15.少女は森で朝から夜までみっちり教育を受け始める
時と場所は、町から帰った翌日の朝、森の小屋です。少女は狩人の男と親子の会話を楽しみます。そして、ついに、教育初日の行動が始まります。
次の日の朝、ユリアはデイビードよりも早く起き出して、デイビードを起こさないように洗面と着替えを手早く済ませて朝食の支度にかかった。メニューは、町で買ってきた黒パンを小さく切って肉野菜シチューに浸して食べるだけの簡単なものにした。
デイビードは、ユリアの料理がほぼ出来上がる頃に起きてきた。
「おはよう、ユリア。よく眠れたかい?」
「おはよう、お父さん。初めは何だか興奮して寝付けなかったけど、いつの間にか寝入って朝までぐっすりだったわ。お父さんは、どうだった?」
「俺も、今日からの教育の具体的な内容を考えてしばらく眠れなかった。でも、何とかなるだろうと気を緩めたら、いつの間にか眠っていたよ。」
「お父さんでも悩むことがあるんだね。私も同じよ。どんなに過酷な教育か不安だけど、本当に苦しかったら弱音を吐いて甘えればいいんだと思ったら、何だか気が楽になって寝入っていた。時々は、年相応に甘えていいんでしょ?」
「ああ。その通りだ。将来のための教育で体や心を壊してしまったら本末転倒だからな。俺も気を付けるよ。それじゃあ、いいにおいを漂わせている朝食をいただくとするか。」
デイビードは、朝食をとった後、当面の教育内容と時間配分についてユリアに説明した。
「ユリア、ここで生活するために一番重要なことはなんだと思う?」
「うーん。食糧調達、襲撃対策、病気や怪我対策などいろいろあるけど、一番は食糧調達だと思う。」
「どうしてそう思う?」
「だって、危険な獣にはめったに遭遇しないし仮に襲撃を受けても十分戦えるわ。病気や怪我は日ごろから気を付けることだけど、食糧がなかったら生きていけないでしょ。」
「そうだな。俺もその通りだと思う。よって、これから当面は食糧調達の訓練を昼間に行い、頭の訓練や知識の吸収を寝る前に行う。そこで、今日から、いつもの狩りで特殊技術の訓練を行うぞ。ところで特殊技術とは何かわかるか?」
「お父さんも、茶目っ気あるのね。特殊技術って、たぶん、魔法のことだと思うわ。お父さんが短弓を使うとき、放つ矢に追跡魔法か何かを付与しているんでしょ。そうでないと、動きのある獲物の狙った場所にそうそう当たるはずないもの。」
「おいおい、ユリア。まるでお前の方が年上みたいな話し方になっていないか?せっかく師匠として上に立とうとしているのに、気分が台無しだぞ。」
「ごめんなさい、お父さん。でも大丈夫よ。だって、私、自慢じゃないけどそんな高度な魔法は使えないから。そんな魔法が訓練で使えるようになるなんて、嬉しくてじっとしていられないわ。」
「そうか、それならよかったよ。だけど、残念ながら追跡魔法ではないぞ。俺が短弓の狩りで使うのは、2~3秒の間、狙った獲物を動けなくする金縛り魔法だ。狙った的に当たるのは俺の腕前がいいからだ。それじゃー、出発するぞー。」
「おぉー。」
二人は、小屋から西に3kmほど先にある、いつもの狩場を目指して出発した。ユリアは、町で買ってもらった男の子のアウトドア用衣服を纏い、脚絆と腕カバーを装着している。身軽にするため装備品類はすべて収納魔法で運搬し、手には止め用の小槍を杖代わりにして持って、デイビードの後を追った。
狩場までの途中の3カ所で、ユリアは、いつものように小物捕獲用の括り罠を仕掛けた。デイビードは、3カ所目を仕掛け終わるのを見て言った。
「もし、獲物が掛かっていたら、止めを刺すときに金縛りの魔法を使って動きを止めてみるといい。ちょうどお前にお誂え向きの実践訓練になるだろう。」
「お父さん。私、まだ何もやり方を教えてもらっていないんですけどぉ。」
((ほんとは、これ、ずるい言い方なんだけど、お父さん気づかないよね。))
「そ、そうだったな。さすがのお前でも、俺が矢を射るときの様子を見ただけでは金縛り魔法の発動方法までは見破れなかったか。ははは。」
「お父さん。笑い事じゃないわよ。ほんとに子供じみたおふざけが好きなんだから。」
「ごめん、ごめん。だけど、本物の幼児に子供じみたなんて言われると、いくら俺でも落ち込んじゃうぞ。」
「待って、落ち込まないで、お父さん。私の方こそごめんなさい。ほんとは、発動方法に関係しそうないくつかの動作に当たりを付けているの。後で、答え合わせをお願いね。」
「おいおい、俺は、お前の言う通り軽いおふざけのつもりで言ったんだが、もし、お前の予想が当たっていたら、俺はますます落ち込んじゃうかもしれんぞ。」
「えぇー、お父さん。いまさらそんなこと言わないでよ。忘れたの?私は一言一句覚えているわよぉ。君は私の一挙手一投足をよおーく観察して技を盗め。君はそういうのが得意だろう?って言ったのよ。私はあの時の師匠の言いつけを忠実に守っているだけですぅ。」
「そうだったな。俺は、お前にお手本となる動作を見せるだけでよかったんだな。当然、答え合わせと実践訓練は必要だが、それは後でもよさそうだ。」
「お父さんが立ち直ってくれてよかったわぁ。それじゃー、どんどん先に進むぞー。」
「おぉー。」
((お父さんは、やっぱり気づいてなかったね。初めに悪ふざけしたのは、実は私の方だったこと。えっ、気づいていたけど私に合わせてくれたって?))
教育開始の前に親子の会話がありましたね。お互いの心情をねぎらうものもあれば、主導権争いもありました。狩りでの教育内容には魔法もありましたね。行軍途中で教育方法が再確認されました。少女は魔法を身に付けることができるでしょうか。楽しみですね。それではまたお会いしましょう。




