21.エドアルドは蝗害対策に関する辺境伯の指示を実行に移す
一方、辺境領の領主家では少女の手紙で偉そうな人たちが振り回されていました。
ーーー その頃、領主家ではエドアルドが奔走していた
エドアルドは、辺境伯である父の命令を受けて、ユリアが手紙に書いた蝗害に関する事項の事実関係を確認させようと各方面に指示を出していた。
ユリアがエドアルド宛の手紙に記した、蝗害の発生傾向や過去に採用された対策とその効果については、すべて、根拠出典としてサンガルス村教会が所蔵する書籍名とページが添えられていた。
エドアルドは、領主家の蔵書目録にない書籍について、ユリアが手紙に記載した内容の照会手紙を側近に命じて書かせた。手紙は、すぐさま、サンガルス村のスピノザ神父宛に至急便の早馬で送らせた。領主家で所蔵する書籍については、農業専門文官ボタニナスに命じて記載の有無を確認させた。
そして、ボタニナスを蝗害対策研究責任者に任命して、手紙に対策として記されているすべての事項について、その具体化と効果の予想を研究するよう命じた。
ボタニナスは、自分が知らない内容をユリアが記しているのを見て、半信半疑でいくつかの書籍をめくった。そして、それらすべてが書籍に記載された事実であることを知って自分の不明を恥じた。出典とされた書籍の中には、シングラーツ王国の建国より100年ほど前に出版された古典語の書籍が混じっていて、古典語の読める者に解読させたものもあった。
エドアルドは、ボタニナスの報告を聞いて、ユリアの底の知れない能力を再認識した。まもなく、スピノザ神父から来た照会回答の手紙にも、確かに該当書籍に該当記載があるとの回答があり、すべての記載の裏付けが得られた。
エドアルドは、手紙の内容の根拠出典の調査結果をもって、兄アルベルドとともに父ヴィルムードの執務室を訪ね、そこにいた叔父のダルビードと家令セバスターも伴って辺境伯私室に移動した。
エドアルドは、父ヴィルム-ドと叔父ダルビード、兄アルベルドに、これまでの活動状況を手短に説明した。
「父上、叔父上、兄上、ユリアが手紙に書いた蝗害関連の記載は、すべて出典書籍に同じ記載があり根拠のあるものと判明しました。農業専門文官ボタニナスには、既に、記載された対策案が効果あるものか研究するよう指示を出してあります。今後の行動計画の検討をお願いします。」
ヴイルムードの弟でデイビードの兄であるダルビードは、甥エドアルドを制するように自分の調査結果の一部を説明して言った。
「兄上。その前に、王国内の被害状況と動きをご説明します。王国へ嘆願のあった税軽減率の推定と現地視察結果から、大きな被害を受けたのは我が領と南に隣接するロンバルス領の二つです。今のところ、王国側もロンバルス領側も蝗害対策に関する動きは何も見えません。そもそも、来年も蝗の大発生があると心配する声も聞こえてきません。そんな中で、我が領から他領や王国に来年の蝗害対策を進言した場合、どのように受け取られるか予想がつきません。」
「ダルビードよ。よく調べてくれた。ことは慎重に運ぶ必要があるな。進言するに足る十分な証拠が必要というわけか。先ずは、我々にどれだけの時間が残されているかを把握し、次に、対策の費用と効果から現実的な実行案を探していくぞ。」
ヴィルムードの言葉を受けて、アルベルドが黒板に時間軸の横線を引いた。そして、現時点と、対策完了時と、蝗発生時期、および、蝗の到来時期の各目標時期にマークを書き入れながら言った。
「対策案がすべて効果のあるものと仮定して、それらをいつまでに実行完了すれば、蝗の大量発生を防止できるか、あるいは、少なくとも食害を低減できるか把握しやすいように、この図に時間軸と対策時期を表していきます。」
「うむ。それは見やすくてわかりやすい。エドアルド、手紙には対策時期に関する記載はなかったのだな?ボタニナスへの指示はこれも含んでいるのか?。」
エドアルドは答える。
「はい。父上。手紙にはその時期までの記載はなかったのですが、ボタニナスの中間報告には、対策案ごとの実施時期も含まれています。」
「ほう。ボタニナスもやるではないか。例えば、どんなものだ?」
「はい。先ず、大量発生そのものを防止するには、春ごろに幼虫の段階で捕獲採取や殺虫剤で駆除する手段があります。しかし、発生場所は、西方の隣国を挟んだオスムール帝国の広大な乾燥地帯のようです。しかも、当該国自体には大した被害も出ないようなので王国経由でも協力を仰ぐのは難しいでしょう。この対策手段はあまり現実的とは言えないと思います。」
ヴィムードは、弟のダルビードの方を向いて言った。
「うーむ。一応、オスムール帝国と隣国のフランソワール帝国も、蝗害対策の知識とか実施経験の有無を探らせているのだよな、ダルビードよ。」
ダルビードは、兄ヴイルムードの問いに答えて言った。
「もちろんです。かの国へ出向かせた者たちの報告にはまだ時間がかかりますが、別動隊に隣国を探らせています。かの国と隣国を商隊で行き来する商人たちや、隣国の農業担当役人たち、農民たちなどに探りを入れています。別動隊の報告では、これまでのところ、蝗害の予想や対策に関する話は何も聞き出せていないようです。」
ヴイルムードは、困ったような素振りで言った。
「今はまだ情報が少なすぎるか。よし、蝗の大発生予防対策は、時間的には最も押しているが実施は難しいとして一旦忘れよう。王国内だけで実施可能な対策に絞って考えるぞ。エドアルド、蝗の食害を少なくする対策にはどんなものがある?」
エドアルドは答える。
「はい。父上。蝗は特定の草木類を忌避するようです。具体策としては、それらを圃場に網目状に植えるとか、それらのエキスから調合した薬剤を圃場に散布するというものです。」
アルベルドがそれを受けて、黒板の図の時間軸2カ所に、特定の草木類を植える時期と薬剤の散布時期をマーキングして言った。
「なるほど。これなら、今からでも十分に実施可能で間に合う対策案になるな。だが、植えたり、収穫して調合したり、散布したりと、かなりの手間と費用が掛かりそうだ。とても単独の領地で賄えるものではないぞ。それに、どの程度まで食害を軽減できるものか実績もない。」
これを受けて、ヴィルムードが両腕を胸で組んで言った。
「王国に対策案を進言するにしても、費用対効果の予想と根拠が必要だな。我が領地に限った場合の被害額の軽減予想額が、投じる対策費用の2倍以上であるか否かを判断基準としよう。ボタニナスの研究成果も合わせ実施する価値があるとの判断結果になったら、対策費用の補助も含めて王国に進言しよう。アルベルド、エドアルド、この方針で部下たちに検討させろ。」
アルベルトとエドアルドの二人は、声を合わせて言った。
「はい。直ちにとりかかります。」
ヴィルムードは、今度はダルビードの方を向いて言った。
「ダルビードよ。オスムール帝国の乾燥地帯に人を張り付かせろ。蝗の大発生の兆候を捉えたらすぐにその情報がこちらに伝わる体制を整えるんだ。薬剤散布については、その情報を得てからでも間に合うだろう。打ってしまった対策が空振りのときでも損失を最小限に止めるぞ。」
「なるほど、これで、かなり現実的な対策案になります。さすがです、兄上。」
((ひゃー。あの手紙でここまで大事になるとは予想だにしませんでした。余計なことしちゃったかしら。))
領主家としても何とか行動計画ができて良かったですね。王国に進言することになったらどんな事態になるか怖いです。次回は、また森の小屋で厳しい教育の場面に戻ります。今度は何をするんでしょうね。楽しみですね。それではまたお会いしましょう。




