17.少女は魔法発動方法を試してみる
場面は、括り罠にかかった獲物に魔法をかけてから止めを刺すところです。厳しい教育の最初の難関です。
ユリアは、一歩前に出てデイビードの方を振り向き、自信ありげに言った。
「お父さん、早速、盗み取った金縛り魔法の発動方法が正しいかどうか、試してみるね。」
「おう。やってみろ。お手並み拝見させてもらうぞ。」
デイビードは、そう言って、ユリアの顔が斜めに見える位置に立って、腕組みしてあたりを警戒しつつユリアの動作を確認する。
ユリアは、小槍の射程範囲内まで鹿に近づき、小槍の穂先を鹿の首元に向けて突き出す構えをして時を待った。右手は掌を槍の後端部に当て腕を軽くまげて脇腹の当たりまで後ろに引き、左手は腕をまっすぐ前方に伸ばして槍の柄を軽くつかみ、顔は正面を向いて鹿の目を見ていた。
ユリアは、鹿の目に向かって魔力を放射するように、自分の両目に魔力を集め続けた。ユリアが魔力を放射し始めると、鹿の顔はユリアを注視している状態から、何かを見つけるように少しの角度だけ左右に振れ始めたが、鹿の暴れ方に変化がない。
ユリアは、鹿の状態に変化がないことを確認すると、槍を突き出す構えを一旦解いて独りごとのように言った。
「ふう。試技1回目は失敗。やっぱりこれだけではだめね。それならこれでどうだ。」
((ほんとは魔力が飛んでいると確認できたから失敗じゃないんだけど。))
ユリアは、再び槍を突き出す構えに戻り、顔を少し斜めにして鹿を斜視するように見た。そして、同じように魔力を放射し始めた。だが、鹿の動きは、試技1回目と変わらなかった。
「ありゃ。試技2回目も失敗。あと、1つしか心当たりが残っていないよー。おねがい、次こそうまくいきますように。」
((初めに簡単な方を試してみたけど世の中そう甘くはないわね。))
ユリアは、試技1回目と同じ姿勢で構えた。そして、鹿の方向に正面を向いた顔を少し歪めて変顔ともいえる顔つきで魔力を放射し始めた。すると、鹿の、何かを見つけるように左右に振れていた顔がユリアの方を向いて止まり、同時に鹿のからだ全体の動きも止まって静止状態が起きた。
ユリアは、この瞬間を見逃さなかった。ユリアは、右手で槍を押し出し穂先を鹿の首元に突き刺した。そして、すぐに穂先を引き抜いて後ろに下がった。
鹿は、首から血を吹き出しながら、足から崩れるように倒れてすぐに絶命した。ユリアは、括り罠を解いて槍と一緒に収納魔法で収納し、代わりにロープを出して鹿の両後足を括った。
ユリアは、デイビードの手を借りて鹿を少し離れた場所に運び、木の枝に逆さ吊りにして血抜きと冷却処理をした。血抜きが完了した後、ユリアは獲物を収納魔法に収納して、デイビードに言った。
「試技3回目で何とかなったわ。お父さん。私、金縛り魔法がうまく発動できたかなぁ。答え合わせは小屋に帰ってからお願いね。」
((たぶん正解だと思うけど、お父さん、理屈までは教えてくれないかもね。))
デイビードは、鹿の血の跡を消すように処理してから言った。
「うーむ。そうだな。外観的には、確かに金縛り魔法が発動したように見えた。いいだろう。答え合わせが楽しみだな。」
二人は、その場を離れ、往きに来た経路をたどって薬草を採取しながら戻った。ほかの2つの括り罠が不発だったのを確認した後は、少しスピードアップして夕方前に小屋に帰り着いた。
二人は、小屋の前でそれぞれの獲物を急いで解体して、肉や毛皮などの部分ごとに処理をして、ユリアの収納魔法に収納した。薬草は、そのままユリアの収納魔法で保管して、後日、薬やポーションを調合することにした。
デイビードとユリアは、それぞれの獲物の肉を少しずつ出し合い、肉料理と野菜スープで夕食をとった。後片付けをした後、二人は、再びテーブルについて向き合った。
デイビードは、両腕を組んで少し背をそらして威張るようにユリアを見て言った。
「さて、お待ちかねの答え合わせの時間だ。お前が何を考え3回の試技をどのように実行したか話してもらおうか。お前が、金縛り魔法の神髄にどこまで到達しているか、師匠として評価してやろう。」
ユリアは、神妙な顔をして言った。
「わかったー。師匠。ユリアが師匠の一挙手一投足を見て盗んだことをお話しするねぇ。まずぅ、金縛り魔法って遠い距離でも掛かるでしょ。だからぁ、魔力そのものを細い線みたいな形にして矢のように飛ばして相手に当てるのかなぁと考えたの。魔力が当たった相手は、何かが当たったと変な感じになるでしょ。」
「なるほど。好い線行ってるぞ。続けて。ただ、もう少しお姉さんバージョンの話し方でたのむ。」
「はい、わかりました。次に、魔力をどこから放射するかを考えました。指で細い線のように収束させて放射しても30m先の的に正確に当てることは困難でしょう。そこで、目から視線の方向に放射することに思い至りました。これなら、相手と視線が合った時に確実に的に当たったと言えます。」
「うーむ。好い線行ってるどころじゃないぞぅ。聞くのがだんだん恐ろしくなってきた。だが、技を盗めと言った師匠としては聞く義務があるなぁ。仕方がない、続けて。」
「はい。話はどんな魔力を放射するかに移りますね。私の場合、生活魔法の魔力しかないので、試技1回目は、よく使う照明の魔力を何とか両目に集めて、一本の細い線を想像して放射しました。すると、鹿が少しきょろきょろとし始めたので、魔力の線が顔に当たっていることが確認できました。でも、視線が合ったと感じても鹿の様子に変化がありませんでした。」
「うおぉー。もう恐ろしくて失神するぞー。まだ試技2回目と3回目があるのかぁ。頼むから簡単にまとめて話してくれー。」
「師匠、ダメお父さんバージョンになってない?演技下手くその極致でもいいから、最後まで聞いて正解かまだ神髄に至っていないか、答え合わせに付き合ってもらいます。」
「ほんとうに。お手柔らかにお願いします。」
「それじゃ、2回目と3回目を簡単にまとめるね。2回目は、両目とも照明の魔力を集めて、少し顔を斜めにして左右の目の的までの距離を変えて放射してみたけど、結果は試技1回目と変わらなかった。3回目は、右目に照明の魔力を集め、左目には生活魔法の水の魔力を何とか集めて、両方で同時に放射してみたの。そしたら視線が合った時に鹿が静止したのがわかって、これでうまく発動できたんじゃないかと思ったの。どうかしら。」
デイビードは、参りましたとでもいうように、両手をテーブルについて頭を下げながら言った。
「正解でございます。正確に神髄まで到達していらっしゃいます。もう、これ以上何も教えることはございません。ユリア様、免許皆伝です。」
「うわぁー。嬉しいわ。でも、お父さん、厳しい教育は今日始まったばかりよ。私が知らないほかの魔法がいっぱいあるでしょ。免許皆伝は酷いよ。今後、魔法以外も本格的に厳しい教育になると覚悟はできているんだから。ダメおとーさんバージョンはもういいから、今後ともよろしくお願いしますね。」
「うむ。ちょっと悪ふざけが過ぎたようだ。許してくれ。よーし、これから厳しくいくぞ、覚悟しておけー。」
「おぉー。」
((やっぱり、お父さんは、2つの異なった魔力でなぜ発動するのか、理屈までは踏み込ませなかったね。領主家の一家相伝かしら。私がほんとの娘じゃないから?))
答え合わせでは狩人の男がたじたじでしたね。ともあれ、少女は見事に難関を乗り越え第一の魔法を習得しました。ほかの魔法とか魔法以外の教育って何があるんでしょうかね。少女は厳しさに耐えられるのでしょうか。心配ですね。それではまたお会いしましょう。




