14.少女は森の小屋に戻り森での厳しい生活の覚悟を決める
場面は、二人が町から森を通って小屋に戻っていく行程から始まります。小屋について落ち着いた後、今後の話が始まります。
宿で2泊した翌日、早朝に起床した二人は、分担して大部分の荷物を収納魔法に収納し、残りの荷物を収納リュックが軽く膨らむ程度に詰めて背負った。カウンタで部屋の鍵を戻して宿を引き払い、森の縁に沿った街道に出て少し進んだ。
二人は、来た時と同じように、小屋のある方向に直線的には向かわずに、わざと大回りして森の中を進み、3日目の夕方近くに無事に小屋に戻りついた。二人は、買ってきたものを収納リュックや収納魔法から引っ張り出し、小屋の中の所定の場所に整理して置いた。
二人は、すぐに手分けして夕飯の支度をした。ユリアは、町で買ってきたソーセージと根菜、玉ねぎ、茸などを鍋に入れてポトフを作って二つのお椀によそった。デイビードは、肉を網焼きにしたグリル風焼き肉を二つの皿に盛り、町で買ってきた調味料のたれをかけた。
二人は、森の中の数日間の移動で大した料理を食べられなかった反動で、作った料理をあっという間に平らげた。
一息ついて、椅子に座ってテーブルを挟んでユリアと向き合い、デイビードは言った。
「さて、これからの君に関する行動計画を少し相談しよう。」
ユリアは、椅子に座って畏まってデイビードに言った。
「はい。よろしくお願いします。」
デイビードは、両腕を組んで少し考えてから言った。
「その前に、君のそのしゃべり方だが、町に行く前のものだな。町でのしゃべり方は君の素ではないといったが、今のしゃべり方が君の本来のものなのか?」
ユリアは、すぐに端的に答えた。
「私の素のしゃべり方というものはありません。今の私は、相手と状況に応じてしゃべり方を変えることができます。サンガルス村のスピノザ神父様が与えてくださった教材や物語本で、いろいろなしゃべり方を知識として習得しました。実際の話し方は、神父様との対話の中で場面に応じた使い分けを含めて訓練していただきました。」
デイビードは、それを聞いて、いまさら驚くそぶりもなく確認するように言った。
「なるほど。それでは、この小屋や森の中で私と君の二人きりという状況では、君はどんな話し方を使いたい?」
ユリアは、畏まったまま少し考えてから、ぽつぽつと話した。
「・・・私は、疎まれていたこともあり、これまで父母や兄弟たちとはまともな会話をした記憶がありません。・・・私は、いま、理想の家族のあるべき会話に憧れているのかもしれません。町でのデイビード様との会話はとても新鮮で楽しすぎました。・・・できれば、ここでも、町でのしゃべり方で通していければと思っています。」
デイビードは、即座に肯定的に、しかし、揶揄いも含めて言った。
「わかった。君はそれでいい。いまから私もデイビードだ。だが親子を演じるからにはエルブライドでの話し方にしよう。俺たち二人の名前の呼び方もあの町以外の場所では本名に戻す。お前は、クロエという他人ではなく、ユリアのままで親子の会話をしたいのだろう?
ただし、ほかの人と話すときは、状況に応じた適切な話し方でいいが、お前の幼い外見に見合ったしゃべり方にすること。話し方については以上のとおりだ。わかったな。
それにしても、町での会話が楽しすぎたとは、ユリアというお前の本性は、まぎれもない人誑しだったんだな。」
ユリアは、町でしたのと同じようにほっぺたを膨らませたあと、まじめな顔をして言った。
「ひどーい。お父さん、それは違うよ。あんな話し方はあの町で初めてしてみたの。お父さんを信用しているからこそ、初めてでも甘えん坊の娘役をそれらしく演じられたわ。周りの人から見ても、本当の親子にしか見えなかったと思うよ。でも、お父さんが他人の目で私を見ると、甘えん坊に偽装した私は人誑しそのものだったかもね。
本当に楽しかったけど、もう、甘えん坊の娘役はしないわ。そんなのは本来の私ではないし、ここでそんな偽装をする必要もなさそうだからね。お父さんだって、ここで私を甘やかすつもりは微塵もないんでしょう?」
デイビードは、納得したように頷いていった。
「ああ。その通りだ。これから少なくとも1年間は、俺は娘であるお前を厳しく教育していくつもりだ。途中で弱音を吐くなよ。でも、時どきは年相応の娘のように甘えてくれてもいい。」
((お父さんも、私の人誑しバージョンが楽しかったのかな。))
ユリアは、顔をぱっと明るくして言った。
「わかったわ。私を、辺境領主家や王国の役所など、どこでも通用する人間に育ててくれるというわけね。それに、私がまだ6歳の幼児だということも考慮してくれるのね。ありがたいお話だわ。お父さん、私、覚悟を決めたけど、将来は必ずしもお父さんの目論見どおりになるとは限らないわよ。それでもいいなら、お父さんの方針に従うわ。」
デイビードは、ユリアの、自分を幼児だと言いながら、見かけと全く釣り合わない話しぶりや、理解の速さと一筋縄ではいかない匂わせぶりに、半ば呆れるように言った。
「もちろん、教育の目的はお前の言う通りだが、将来お前がしたいことがあれば、お前の希望を優先する。では、決まりだな。よろしく頼むぞ。」
ユリアは満足して言った。
「はい。お父さん。こちらこそお手柔らかによろしくね。」
ユリアは、これからの方針が決まって、先が思いやられる反面、遣り通す意気込みでしばらく興奮していたが、町からの帰路で疲れていたので、いつの間にか寝入った。
((優れた師匠の下で学習ができるのは、一人で生活し独習するという当初計画よりずっといいかも。))
親子って、話し方ひとつとっても難しいんですね。何にせよ、親子として振る舞うことや話し方が決まってよかったです。やっと、これから森での厳しい訓練や学習の生活が始まります。楽しみですね。それではまたお会いしましょう。




