23 愛情
ここからの話が、少し重かったり暗かったりするのでr15指定をさせていただきました。
今回の話は愛くん視点です。残酷描写が描かれています。苦手な方は読まないでください。よろしくお願いします。
「ケホッ、ケホケホッ……ゴホッ、っ……」
飛鳥チャンたちが帰ってすぐ、咳が止まらなくなった。
っ……気持ち悪い……咳のせいで息が……。
双が背中を擦ってくれてるけど、全然良くならない。
むしろ…………。
「オエッ……」
口元を両手で押さえた。離した時に見えた色は、『赤』。咳き込みすぎるとよく出しちゃうんだよね。
「え、は? 愛……?」
お医者さんにも看護師さんにも、家族にも血を吐くなんて言ってない。言えるわけがない。せっかくあと1ヶ月で退院できるんだから。
双にバレちゃったなぁ〜。なんて誤魔化そう。
「な〜んちゃって♡ マジックだよぉ〜♡」
こういう時のために赤い絵の具は側に置いていてよかったと思った。だけど、双に絵の具を見せても納得できていない顔を浮かべる。
「…………そっか☆」
「うん♡」
生々しい赤い手を洗いながら返事をした。
今回だって、血を吐くだけなんだから。血を吐くくらいどうってことない……よね。
大丈夫……病弱だから、これくらい普通だよね。普通の、普通の風邪だから。
「でも、愛。本気で血ぃ吐いたんだったらヤバいぞ?」
今の双の声色、すごく低かった……。え……?血って、吐いたらヤバいの?毎日毎日吐いてたから普通だと思ってたけど……。
「あ、あはは〜♡ 僕、学校行ってないから頭悪くて、理解できないや〜♡」
僕、そんなにヤバかったんだ。で、でも……、せっかくあと1ヶ月で退院できるんだから、言わないほうがいいよね。
僕自身のためにも。
「ほらほら〜♡ 双も、もう遅いから帰りなよっ〜♡」
「い、いやでも……」
双には申し訳ないけど、『邪魔』だから帰ってもらわなくちゃ。
視界がぐるぐる回る中、最後の力を振り絞って双の背中を押す。
「じゃあね♡ 双♡」
双の体が廊下に出た途端、笑顔で手を振った。その時の双の表情は、きっと気持ちのいいものじゃなかっただろう。
ガラガラッと音を立てて病室のドアが閉まった。
ちょっと前までの賑やかさは、きっと双が連れて帰ったんだ。
それくらい、静かだった。
再びベッドに座り込んで、耐えきれずに倒れ込む。
「『健康』ねぇ……」
物心ついた頃からこの白い天井が当たり前だったから、外の空気を知らない。
澄んだ綺麗な青空、灰色のどんよりとした雲、ザーザーと音を立てながら降る雨、その雨上がりのあとの虹、茜色に染まる空、星が瞬く綺麗な夜空、寒い日に降るしんしんとした雪、あられ、氷。
何もかも窓越しに見ているだけ。
友達だって、双が『紹介』してくれるだけ。
本当は知ってる。双が媚びを売るようにその友達に僕に会いに来てくれないかと言っているのを。泣きそうになりながら、必死に紹介するしぐさを。
そんな姿を見るたび、罪悪感だけが募っていく。僕のせいで、双は無理をしているんだ。
次、次こそは、次……また次こそ……。
呪いのように呟きながら叫んでいる僕と双の心。
「僕なんか、消えちゃえばよかったのに」
入院するお金は増えるし、迷惑かけるし、何もいいことない。
親だって、愛想尽きてお見舞いにも来てくれない。
まぁ、あんな毒親、来ないほうが何倍もマシだけど。
僕がやりたいこともやらしてくれない。来なくて正解。逆に感謝だよ。
双が心配だけど、きっとそれなりにできてるよね。
「あと何個だろうなぁ」
右手の指に貼っている絆創膏を1枚ずつ数えてみた。
親指、人差し指、中指、薬指、小指。
1本の指に2枚の絆創膏で合計10枚かぁ。増えてきたなぁ。
この絆創膏は全部勝手にできたもの。
「じゃあ次は、左手か」
1ヶ月に1回、なんでか僕の指には1つ傷ができる。
だから僕は考えた。両方の指に2回ずつ傷ができたら……。
僕は死ぬ。
死のうと思って死ねるものじゃないから。最低でも、僕に死ねる勇気はない。
だからカウントダウンをする。
年越しの時、カウントダウンと同時にジャンプするように、僕も気付かない間でできた傷で、死へのカウントダウンを始めている。
漫画だって、暇つぶしで描くくらいの程度だったはずなのに、いつの間にかその漫画自体が遺書でいい気がしてきた。
完結できるかなぁ〜。時間までに。
「にゃはは〜♡ 久しぶりに描くかぁ〜♡」
机の棚に入れている古びたノートたちを取り出す。
え〜っと……?どこまで書いたんだっけ。たしか〜、『アイ』が犯罪をしたのがバレて逮捕されて、『ソウ』が泣きながら怒るシーンだったよね。
開いたページには、僕と双にそっくりな顔のキャラクターが描かれていた。
「この中の僕は笑顔で生活できてるんだよね。でも、犯罪をしちゃう。結局、自由が奪われちゃう。物語の中でも、僕は不自由なんだね」
ねぇ、双。双だったら、この状況をどう乗り越えるかな。
ここのシーンで止まってる理由は、双がどう動くか予想できないから。
……あ。そっか。
今日の出来事がヒントなんだ。
シャープペンシルを手に取って、ササッとデッサンしていく。
たくさんの線でできたのは、あさひ〜だった。
「キミが、双のこと、導く使者なんだね」
この2人で恋愛展開に行ってほしいんだけど、双が嫌がるからなぁ〜。
よし、このままあさひ〜は女の子にしちゃえ!
髪は長くて〜、元気っぽい感じだけどどこか儚げな感じかな?
うろ覚えだけど結構描けてる……やっぱり『重要人物』なんだね。
「スカートをはくのを嫌がって、半泣きの状態で双に訴える。今日会った雰囲気とは全く別にしちゃえ」
『なんで私は女として生まれちゃったんだろう……、ソウ……こんな『オレ』でも好きでいてくれる?』
『どんなお前だってアサヒはアサヒだろ☆ もちろんだ☆』
そんな笑顔の裏にはなんでもっと早く気付いてあげられなかったんだろうっていう後悔だけが募っていく双。
警察官のソウは、双子のお兄ちゃんのアイがやった犯罪に自分事のように考えるようになる。
『悪いのは僕。ソウは悪くないよ』
牢屋の中で笑顔を作るアイさえ、本物の笑顔なのかわからなくなってしまった。
しばらく描き続けたあと、集中力が切れてページを閉じる。
「アサヒは女の子であさひ〜は男の子。ソウはアサヒのことが好きで、双はあさひ〜のことが好き」
自分で何言ってるのかわかんなくなっちゃった。
勝手に決めちゃダメだよね。双が誰を好きかなんて僕にはわからない。うっすら予想できるだけで、絶対それが正解かとは限らない。
だから僕は、双が自分の心に正直になれるように導く。
ちょっとの器で、溢れるくらいの愛情を渡す。
でも、その立場ももうない。あさひ〜が全部取ってっちゃった。
なら、僕に何が残るんだろう。きっと、何も残らないんだろう。ただ僕が生きていたっていう、しょうもない漫画だけを残して、消えていくんだ。
太陽も月も、ずっと出てるわけじゃない。皆既日食があるみたいに、光が消える期間がある。
人に例えると、それはきっと人生なんだろう。
太陽と月が何回も出入りするように、人は毎日毎日似たような日々を送っていく。
皆既日食があるように、人生に節目が訪れる。
そんな毎日の中、終わりが決まってるのに、僕たちはもがくんだ。
まだ生きたい。こんなところで終わりたくないって。
「僕もいつか……」
自由になれるのかなぁ……?わかんないや。
眠気で意識が遠のく中、茜色の空がすっごい綺麗で、笑っている双の笑顔が見えた気がした。
私自身は全然元気なんで。はい。ただ、ちゃんとハッピーエンドにはなるのでご安心を。




