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脇役な主人公補正者 〜偶然が俺を英雄にする世界  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第41話 教団神殿潜入

 湿った風が、肌に貼りつく。

 石壁には古代の封印文様が浮かび、かすかな青白い光が、闇の中で息づいていた。

 古びた石階段を下りるたび、空気は冷たく、重くなっていく。


「……なあ、これってさ、どう見ても“入っちゃいけないルート”だよな?」

 先頭の悠真が小声で呟いた。


 懐中魔灯の光が彼の顔を照らし、汗の筋を浮かび上がらせる。


「ええ、確定です。今の私たちは、完全に“侵入者扱い”」

 リサが弓を構え、壁際を警戒する。


「安心できねぇ……!」

 悠真が肩をすくめる。


「……誇らしくないですね」

 セレナが淡々と呟いた。


「気を抜かないで」

 ミリアの声は、低く、しかし芯が通っていた。

 彼女の瞳が、闇の中でほんの一瞬、光った気がした。


「封印の残滓がまだ生きてる。……何かが、見てる」

 ミリアが一歩、前に出る。

 その動きは静かで、けれど一瞬で空気を変える。


「見てるって……やめろよ、そういうホラーなやつ!」

 悠真が肩をすくめる。

 だがその冗談に誰も笑わなかった。


「静かに。奥に、気配がある」


 冷たい湿気の中に、微かな詠唱が混じっている。


 ――光を封じし者よ、闇に還れ。


 それは囁きにも似た声。

 次第に大きく、重なり、神殿全体を包んでいく。


「……聞こえる? これ、儀式の詠唱よ」

 クリスティアが息を呑む。


『……主よ、封印を解き放ちたまえ……』


 低く、重く、地の底から滲み出るような声。

 それは祈りであり、同時に呪いの響きでもあった。


 悠真がひそやかに顔をしかめる。


「……解き放てって言った? 今、“封印”って言ったよね? ね!?」


「ええ、同感よ。嫌な予感しかしない」

 リサが真顔のまま。


「……つまり、確定です」

 セレナの冷静な結論。


 悠真は天井を見上げて小さく溜息をついた。


「……脇役ほど、フラグを踏む運命なんだな、これが」


「なら、慎重に動きなさい。遊びじゃないのよ」

 ミリアの声は低く鋭い。


「はいはい、命がけの遊びね」


「……本当に遊びだと思ってたら、置いていきます」

 クリスティアがさらりと釘を刺した。


悠真:「そんな即決!?」


リサ:「有能な切り捨て判断ね」


セレナ:「合理的です」


悠真:「チーム冷たくない!?」


 そんな軽口を交わしながらも、全員の足取りは真剣そのものだった。



「分隊行動を取るわ」

 リサが囁くように指示を出す。


 → 悠真・リサ・セレナ:外周で監視と支援。

 → ミリア・クリスティア:中央へ潜入。


「俺ら、援護組か。つまり安全圏!」


「“安全”って言葉の定義、変わってない?」

 リサの目が冷たい。


「……俺、泣いていい?」


「泣く暇があるなら足音を消して」  

 セレナが一蹴した。


悠真:「即死宣告レベルの冷たさぁ……」


 神殿は環状構造になっており、

 その中心に立つのは、巨大な黒い石柱の祭壇。


 封印の核。

 青白い光の線が床を走り、呼吸するように脈打っていた。


 その周囲で、信徒たちが円陣を組み、静かに詠唱を繰り返している。


『――主の御名において、闇の理を紡ぎたまえ……』


「いや、違う。陣式が歪んでる、こんなの封印じゃない……“破壊陣”だ」

 ミリアが眉をひそめる。


 「導師……まさか、本気で封印を壊すつもりなの!?」

 クリスティアの表情が強張る。


「……たぶんね」

 ミリアの短い返答が、場の温度を一気に下げた。



 扉が軋み、ゆっくりと開く。

 向こうから、一人の男が歩み出た。

 白銀の刺繍が施された黒衣、額に刻まれた封印の紋章。

 その手には、黒い魔導書が握られている。


 顔は静かで、表情はほとんどない。

 ただその瞳だけが、底の見えない闇を湛えていた。


「……よい、封印は呪いだ。神が人に課した“檻”にすぎん」


 低い声が神殿全体に響く。


「我はそれを破り、真なる自由を得る。光など、虚構に過ぎん」


「導師カルマに栄光を!」

 信徒たちが一斉に跪いた。


 床の陣が輝きを増し、封印石柱が軋む。

 表面にひびが走り、赤黒い光が滲み出た。


 ミリアの眉がわずかに動く。


「……あれが、導師カルマ」

 胸の奥がざわめいた。懐かしい痛みのような感覚。


 彼女の祖先――

 封印の英雄“レオン・ガルド”の記憶が、微かに脳裏をよぎった。


 封印石柱が脈打った。

 光と闇が入り混じり、空気が震え始める。

 バチッ、と音を立て、周囲の魔法陣が一斉に起動。


リサ「っ……封印陣が反応してる!

 悠真、このままだと何か出る!」


悠真「“出る”ってどっちの方向!? 中から!? 外から!?」


「多分、“世界の外側”から」

 セレナが平然と言う。


「やっぱり!? そういうスケール!?」


 「もう隠れてる場合じゃない。行く!」

 ミリアの表情が変わる。



 神殿中央。

 詠唱が最高潮に達した瞬間、ミリアとクリスティアが飛び出した。


「止めて、カルマ! その陣式は封印を壊すだけ!」


 カルマの目が、静かに二人を見た。

 その瞳は、底冷えするほど静謐だった。


「……懐かしい声だ。“封印者”の血か」


「……何を言って……」

 ミリアが一歩、踏み出す。


カルマ:「百年を経ても、その血は残る。

 ミリア=ヴァレン――

 かつて、封印を見届けた者の末裔」


「な……! 私の名を、どこで……!」


『光を継ぐ者、やがて闇の理を揺らす』


 ミリアの背筋に冷たいものが走る。

 その声は、まるで“未来を見ている”者のようだった。


「封印石、崩壊反応! もう時間がない!」

 リサの報告が再び飛ぶ。


「ミリア、結界!」


「《聖封陣セイバー・シール》――展開!」



悠真:「うおおおおっ!? 床が動いてる!?」


リサ:「だから触るなって言ったじゃない!」


悠真:「だってスイッチあったからつい押した!」


セレナ:「……またですか」


悠真:「“また”って言うな!?」


 一方その間にも、カルマとミリアの視線が交錯していた。


「封印を壊せば、世界が崩壊する!」


「知っている。

 真実は……その先にしかない」

 カルマが淡々と答える。


「真実……?」


「光も闇も、等しく滅びの中に還る。それが理だ」


 ミリアは息を呑む。

 カルマの声には狂気ではなく、信仰に似た確信があった。


「導師って、話せばわかるタイプ!?」

 悠真が叫ぶ。


リサ:「論理は通じても倫理が死んでるタイプね」


セレナ:「つまり一番厄介です」


悠真:「説明が上手くて怖ぇ!」


 神殿全体が震え、封印石柱が悲鳴のような音を上げた。

 その中から、黒い霧が滲み出す。


『……ウ……ア……アァア……』


「っ、封印が破れる!」

 クリスティアが叫ぶ。


「退避だ!」

 悠真が叫ぶ。

 

 ミリアは振り返らない。


「まだ終わってない!」

 彼女の瞳に、光が宿る。


「やはり、“レオン・ガルドの意思か。お前の存在こそが、我らが封印を解く鍵だ」

 カルマは静かに微笑んだ。


 カルマが手をかざすと、神殿の奥に黒い渦が生まれた。


 “封印の間”へと続く闇の門だ。


 空間そのものがひしゃげ、黒い霧が吹き荒れる。



「おいミリア! 行くな! 今は危険!」

 悠真の叫びが響く。


 だがミリアは、すでに一歩を踏み出していた。


「私が行く。あの人は……放っておけない」


「……行っちゃった」

 クリスティアが呟く。


「悠真さん、私たちも行きます!」

 セレナが短剣を握り締めた。


「マジで俺、ただの脇役じゃなかったのか!? ……ってツッコミどころ多すぎだろ!?」

 悠真が頭を抱える。

 

 だが次の瞬間、カルマの闇壁が崩れ落ち、彼らの前に通路が閉じられた。


 ミリアだけが、封印の間へ。

 淡い光の中を、一人で進んでいく。


 闇の中で待っていたカルマが、微笑んだ。

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