お説教
短めです
時刻は夜。
夜を棲家とする鳥達や虫達の鳴き声が森の中から響き始める頃、ルルとリリはようやく両親からのお説教を聞き終えて、村の中を歩いていた。
アルミーヌお手製の回復薬や諸々を使った治療を終えたルルと、自分の『特異能』の新たな可能性と、それによる活躍を村人達にひとしきり自慢し終えたリリが家に帰ったのは、彼らが村に帰りついた一時間ほどあとのことだった。
家の手前で合流し、揃って家に入った彼らを待ち受けていたのは、小さい身体をこれでもかと怒らせた母エウリスだった。
そこからはお説教、お説教、またお説教だった。
途中で父キアヌが介入し、夕食を食べはじめたにも関わらずエウリスのお説教は続いた。
特にルルが繰り返し言われたのは、鉄となったルルの身体を引き裂く程の銀熊の一撃を受けた後、手早く撤退を選ばなかったというところだった。
グラトニアスの密告で、彼から撤退を促されたにも関わらずルルは依然として戦う気を失っていなかったという事をエウリスが知ったのだ。
一度銀熊に勝利したからといって調子に乗るなというエウリスの一言はルルの慢心を指摘し、そしてそれをポッキリと圧し折った。
リリも同様に説教を受けていた。
年齢、性別ゆえに仕方のないことであるが、身体的に劣るリリが銀熊に接近戦を挑んだ点。
そして加減も忘れて超威力の技を使ったことに対してだった。
力に使われるようになるつもりかという母の一言も痛かったが、何よりもキアヌがぽつりと言った、
「ルルが巻き込まれなくてよかった」
という言葉がリリの表情を青褪めさせた。
銀熊の身体を貫通し、その部位を文字通り消滅させるような一撃がもし仮にルルに直撃していたならば、たとえ何を〈付与〉していようが無駄だっただろうということに気付いたのだ。
結局、「村長から呼び出しを受けている」と言ってキアヌが家を出るその時まで、母の愛の説教は続いたのだった。
そんなわけで、仕方のないことではあるのだが気分がどん底にまで落ちた二人は気持ちを切り替えるべく、春であるとはいえまだ冷たい夜の風をあびることにしたのだった。
会話もそこそこに、身体の中に冷気を染み込ませるようにしてのそりのそりと歩いていた二人は、前方に二つの人影が立っているのを見て、そこへ向かった。
「やぁ、ふたりとも」
「…………」
そこにいたのは先ほどまでルル達と一緒にいた少年フィンと、なにやら不満そうな表情で頬を膨らませる少女アナだった。
「その様子だと、かなり絞られたみたいだね」
「……顔にでてたか?」
そんなにあからさまに落ち込んでたかな、と誤魔化すように顔の筋肉を揉みほぐすルルに、アナが噛み付いた。
無論、物理的にではない。
「……なんで私だけ置いてきぼりなのよ」
恨みがましいアナの視線にたじろいだルルはしどろもどろになりながらも弁明する。
「い、いや初めはリリと二人で行くつもりだったんだよ。 そしたらフィンが自分も行きたいっていうからさ、な?」
必死に「仲間はずれにしたわけではない」と弁明するルルをみて、アナは溜飲を下げた様子で表情を戻した。
「まぁいいわ、フィンにも聞いてたし」
「おいっ」
まんまと手玉に取られたことに思うところがないわけでは無かったが、藪をつついてわざわざ蛇に噛まれることもないだろうとルルはその話を切り上げることにした。
「あんなのが相手だと、私がいても役に立つことはなかったろうしね」
自嘲気味に笑ったアナに疑問を投げかけたのは、エウリスの説教に気落ちするルルを楽しそうに眺めていたグラトニアスだった。
『ヤクにタたねぇって、そういやジョーちゃんはナニができんだよ』
「言ったことなかったっけ? 私は『響波』って読んでるんだけど……んー、なんて言うかな」
上手い説明の仕方が見つからず唸りだしたアナに、フィンが助け舟をだした。
「声の大きさを何倍にも増幅して、それを閉じ込めた球を打ち出す、みたいな感じだよね」
「そう! そういうこと!」
我が意を得たりとばかりに顔を輝かせたアナは大きく頷いた。
それを聞いたグラトニアスの感想は、ごくごく率直なものだった。
『ジミだな』
「ぐうっ」
それを聞いてまたもや唸るアナ。
気にしているところだったらしい。
「攻撃にはあんまり使えないけど、結構便利だぞ」
今度の助け舟はルルだ。
それにはリリとフィンも首を縦に振った。
「音で獣を牽制したり惑わせたりできるし、耳の良い奴が相手なら気絶させたりできるしな」
「あとは遠く離れた人間に声を届けることもできるから、連携には欠かせないよね」
「そーいえばナーちゃんって音で周りの動物とかも見付けられるよね?」
初めがルル、次がフィン、アナのことをナーちゃんと呼んだのはリリだ。
三人が言うように、攻撃手段としては頼りないアナの『特異能』であるが、後方支援となれば抜群の威力を発揮するのだった。
それを聞いたグラトニアスは愉快そうに笑った。
『ほー、そしたらジョーちゃんがいればクソガキはあのミドリのブタをクってサクテキのマネゴトをするヒツヨウはなかったわけだ』
グラトニアスの言葉を聞いて、ルルがピシリと硬まった。
その様子には気づかぬ様子でグラトニアスは言葉を重ねる。
『あれがナかったら、もっとカンタンにあのデカブツもシトめられてたってこったな。 つーかそもそもデカブツのセンテをクらってるジテンでブタをクったイミはなかったか』
ルルが震えだす。
フィンは苦笑しつつもやれやれと肩を竦め、アナは自分も役に立てる可能性があったと聞いて笑顔を浮かべた。
リリは兄の様子を見ておろおろしていた。
『つーことはケッキョク、オメーがアシをヒっパったってことじゃねぇの?』
「がふっ」
エウリスの心に響くお説教も未だ頭の中に残っていたルルは、グラトニアスの指摘を受けて膝から崩れ落ちた。
それを見たグラトニアスの笑い声は、本当に愉快そうだった。
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