冒険者登録・再び
色々思う所あれど、予定を変える気はない私は今、こうして王都の冒険者ギルドの前にいたりする。
いや、推定転生者は気になるよ?
思い切り喧嘩売られたわけだしね?
ただ現状、一生徒の私にできることはなく。
いくら気にしても意味がないとなれば、ねぇ?
そりゃ当初の予定通り動きますよね。
「(さっさと登録しないといけないのも事実だしねぇ)」
キースダーリエとして、だけど。
王都の冒険者ギルドの外観はラーズシュタイン領のものとあまり変わらない。
王都の方が建物が大きいかな? と言ったぐらいの変化だ。
これはきっとギルドごとに同じ特徴を持たせる事で誰が見ても何のギルドがわかるようにしている、のだろう。
もしかしたらただ作った人たちが面倒くさく思ったからかもしれないが。
「(けど、冒険者ギルドの場合、読み書きのできない人も一定数いそうだし、こうやってギルドごとに特徴があった方が迷わない気もするし)」
考えすぎかもしれないけど、まぁ誰に聞くことでもないので、私が勝手にそう思っておこう。
何となく取り留めない事を考えつつ私はギルドの扉を開ける。
さて、中はどうかな?
少しだけのドキドキと期待、そして不安を抱えて扉を開けた私を待っていたのは、思っていたよりもすっきりしていて綺麗な空間だった。
「(あれ? 冒険者ギルドだよね?)」
冒険者ギルドと言えば冒険者のたまり場である。
冒険者と言えば、過去詮索無用のやんちゃなヒト達である。
だからこそ、冒険者ギルドには昼夜関係無くお酒飲んだり、ちょっとばかし治安の悪い行為をしたり、そういった一般人は少し近寄りがたい空間が形成されているものだ。
「(冒険者の一人である私が言っていい事じゃないけどさ)」
だが、事実そうなのだから仕方ない。
確かにラーズシュタイン領の冒険者ギルドはそこまで治安が悪いとは言えない。
とはいえ、初登録の時絡まれた事を考えれば、治安の悪さはお察しというやつである。
それを踏まえて、王都と言えば、国一番人の集まる場所だ。
つまり色々な性格の人がいるわけで。
ガラの悪い人もいるわけで。
とどのつまり何が言いたいのかと言うと……こんな綺麗な場所は完全に想定外なのである。
何となく居心地の悪いさを感じつつ、カウンターへ歩いていく。
途中絡まれる事も無く、多少の視線をもらっただけだった。
つくづく想定外の状態に目をシロクロさせつつ、カウンターにいるお姉さんに話しかける。
受付嬢とは美人美形の集まりであるが、王都もそうだった。
そこだけは想定内だ。
うん、少し落ち着いた。
「(美人を見て落ち着くってのもおかしな話だけど)」
仕方ない。
私が美人を見慣れているのも一因だろうし。
色々想定外な王都の冒険者ギルドが悪い、なんて責任転嫁をしつつ口を開く。
「冒険者登録をしたいのですが」
「ようこそ冒険者ギルドへ。それではこれにご記入ください」
渡された用紙に懐かしさを感じつつ、書き込む。
今回は推薦状は必要ないので気が楽だ。
受付のお姉さんも別にこっちを侮る……心配する目をしていない。
まぁ過去のあれは年齢の問題だし仕方無いか。
「……はい。全部書き込みました」
「ありがとうございます。……記入漏れはないですね。では登録します」
同じように水晶玉に血を一滴落とし、登録完了である。
「<そういえばこれって二重登録だよね? 問題ないの?>」
「<今更じゃね? 貴族が身分隠して登録したりするんだろ? なら平気なんじゃね?>」
「<うーん。ってか私一からやり直しになるのかね?>」
実はここ数年でランクは最低ランクから上がっている。
それもこれもタンネルブルクさん達のせいだが、普通に依頼を受けたりもしていたので仕方無いと言えば仕方無い。
それらは経験値としては私の糧になっているのだが、だからこそ、こうやって真っ新なギルドカードをもらうと、少しばかり首をかしげてしまう。
「<妙にこなれた初心者の誕生ってわけだ。無駄に絡まれそうだな>」
「<ですよねー。しかも貴族だし。【愛し子】だし>」
「キース」の時よりも倍は絡まれそうな予感にいまからげんなりする。
とは言え、どこで質問していいものだか。
「<そのうちシュティン先生に会えたら聞いてみるかなぁ>」
「<その前に親に聞いてみたらどーだ?>」
「<うーん。お母様は領地に帰ったしお父様は忙しいだろうしなぁ>」
聞きずらい、だがそれも考えないとなぁ。
などと考えているうちにカードをもらう。
ちなみに職業欄は「錬金術師」「魔術師」である。
(仮)がついていない事に内心ほっとする。
流石に今だ仮がついていたら落ち込む。
一応初心者という事でお姉さんに話を聞くが、どうやら前に聞いた時とさほど変わりはない。
違いは初心者用の森があるかどうかぐらいである。
どうやら王都の方が初心者に優しそうである。
どうも王都の方が治安も良いし、冒険者に優しい気がしなくもない。
「(いやいやいや。王都の方が人は多いし、変な人も多いだろうし)」
治安が良い事はいいことだけどね!
絡まれたいわけでもないし!
ただ、ただ……
「<お父様の領地より安全だと言われるとなんかもやる!!>」
「<……今度はどこに吹っ飛んだ?>」
私はクロイツにギルドに入ってからの違和感をぶちまける。
だって、ギルドのイメージが違いすぎるし。
けれど、王都がスタンダードだったらもっと嫌だし!
ラーズシュタイン領は、お父様は立派な領主だもん!
「<あー。まずだな。治安に関しちゃ安心(?)していいぜ。王都がクリーンすぎるだけだし、他はもっと殺伐としてる。それこそオレやオマエが考える『冒険者ギルド』、そのまんまだ>」
オレも王都の綺麗さには驚いたと言われて、少しだけ落ち着く。
「<あとまぁ、お前のオトーサマは別に平民を虐げるようなやつじゃないってのは分かる。が、オキゾクサマであるのも事実だしな。完全に分かり合うのは無理じゃね?>」
「<うっ。それは……否定できないけどさ>」
前世庶民だった私でさえ、この世界の平民の生活は分からないのだ。
多分他の人よりは寄り添う事も共感する事もできる。
けれど、それは他の貴族よりも、でしかない。
生粋の貴族であるお父様に、平民のすべてを分かれ、と言うのは無茶だし、誰かが「自分は平民生活を何でも知っている」なんて言われても鼻で笑うだろう。
「<それこそ『ヒロイン』みたいに平民が貴族家に拾われたりしない限り、言葉だけだよねぇ>」
「<そーいうこった>」
「<そういう意味では私よりもクロイツの方が詳しいかもね>」
フェルシュルグ時代の記憶があるのだから、平民生活を知っているだろう。
そんな思いから言ったのだが、なぜかクロイツから何とも言えない感情が伝わってきた。
「<どーだろうな。オレはオレで結構普通じゃねー生活してたしな>」
「<ああ、そういう事>」
フェルシュルグの一種の荒んだ生涯を思い出し、さもありなんと思う。
そう考えると、私達が平民に寄り添った何かの施策を考えたり、錬金術師として動くのは早いのかもしれない。
もうちょっと平民の知り合いをつくり、情報を集めたうえで何かをなすべきだ。
「(ま、今の所、出来る事なんて、平民だからと差別せず、視野を狭めないように気を付けて行動する、ぐらいだろうけど)」
将来、家を継ぐわけじゃない。
ただ嫁いだ先で領地経営にかかわることはあるかもしれない。
そのために今できる事なんてその程度だ。
将来の展望は持ちつつ、今できる事をしないといけない。
地に足のついた生活を送るべき、という話なのである。
「(ひいては平穏な生活って事になるんだけどさぁ)」
それが一番難しいそうな現状に涙が出そうだ。
「――――、今はこれくらいかな。聞きたいこととかあるかな?」
「あ、いえ。大丈夫です。ありがとうございます」
お姉さんが説明の後、こちらに聞いてくる。
うん、聞いてたよ?
同時に思考が流れていたのとクロイツとすこーし話していただけで。
ただ気もそぞろだったのもバレているのだろう。
お姉さんが少しばかり眉をひそめた。
うん、今の私、感じ悪いもんね。
冒険者をなめ腐っているように見えるもんね!
違います。
むしろ丁寧すぎる説明に関心したぐらいです。
王都のギルド員は親切ですよね。
「ちゃんと話を聞かないとだめよ? それじゃあ今日は依頼を受けていく?」
「いえ。今日は他のギルドにも行きたいので、依頼は確認だけにしておくつもりです」
「そっか。じゃあカードが失効する前までに来ること。分かった?」
「はい。ありがとうございました」
思い切り子供扱いなのだが、今回に関しては私に否があるせいか、そこまで気に障らなかった。
私はもう一度一礼すると掲示板の方に振り返る。
……のだが、そこで見たカラフル色の頭に体は自然と先ほどの方向に向き直ってしまう。
顔を見られないための緊急措置である。
無駄な足掻きは重々承知だが、勘弁してほしい。
まさかの人たちの登場に私も動揺しているのである。
「あら。タンネルブルクさんにビルーケリッシュさん。今日は何の御用ですか?」
クエストは昨日完了しましたし、今日は休息日にするとおっしゃっていませんでしたか? なんて言っているお姉さんをよそに、私は振り返る事ができない。
ああ、どうしてここに二人がいるのかな?
しかもお姉さんの言葉から察するに彼らが何時もと同じ行動をとっていたら会うはずもなかったのに。
「(なんて運が悪い!)」
絶対に会いたくないとまでは言わないが、キースダーリエとして会うと色々とややこしいから面倒なのだ。
「<いっその事知らない振りして帰ろうかなぁ>」
「<いや、無理だな。向こう気づいてるしな>」
「<ですよねぇ!>」
視線をビシバシと感じるのでわかってます。
ただ厄介ごとになる前に帰りたかっただけです。
無理そうだけどね!
案の定、二人は笑顔で近づいてきた。
「依頼の確認だけはしておこうという話になりまして」
「そうなんですね」
「んで? なんか面白そうな依頼はないか?」
「面白いかどうかなんて基準で依頼を選ぶ人なんてそうそういませんよ?」
「けど、面白い方がいいじゃないか」
受付のお姉さんと和気あいあいと話しているタンネルブルクさん達。
その様子から、王都にそれなりに長い期間いる事が分かる。
いい意味で気やすいのだ。
そんな三人のやりとりを私はぼぉっと見ていた。
「<このまんま、帰りたいなぁ>」
「<無断なら帰れるかもしれねーけど、オマエ受付のおねーさんに挨拶せずに帰れるか?>」
「<無理>」
そんな礼儀知らずな事はできません。
今、緊急事態じゃないし。
クエスト掲示板に行くのも、こっそりは無理そうだし。
あれ? できる事なくない?
「<じゃー諦めろ>」
「<もう少し粘って? お願いだから、もう少し一緒に考えて?>」
「<オマエはなんか案あるのか?>」
「<……無理だよね>」
無断で帰るなんて礼儀知らずはしたくない。
が、挨拶すれば、其の隙を見逃してくれるとは思えない。
ならば、初対面を装う手は……無理だね。
タンネルブルクさん達が乗ってくれるとは思えない。
「(だって、めちゃくちゃこっち意識してるもん。見てないけど意識はこっち向いてるもん>」
特にタンネルブルクさん。
あ、ビルーケリッシュさん、こちらをちらっと見て、苦笑した。
あれってあきらめろって合図ですよね?
「<覚悟決めるしかないな、こうなったら>」
「<……冒険者登録はやっぱりすんなりいかないんだね>」
心の中でため息をつくと、顔を上げる。
それが合図になったのだろう。
タンネルブルクさんもこちらを向いた。
……満面の笑みですねぇ、腹立たしいぐらいに。
「(貴族の猫被り状態で対応するからね! 覚悟してね!)」
私の猫被りをそこはかとなく気持ち悪いと言っていたタンネルブルクさんだ。
多少の嫌がらせにはなるだろう。
……挨拶だけで帰してくれるならその対応も改めるけど。
ま、そんな対応をするならタンネルブルクさんじゃないよねぇ。
「おっと。これはこれはお嬢ちゃん。久しぶりだな」
「お久しぶりにございます、タンネルブルク様。ビルーケリッシュ様もご健勝そうで」
ふと思う。
そもそも二人はどっちに私に対して挨拶しているのだろうか?
「キース」に対してのような気がしなくともないけど。
私の、というよりもタンネルブルクさんの気さくな対応に驚いたのだろう。
受付のお姉さんがぎょっとした顔をしている。
「あ、あの。知り合いなんですか?」
「ん? んー、そうだな」
「一度、護衛をしていただいた事がありますの。噂に違わない腕でしたわ」
余計な事を言われると面倒だから、遮って「キースダーリエ」とのかかわりを説明する。
それでも十分だったのだろう。
お姉さんは明らかに安堵した表情になる。
仕方ないよねぇ。
腐っても鯛、ならぬ幼くとも貴族令嬢だ。
もしかしたら私が公爵家の人間だという事もわかっているかもしれない。
そんな相手にあれだけフレンドリーだと、ねぇ?
「(たださ、今更な気もするんだけどね? 私が幼稚で、何事にも「不敬!」と叫ぶ子供だとは思わなかったのかな?)」
先ほどのお姉さんも十分砕けていたように思うけど。
匙加減がいまいちわからない。
「(ま、いっか)」
今後かかわりが深くなる相手でもあるまいし、考えるだけ無駄である。
という事でお姉さんの事を思考から外し、見上げる。
納得してくれたお姉さんとは裏腹にタンネルブルクさんはどこか不満そうだった。
そんな顔しても無駄ですけどね。
キースダーリエとしての接点なんて、そんなもんでしょう?
そりゃその後公爵家に来て色々情報を下さりましたけど?
あくまで依頼主と冒険者の間柄ですよね?
キースダーリエとして登録した以上、キースとの関係を持ち出す気は更々ないですよ?
私は晴れやかな笑みを浮かべると一礼して、この場を辞そうとする。
このまま帰る事が出来るかも、なんて儚い希望すら抱いたのだ。
が、それで終わるなら私は今まで平穏に生きてこられていただろう。
私の厄介ごとに対しての巻き込まれ率は笑えないものなのである。
「ちょっと待った」
去ろうとする私の腕をがっつりつかんだタンネルブルクさんは、それはそれは良い笑顔になると受付のお姉さんに「一室貸してくれ。後ギルマスいるよな?」と言い出した。
振り払えるだろうか?
いや、無理だな。
と、無駄な抵抗なんかは最初からしないけど、タンネルブルクさんの言った内容に内心首をかしげる。
「(ギルマスと知り合いなのは別にいいけど。そんな人を呼ぶような問題でもあるわけ?)」
えぇ。
カードの二重取得って違反なの?
そんな記載は規約にも載っていなかったけど。
顔いっぱいに不審な色を乗せると、タンネルブルクさんは「別に罰則とかの話じゃねーよ」なんて笑って言うのだが。
せめて内容を教えてほしいのだが。
それができないのなら帰りたいのだが。
「ま、悪いようにはしないから付き合えよ」
まるっきり邪気のない顔で言い放つタンネルブルクさんとは逆に何とも言えない顔のビルーケリッシュさん。
どちらに信があるかなんかは、言うまでもないのである。




