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少女襲来




「遅かったな。何か問題でもあったのか?」

「いえ、何もありませんでしたわ。お心遣い、ありがとうございます、ロアベーツィア様」


 食堂で食事を作ってもらいテーブルへ。

 そこにはすでにロアベーツィア様だけではなく、お兄様やヴァイディーウス殿下が座っていた。

 この学園の食堂は広く、講義の隙間時間にご飯を食べたり、休憩がてらお茶をしたり出来る。

 ただ、王族や高位貴族だけが入れる区画とも一応存在している。


 これは過去にあったさる事件をせいらしい。


 学園の設立当時は区画の区切りはなかった。

 この学園の理念の一つに「平等に学ぶことができる」というものがあるのだからさもありなん、である。

 だが、しかし。

 王族や高位貴族と本来なら関わり合いになることが少ない家格の低い貴族や平民がこれをチャンスにしないわけがないわけで。

 結果として魔法薬やらなにやら横行した挙句、王族の一人が心を病んでしまったとさ。

 そりゃ当時は大騒ぎである。

 理念は大事だ。

 食堂を誰でも使える場にするという考えも間違ってはいない。

 だけどまぁ差別と区別は違うわけで。

 喧々諤々のやり取りの結果、こういった一定の家格の貴族家と王族だけが使える区画が生まれたわけ。

 別にここを絶対に使用しなければいけないわけじゃない。

 ただ避難場所として提供されているだけであり、食事が豪勢になったりするわけじゃない。

 家格の低い貴族、及び平民も中に入れる人間の許可があれば入れるし、そこまで厳重なわけじゃない。

 誰でも心安らかに過ごせる場所を提供しているだけなのである。

 ……『ゲーム』では普通に「特別扱いかい!」って突っ込んだけど、案外切実なお話で驚いています。


 そんな区画であるが、授業が始まってから約一週間、毎日私はお兄様達と昼食をとっている。

 あー幸せ! ちょっと色々怖いけどね!

 と、中々な恐怖と背中合わせの幸せを甘受している。

 まぁまだ私とロアベーツィア様は学園生活に慣れていないから、お兄様とヴァイディーウス殿下は付き合ってくれているのだろうけど。

 この幸せも期間が区切られていると分かっていれば寂しくもある。

 

 せめて、週一、いや二週間一度くらい一緒に食べれないだろうか?


 目下、私とロアベーツィア様の大義名分探しの目標はそこである。

 プレートを机に置き食事をしつつ、和やかに談笑している私達。

 傍から見ると、私が皆を侍らしているようである。

 まことに遺憾です。


 ただ、意外なのは案外周囲は静かなことである。


 どうやらこの学園、思ったよりも研究機関の要素が強いらしいのだ。

 なんといえばよいのか。

 社交に精を出し、将来はより良い所へ嫁ぐという固い意志を持ったお嬢様方は存在している。

 それこそ『ゲーム』に出てくるような典型的な令嬢もいる。

 だが、思ったよりも皆が皆、そうじゃない。

 割合は分からないけど、手に職をつけ、独立すること目指して。

 又は書物に載るような偉大な研究者として。

 そこまでいかずとも研究に生涯を捧げるような生き方をするため。

 そういった結婚以外の方法で世に出ていくことを目指した女性が結構な数、存在しているらしい。

 貴族男性、特に三男以降は分かるけど、貴族女性も意外と三子以降はそういった道を選ぶらしいのだ。

 サロンでの社交は存在している。

 ただそういった場で繋がりを得るのは長子や次子に多く、学園の総数からすると多くはない。

 だからか、殿下達に対してもがっついた姿を見せない人も多い。

 

「(全くいないわけじゃないし、そういった人の方が声が大きいから目立つけど)」


 こればっかりは仕方のない事だろう。

 殿下達とともにいる事で学園の全女子生徒からにらまれるなんて惨事に巻き込まれないだけ僥倖だ。

 あと『ゲーム』で案外ヒロインが学園生活を送れた理由もわかった気がする。

 『悪役令嬢』的な位置づけの人以外にも大勢の貴族女性から目をつけられていたら平民出身であり現在は男爵令嬢のヒロインは絶対にまともに学園生活を送れない。

 いくら『攻略キャラ』達が助けたとしても平民出身の小娘一人つぶす方法なんて腐るほどあるのだから。

 だけど、この学園に関して言えば、声が大きい幾人かはともかく、大半は関わり合いになりたくないから傍観していたのだろう。

 結果としてヒロインは一応無事学園を卒業するまで過ごせたわけだ。

 これならヒロインがたとえ『ゲーム』のように少しばかり危うくとも問題ないだろう。


「(ただ、学園の状態を考えると、攻略キャラは少しばかり盲目過ぎる気もするけど)」


 視野を広くもてば、家格も釣り合う、気の合う人なんて会えそうなもんだけど。

 いや、殿下達やお兄様は候補として侍っている女性によるかな。


「(そういえば、お兄様にはそういった類の女性がいないけど、殿下達はどうなんだろう?)」


 場合によっては殿下達と距離をおかないといけないような?

 婚約者候補である女性と交流しなければいけないのに、性別女性の私がいては邪魔だろう。


「(それとも、私を睨む視線の中にいるのだろうか?)」


 案外平和に過ごせている。

 ただし、そういった視線を全くもらっていないわけじゃない。

 思ったよりも少ないだけできっちりにらんでくる相手はいるわけで。


「(それでもまぁ、私が公爵令嬢である以上、実力行使等には出ないだろうけど)」


 同等の家格の女性が同世代にはいない。

 私にとって一番ありがたい事実だった。


 実は他よりも一際強い視線がいくつかある。

 一つは恨みつらみは感じない。

 感じないから不気味ともいえるけど。

 その一つはさておき、残りはものすごい恨みつらみを感じる。

 うん、怨霊かくやと言った感じだ。

 多分、私が殿下達の婚約者候補と勘違いしているのだろう。

 又は私が三人を侍らしているとでも思っているか。


「(お兄様と一緒にお昼は嬉しいけど、今の所お友達所かお昼を一緒に食べてくる人もいないから「お昼はだれそれと食べます」なんていう言い訳もできない。あと、単純にお兄様とのお昼をふいにするのはおしいし。……うん、令嬢がぼっち。言葉にすると悲しくなってくる。取り巻きはいらないけど世間話を少しする程度の知人は欲しい。情報を得る方法も今の所無いし)」


 いっそのこと研究者気質の誰かにこっちから話しかけようかな、なんて若干遠い目をしていると、そんな私に気づいたのか、ロアベーツィア様が話しかけてきた。


「先ほどから元気がないようだが? 何かあったのか?」

「あー、いえ。……ワタクシ、色々な方に恨まれていないかな、と」

「キースダーリエ嬢を恨む?」

「あの、何と言えばよろしいのか。殿下達と交流しなければいけない方がいるのではないかな、と。そんな方の邪魔をしているワタクシは恨まれそうだな、と思いまして」


 遠回りに婚約者候補についてほのめかしたのだが、通じてくれたらしい。

 ロアベーツィア様には呆れられて、ヴァイディーウス殿下には苦笑されたけど。

 結構切実なんですよ?


「俺にも兄上にも婚約者候補はいないし、そういった話もまだ出ていない」

「国王陛下は今だにどちらを時期国王にするか宣言なさっておられないからね。そういう類の話は決まってからになるんじゃないかな?」

「成程。そういえばお兄様にもそういったお話はでていないのですか?」


 私が聞いていないだけなのかな?


「僕にも話は来てないよ。我が家も僕が継ぐかダーリエが継ぐか決まってないからね」

「お兄様が次の当主ですが!?」


 私には継ぎたいという意思は欠片もないのですが。

 あまりに驚いてしまい、猫がはげかける。

 すぐにここは食堂、ここは食堂と自分に言い聞かせて猫を引き寄せるが間に合っただろうか。

 申し訳ありません、ロアベーツィア様、ヴァイディーウス殿下。

 先ほどの言葉は忘れていただけませんかね。

 あ、無理ですか。

 泣きそうなんですが?


「我が国は基本的に長子が継ぐのですから、お兄様が次期当主ですわ」

「才能によっては簡単に変わるけどね」


 才能もお兄様が上なのでは?

 うぅ、お兄様が意地悪だ。

 私が次期当主を望んでいないことを知った上でからかっているのだ。

 そして殿下達も私たちがじゃれあっているのに気付いているから声をかけてこない。

 つまり、お兄様が満足する、あるいは飽きるまでこのままである。

 お兄様を口で負かす事は出来ない。

 ……いやまぁ、どうでもいい人間ならいくらでもできるけど、お兄様にはできない。

 うちに入れた人に対して甘い自分の性質が悪いのだ。

 あと、お兄様は年々賢く口が達者になっていってると思う。

 流石貴族。

 結局、お兄様が満足して「安心して。本気でダーリエが継ぎたいと思わない限りは僕が継ぐよ」なんていうまでこのやりとりは続いたのである。

 ……格式高い貴族家を継ぐのがそれでいいのだろうか?

 なんて疑問はいってはいけないのである。





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