表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脇役な主人公補正者 〜偶然が俺を英雄にする世界  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/43

第40話  浮遊島

 風の音が消えていた。

 視界の端まで広がる白い雲の海、その上に浮かぶ島。

 空に浮かぶ大地など、物語の中だけの存在だと思っていた。

 だが、悠真たちは確かにそこに立っていた。


 島の周囲を覆う半透明の魔法障壁が、淡い蒼光を放っている。

 足元は透きとおる結晶質の大地。 

 まるでガラスの上を歩いているようだ。

 そして島の中央には、黒曜石で築かれた巨大な神殿。

 黒き塔が天へと突き立っていた。


「……ここ、まさか空の上?」

 悠真は喉を鳴らしながら呟く。

 

 足の裏が、ほんの少しだけ震えている。


「うん、見て……下、全部が光ってる。雲の下に光の海」

 リサが淡く光る雲を見下ろす。


 確かにそこは、光そのものの“海”だった。

 光が揺れ、波打ち、遥か下に星屑のように煌めいている。


「空気が澄みすぎて……息するのが痛いくらいです」


 セレナが胸を押さえる。

 その頬を撫でる風は冷たく、けれど神聖だった。


「神殿……まるで黒い心臓みたい」

 クリスティアの声は震えていた。


 黒曜石の壁面には赤黒い魔力の流れが見え、まるで何かが脈打っているようだ。


 そして最後に、ミリアが静かに言った。


「これは……“地上ではない場所”。天界の残骸かもしれません」


 五人の視線が、自然と神殿の方へ向かう。

 空の上にあるにもかかわらず、そこから漂うのは“闇”だった。

 見えない何かに監視されているような圧迫感。


 悠真は肩をすくめて言う。

「なんか、すでにボス戦のステージ感あるな。俺のRPG脳が警鐘鳴らしてる」


「油断しないで」

ミリアが短く言った。



 神殿へ向かう途中、セレナは索敵魔法を展開した。

 空気中の魔力を読み取る簡易スキャンのはずだった。


「……あれ? センサーが全部ノイズまみれ。魔力反応がごちゃごちゃで、何も分からないわ」

 眉をひそめるセレナ。


「幻惑結界……? いいえ、違う。これは“誰かが意図的に見せてる”。ノイズを作ってるのよ」

 ミリアが首を傾げる。


リサ「つまり、歓迎されてるってこと?」

 

 軽く冗談を混ぜたつもりだったが、ミリアの返答は冷たかった。


「いいえ。“観察”よ。私たちの動きを見て、試している」


 その瞬間、風が止まった。

 頭上の雲が揺れ、一瞬だけ黒い影が横切る。

 風に混じって、誰かの“祈り”の声がかすかに聞こえた。


〈闇に生まれし者、光を拒みて真理を得ん〉


 悠真は思わず空を見上げた。


「……今の、聞こえた?」


「ええ」

 ミリアが頷く。


「教団の詠唱。禁じられた祈りかも」


「教団? また物騒なのが出てきたな……」



 黒の神殿の前へとたどり着いた。

 高さはゆうに五十メートル。

 黒曜石の扉には複雑な魔法陣――“黒の印章”が刻まれている。


 

「古代封印式……これは、下級の解析魔法では無理かもしれません」


 セレナが杖を構えた。

 魔力を扉に走らせたその瞬間。


 ――ゴゴゴッ……!


 音を立てて、扉が自動的に開いた。

 中から吹き出す冷気が肌を刺す。


「……触ってないのに!?」

 セレナが声を上げる。


「おいおい、フラグ立てるなよ!?」

 悠真がツッコむ。

 

 ミリアは一歩踏み出して、静かに言った。


「もう……“待っている”のよ」


 内部は真っ暗だった。

 光を吸い込むような漆黒。

 壁には赤い紋様が浮かび、心臓の鼓動のように脈打っている。

 そして中央に、空っぽの祭壇。

 その周りには、顔を削り取られた信徒の像がずらりと並んでいた。


 悠真は無意識に後ずさる。


「な、なんか……宗教のセンスがヤバい方向に極まってるぞこれ」


「静かに。何か、来る……」

 クリスティアが囁く。


 次の瞬間、空気が歪んだ。

 足元から闇の瘴気が渦を巻き、黒い霧が一気に広がる。


 〈信仰を拒む者は、闇に沈む〉


 声と同時に、幻影の信徒たちが現れた。

 ローブをまとい、顔を持たない影。数は十を超える。


「チュートリアルボスの雰囲気じゃねぇぞこれ!?」

 悠真が叫ぶ。


「なら、死なないうちに“セーブ”したいわね」

 クリスティアが冗談を返す。


「お二人とも、冗談言ってる場合じゃないですよ!」

 セレナが叫び、即座に防御陣を展開。


 リサの弓が、黒い影を射く。

 しかし、手応えがない。

 影は霧に変わり、すぐに再生する。


「物理無効!?」


「幻影よ!これは“試されてる”だけ。実体はない!」

 ミリアが叫ぶ。


 彼女が剣を構え、詠唱する。

 光の粒が渦を巻き、彼女の周囲に集まる。


――〈ルミナス・サークル〉


 光の輪が広がり、影を一瞬で焼き払う。

 霧が晴れ、静寂が戻る。

 だが悠真には、背筋を撫でるような視線の感覚が消えなかった。

 確実に、 “誰かが見ている”。


 黒い霧が形を成す。

 ゆっくりと立ち上がる人影。

 黒い法衣をまとい、フードで顔を隠した男。

 それだけで、場の空気が一変した。


「……愚かなる来訪者よ。封印はまだ解かぬ。観よ、己が心の闇を」


 声は穏やかだった。ただ、その穏やかさが恐ろしい。

 まるで、神が人を裁くような響き。


「あなたは……何者?」

 ミリアが問う。


「いずれ知る。その時、選ぶのだ。 “救い”か、“滅び”か」


 影がふっと消えた。

 しかし残留魔力が、空間全体に濃密に残る。

 まるで“闇そのもの”が息をしているようだ。


 ミリアは拳を握りしめる。


(……この魔力……人間じゃない。けれど、どこか懐かしい)


 「今の声……まるで“試験官”みたいだったな」

 悠真が小声で言う。


「いいえ、導師の声です。

 信仰の頂点の者」

 セレナが低く答える。


「導師……か」

 リサが呟いた。


 心の奥に刻まれていくような響きだった。


 祭壇の背後。

 闇の奥に、下へと続く階段が現れた。

 吹き上がる冷気には血と鉄の匂いが混じっている。


「……行くの? 下に」

 リサが問う。


「行くしかねぇだろ。あの影、どうにも気に食わねぇ」

 悠真が笑って見せる。


「フラグの香りしかしませんけどね」  

 クリスティアが肩をすくめる。


 ミリアは階段を見つめ、低く言った。


「彼が……導師。封印を操る者」


「じゃあ。次は、初接触ね」

 クリスティアの声がかすかに震えた。


 光が消え、闇が深くなる。

 五人は慎重に階段を下り始めた。

 その頭上の天井に埋め込まれた“魔眼”が、ゆっくりと回転しながら彼らを見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ