27.少女は草原での実践で技の習熟を図る
少女はこれまで習得してきた魔法の実践訓練に入ります。
ーーー 場面は森の小屋、時は狩人の男の無意識下の魔力の謎を解明した翌朝
二人は、朝食を済ませて片づけを終えた後、テーブルに向かい合って座った。
「ユリア。これから、お互いの今後の方針を話し合うぞ。いいな。」
「うん。いいよ。もっとも、私の基本方針、つまり、1年間はここで修行する点は変わらないけどね。」
「いいだろう。俺の方がお前の能力を見誤って、当初1年間を見込んだ教育期間と内容だったが、お前はわずか1か月程度ですべて修了してしまった。俺の方も、お前のおかげで予定より9か月余りも早く、昨日で習得段階が終了した。
今日から俺は、1か月間の最終目標の習熟段階に入る。内容は、弓矢で動く的に百発百中で当てる技と、お前が示してくれた、接近戦で目以外の部分から大量の魔力を相手に撃ち込む接近戦の秘術だ。ユリア。お前はどうする?」
「私も、身体強化魔法と探索魔法も実践訓練する以外はお父さんと同じ内容よ。ただ、弓矢は持ってないから、近いうちにまた町に行って買ってくれると嬉しいわ。あっ、それから、フランソワール帝国語の今ある本と違う分野の、例えば、政治や経済などの本も欲しい。欲張りかしら。」
「いいだろう。あのエルブライドの町にあれば、どちらも買ってやろう。4日後でどうだ。それまでの3日間、お前は、弓矢以外の魔法や技をみっちり実践して磨いておけ。ただし、修行中の行動は一緒にするぞ。二人のどちらか一方の実践に適した場面では、他方はそれを見守り適切に援助することとする。いいな。」
「わかったわ。お父さん。」
「よし、今日は、今までと違う狩場に行くぞ。草原が広がり群れで行動する獲物が多い場所だ。身体強化して進み2時間で着く予定だ。それじゃー、準備していくぞー。」
「おぉー。」
デイビードは弓と矢筒を背負い、肩にロープを巻き狩猟刀を手に持って、ジョギングペースで森の中を先導して走った。
ユリアは収納魔法に槍と携帯食糧のほか常備の野営装備類を収納し、小刀を手にもって小走りペースでデイビードの後を追った。身体強化魔法を掛けているとはいえ、小さな体には負担が大きそうだが、ユリアは軽々と2時間走りきった。
二人は予定通りに開けた草原の縁に到着した。デイビードとユリアはほぼ同時に探索魔法を開始して、眼前に広がる草原の広い範囲を探り始めた。
デイビードはすぐに、視野の左前方500mほど先に10頭あまりの狼らしき群れが、右方向に移動しているのを感知した。
ユリアは、右前方400mほど先に野牛の群れがたむろしているのを感知すると同時に目視でも確認した。
デイビードは、ユリアに提案した。
「俺は狼の奴らに自分の姿を晒して近づいて行き、俺たちを追い払いに向かってきた数頭を弓矢で狙い撃ちする。見込みが違って全部で向かってきたら、援護を頼む。お前を危険に晒すことになるが、どうだ?」
「私もそれがいいと思うわ。あたりには他の狼らしき群れは探知されてないし、全数で囲まれても俊敏の強化魔法や防御魔法と接近戦の秘術で、私たち二人なら軽く切り抜けられると思う。」
「うむ。お前を信頼している。よろしく頼む。よーし、いくぞー。」
「おぉー。任せて。」
デイビードは、二人に気づいた数頭が向かって来るのを視認したら弓矢を構えて待った。ユリアはデイビードの左側に位置取りした。
デイビードは、先頭の狼が100mほどに近づいたときに最初の矢を放ち、見事に両目の真ん中に命中させた。それを確認する前に次の矢をつがえ、引き絞って狙いを付け2射目を射ってこれも命中させた。
2頭の狼は短い断末魔の悲鳴を上げて、頭から倒れ勢い余って半回転したあと横倒しに倒れた。野牛を襲っていた狼たちはそれに気づいて、標的を変えて二人の方に迫って来た。
ユリアは、その後すぐに30mほどに迫って来た3頭目の狼に金縛り魔法を掛けて動きを止め、デイビードに一瞬の時間を作ってやった。デイビードはそれに気づき間髪を入れずに矢を放って命中させた。そのあとすぐに二人は10頭の狼に囲まれた。
「ユリア。次は2対10の接近戦だ。互いの後方を守るように位置取りし、自分の前方の敵全部に対峙するんだ。」
「分かったわ。目の金縛り魔法と接近戦の秘術をフルに使いまくるよ。」
「油断するなよ。俺もそれで行く。おっと。早速かかつてきやがった。」
デイビードは狩猟刀を使い、ユリアは槍を使って闘った。二人は、ともに眼前の2頭を素早く目の金縛り魔法で静止させて出足を止めた。その隙に別の1頭に狩猟刀または槍から大魔力を撃ち込んで動きを止めつつ止めを刺した。
こうして、二人は次々と狼を倒していき10分後くらいには全頭を片付けていた。
「ユリア。怪我はないか?お前ならこれくらいは難なくやるだろうと思っていたよ。だが改めて見ると、その小さな体で全く畏れ入ったもんだよ。」
「ありがとう。お父さん。ほんとに厳しい実践教育だったよ。さすがにこの頭数相手は少し怖かった。危うくお漏らししそうになったわ。」
「なんだかお前が言うと、全然切実さが感じられんぞ。」
「そんなぁ。ほんとよー。今回はお父さんが背中を守ってくれたから怪我がなかっただけだと思ってる。もっと精進が必要だわ。」
((いや、ほんと。安全圏にいて魔法を撃つのとは、恐ろしさがまるで違うね。でもこれでここでの一人暮らしの目途が立った感じがする。厳しい教育に耐えてきてよかったよ。))
少女の初めての本格的な実践訓練はなんと恐ろしい狼の群れが相手でしたね。狩人の男はパートナーとして頼もしかったです。次回はまた町に行って武器や教材を仕入れますが、なんかありそうな予感が。心配ですね。ではまたお会いしましょう。




