30.少女は弓矢の実力を披露する
少女は買ってもらった弓矢の確認のため、ハンターギルドの訓練場で実射します。
ーーー 場面はハンターギルドの実射訓練場
ギルド職員は、二人を先導して半地下のハンター訓練場に案内した。
「こちらです。ここは、3時まで弓矢の実射訓練時間となっています。有料で指導も受けられますが、いかがなさいますか?」
「いや。指導は不要です。ありがとう。」
「それでは、ごゆっくりどうぞ。」
ギルド職員は、それだけ言うと戻って行った。
デイビードは、両腕を胸前に組んで言った。
「どこでも空いているブースで射ってみていいぞ。」
ユリアは、空きブースを探して歩き、的までの距離50mのブースの前で止まった。
「そうね。私の腕の長さで目いっぱい弦を引いても、矢の威力が保てるのはせいぜい50mだろうから、この50mブースにする。3秒間隔で5連射ずつ、4回の試技で種類を変えて射るね。試技の種類は隠語で言うから。」
「いい判断だ。森ではたったの10mだったからな。ここではお前の真の実力がみられるぞ。楽しみだ。」
「師匠はお気楽でいいわね。初めの試技は生よ。それじゃあ、結果を見て腰を抜かさないでね。いくわよー。」
初めの5連射は、直径50cmの的に全て当たったが、全面に均等にばらついた。
「うん。この弓矢は手にしっくりきて使いやすいわ。でも生では、獲物の急所に当たるのはせいぜい10射して1射だけね。次の試技は普通で射るね。」
次の5連射も初めと比べて有意の違いはなかった。
「やっぱり、普通じゃあ効果ないね。次の試技は強力よ。」
今度の5射は黒丸の付近に集中したが、2本は黒丸から僅かに外れていた。
「予想通り効果はあるけど弱いわね。最後の試技は類似よ。これが本命。ほんとに腰を抜かさないでよー。」
ユリアの最後の試技5連射は、5本全てが黒丸の中心に競い合うように突き刺さっていた。
「やったー。ほんとに、百発百中の射手の仲間入りだー。」
デイビードは、ユリアの快挙に拍手を送った。そして、ユリアが、自らの脳力で解明した一発必中かつ百発百中の理屈が、すべて正しいことを自らの技量と魔力操作で証明して見せたことに、尊敬の念さえ抱いた。
「まったく、お前ってやつは。大したもんだ。危うく腰を抜かしそうになったぞ。これで、ほぼ一人前の狩人として認めてやれるよ。」
「ほぼって、まだ何かあったかしら?」
「まあ、主なものでは剣術だが、お前には槍術があるからそれで代替できるだろう。後は、補助的な戦闘技術だ。例えば、短剣術、短剣投げ、投げ縄、投石術、盾術、格闘術などだな。そうだ。大事なものがあった。買い物や取引の資格だ。残念だが、こればっかりは所定の年齢に達しないと取得できないから、待つしかない。」
「そうだね。訓練しながら歳を取るのを気長に待つよ。」
そこへ、二人の背後で一部始終を見ていた、いかにも強そうな男が声を掛けてきた。その男は、大柄で引き締まった筋肉質の体躯や手足に、短髪で髭なし、鋭い目つきをしている。
「そこのお二人さん。俺はここのギルド長のグラリアスというものだ。悪いが、いまの話を聞いてしまったので、ちょっと提案していいかな。嬢ちゃん、ハンターギルドは、所定の能力確認試験に合格すれば、年齢にかかわらず会員登録ができるんだ。試験を受けてみる気はないか?」
デイビードは、グラリアスの話を聞いて、ユリアの方を向き、意思を確認する。
「クロエ。その通りだ。どうしたい?お前に任せる。」
「ありがとう。お父さん。グラリアス様、その前に確認させてください。ハンターギルドの会員登録には、本人を証明するものが必要ですか。また登録した場合、特典だけでなく義務も発生するのでしょう?どんな内容なのですか?」
グラリアスは、各問いの内容を簡単に説明する。
「まず、本人確認はギルド会員登録している人が身元保証人としてサインすればいい。次に、目に見える会費というものはない。その代わり、ギルドとのすべての取引には取引額の1割を超えない手数料をいただく。特典は、会員証を持てば原則どの国に行っても身分を保証され、物や役務などの売り買い資格が得られる。生活をするために与えられる資格だからな。この点は商業ギルドと同じだが、主な違いは年齢制限がないことと取り引き対象物だ。どうだ?」
ユリアは、目を輝かせて話を聞き、確認するように言う。
「とても魅力的なお話です。今のお話の会員規約のような書き物はありますか。それを見てから能力確認試験を受けるか決めてもいいですか?それと、受験料と試験日、所要時間、合否発表日などを教えて下さい。」
グラリアスは、問われた全てに端的に答えてやる。
「ほう。見込んだ通りしっかりしすぎてるな。いいだろう。会員規約は受付カウンタで見せてもらえ。受験料は銀貨1枚を申し込み書提出時に払え。今日やるなら、嬢ちゃんの場合、実技確認試験はいま見たから俺の権限で免除する、知識と計算の確認試験が1時間、合否発表は試験終了後10分以内だ。納得したら今すぐ受付に行け。たぶん受験するだろうから準備して会議室で待っている。」
「はい。わかりました。ご親切にありがとうございます。」
ユリアは、デイビードを急かすように、荷物を片付けてすぐに受付カウンタに走って行った。
ユリアは、グラリアスの読み通り受験を申し込んで、知識と計算の確認試験を受けた。20分で書き終えてすぐに提出した。試験内容は、獲物の名称や特徴とその狩り方や血抜きや後処理の仕方、採取草木類の名称や特徴とその採取方法と保管方法、および簡単な四則計算などであった。
試験解答を提出して5分後には採点が済み、ユリアは満点で合格した。ユリアは、クロエの名前ですぐに会員登録を行い、特例でハンター資格4級の会員証を取得した。普通は5級からのスタートだが、弓矢の試技で見せた実技の腕前と、知識と計算の確認試験の好成績が考慮された結果だった。
ユリアは、グラリアスに丁寧にお礼を述べて、うきうきした気分でデイビードとともにハンターギルドを後にした。
ユリアは、宿までの帰路途中で次第に困惑したような寂し気な顔になって言った。
「これで、7歳になるまで待ってもらう必要もなくなった。私は1年間はひとりでも森で修業することを決めている。お父さんはお父さんの都合でどうするか決めていいよ。もちろん、お父さんがまだ私を厳しく教育する必要があると考えるなら、私は喜んで厳しい教育を受けたい。」
「ありがとう。だが、お前が俺のことを心配する必要はない。俺自身、お前を利用してここまでこれた自覚があるからお互い様だ。これからも、win-winに配慮しつつも自分の都合を優先するつもりだ。」
((今日は、最後にしんみりしちゃった。それにしても、また狼と戦ったり、ポーションにびっくりしたり、アルチュールさんを知ったり、ハンターギルド登録したりで、とても濃い一日だったわ。))
少女は自分が解明した一発必中の理屈を意識して自由に使いこなせましたね。期せずして市井で必要な売買の資格も手に入れました。次回は本屋さんです。楽しみですね。それではまたお会いしましょう。




