11.少女は自分の客観的評価と置かれた状況を知らされる
少女は男に自分の価値についての話を聞かされます。
デイビードは、翌日、獲った獲物の肉類を売りに近くの町まで出かけることにした。
「ユリア、おはよう。今日は最寄りの町に行って獲物を換金して、ついでに買い物など用事を済ませる予定だが、君も一緒に連れて行くぞ。」
ユリアは、即座に答える。
「デイビード様。おはようございます。サンガルス村でないならもちろん同行させていただきます。ところで、買い物以外の用事ってなにか聞いてもいいですか?」
デイビードは、思わぬ質問がきていま話すべきか少し躊躇したあと言った。
「ユリア、君に関わることだ。私が君を保護していることを、領都のしかるべき筋に知らせる手紙を出す。あいつが君のことを心配しているだろうから少し安心させてやろうと思ってな。」
ユリアは、指先を下あごにあてて斜め上を見る思案のポーズで言った。
「うーん。デイビード様がエドアルド様と親しい間柄であることは予想していました。しかるべき筋とはエドアルド様かご領主家のことでしょうけど、なぜ、エドアルド様が私のことで心配なさるのでしょう?」
デイビードは、やっぱりと呆れたような口調で言った。
「君は、自分の価値と将来陥りそうな状況をよーく理解しておくべきだ。君は、エドアルドから私と同じような質問をされたといったね。根掘り葉掘りしつこく聞かれたのではないか?君の幼い外見に似合わない大人顔負けの物言いと行動力を目の当たりにしながら、エドアルドが君を放置したのは大失態だったな。でも、おかげで私が君を保護したことであいつに貸しひとつ作れた。
何しろ、君は、現時点でさえ底知れない有能さを見せつけている。近い将来に、君には領主家やほかの貴族家はおろか王家からも勧誘がくるだろう。君は、そうなることを覚悟して今からどうするか考えておく必要がある。」
ユリアは、慌てたように言った。
「えぇー。エドアルド様はそんな働き口に勧誘するようなことは一言もおっしゃいませんでしたよぉ。私は、お見かけ通りの田舎村の幼児ですから、お偉い人が私の拙い話しぶりを聞いても有能だなんて判断されないでしょう。
ましてや、幼児に対して、すぐに領主家や王国のために働けなどと拘束されるわけがありません。だから、エドアルド様が私を放置したとしても、いか程も落ち度があるとは言えません。」
デイビードは、諭すようにユリアに言った。
「そうだな。エドアルドも、君に今すぐ領主家で働けとは言わないだろう。だが少なくとも、君を保護して将来に向け教育する必要性は認識したはずだ。しかし、さすがのエドアルドも、村の救援視察の仕事中に求人活動まではできなかったのかも知れない。
それに加え、君の状況が急変するとは予想できず、君のことを村の神父あたりに託すだけにしたのだと思う。
ところが、おそらく領都に帰った前後に、その神父からエドアルド宛に、君が村から出奔したとの連絡がいったはずだ。それを見て自分の失態を悟り慌てたエドアルドは、既に何らかの捜索手段を講じているに違いない。」
((こっ、この人は千里眼か未来視の持ち主かぁ。))
ユリアは、それを聞いて申し訳なさそうに言った。
「そっ、それが本当なら早く私を探さないように連絡を入れないと、エドアルド様に無用な出費と心配をおかけしちゃいますよぉ。そんなのは私の本意ではありません。早く町に行ってお手紙を出してください。私がついていくと時間がかかるでしょうから、今回はおとなしくここで待っています。」
デイビードはユリアの正面にしゃがみ、両肩を手でそっと掴んでじっくりと言った。
「いや、そこまで急ぐ必要はない。あいつにはちょうどいい薬になるだろう。今日は予定通り、君を連れて町に行く。君の足だと町まで3日はかかるから食糧や野営の荷物の運搬役も必要だ、君は収納魔法持ちだろう?
((あれ、なんでばれたの?))
それに、今後しばらくは、この小屋で君を保護しながら狩りをしていく予定だから、君の着替えや靴や当面生活に必要な道具類を揃えないといけない。君は、私の保護を受けてここでしばらく生活することに不服があるか?」
ユリアは、喜び半分あきらめ半分で頷いて言った。
「いいえ。デイビード様の親切なご対応には感謝こそすれ不服などありませんし、当初計画でもしばらくここで生活する予定でした。
家族関係の追っ手は来ないと思っていますし、好意的な方々からの捜索も来ないように手を打って下さるなら、ここに留まることに焦りも不安もありません。お世話を掛けますが、よろしくお願いいたします。
それと、エドアルド様に心配をかけたお詫びに、私からも手紙を書いていいですか?蝗害の軽減対策について私の知る限りの進言も添えて書きたいのです。
村では、夏植えジャガイモの種イモの援助をお願いして聞いてもらえたので、子供の戯言と無視されることはないと思います。」
デイビードは、ユリアがここでしばらく生活すると言ったことに満足するとともに、手紙の内容の重要性に気づき、すぐに手紙を書くように促した。そして、これから町へ行くという少し苦難を伴う行動に思いを馳せて、いつもの檄を飛ばす。
「いいだろう、すぐに朝食を食べて手紙を書け。その後すぐに出発するぞー。」
ユリアは、小さな右手をグーで突き上げてかわいい声で呼応した。
「おぉー。」
((パートナーの意味がわかりました。はい、収納魔法で荷物を運ぶことですね。))
少女は、自分の価値の話を聞いても半信半疑でしたね。でも、あの偉そうな人に心配かけているのを知り手紙で詫びるなんて、少女の方こそ偉すぎですね。次回は、場面が辺境伯の居城に変わります。偉そうな人はどうなるのでしょう。楽しみですね。それではまたお会いしましょう。




