短に同情の言葉を残して本屋を出た。
「心中お察し申し上げます。貴方がたの努力が実を結ぶことを願っています。」
『さようなら。騎士さま。』
ポルストレと名乗った騎士は、まっすぐ立って右手を肩の高さで振りながら、二人が去っていくのを見送った。
デイビードは、ユリアに言った。
「言葉に気を付けろと言っただろう。不用意に喋るんじゃない。」
「ごめんなさい。あの人が隣国の人と分かって、つい隣国語でしゃべってみたくなったの。それにしても、奮発しすぎじゃない?一応全部読ませて貰うけど、読んだらお返しするわね。そんな高価なもの、わたしが貰うわけにはいかないわ。」
「いや。俺に返さなくていい。もし、返すなら辺境伯家にでも返せばいい。いいか、よく聞け。この本代は、もはや投資ではない。お前の貢献に対する謝礼のごく一部だ。俺は、蝗害未然防止の国際協定が成立して、大規模な幼虫殲滅作戦が実行されると予想している。」
「そうなのね。私の貢献らしきものって、手紙を送ったことだよね。でも、こうなったら、あとは知らんぷりを決め込む訳にも行かないわね。たぶん、エドアルド様は既に研究を開始してると思うわ。だけど、私は私で独自に、卵か幼虫の大量殲滅手段を捻り出すわ。」
「お前がそう言ってくれるのは、頼もしい限りだ。森の小屋に帰ったら、直ぐに取り掛かるか?これから、必要な調合器具や薬剤、薬草、散布器具などを調達するぞー。」
「おぉー。」
((森での修行の方向が、以外な方を向いちゃったよ。でも、今の最優先は、蝗害未然防止よね。効果的な手段を開発しないとね。それが辺境伯家の皆様やアルチュール様への後押しになるはず。))
狩人の男は隣国の偉い人が蝗害未然防止のキーマンになると考え、少女も側面から支援することにしましたね。どうするんでしょうか。心配です。それではまたお会いしましょう。




