18.少女は寝る前に座学で厳しい教育を受ける
二人は、就寝前に外国語の厳しい教育に挑みます。
二人は、金縛り魔法の答え合わせが終わった後、ユリアが生活魔法で出した水で布を濡らし、体を拭いて清めた。その後、夜衣に着替えてテーブルを挟んで向かい合って座った。
デイビードは、町で買ったフランソワール帝国語の書物をユリアの方へ差し出しながら言った。
「ユリア。早速だが、寝る前にこの書物で厳しい座学の教育をするぞ。教育内容は、鉱物資源全般だ。鉱物の種類や所在分布、採掘方法、精錬方法、利用方法など、多岐にわたるぞ。記述言語はもちろんフランソワール帝国語だ。準備はいいか?」
ユリアは、ちょっと、戸惑ったように言った。
「うん。筆記具とノートは持ったから大丈夫と思うけど、具体的な教育方法の説明はこれからしてもらえるの?それに、なぜ、いきなり難しそうな鉱物資源のお話からなの?」
「疑問を持つのはいいことだぞ。教育方法についてはこれから説明するから、俺の言うことをようく聞くんだ。いいな。そして、初っ端から鉱物資源の内容なのは、フランソワール帝国語で書かれた書物では、これが一番安価だったからだ。」
「うん。わかった。準備万端オーケーだよ。」
「まず、書物の最初の方で、鉱物の名称や特徴を挿絵付きで記述しているから、フランソワール帝国語の記述をシングラーツ王国語と対比して解読しながら覚えること。以下、鉱物資源の所在分布、採掘方法、精錬方法、利用方法などについても同様だ。それぞれの章の見出し事項から、記述が何を言わんとしているかを推測して、シングラーツ王国語でそれをどう表現するか対比して理解するんだ。どうだ、厳しいだろう。」
((お父さん。その説明、私が6歳の子供だってこと忘れてない?))
「うん。なんとなくわかった。ところで、この座学でお父さんの役割は何なの?わからない点を聞いたら教えてくれるのかしら?」
「あたりまえだ。俺も、フランソワール帝国語は少しかじったから、覚えている範囲で教える。だが、俺も知らないことについては、お前自身で考えて俺に解読結果を提示しろ。一緒に考えてやる。」
「うーん。大変厳しい教育だということが、よーくわかったわ。でも、私は、基本的に黙読で読み進めて、大事なところは独り言のように声を出して確認するから、お父さんも私がしゃべることをよーく聞いててよ。それに、区切りのいいところに来たら、別にまとめて質問するからね。いいかしら?」
「いいぞ。わかった。お父さんもお前が居眠りしないように見守ってやる。それじゃ、始めろ。」
((お父さん、やっぱり千里眼持ちだったんだ。私がスピノザ神父様の書物をどんな風に読んでいったか知ってる。それとも、ただ、手抜きしたいだけかしら?))
ユリアは、目の前の書物を手に取り、最初の章の鉱物資源の種類と特徴の解説を読み始めた。デイビードの言う通り、初めは宝石となり得るいくつかの鉱物について挿絵とともに解説が記述されていた。
「ふーん。シングラーツ王国語でいうディアマンテはフランソワール帝国語でも文字の綴りはほとんど同じね。でも、どう発音するのかしら?」
デイビードが、早速、薀蓄を交えて教えてくれた。
「ユリア。いい所に気づいたな。フランソワール帝国語では、特に最初または最後の綴り文字を発音しないことがままあるんだ。また、母音の発音も少し変わることがある。その宝石の綴りだったら、最後の文字を省略してディアモンと発音するんだ。」
「おーっと。母音の発音を変えた上に、語尾の文字を発音せずにディアモンか。お父さん、すごーい。でも、そういう、発音の省略と母音の発音変化は、どんな規則性があるの?」
「そ、それは知らん。自分で見つけろ。」
「はーい。」
((なるほど。これは大変に厳しい教育だわ。でもいいんだ。今までやってきたことと同じやり方だもん。))
ユリアは、書物をすごいスピードで捲っていき、ディアモンの項目すべてを黙読し終わって言った。
「へぇー。シングラーツ王国語とフランソワール帝国語は大元の語源が同じなのかしら。綴りが同じかほとんど似た言葉が結構多いわね。発音の仕方にちょっとした違いがあるけど、その規則性を覚えれば話せるようになるのは早いかもね。」
デイビードは、ユリアの突然の声に、はっとして姿勢をまっすぐ起こして、何事もなかったように言った。
「ユ、ユリア。いい着眼点だ。だが、発音やアクセントなどはネイティブ話者との結構な訓練が必要だと思うぞ。すまないが、俺はいまだに身に付けていないんだ。」
「謝らなくてもいいわ。ディアモンの項目のまとめ質問は止める。その代わり、お父さんが知っている会話をいくつか、フランソワール帝国語の発音とアクセントでしゃべってもらっていいかしら?」
「そんなんでよければ、3つ4つ覚えている会話例題があるからしゃべってやろう。よーく聞いておけ。」
それから、デイビードは、いくつかの会話例題をユリアにしゃべってやった。奇しくも、それらの会話例題は、フランソワール帝国語の発音とアクセントの特徴の相当数を網羅する模範会話例だった。ユリアは、デイビードのしゃべりの区切りごとに自分でしゃべってみて添削を受け、フランソワール帝国語のしゃべり方を一応でも習得するのは間近いと感じた。
デイビードは、そのあと、明日も今日と同じスケジュールで狩場へ行って、ユリアの金縛り魔法の定着訓練を行うと言って、ユリアに就寝を促し、自らもベッドに横になった。
((お父さんがフランソワール帝国語を身に付けていないって本当かしら?それにしても、単語数を増やすには、近いうちにあの書物とは違う分野の書物を買ってもらう必要があるかも。))
外国語の座学は内容が専門的で厳しかったですね。少女は少しも怯まず悲壮感もなく余裕で取り組みました。狩人の男も少しは少女にいい所を見せることができました。次回は発動に成功した魔法の定着を図るそうです。大丈夫でしょうか。心配です。それではまたお会いしましょう。




