19.少女は覚えた魔法の定着訓練をして応用を試みる
場面は森の小屋。時は、少女が括り罠で新たな魔法の発動に成功した日の翌日です。
少女は新たな魔法の定着を図ります。また、この魔法の応用も考えているようです。
翌日、二人はいつもより早めに起床して手早く朝食をとり、狩りの装備品類を準備したあとテーブルに向かい合って座った。
デイビードは、ユリアに今日予定している教育内容を簡単に説明した。
「ユリア。今日もいつもの狩場で鹿かイノシシを狩るぞ。ただし、短弓で矢を射るのは俺だが、金縛り魔法はお前が発動して掛けるんだ。できるか?」
「うん。たぶん大丈夫。できると思う。」
「ユリア。お前の方から何か聞きたいこととか、言っておくことはないか?」
「そうね。獲物が金縛り魔法に掛かったことを、お父さんに知らせる合図とか必要かな?」
「いや、必要ない。掛かったかどうかは俺が判断する。俺が矢を射ったらお前の金縛り魔法が掛かっているということだ。」
「わかった。お父さん。ここで遠距離の金縛り魔法で獲物を動けなく出来たら、この魔法が自分に定着したと考えていいんだよね。」
「一応、そう考えて良い。」
「一応ってどういうこと?まだ足りないことが何かあるの」
「お前も、もう気づいていると思うが、放射する2つの魔力の種類は特に限定されない。しかし、組み合わせる魔力の種類によって金縛りの強度や効果の継続時間が異なる。普通は強い種類の魔力同士の組み合わせの方が高い効果を示すが、組み合わせによっては全く効果がない場合もある。それを考えて今日の訓練をやるんだ。いいな。」
((あ、お父さん。今のは手取り足取り教えたことにならない?でも、本筋のところは少しぼかしているね。))
「うん。わかったわ。弓猟の獲物か括り罠の獲物で、魔力の種類の組み合わせをいくつか試してみるね。それと、この魔法の応用として試したいことがあるの。それについてはその時に話すね。」
((お父さんのさっきの話に乗ってあげる。弓猟では的が遠いから強い種類の魔力同士の組み合わせね。罠猟では的が近いからどうでもなる?))
「よろしい。何を試すのか知らないが楽しみだな。それじゃー、張り切って行くぞー。」
「おぉー。」
二人は、椅子から立ち上がり、いつものポーズをして昨日と同じ狩場へ向けて出発した。
ユリアは、いつもどおり、往き道の途中の3カ所に括り罠を仕掛けた。二人は、しばらく森の中を進んで狩場に到着した。デイビードは、昨日と同じハンティングポジションで止まって、ユリアに向き直って言った。
「今日はお前が位置取りをしろ。」
「わかったわ。うーん。風向きはここで問題ないわね。遮蔽物はーっと、この大きな木は邪魔ね。この木からちょっとこっちに離れたこの位置がよさそうね。私が無理のない姿勢で顔だけ少し晒しながらヌタ場が良く見えて、お父さんも獲物に人の気配を悟られず、視界と矢を射る動作の邪魔にもならないと思う。どうかしら?」
「よかろう。ここでしばらく待つとしよう。」
二人は、隠れたまま、息を潜めてしばらく待った。すると、親子らしい熊が3頭現れて泥浴びを始めた。
ユリアは、ゆっくりと構え直し、昨日と同じ、照明の魔力と水の魔力の組み合わせで親熊に向かって魔力を放射し始めた。親熊は、何かを探るように少し顔を左右に振るような動きをしたが、すぐに泥浴びの動作に戻った。
ユリアは、熊の動作を確認して失敗を悟り、すぐに魔力の組み合わせを変えて再度魔力を放射した。今度は、親熊が、はっとしたように半身を起こして小刻みに顔を左右に振った直後に、親熊の動きが止まり静止状態になった。
その瞬間をデイビードは見逃さず、短弓の矢を放った。矢は、軌跡を追えないほどの速さで飛んでいき、次に見えた時には熊の喉元に突き刺さっていた。
二人は、それを見て互いに向き合い、小さくガッツポーズをとった。デイビードは言った。
「ユリア。2種類試してみたな。一応、合格だ。」
「やったわ、お父さん。2回目は、魔力の種類を照明の魔力と火の魔力の組み合わせに変えてみたの。そしたら、この距離でも獲物を金縛り状態にして静止させることができたわ。」
「ああ、わかっている。そこまでできたから、一応、合格だ。」
ユリアは、デイビードにそう言われて、金縛り魔法を発動するための理屈らしいことをもう少し考えてみた。
「でも、自分の持つ最大魔力は使ってないのよ。そもそも、目から放射できる魔力って線が細すぎて大した威力がないんじゃないかな。それでも、組み合わせる魔力の種類によっては威力が何倍にもなるのかもね。」
デイビードは、いじわるそうに言った。
「おぉ、かなり、本質に近づいたぞ。だが、もう一息といったところだな。まだ神髄には到達していないぞ。」
「わかってるわよ。お父さん。余裕こいていられるのも今のうちよ。次に私がすることを見て腰を抜かさないでね。」
二人は、仕留めた獲物の熊を、血抜きと冷却処理をしてからユリアの収納魔法に収納し、簡単な昼食をとってから帰路に就いた。往きにユリアが仕掛けた2番目の括り罠には、昨日と同じく鹿が掛かっていて必死に暴れていた。
ユリアは、鹿が暴れているのも構わず、小槍を構えて穂先を鹿の顔の振れ幅の中央に向けた。ユリアは、右腕に照明の魔力を集め、左腕には水の魔力を集め、2つの魔力を同時に槍の柄を通して穂先から一気に放出させた。
すると、鹿は、ユリアの方を向いた状態で顔の振りをぴたりと止めて静止した。ユリアは、その瞬間を逃さず、槍の狙いを鹿の喉元に変えて突き刺し、止めを刺した。
ユリアは、斜め前で腕を組んで見ていたデイビードの方を向いて、自慢気に言った。
「お父さん、いまの見てた?私、今度こそ金縛り魔法の神髄に到達できたと思うわ。答え合わせは小屋に帰ってからお願いね。」
デイビードは、ユリアの速すぎる上達ぶりに一瞬驚愕したが、すぐに、さもありなんと考え直して真顔で言った。
「ああ、わかった。お前がどんな答えにたどり着いたか、じっくり聞かせてもらうぞ。」
二人は、獲物の鹿の血抜きと冷却処理をしてユリアの収納魔法に収納して、急ぎ足で進み、夕方前に小屋に帰り着いた。
少女は、遠距離での魔法発動に成功しましたね。括り罠の獲物に対しては近距離に対応した発動方法を試みて、これも成功させました。いよいよ金縛り魔法の神髄に迫りましたね。次回は、少女の到達点の答え合わせだそうです。楽しみですね。それではまたお会いしましょう。




