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第4話 爆誕、『ロゼ株』

「ロゼ、明日は三層のジャイアントブルの討伐依頼に行きたいんだろう?」


カブトは散らばった事務机の上から、管理部の備品である『迷宮開拓推進院』のロゴが薄く印字されたメモ用紙を一枚をひったくると、羽根ペンを走らせ始めた。


「うん…。でも、どうせまた失敗しちゃうからぁ、お金にならないんでしょぉ…」


ロゼはシュンと視線を落とし、机に突っ伏した。その赤いポニーテールが、力なく揺れる。先ほどまで倉庫の壁を震わせるような破壊の波動を放っていたとは思えない、哀れな子犬のような姿だ。


「いや、そうとも限らないよ」


カブトは薄く笑った。その瞳には、すでに悪魔的な計算が宿っている。


「ただの紙切れじゃ誰も信じないからな。ギルド職員なら誰でも使える何気ない事務印をドーンと押す。これで完成だ。…名付けて、『ロゼ株』」


提示されたのは、一見すると公的な証書のようだった。

だがよく見れば、迷宮開拓推進院のロゴが入っただけのメモ紙にすぎず、印影には迷宮開拓推進院の文字はどこにもない。押されているのは『承認』という何の変哲もない事務印だけ。カブトの悪趣味な遊び心と、推進院の権威が絶妙に混ざり合った、怪しげなシロモノだった。


「おすそわけ……てがたぁ?」


ロゼが目を丸くして手形を覗き込む。


「……まずは様子見だ。いきなり大量発行して噂が広まるのはやばい。今回は()()()として十枚だけ作ってみよう」


カブトは更にメモ用紙を九枚、丁寧に切り出した。


「酒場で一枚、銅貨三枚で売りつける。全部売れたら、銅貨三十枚だ。ロゼ、今夜はこれで肉が食べられるよ」


「わあぁぁ! お肉食べられるのぉ!?」


ロゼは両手を叩いて喜んだ。彼女の中では『おすそわけ手形』の正体なんてどうでもいい。ただ、夕食が確定したことだけが重要だった。


しかし、アッシュは即座にその鋭い琥珀色の瞳を細め、カブトに疑いの眼差しを向けた。


「待て、カブト。あいつらだって底なしの馬鹿じゃねぇ。ただのメモ紙に、銅貨三枚も出すか?それにギルドにバレたらまずいだろ。 」


「そこが、これの面白いところさ」


カブトはニヤリと笑った。


「まず、この紙切れにはね、こう明記してあるんだ。『明日、ロゼが周囲の環境を一切破壊せずジャイアントブルを討伐した場合、偉業達成のお祝い金として、この証券一枚につき【銅貨四枚】を払い戻します。ただし、払い戻しはこの証券と引き換えです。証券がない場合は一切受け付けません。』ってね」


「はぁ!?」


アッシュは思わず声を荒らげた。


「待て待て!ロゼがまた何か破壊したら払い戻すカネがなくて、ロゼの借金が増えるだけだぞ! お前だって詐欺師としてガクブル凍土送りにされる!」


「うん、だからこそ、アッシュの出番なんだよ。これは、ロゼという『嵐の中に突き進もうとする大型船』を、アッシュという『世界一慎重な航海士』が船を嵐に近づけないよう操舵する、完璧なリスク管理型ビジネスだ」


カブトは獲物を罠へ誘うように、アッシュを見つめた。

アッシュはしばらく無言で、カブトのゲスな顔を見つめていた。彼の知的な思考が脳内で複雑なシミュレーションを回しているのが、その引き締まった表情から見て取れる。やがて、アッシュは自嘲気味に鼻で笑った。


「⋯チッ。相変わらず、人を巻き込む時だけは天才的だな」


アッシュにとって、無謀な行為は本来避けるべきものだ。しかし、この『完璧なリスク管理の下で利益を得る』というゲームは、彼の『徹底的なリスク回避主義』の極致とも言える。


「いいだろう。『チーム・ロゼのリスク管理責任者』として現場を仕切るなら話に乗ってやる。ただし、報酬は山分け。後で揉めるのは御免だからな」


「了解!じゃあ、さっそくこの『夢のチケット(紙切れ)』を、酒場のおっさんたちに売りさばいてきてよ」


「もちろんだ」


アッシュは十枚の手形を懐に収めると、夜の迷宮街の闇へと風のように飛び出していった。


ロゼは残されたカブトを見上げ、嬉しそうに尻尾を振るような笑顔で尋ねる。


「カブトぉ、何のお肉食べようかなぁ?」


「…お前、食うこと以外も少しは考えろよ」


カブトは眼鏡を押し上げながら、呆れつつも、この計画が成功した後の祝杯を予感して、妖しく口角を上げた。


ただの紙切れが、迷宮街の秩序をどう塗り替えるか。

……その幕は、もう上がっている。


第4話をお読みいただき、ありがとうございます!


「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、フォローとリアクションなどで応援していただけますと嬉しいです!

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