20.少女はたどり着いた新魔法の原理の当否と応用案の是非を問う
少女は昨日と今日の実践結果から金縛り魔法の神髄に迫ります。狩人の男は少女の話をじっくりと聞きます。
狩りから戻った二人は、小屋で一服する暇も惜しんで今日狩った獲物を手分けして処理した。食肉部分や毛皮はユリアの収納魔法に収納し、内臓類は焼却して埋設処理した。その後、夕食の支度をしてテーブルに向かい合って座った。
ユリアは、夕食をとりながら、今日の狩りで実践した金縛り魔法の発動方法について自分の考えをデイビードに話して、原理の当否と応用案の是非を問うた。
「お父さん。初めに、金縛り魔法の原理について私の考えを話すね。先ず作用というか相手に与える影響は、頭、つまり、脳に衝撃を与えて一時的に放心状態か麻痺状態にすることじゃないかな。特に、自分の目から視線で相手の目に放射した場合、目に強烈な光を浴びせた時のように脳を直接的に刺激して、少量の魔力でも発動するんだと思う。どうかしら。」
「ユリア。よく見抜いたな。まさにその通りだ。続けて。」
「ありがとう。次に、組み合わせる魔力の種類について話すね。初めは、単純に強い魔法同士の組み合わせがいいと考えて、私の得意な照明と水の組み合わせを試したの。結果として、近距離の括り罠猟の獲物には発動したけど、今日の遠距離の弓猟の獲物には発動しなかった。そこで、魔力が似た系統のもの同士の組み合わせに変えてみたの。具体的には、照明の魔力と火の魔力よ。そしたら、遠距離の熊に対しても発動したわ。これについては、どうかしら?」
((お父さんのミスリードに掛かってやったからね。でも、試行錯誤するまでもなく発動の原理は予想ついていました。残念だったね。))
「ユリア。よくそこに思い至ったな。正解だ。次は、今日の括り罠の鹿に対峙した時の応用の話だな。続けてくれ。」
「わかったわ。お父さん。最後に、応用について話すね。今まで、視線で魔力を目の近くに当てたとき、獲物は微かに何かを感じたそぶりをしたわ。たぶん、魔力が当たって脳に至るまでに毛皮と肉と骨格に邪魔されて減衰したんだと思う。それなら、減衰しても余るほどの十分な量の魔力を当てれば、目に直接当てなくても脳に強く作用するはずよね。
それと、近距離なら別に視線じゃなくても的に当て易いから、魔力を大量に放射できる放出経路を選んだの。それが、今日試した、両手に魔力を集めて槍を通して放射するという発動方法だったの。この解釈と試みはどうかしら。」
「うーむ。ユリアよ。お前は、俺の、いや、俺たち一家の先を行ってしまったな。俺たちが狩りや対人の戦いでこの金縛り魔法を使うのは、弓矢を主武器として少し離れて相手と対峙した場面だけだった。魔力を相手の目に当てるのは、お前の言う通り視線により狙いをつけるのと、脳に近くて効率がいいためだ。
今日のお前の試みは、括り罠で相手から反撃を受けない状況で成立した。もっとも、お前の魔法を知らない相手なら、隙をみて発動するのは容易だろう。無詠唱だしな。お前は、少人数に襲われても切り抜けられる力を得たかもしれない。だが、使い方を誤ると困った状況に陥るから気を付けることだ。」
「嬉しいわ、ありがとう。十分気を付けるわね。それじゃあ、今日までの教育で理解した金縛り魔法の神髄をまとめるよ。一番の基本は、種類の異なる魔力をそれぞれ体の異なる部位に集めて、魔力のまま同時に放射することね。それから、えーと、」
「ああっ、そこまでだ。それ以上丸裸にしないでくれ。ヴィルダー辺境伯家の一家相伝の秘伝なんだ。他言無用にしてくれ。」
((お父さん。それじゃ、神髄の答え合わせにならないよ。まあいいけど。もともと、すんなり教えてくれるって思ってなかったからね。))
「わかったわ。ごめんなさい、お父さん。ところで、一家相伝というけど、辺境伯家の血族や身内ならみんなこの魔法が使えるの?」
「いや、残念ながら、そうではない。お前の言う一番の基本のところで挫折して諦めた者も多い。お前に課した厳しい教育と違って、手取り足取り教えた結果がそれだ。」
「そうなんだ。私って、生活魔法しか使えないけど、却ってそれが良かったのかな?生活魔法の使い手は、規模は小さいけどいくつか違う種類の実体や現象を出せるから。」
「そうなのか?生活魔法でいくつかの属性魔法と同じ種類の実体や現象を出せる人を、お前のほかには見たことがないぞ。俺自身は、水魔法と氷魔法の2つを使えるから、金縛り魔法を発動できるようになったんだ。それでも、相当の訓練が必要だった。」
「へーえ。お父さんは、属性魔法で近い系統の2種類を持っていたから発動できたんだね。それでも相当訓練したってどういうこと?」
「御多聞に洩れず、お前の言う一番の基本の部分で苦労した。ところが、お前は、なんの苦労もなく当たり前のようにそこを乗り越えて見せた。きっと相当高度の魔力制御技術を身に付けているんだろう。熟熟お前の賢さや高い能力には驚かされる。羨ましい限りだよ。」
「お父さん。私、まだ、新しい魔法をひとつ身に付けただけだよ。教育期間の1年間は、まだまだこれから長いからね。お父さんの本気の厳しい教育を期待してるわ。私も、途中で弱音を吐かないで気を引き締めて頑張るから。」
「おう。もちろんだ。長く厳しい教育になるぞ、覚悟して置け。しかし、お前が弱音を吐く姿なんか、今となっては全く想像すらできないぞ。弱音を吐くのは俺の方かも。先が思いやられるなぁ。」
「お父さん。嘆いてる暇はないよ。次は、座学の厳しい教育でしょ。夕食の後片付けと一日の汗を流して、すぐに始めるよ。」
「もちろんだ。こうなったら、俺もお前と一緒に精進するぞ。」
二人は、昨夜と同じようにテーブルに向かい合って座り、鉱物資源に関するフランソワール帝国語の書物の読み込み学習の続きを始めた。主にユリアが黙読しながら質問し、デイビードが答えられる限りのフランソワール帝国語の発音で答えた。
ユリアは、切りのいい所で書物を閉じて、デイビードにおやすみを言って就寝した。
((ふう。長くて密度の高い一日だったわ。こんなのが毎日続くのかしら。いや、薬草も取り溜めているから、そのうち調合の教育もあるかも。楽しみだわ。))
少女は見事に金縛り魔法の神髄を極めました。しかも、それに飽き足らずこの魔法の応用に関して狩人の男の域を超えてしまいましたね。こんな厳しい教育が1年間も続けられるんですかね。心配です。次回はまた場面が変わり、領主家の偉そうな人の仕事ぶりの話になります。それではまたお会いしましょう。




