12.エドアルドは救援視察団の成果報告と少女の話をするが・・・
時と場面は変わり、辺境伯家で少女を巡り一喜一憂する偉そうな有力者の話です。
――― 場面はその少し前の辺境伯領主家で小さな騒ぎとなっていた
エドアルド率いるサンガルス村救援視察団は、先振れに遅れること約2時間で辺境伯領の領都ヴィルドブルグの正門をくぐり領主家居城に帰り着いた。
エドアルド一行は、その足で城内の会議室に入り、そこで待っていた領主ヴィルムード・フォン・ヴィルダー辺境伯と長男アルベルドおよび辺境伯家幹部らに帰投の挨拶とサンガルス村視察結果の報告をした。エドアルドが圃場の惨状と村民の困窮状況を説明し、農業専門文官ボタニナスが専門家の立場から、残った穀類と今後の夏植え作物の収穫見込みを説明した。
その後の協議の結果、サンガルス村と調印した援助関連事項は、税の全面免除と若干の食糧援助およびジャガイモの種イモの貸与を含め、すべて承認された。
議題は、その後、援助関連事項の実行計画の策定に移行し、アルベルドは、食糧支援等実行部隊への具体的指示書の作成を命じた。辺境伯は、内政責任者に対して、緊急に蝗害の被害状況と収穫見込みをまとめて、王国の財務相あてに税の5割軽減を求める陳情書の作成を指示した。
会議後、エドアルドは、辺境伯と長男と家令セバスターとともに辺境伯の私室に場所を変え、寛ぎながら視察中に見聞きしたその他のことを簡単に説明したあと、崩した口調で言った。
「父上、サンガルス村に面白い子供を見つけましたよ。
その子供は、村の入り口に待ち構えていて我々を先導し村長に引き合わせたり、農業専門文官に夏植えジャガイモの種イモの供与を願って作付け予定地まで案内したりと、貴族を恐れぬ行動と大人顔負けの物言いで私を楽しませてくれました。」
辺境伯は興味深そうに、言った。
「ほう、そんな優れた資質をもった子供が田舎村にいたとは信じられん。その子供は何歳だ。何か特別な教育でも受けているのか?」
エドアルドは答える。
「その子供はまだ6歳です。その年齢で、サンガルス村の教会の子供教室で、神父から与えられる専門書を含む書物を読破してすべて記憶しているそうです。話す言葉と知識面の特異性はそれで説明がつくのですが、問題は、物事の理解力と対人スキルや的確な判断力および行動力を身につけた経緯が普通でない点なのです。」
辺境伯は身を乗り出して言った。
「そこが一番の関心事だろう。もったいぶらずに早く話せ。」
エドアルドは、サンガルス村の神父の話として、皆にユリアの転落時の不思議な出来事とそれがユリアに与えた影響を説明した。エドアルドは、この子供のことをとりあえず神父に頼んだが、これからすぐに領主家で保護して才能を伸ばせる環境に置くように動くつもりであると明言した。
ーーー エドアルドは油断からの失態を悟って慌てる
そこに、文書取次の文官が、慌てた様子で手紙をもって現れた。
「エドアルド様。サンガルス村から早馬便でこの書簡が届きました。どうぞ、お願いいたします。」
エドアルドは、送り主がスピノザ神父であることを確認して、直ちに開封し手紙を読んで愕然とした。
「父上、件の子供ユリアがサンガルス村から出奔したそうです。サンガルス村の神父は、捜す手掛かりもなく現状では手の打ちようがないと知らせてきました。申し訳ありません。私の失態です。」
辺境伯は、腕組みして言った。
「うーむ。どうしたものか。その子供が、わが領地でぜひとも囲わねばならないほどの人物ならば、何らかの捜索手段を打たねばなるまい。エドアルド、其方は先ほど保護するようなことを言ったが、実際のところはどうなのだ。」
エドアルドは力説するように言った。
「はい。ユリアはまさにその必要がある人物と考えます。他の貴族家や王家などにとられたら、それこそ使い潰されたりして、わが領主家のみならず王国全体にとって多大な損失となると懸念しています。」
辺境伯は、エドアルドに指示した。
「そこまで買っているのか。よし、このことはエドアルド、其方に任せる。できる限りの捜索態勢を組んで子供を探し出せ。」
エドアルドは、畏まって言った。
「ははぁ。この件は私の油断から生じた事態と自覚し、全力で名誉挽回いたします。」
エドアルドは、側近に命じて捜索計画を立てさせ、追跡の得意な部下たち数名を派遣し、サンガルス村とその周辺を中心に聞き込みと足跡調査を開始させた。
――― それから10日ほどたったある日の辺境伯家で
エドアルドは、自分の執務室で、ユリアの発見が絶望的となりつつある状況に、たまっている書類仕事が手につかずイライラと焦りを募らせていた。
そこに、文書取次の文官が息せき切って現れた。
「デイビード様からの書簡です。どうぞ、お願いいたします。」
と言って、2通の手紙をエドアルドに手渡した。
エドアルドは、封蝋を確認し急いで封を切り中身を引っ張り出して読んだ。
「デイビード叔父上がいったい何の用だろう。」
エドアルドは、急にぱっと満面に喜びを湛えて叫んだ。
「おぉー、やったー。ユリアの居所がわかったぞ。なんと、デイビード叔父上が森の小屋で保護していたとは。わが領家にとって狙ったような天の配剤ではないか。
えっ、なにーっ、これから一年ほどは、このまま手元にとどめて教育するだとぉ?デイビード叔父上がいったい何を教育するというのだ。狩りの手ほどきでもすると?」
エドアルドは、天国にも舞い上がる喜び気分から、次の瞬間いきなり地獄の底に突き落とされたと感じて脱力した。
エドアルドは、この手紙をもって兄アルベルドの元を訪れて事情を簡単に説明した後、すぐに二人で父ヴィルムードの私室に移動して、デイビードがもたらしたユリアの状況を説明した。
アルベルドは言った。
「エドアルドよ、とにかく無事に見つかってよかったではないか。デイビード叔父上が保護して教育すると言っているなら、こちらが手を出す必要はないのではないかな。父上、どう思われます?」
ヴイルムードは賛同するように頷いて言った。
「うむ。デイビードなら悪いようにはせんだろう。ここは、奴に任せるべきだと判断する。エドアルド、それでよいな。」
エドアルドは、観念して言った。
「ユリアを自分で保護して教育したかったですが、デイビード叔父上に先を越されたのでは致し方ありません。ユリアがどのように成長するか叔父上の手腕に期待しましょう。冷静に考えてみると、わが領主家は結果的にユリアを取り込んだ形となりました。これをもって捜索活動を打ち切ります。」
辺境伯は、満足して大きく頷き、エドアルドを促して言った。
「よろしい。ところで、もう一つの手紙は誰からだ?何が書いてある?」
エドアルドは、はっと気づいて急いで封を開け、手紙を引っ張り出して読んだ。
「父上、この手紙はユリアからです。サンガルス村での礼と、急に村を出奔した詫びと、デイビード叔父上に保護されているから心配しないようにと書いています。」
辺境伯は、呆けたように感心して言った。
「ほう。なんと、幼児とは思えない気配りをするではないか。」
エドアルドは、続けて最後まで手紙を読んで叫ぶように言った。
「父上、今年起きたような蝗害は、来年以降も数年間起きる可能性があるそうです。ユリアは、過去の文献から得た蝗害の対策案をいくつかこの手紙に記すと書いています。」
辺境伯は、今度は驚愕して腰を抜かさんばかりに言った。
「エドアルド。ユリアは其方の言う通り、我が領地でぜひとも囲わなければならん人物かもしれんな。
すぐに農業専門文官のボタニナスにその対策案を渡して検討させろ。このような対策手段を既にどこかの領地や国で実施しているかどうかも探らせろ。現在では誰も知らない手段かもしれんぞ。
これが本当に蝗害低減効果があるなら、王国に進言して国内や外国にまで広げるべきか検討をするが、当面はユリア自身のことを含め、このことは極秘事項扱いとする。」
((気軽に書いた手紙なのに、なんか、とんでもないことになりそうね。))
少女は辺境伯家でも存在を知られましたね。でも、当面は男に森でしごかれそうです。次回は、森の場面に戻り町に出発します。楽しみですね。それではまたお会いしましょう。




