26.少女は狩人の男の最後の課題を解決する
少女は追跡魔法らしきものの正体を解明しようと思考を巡らせます。
ーーー 場面は森の小屋の前、昼食後
ユリアは、小屋の中で昼食を済ませて片づけを終えると、すぐに弓矢の訓練場所に出ていった。そして、デイビードの弓射に関するこれまでの言動や実射の様子を詳細に思い出し、追跡魔法らしきものの正体を解明しようとして独り言を言い始めた。
デイビードは、近くで腕組みしてだまってそれを聞いていた。
「えーと。お父さん、これは独り言だからね。」
「お父さんは騎士見習いの訓練初期から目に身体強化魔法を掛けていたのよね。目に身体強化魔法を掛けることは普通は難しいと言ってたけど、自分が苦労したとは言わなかった。
目の身体強化魔法を習得した時期と、金縛り魔法を習得した時期ではどちらが先かな?たぶんだけど、金縛り魔法は一家相伝で幼少期から訓練されるはずだから、金縛り魔法の方が先よね。
お父さんは、苦労して金縛り魔法を身に付けたと言った。そして、長じて騎士見習いになって目の身体強化魔法の訓練をする時期には、お父さんは既に金縛り魔法に習熟していた。
そこに大きな落とし穴があったのかも。
お父さんは、騎士見習いのときの目の身体強化魔法訓練で、難しいと聞いていたこともあって無意識に安易な方向へ流れた。つまり、金縛り魔法のやり方であることを意識せず魔力を目に集められたから、目の身体強化魔法を習得したと自分で思い込んでしまった。
((お父さん。ごめんなさい。ちょっと酷い言い方だった。))
一般の騎士さんたちは、金縛り魔法も目の身体強化魔法も必須ではないから、お父さんがそんな魔法を掛けて射っているなんて気づくはずもなく、自分たちの訓練だけで必死だったんじゃないかな。
さっきのお手本の5連射では、金縛り魔法は掛けてないけど目の身体強化魔法は意識して掛けていた。そして、いくつか的を外した感覚があったと言ったけど、それでも少しのずれなく5本全部が黒丸の中心に集中した。
その後の動く的の試技では、目の身体強化魔法すら掛けてないのに3本すべて黒丸の中心に集中した。その時は凄腕だと感心したけど、わずか距離15mとはいえ、技量だけでそんなことが可能なのかしら。
目の身体強化魔法の如何にかかわらず結果が変わらないということは、凄腕のせいも捨てきれない。だけど、自分で意識しないほど弱い金縛り魔法が常に目に掛かった状態のせいと言う予想も成り立つわね。
そう考えると、お父さんが無意識に掛けている追跡魔法らしきものの正体は、実は常在化した金縛り魔法だったということにならないかしら。お父さんの場合は元々の技量が高いから、意識しない弱い魔力でも十分な効果があつたのよ。
だけど、それを言うには、実際に金縛り魔法に追跡作用や誘導作用があることを証明する必要があるわね。金縛り魔法の魔力は集中させてまっすぐ的に向かって飛ばすよね。仮に引き寄せ作用があるのなら、少しはずれ方向に飛ぶ矢を引き寄せて的に当てられるかもね。」
「おいおい。ユリアよ。お前はなんだか突拍子もないことを考えていなかったか?俺の目の身体強化魔法が実は金縛り魔法だなんて失礼なことを言ってるかとおもえば、金縛り魔法に誘導作用があるとか夢のようなことも宣うし、お前、頭は大丈夫か?」
「あっ。お父さん、ごめんなさい。お怒りごもっともです。私の頭が大丈夫かどうか、さっそく試してみようよ。お父さんは意識して掛けた魔法なしでも百発百中だったから、下手くそが実証された私が、金縛り魔法の魔力を飛ばした状態で矢を5本射ってみるね。その結果をさっきの結果と比べて、違いが出るかを見てみよう。」
「うーむ。結果を見るのがちょっと怖くなってきたぞ。まあ、そうも言ってられないから、とにかくやってみろ。」
「はーい。じゃあ、やってみるね。」
ユリアは、昼前と同じく的から10mの位置に立って、金縛り魔法の魔力を黒丸の的に向かって飛ばした状態で弓矢を5射した。
「おおーっ。なんと5本全部が黒丸の中心に集中してるぞ。」
「ほんと?やったー。これで私も一発必中で百発百中の射手の仲間入りね。お父さんの追跡魔法らしきものの正体も一応解明出来て、今後、動く的への当て方にもいくつかバリエーションが考えられるね。」
「へぇ。どんなバリエーションだ?」
「もう、お父さん。しっかりしてよぉ。先ず、一つ目は、昼前にやった、魔法を何も掛けない状態で待ち受け行射すること。二つ目は、金縛り魔法の魔力を飛ばした状態で待ち受け行射すること。これは、多数本を高速連射するときに極めて有効かも。三つめは、厳しい訓練が必要だけど、意識した魔法なしでほかの騎士さんたちと同じようにやること。たとえば、的を追いながら的の移動先を予想して射ること。まだあるかも知れないけど、お父さん自身が考え出すべきことよ。」
「なるほど。その通りだな。うーん。実感はわかないが、俺がこの森で鍛錬して達成しようとした目標は、ユリアによってすべて理屈が解明されてやり方の指針も得られたわけだ。後は、俺自身が実践して習熟するだけということか。」
「そういうことね。それだって厳しい修業が必要だけど、動く的に当たらない原因もわからず打開策もない状態で焦燥感だけが募っていくのとは、天と地ほどの違いがあるわね。」
「全くその通りだ。何もかもユリアのおかげだな。礼を言うよ。よし。今日の魔法の厳しい教育訓練はこれで終了とする。後のことは夕飯を食べながら話し合うぞー。」
「おぉー。」
ユリアは、デイビードの最終目標達成に目途がついたお祝いと、自分の魔法取得訓練がひとつ達成できたお祝いに、肉と野菜を使った少し豪華な夕食を準備した。
二人は、これまでの経緯と今後の計画について、夕食をとりながら話し合った。
「私は、幸運にもお父さんに出会ったわ。お父さんが厳しい教育をしてくれたおかげで、初めに立てていた独習計画よりも何百倍も成長できたと実感している。お父さん。ありがとう。」
「俺も、たまたまお前に出会い、お前をパートナーにして、途中から娘として扱って、共に歩めてほんとによかったよ。感謝してる。まだ、今後の計画の練り直しが必要だけど、それは後にしよう。すぐに、寝る前の厳しい座学が待っているぞ。気を抜くなよ。」
「おぉー。」
狩人の男の追跡魔法らしきものの正体はなんと金縛り魔法でしたね。それは15話で少女が特殊技術のことを追跡魔法か何かといって示唆していた通りでした。金縛り魔法になぜ矢を引き寄せる作用があるかは不明ですが。さて、二人は今後どうするんでしょうね。心配です。それではまたお会いしましょう。




