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究極の美女の幸せ  作者: 森しゃおこ


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第六話 さなの恋心



 翌日、私の地味な学校生活に小さな変化があった。何人かのクラスメイトにマルボウさんのことを聞かれたのだ。やはりみんな美容整形に興味津々らしい。中には整形するのかとあからさまに聞いてくる者もいた。それにしてもマルボウ氏を知らなかったのが私だけというのはなんの因果か。彼もついてない。ファンの子なら拒否られることもなかったろうに。



「なにいってんだよー。」



 不意に声が聞こえた。クラスのみんながどれだけ騒いでいようと彼の声だけは聞き分けられる。端正な顔立ち、爽やかな笑顔、誰にでも優しい性格…出席番号14番、宮下太陽君。その名の通り眩しすぎる好青年。



 そう、私は恋をしている。どんなに地味な女にもモテない女にも好きな男子の一人くらいいる。別に付き合いたいとか告白したいなんて思わない。いや付き合いたいと思わないわけではないけれど、そのためになにかするわけではない、違う、これもいいわけだ。はじめから諦めていると言っていい。



 自分なんかが彼と付き合えるわけがない。そんな卑屈な理屈が私の殆どを占めている。彼が幸せならそれでいいというような殊勝な気持ちもある。でもそれも本心ではない気がする。

 

 彼と話したのは移動教室の時の「次美術だよね?」「うん。」と朝すれ違った時の「おはよう」「…うん。」の二回だけ。話したと言えるかどうかは微妙だが乙女的にはありなのだ。どうして好きになったか、いつから好きだったかはわからない。気づいたらというやつだ。彼のちょっとした寝癖や友達とふざけている姿を見るだけで心が安らぐ。


 もし整形してきれいになったら彼と話す機会もあるのだろうか…。いや、考えまい。色欲は身を滅ぼすと昔から決まっている。私は今のままで十分幸せだ。穏やかな日常の中、好きな人を教室で見つめていられる。それ以上の幸せを望んだりしない。きっと今以上の多くの幸せには多くの不幸も重なっているはずだ。それでも今マルボウ氏のおかげで少しだけ噂になって、彼が声をかけてくれるんじゃないかなんて期待もしてしまう。だが期待は所詮期待だったようだ。



 帰宅した私が見たのは真っ白くいかにも高級そうな車だった。どこかで見たことのあるような獣のエンブレムが付いている。車の種類なんてわからない。けどたぶん外車だ。なんとなくだが確信に近いものを感じる。

 その白さと高級感だけで誰が乗ってきたかは見るまでもない。なぜ私はもう来ないなんて思っていたのだ。彼のあの熱意は並大抵のものではない。完膚なきまでに論破したつもりでいたがこんな小娘の理屈など熱意で吹き飛ばそうというわけか。なぜかだんだん腹が立ってきた。そしてこの先の光景もなんとなく予測できる。私は乱暴に家の扉を開け客間の和室に向かい勢いよくスパーンと襖を開けた。


 そこにはベロベロでゆでダコのように真っ赤になったマルボウ氏とジョッキ片手に高笑いする母、そして空いた食器片手にため息をつく父の姿があった。



「あ、さなしゃん~おかえりさしゃい~。私今日もお願いにきたんれしゅよ~。」



 ろれつが回らず赤ちゃん言葉になった老人…前回の情熱と冷静さを兼ね備えた姿からのギャップが最高に可哀想だった。正気に戻った時にどうか記憶をなくしていることを願う。

 大丈夫ですよ、ご老人。私はいきなり家に押しかけ、お願いをしに来たにもかかわらずベロベロに酔っ払い酔いつぶれたあなたを軽蔑したりしない。諸悪の根源は母だと知っているのだから。

 母はいつも人が来るとそれを口実に飲みまくる。飲みまくると飲ませまくる。もしかしたら父の無口はこれの対抗策なのかと思うくらいだ。老人が情けない部分もあったろうがなにせお願いしに来た立場だ。出されたお酒を飲まないわけには行かないだろう。いや、見るとテーブルには我が家では見たことのない高級そうな酒瓶。


 なるほど。手土産に酒を持ってきたのか…策士策に溺れるとはこの事。相手が悪かったな老人。だが同情はする。同情するということは私の気持ちが老人の方に動くということだから老人的にはプラスだろう。先程までのどこか腹ただしい気持ちも薄れている。



「さな、部屋に戻りなさい。ここの始末はパパがするから。」



 父はいつも後始末を率先して行う。それはあんな母を娶った自分の責任と言わんばかりだ。父はおそらくモテる方ではない。見た目も地味だし話もつまらない。それに比べると母は美人だし愛想もいい、それなりに遊んできているのだろう。だからこそ父は負い目を感じているのかもしれない。自分なんかと結婚してくれたのだからと。娘の私に迷惑はかけない。そんな決意を感じる。



「さなしゃ~~ん、わたすのしゅしゅつを…。」



「ゴーホーム、アディオスじじい。」



 酔っ払いには強気の私である。



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