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少女襲来(2)





 揶揄われ続けてぐったりな私をよそにしれっと食事を再開するお兄様達。

 ひどいです。

 しかも周囲に人がいるから猫をはげない私は盛大に不貞腐れる事も嘆く事も出来ず。

 ひどいです、お兄様方。

 とはいえ、昼間の食堂。

 私もしれっとした態度で(表面上だけ繕って)食事を再開するしかなく。

 ああ、ごはんおいしい。

 もはややけ食いしたい心境である。

 しないけど。

 影の中でクロイツが呆れているけど、無視する。

 今ならクロイツにも負ける自信がある。

 いや、別に何時も勝ってるわけじゃないけど。

 それくらい弱っているってことです。

 その後は極々平穏に食事を終えて、四人で談笑しつつお茶を嗜んでいる。

 こういう所が私が一部女生徒ににらまれる原因なんだろうなぁ。

 けれど、お兄様との時間を削るのは無理なので、代償と思い諦める。

 どうせ期間限定だし、どうせならこの時間を大切にしたい。


「それにしても、キース嬢は何でそんなことを気にしたんだ?」


 話を蒸し返されてお茶をむせそうになる。

 まさか終わったと思った話題を掘り返されるとは。


「(……言ってもいいのだろうか?)」


 ここにいるのがお兄様だけなら私も気にせず言った。

 けど、殿下達に言ってもいいことなんだろうか?


「(場合によっては私が自意識過剰って思われるし、言ってどうにかなるものでもないし)」


 なによりも、今話した事でお兄様との時間が終わるのは嫌だ。

 

「(でもなぁ。誤魔化すのもなぁ)」


 何か重大な問題を抱えていると思われるのも困る。

 何事かあったのはバレているみたいだし。

 どうやら覚悟を決めるしかないらしい。


「(これでお兄様とごはん食べる機会が減りませんように!)」


 そんな事を願いつつ口を開く。


「いえ、ちょっと視線が痛いなぁと思う時があるだけです」

「視線が?」


 ロアベーツィア様が振り返り、当たりを見回すと数か所から黄色い声が響く。

 私が思っていたよりは少ない。

 けど無視出来る程少なくもない。

 

「なるほど」

 

 ロアベーツィア様はそれだけで大体把握したのだろう。

 少しばかり苦笑して顔を戻した。

 お兄様とヴァイディーウス殿下はそういった行動をとるまでもなく、私の真意に気づいていたのだろう。

 笑みを浮かべているだけだ。


「だが、キース嬢は周囲の視線は気しないたちではないのか?」

「それはそうですね」


 もっともである。

 私は基本的に他者の視線など気にしない。

 気にしていてはキリがないからだ。

 地位に対して、魔力量に対して、『愛し子』という事実に対して。

 ありとあらゆる妬み嫉みが常に私達の周りを渦巻いている。

 ついでにいうと子供ばかりのこの場よりも王城などの方が濃度は濃いし、危険度は高い。

 私が公爵令嬢である限り、案外、子供ばかりのこの学園は比較的安全なのだ。


「(子供の方が手加減を知らないぶん、危ないという話もあるけど、実際覚悟が決まった大人の方が厄介な場合もある)」

  

 陰口やにらまれる程度なら私も気にもしない。

 ただ、学園だけで感じている視線の幾つかが気になるのだ。

 一つは負の感情を感じないから省くとしても、残り。

 ……大人顔負けの濃度の感情をぶつけてくる輩がいるのが問題なのだ。


「基本的には問題御座いません。ワタクシが公爵家の人間である以上、下手な手出しは自らの身を滅ぼすと分かっていますもの」

「ダーリエに何かあれば僕は勿論、父様達も絶対に介入してくるからね」

「二人共両親に愛されているからね」

「親ばかが過ぎるとは思いますが。少々気恥しいですね」


 お兄様の言葉にヴァイディーウス殿下は麗しい笑みを浮かべる。


「ラーズシュタイン家は健全な親子関係を築けているのだから問題ないでしょう。あの宰相が人らしくなる数少ない瞬間なのだから、私達も楽しませてもらっているよ?」


 どこか揶揄い半分の言葉に私とお兄様はそろって苦笑する。

 色々な含みに気づいたのだ。


「(健全ねぇ。まぁ今の貴族がそんな“健全”な関係を築けていない家もたくさんあるもんね。ただ後者は本気で思っているみたいだし、からかってるなぁって感じだ)」


 お兄様がヴァイディーウス殿下に気に入られているのは良い事だ。

 このまま良い関係を築いていけばいいと思う。

 打算的な事を考えるならば、王族に気にいられる方がラーズシュタイン家は安泰なのだ。

 個人的にはお兄様に軽口をたたきあう友人ができたことは喜ばしいことでしかない。

 その分、私にはちっとも友人の影もないが。

 むなしいを押し殺して話を戻す


「お話をもどしても? ……いくつか気になる視線がございまして」

「そうなのか?」

「ええ。ただそこまで強い感情を向けられる理由が分からなくて」

「ああ、それで先ほどのか。確かに俺や兄上に婚約者候補がいればキース嬢を気にする可能性はあるか」

「はい。自分よりも交流を深めている異性の存在はやはり気になるものかと」

「まぁ、それで暴走するなら妃候補としては失格なんだけれどね」


 どこか冷たい笑みを浮かべ言い切るヴァイディーウス殿下。

 それを否定せず、むしろ力強くうなずくロアベーツィア様。

 やはり否定しないお兄様。


 この一角だけ冬が到来していません?


 それでも、内容を否定する気にならない所、私もそれなりに貴族の思考に染まってきたということだろうか?

 それこそ今更ともいえるが。

 本来なら皆の年を考えれば末恐ろしいって考える所なのでは?

 今更過ぎて口には出せないが。


「ダーリエに何かするような浅はかな女性を僕が選ぶことはありえませんが」

「はっきり言い切ったね。けれど、そうだね」


 ヴァイディーウス殿下がそれとなく周囲を見渡しながら、聞こえるか聞こえないかの声で呟く。


「交友関係は私達自身が選ぶことだからね。それもまた私達の成長のため。そんなことも思い当たらないのならば、貴族としての道は考えた方がいいだろうね」


 うわぁ、辛辣。

 聞こえるように言う所、余計怖さが。

 背筋が凍るってこういう事だよね!


「(これって、見る目を養う機会を奪う。しかも私情でそれをなすような人間は貴族としてやっていけないってことだよねぇ。強烈すぎでしょう)」


 そして『ゲーム』で悪役令嬢ポジションの令嬢が嫌われていた理由もわかった気がする。

 交友関係をお前が決めるなって感じだし、しかも基準が令嬢の私情だしで完全に地雷踏み抜いているわけだ。

 そりゃ嫌われるわけだ。

 

「(とはいえ『ゲーム』に関しては攻略キャラも色々欠点あったし、どっちが一方的に悪いとは言えないだろうけど)」


 現実において二人の王子に『ゲーム』で見られた欠点は見られない。

 完璧な人間とは言わないが、少なくとも『ゲーム』のように危うい所はない。

 だからこそ『ゲーム』のような事をすれば一発でアウトだ。

 ヴァイディーウス殿下の場合、視界から消え失せるだろう。

 ロアベーツィア様の場合、嫌な顔をして言葉で態度で相手を排除するだろう。

 どちらにしろ、そんなことになれば、今後貴族としてはやっていけない。

 婚約者どころか家ごと崖っぷちに追い込まれることになる。


「(ま。殿下達は国政を担う人材をこの学園で確保しなければいけない。なのに交流を制限されれば、そりゃ困るよね)」


 自分の目で見て、話をして、その上で他者の意見を取り入れつつ見極める。

 難しいけれど、国王になるならば成し遂げないといけない。

 その邪魔を排除するのは必然だ。

 とはいえ、さすがにこの年で全員がそんな覚悟をしているわけじゃないし、今殿下が言った言葉をちゃんと理解して今後対応を変えるならば、見逃すと思うけど。


「(本当にお兄様も含めて、皆“子供らしくない”なぁ)」


 私は仕方無いとしても、お兄様含めて周囲の同年代はみんな子供らしくない。

 親の地位の高さがそうさせるのか、別の理由か。


「(私としては付き合いやすいんだけどね。変に気をつかうこともないし)」


 贅沢を言えば、それなりに話すことのできる同性の友人が欲しいけど。

 高望みかなぁ。

 諦めるべきかなぁ。

 私は儚い希望になりそうな自身の希望にひそかにため息をつくしかなかった。




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