表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/3

第2話 チカラ イズ パワー

地下倉庫の分厚い防火扉が、鼓膜を激しく震わせる轟音とともに、蝶つがいごと無残に弾け飛んだ。鉄の扉が壁に激突し、埃煙が倉庫内を支配する。


「ひ、ひえっ!?魔物!? テロ!?」


カブトは信じられないほどの敏捷性を発揮し、一瞬で事務机の下へと滑り込んだ。


アッシュは対照的に、音もなく大箱の影へと文字通り『消える』ように気配を殺して身を隠し、背中のコンポジットボウに手をかける。


もうもうと立ち込める白煙の向こうから、重い金属音が床を伝ってに身体に響いてきた。


ズン…、ズン…、と、不気味な足音が近づいてくる。


「…カブトぉ…。…カブト、いるぅ……?…お腹すいて死にそうだよぉ…」


聞こえてきたのは、地下から這い出してきた魔王の呪詛――ではなかった。鈴を転がすような、しかしひどく情緒不安定で、今にも泣き出しそうな少女の声だ。


埃煙がゆっくりと晴れていく。そこに立ち尽くしていたのは、見事な真紅の髪を低い位置でポニーテールに結わえた、息を呑むほどに可愛らしい少女だった。


透き通るような白い肌に、どこか気だるげでふわふわとした柔らかな雰囲気。


しかし、彼女が背負う『グレートソード』は、そんな可憐な印象を笑い飛ばすかのように、少女の華奢な背中で不気味なほどの存在感を放っていた。


彼女の名はロゼ。

ヤガミの街で『最狂の大型新人』として全冒険者から恐れられる、規格外の重戦士だった。


「…ロゼか。マジで心臓が口から飛び出すかと思ったぞ。というか、その扉、いちおうギルドの特注品なんだから、もし俺の薄給から弁償代が天引きされたら、お前を呪うからな!」


カブトは埃だらけで机の下から這い出し、溜息混じりに服を払う。大箱の影から顔を出したアッシュも、「やれやれ」といった様子で鋭い琥珀色の瞳を細め、呆れ顔で肩をすくめた。


「分かってるよぅ…。でもね、今の私の手元には、鉄貨がたったの三枚しかないんだよぉ…」


ロゼは、背中の巨大な大剣を床にドガシャァァンと乱暴に放り投げる。地響きでカブトの机の上のインク壺がガタガタと跳ねた。彼女はそのままカブトの机にうつ伏せになり、両手足をバタバタとジタバタさせる。


「…落ち着け。で、今度は何をやらかしたんだ?」


カブトが冷ややかに尋ねると、ロゼはガバッと起き上がった。その瞳は涙で潤み、切実さを訴えてくる。


「聞いてよぉ!さっきねぇ、受付で新しいクエストを受けたのぉ。迷宮二層の『アーマードベア』の討伐!お肉のボーナス報酬付きなんだよぉ!」


「それで?」


「受付のお姉さんがね、『あの熊の外皮は非常に硬い《《ですが》》、ヒットポイントを少しずつ削るように、《《優しく》》立ち回ってくださいね』って、ニコニコ教えてくれたのぉ。だから私、頑張ったんだよぉ。硬いってことだったから、ほんのちょっとだけ、気合を込めて剣を振ったのぉ」


「…で?」


「そしたらねぇ…。熊さんが木っ端微塵の消し炭になっちゃったのぉ…お肉も、毛皮も、魔石も、全部…。風に吹かれて消えちゃったのぉ…」


カブトは机に額を打ちつけ、今日で百一回目の深い溜息をついた。


ロゼの最大の問題は、彼女が『悪魔的な破壊の力』を持ちながら、頭の中身が『純度百パーセントの筋肉』で構成されていることだ。彼女の中に『手加減』という概念は存在しない。力を抜いたつもりでも『全力の一歩手前』なのだ。


「それだけじゃないのぉ…。熊さんの真後ろに、遺跡の『魔力を蓄える柱』があったみたいでねぇ..…それも一緒に、綺麗に真っ二つに叩き割っちゃったのぉ…。そしたら奥から推進院調査部員おじさんたちが出てきて、『重要文化財の損壊⋯修繕費として白金貨一枚を請求する』ってぇ…」


ロゼはカブトの制服の裾をガシッと掴み、激しくブンブンと前後に揺さぶった。カブトの身体が残像が見えるほど前後に揺れる。


「もうダメだよぉ…。ご飯も食べられない…。カブトぉ、お願いだからギルドの書類を得意のインチキで書き換えて、帳消しにしてよぉ…」


「しれっと犯罪を教唆するな!というかロゼ、先日もオークの群れを掃討するときに、迷宮の草原を『お掃除』とか言って焼き払って怒られてただろ! 誰がどう見ても自業自得だ!」


カブトは冷静にロゼの頼みを突っぱね、彼女の掴んだ手をピシッと引き剥がした。


ロゼはしょんぼりとその場に座り込み、今にも消え入りそうな声で「……お腹、すいたぁ…」と呟くのだった。


第2話をお読みいただき、ありがとうございます!

「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、フォローとリアクションなどで応援していただけますと嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ