22.少女は小屋で薬草を使ってポーションを調合する
昨日、金縛り魔法を習得したばかりだというのに、今日は、もう次の教育です。その前に、狩人の男の事情と決意の表明がありそうです。
ーーー 場面は、森の小屋、時は、金縛り魔法を会得した日の翌日
二人は、朝食をとった後、小屋のテーブルに向かい合って座った。デイビードは、教育の進捗状況を説明し、ユリアに今後の希望について確認する。
「ユリア。金縛り魔法の教育訓練は、習得までひと月を予定していたが、現実にはたった2日で終わってしまった。お前は、予想をはるかに上回る早いペースで俺の与える教育を熟している。」
「そうなの?そうだったら私は嬉しいけど、お父さんは違うの?」
「もちろん、俺もうれしい誤算だ。だが、このままいくと、俺の予定していた1年間の教育内容は2か月足らずで尽きて品切れになるだろう。その後は、俺自身が試行錯誤しながら新しい魔法なり技術なりを習得していくだけの段階になる。つまり、お前が俺の技の完成形を見て盗みとり、自分で訓練して身に付けるという教育形態がとれない。俺の試行錯誤にはお前を巻き込みたくない。」
「お父さん。私は巻き込まれたりしないし、足手まといにもならないよ。むしろ、その段階を私も一緒に乗り越えてあげるわ。お互いに指摘しあったりアイデアを出しあって、お父さんも私も同時に新しい技を習得出来たら、とってもお得だと思わない?それなら、予定した1年間を有効に使いきれるでしょ。どう?」
「お前がいうと、その通りだと思えてしまうから不思議だな。おそらく、それが俺にとってもお前にとってもベストのやり方だろう。あといくつか俺の技の完成形を見せてお前が習得したら、お前も、俺と一緒に新技の習得訓練に突き進むんだ。覚悟はいいか?」
「もちろん。初めから覚悟はできているわ。」
デイビードは、その後、慈しむような眼でユリアを見て自分の事情を語り始めた。
「ユリア。俺は、いずれは辺境伯家の騎士団に戻るつもりだ。騎士見習いの所定の訓練を終了して一度は騎士団に入団した。だが、自分の実力不足を実感した俺は、自己鍛錬したいと辺境伯にわがままを言ってこの森に来た。ここは、もっと若いころに時どき狩猟に来ていて、鍛錬に適した場所だと思ったんだ。
俺は、ここで、戦い全般にわたる圧倒的な力を身に付けるまで鍛錬する予定だ。いま、目標の半分くらいには到達した。残り1年間で目標を達成するつもりだ。」
ユリアは、しっかりデイビードの目を見て自分の計画を端的に答えた。
「私も、1年間ここで教育を受けたい。まだ6歳だし、生き急ぐ理由もないしね。でも、お父さんが目標を早く達成してここを出るなら、私はここにひとりで留まる。あっ、私が7歳になるまでは待ってほしいわ。後見人として私の商業ギルドカードを作ってもらいたいから。6歳だとひとりで買い物もできないしね。その後は、私はここで自立できる生活力をつけて、1年たったら市井に出ていく。お父さんにも、そのうち会いに行くわね。」
「お前といっしょに訓練すれば、1年よりずっと早く俺の目標を達成してしまいそうだな。その時には、その時の状況をみて考える。よーし。今後の方針はこれで決まった。今日は、これから、薬草を使ったポーション作りの厳しい教育だぁ。覚悟はいいか?」
「おぉー。」
ユリアは、収納魔法から何種類かの薬草のサンプルを取り出し、テーブルに並べた。デイビードは、壁の物置台から薬研と鍋や瓶や皿などを取り出し、テーブルに置いた。デイビードは、テーブル上の薬草サンプルを見て言った。
「ユリア。これらの薬草でどんなものが作れると思う?」
ユリアは、記憶を引っ張り出すように確かめながら言った。
「うーん。こちらにまとめた香草類は、お茶とか、精油とか、膏薬にして、疲労回復薬や胃腸薬や殺菌剤に使えるわね。こっちにまとめたヒール草やマナ草は回復ポーションの材料ね。中央にまとめたキノコ類は解毒薬に使えるわ。どうかしら?」
「うーむ。薬草類の種類は間違いない。効能についても完璧だ。お前は何か作ったことがあるのか?」
「作ったことがあるのは、お茶くらいね。後は、作り方を知識として知っているだけよ、道具もなかったしね。」
「そうか。今日はポーション作りの教育だが、ここに揃えた道具類で作れるか?不足なものはあるか?」
「大丈夫よ。それで作れるわ。今日はヒール草だけを使って回復ポーションを作ってみるね。」
「おう。俺もそのつもりだった。俺は、例によって黙って見ているから、自分の思う通り作って良し。」
「わかった。いつもながら厳しい教育ね。これから先は独り言だからね。」
ユリアは、独り言を言いながら、どんどん調合工程を進めていった。
「・・・初めに薬研でヒール草の葉を粉にする。・・・鍋に浄化水を入れて沸騰させる。・・・水が沸騰したあと温度を少し下げて安定させる。・・・ヒール草の粉を投入して魔力を注入しながらかき混ぜて煮出す。・・・液の色が緑から黄色っぽく変わり始めたら魔力注入を停止する。ここがポイントね。・・・完全に黄色になったら煮出し液から固形分を濾し分けて液体を瓶に移す。・・・瓶をしばらく静置するか遠心分離してエキス分と水を分ける。・・・上澄みとなったエキス分をポーション瓶に移して出来上がり。はい、5本の回復ポーションが出来ました。」
「お父さん。出来たわ。これはヒール草だけのポーションだから、効能は、疲労回復と小さい傷の修復くらいね。これでもここでの生活には十分役立つと思うわ。どうだったかしら?」
「ユリア。いつもながら完璧で何も言うことなし。俺は、回復ポーション作りは2週間かかると見ていた。知識がなければ全く作れないから、ポイントごとに助言をしようと考えていた。知識があっても、初めて実践してうまくいくはずがないとも思っていた。お前は、教育期間をまた2週間縮めてしまったぞ。それは、それでいいことなんだろうけど、俺の初めの計画は何だったんだ。」
「お父さん。嘆いている暇はないわよ。これからすぐに夕食の準備だからね。その後は、また寝る前に厳しい座学の教育が待っているんだよ。さっさと取り組むわよー。」
「おぉー。」
((お父さん、ごめんね。お父さんの事情を知ってしまったら、お父さんが新しい技を習得する邪魔はしたくないの。私という予定外のお荷物に関わる時間を最小限にしてあげる。といいながら、私自身も同じ技を習得させてもらいます。あしからず。なお、私の前向きな性格はスピノザ神父様の教えのおかげです。))
少女は、狩人の男の事情と決意を知って、ちゃっかり自分も乗っかって精進することにしましたね。狩人の男は、ほかにも少女に教育する内容を持っているようです。どんな技でしょうかね。楽しみです。それではまたお会いしましょう。




