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冒険者登録・再び(2)





 明らかに品の良さを感じさせる部屋に通された私達。

 うん、タンネルブルクさん達Aランクだしね。

 後、私これでも公爵令嬢だからねぇ。

 ギルマスを呼びつける事も上位の部屋に通されるのも当たり前だよねぇ。

 ……そんなわけないよね!?


「<帰りたい。今すぐにおうちに帰ってベッドにもぐりこみたい。それかアトリエで錬成したい>」

「<願望だだもれだぞ。気持ちは分かるが>」

「<だってさぁ。私は別にギルドマスターに会う理由ないよ? むしろ会いたくないよ。上層部と知り合うって厄介ごととイコールじゃん!>」


 百歩譲って会うならラーズシュタイン領のギルマスじゃないの?

 あ、いや、あっちでは「キース」っていう平民の女の子だから、それこそ会う理由ないんだけどさ。

 自分がここにいる意味が分からず思考が迷走していると、ポンと頭を軽く叩かれた。

 それでほだされるとでも?

 私はジトーとした目で腕の持ち主――タンネルブルクさんを睨みつける。


「少しばかりギルマスと会うだけだ。別にお嬢さんに不利になるこたぁねぇから安心しろ」

「会うという行為自体が問題あると思いますわよ? ワタクシは冒険者になりたての新人なのですから」

「新人ねぇ」


 意味深な視線に怒りがこみ上げるのですが?

 そりゃね。

 「キース」の事を知っているタンネルブルクさんにとっては私は新人とは言えない。

 ランク云々の話じゃなくて、経験値としての話だ。

 特に、あの帝国への道中に起こった色々な出来事は私の中で確実に経験になっている。

 あの一連のあれこれだけでも新人よりも冒険者としての経験は積んでいると言える。

 それでも私は、キースダーリエは今、初めてカードを取得し冒険者として認められたひよっこである事も事実なのだ。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 と、いうよりもそこに意味を付与するつもりはない。


「(ただでさえ学園で色々面倒になりそうな予感がするのに、冒険者としても問題が降りかかるのは勘弁してほしい)」


 私は厄介事請負人ではないのだ。

 むしろ平穏を愛する一般人である。

 ……誰が何を言おうと心意気や主義主張は自由である。


「ま、それも関係ある話だ。だから諦めてくれ」

「それは……」


 どういう事ですか? と聞く言葉をさえぎって扉が開き人が入ってきた。

 流石に初対面の人間がいる前でかみつくわけにはいかない。

 それが、キースダーリエとしているなら猶更。

 私は聞く機会を失った事に眉を顰めつつ、入ってきた人に視線を移した。


「<美人さんですねぇ>」

「<オマエ、それが第一印象でいいのか? 後、もうちょっと感情込めて言えよ>」

「<ただの感想だし>」


 むしろ、それ以外何を言えと?

 この世界では美男美女ばっかりなので、食傷気味なのですよ。

 入ってきたのは男性である。

 歳の頃は、どうだろう?

 お父様たちよりも確実に上だけど、そこまでお歳じゃない気がする。

 スラッとした長身で服越しじゃ筋肉がついているか分からない。

 ただ印象として武官よりも文官って感じがする。

 白髪の髪に燃えるような赤い瞳。

 系統から言うとビルーケリッシュさんっぽいかな?

 美人系統って事ね?

 多分、ギルドマスターなんだろうけど、若い気がするなぁ。

 王都のギルマスなんだし、もっとこう、ガタイの良いこわもてのおじさまを想定していたんだけど。

 

「<うーん。動きに隙はないっぽい? けれど、私ってそこら辺の判別がいまいちだからなぁ?>」

「<結構できるんじゃね? 見た目やさいけど。外見で侮っちゃいけないタイプなんじゃねーか? オマエと一緒で>」

「<一言多いよ>」


 美人さんは何か書類を目の前のテーブルに置くと居住まいを正してこちらを見据えてきた。

 その眼光の強さに、只者じゃない事は分かった。

 たぶんに呆れを含んではいたので、怖くはなかったが。


「俺は王都のギルドマスターをやっているアシュレント。一応貴族だが、籍があるだけだからな。気にせず名前で呼んでくれ」

「(ギャップのあるお方ですこと)」


 いや、この外見でこの口調って。

 人の事言えないけど、どうなんだろう?

 呆気に取られている私をよそに話はすすむ。


「そちらのご令嬢は学園の生徒だよな? どうしてこいつらと一緒にいるんだ?」

「この嬢ちゃんに関しての話があるから、お前に来てもらったんだよ」

「は? いや、俺が言うのもなんだが、公爵家の令嬢だろ? なんで、そんな親し気なんだよ」


 いやいや、あなたも結構ですけど?

 あれ? この方、大丈夫なんです?

 これで私が気位の高い、勘違い系だったら「不敬」だと騒いでましたが?

 だってあなたの言葉も十分不遜ですもんね?

 あ、いいんですか、そうですか。

 大層自由ですね。

 流石、冒険者と冒険者ギルドのマスターですね。

 思わず遠い目をしたくなるのだが、そうしても話は進まない。

 私は気合で話に意識を戻すしかなかった。


「この嬢ちゃんはもう一端の冒険者だ。今回は冒険者カードを統合するか、しないかの相談だな」

「はぁ?!」


 ギルマスさんが驚きの声を上げて、私を見てきた。

 うん。

 私も同じくらい驚いてるから説明を求められても困るから。


「<冒険者カード、つまり冒険者の情報は統合できるって事……になるのかな?>」

「<多分な。思ったよりも制度としてしっかりしてんだな>」


 それは私も思った。

 暗黙の了解が多いかと。

 

「公爵家の令嬢が既に冒険者としてやっていただと?」

「ああ。俺達の弟子だ。噂くらいは聞いたことあるんじゃないか?」

「嘘だろ? オマエ等に構われている可哀そうな冒険者がいるとは聞いてたが、まさかの貴族かよ」

「おいおい。可哀そうってこたぁないだろ? 俺等はこれでも高位ランクの冒険者だぞ?」

「気分屋が人になったようなやつが何いってやがる。前に新人教育を頼んだら、1日で全員の心を折った挙句、教官役の冒険者の心まで粉々に粉砕しやがって。こちとら、そのせいで冒険者が足りなくて大変だったんだからな!」


 挙句、依頼を受けた風を装って王都から逃げやがって、なんてギルマスはぐちぐちと言葉が止まらない。

 よっぽどうっぷんが溜まっているらしい。

 ギルマスをそこまで追い詰めたという事実も問題だけど、何よりの問題は新人殺しとでも異名がついてそうなタンネルブルクさんの方なんですが!


「<何ソレ。怖い。新人殺しとか何ソレ>」

「<気分屋だとは思ってたが、想像の数倍ひでー>」

「<ほんとに。そしてビルーケリッシュさんは止めなかったんですか? え? やっぱり同類なんです?>」


 クロイツと二人恐れおののいていると、気づいたのかビルーケリッシュさんが苦笑して話しかけてきた。


「あの時の新人さん達は皆Aランク冒険者であるタンネルブルクに寄生しようとしていた人ばかりで。教官も彼に張り合っていたのか、無茶な指導をしようとしていたんです。僕達も普通の新人さんを無碍にしたりはしません」

「ちなみにコイツは座学で心折りまくってたからな? 俺だけじゃないからな?」

「……相手に多大な問題があったとしても、全員の心をへし折って、後始末もせずに王都を逃亡したのは変えようもない事実では?」

「そういうことだ。ほとぼりが冷めたらしれっと戻ってきやがって」


 私の言葉にギルマスさんが続く。

 タンネルブルクさんも怖いけど、笑顔で心を折ってそうなビルーケリッシュさんも怖いです。

 この二人、やっぱり似た者同士なのでは?


「<というよりも寄生と言い切りましたが? 笑顔でえげつないことをおっしゃる>」

「<こいつの穏やかそうな笑顔に騙されてるやつが多くね? こっちも大概じゃねーか>」


 クロイツの言葉に全面的に同意しつつ、私はお疲れ状態のギルマスに向き直る。


「えぇと。まずは、なんですが」

「なんだ?」

「私が既に冒険者カードを持っているのは事実です。私は錬金術師を目指していて、採取作業のために冒険者にもなりました。高位の貴族はあまり幼い頃に冒険者登録しない事は知っております。ただ家庭教師の方が実利主義といいますか、そういった事に頓着しない方でして」

「誰か聞いても?」

「貴族の方なら知っているかもしれませんね。シュティンヒパル=コルラレ様に錬金術を主に座学全般を。そして実践はツィトーネ様に教わっております」


 名前を言った途端にギルマスの目が限界かと言う程に開かれる。

 先ほどよりも驚いている様子に私の方も驚いてしまう。

 え? シュティン先生とトーネ先生って有名なの?

 ギルマスは口を数度開閉したかと思うと盛大にため息をついて頭を抱えてしまった。


「そうか。ラーズシュタイン家の令嬢だからな。あの両親の子供なんだからあいつ等が家庭教師になってもおかしくはないな」

「私の両親とお知り合いなのですか?」


 宰相であるお父様はともかくお母様も? なんて思い聞いてみるとギルマスは乾いた笑いをたてつつ教えてくれた。


「令嬢の母君は【氷華】の魔術師。父君は【爆砕】の錬金術師と呼ばれていた有名な冒険者だ。ついでにいうとシュティンヒパルもツィトーネも……さるお方もだが」

「……お父様、お母様」


 やっぱり学生時代に伝説作ってたんだ!

 あと、冒険者時代ってあるの?!

 二つ名がつくレベルで暴れていたの?!

 

「そりゃ実利をとるわな。冒険者登録もさっさと済ませるだろうよ。特にシュティンヒパルはそういった貴族の慣習は一切気にしない。本人も貴族なんだがな」

「まさかの事実に私の心が折れそうです」

「あーいや。令嬢は悪く無い。そんなに落ち込むな」

「つまりそういってしまう程度には皆やらしておりますのね? あ、ワタクシ、キースダーリエと申します。名乗りが遅れてしまい申し訳ございません」


 立ち上がり一礼。

 色々あったものだから礼儀が頭からすっぽ抜けていた。

 うん、猫も剥げてるな。

 今更だけど猫かぶりなおしていいかな? だめですか、そうですか。


「気にしないでくれ。大半はこいつらのせいだ。……それでだ。冒険者カードが二つあるって話だが、一つに統合するか? それとも二つ持つか?」

「お気遣いいただきありがとうございます。――統合とは冒険者ギルドの制度なのですか?」

「そうだな。簡単に言えばランクや情報その他をひとまとめにしちまうかって話だ」


 詳しく聞くと、案外制度としてしっかりしているのものだなぁと思った。


 私のように複数のカードを持つ、つまり複数の名前で冒険者登録する人は少なくないらしい。

 訳アリも結構いるらしい。

 まぁ冒険者っていうのは詮索無用な場所だし、元犯罪者やらもいるだろう。

 現にルビーンとザフィーアだって冒険者としてやっているわけだし。

 と、まぁ後ろ暗い所があるヒトはともかくとして、それ以外の人は複数のカードを持ち続ける理由なんてあるのか?

 ない、と言ってもよいのではないかと思う。

 複数の名前で冒険者をやっている人もいるだろうが、そんなのは変わり者と言われるのが普通だ。

 じゃあ、どうするのか? となった時、ここで統合という制度の話が出てくる。

 どうやら冒険者カードに登録されている情報を統合し、一つにする事が出来るらしい。

 そもそも冒険者登録っていうのは、魔力とそこからとれる情報をそれぞれのギルドで管理しているらしいのだ。

 とは言え、普通の人は魔力から詳細な情報をとるなんて芸当はできない。

 だから管理と言っても別に厳重と言うわけでもないとギルマスは笑って言い切った。

 それを真正面から信じるつもりもないが、まぁ魔力から情報を取るなんて簡単にはできないだろうから、すべてが嘘でもないのだろう、きっと。

 ギルド同士、情報のやり取りはすぐできる。

 転送の魔法なんていうのも存在しているし、ギルド同士の結束は固いようだから、情報の交換は頻繁に行われているのだろう。

 ギルド上層部の不正なんかもすぐに判明しそうだ。

 良いことである。

 と、いう背景なので登録している魔力で検索して同じとわかれば、簡単に統合できるらしいのだ。

 勿論、その時はランクが高い方に統合されるとの事。

 名前なんかは選べるという親切設計である。

 後は蛇足的な話だが備考で複数の名前の記載と「統合済」と記入されるらしい、という事で話は締めくくられた。


「このカードって案外高性能ですね」

「まぁ錬金術師達の技術の結晶だからな。ちなみに情報を管理してんのは何か犯罪が行われた時、別の名前で逃げのびるのを防ぐためでもある」

「あー成程」

「重大な犯罪を犯した場合だから、滅多にない事だがな」

「『ブラックリスト』入りって事もありそう」

「ん?」

「あ、いえ。なんでもありませんわ。ただ重大な犯罪をおかした人の情報を事前に各ギルドに回しておけば、しれっと新しく冒険者登録しようとしてもばれそうだと思っただけです」

「それもあるな。……そこに目が行くのも珍しいな。その年で」

「そうですか?」


 いや、ルビーンとザフィーアみたいな組織に所属していたヒトが身近にいるものだから。

 なんて言えるはずもなく、笑ってごまかす。

 追求しないでくれたギルマスさんの好感度が上がりました。


「ってなわけで情報の統合ができるわけだが、するか?」

「そう、ですわね」


 入学したての学生が中堅レベルのランク持ちになるって事になるけど。

 不都合があるような、ないような。


「勿論、情報は統合してくれ」

「おいおい。なんでお前が決めるんだよ」


 タンネルブルクさんが勝手に進めようとするが、ギルマスさんが止めてくれた。

 さっきからギルマスさんへの好感度上がっている気がする。

 そして決めるのは私です。


「統合はいつでもできるからな。今はしないのも手だ」

「ですよね。ある程度キースダーリエとして実績を重ねた後に統合しようかと」

「別に今すぐでも問題ないだろ? 統合しようぜ!」

「どうしてそこまでせかすんだ?」


 私の疑問をギルマスさんが聞いてくれる。

 その質問にタンネルブルクさんは晴れやかな顔でのたまったのだ。


「キースじゃないとお嬢ちゃんに絡めないからな! 俺は複数の弟子をとる気はない。ってか今は嬢ちゃん以外を弟子にする気はない! だから情報の統合しなきゃキースダーリエに対しての対応しかできないだろ? それじゃつまらん!」

「「全部(あなた/お前)の都合(じゃないですか!/じゃないか!)」」


 きれいにはもった瞬間だった。


 その後、タンネルブルクさんのごり押しで情報を統合する事になるのだが、いまだに解せぬ。

 これってタンネルブルクさんの一人勝ちって言わない?

 あって数時間のギルマスさんと意思疎通がばっちりできるようになったのも致し方ないの事である。






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